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【5位】ヴェリタスの最終定理7: 悪魔でも悪にあらがう悪役令嬢  作者: LIU
悪魔でも悪にあらがう悪役令嬢

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救済5:共犯者は踊る!惨殺!愛の泥沼の悪女!

アリシア・ヴェリタスは、ついに、最後の真理(ヴェリタス)へと到達しようとしていた。


「……間違いないわ。犯行現場の魔力残滓、被害者たちの選定基準、そして何より、警察の捜査情報を完全に先読みしたかのような逃走ルート」


アリシアは、壁一面に貼り出された捜査マップに、赤い糸で線を引いていく。その糸の中心点は、王都のどこでもない。今、彼女たちが立っているこの場所……ラプラス邸を指し示していた。


「仮面の死神は、外部の人間ではない。この捜査本部の情報をリアルタイムで把握できる者。つまり……ラプラス邸の内部にいる誰かよ」


アリシアの澄んだ声が響き渡った瞬間、数十人の精鋭警官たちの間にどよめきが走った。

部屋の特等席でその言葉を聞いていたルミナリア・フォン・ラプラスは、優雅に紅茶のカップを傾ける手をピタリと止めた。


(……ついに、ここまで来たか)


ルミナリアの心臓が、早鐘のように打ち鳴らされる。


恐怖だった!


これまでどれほど凄惨な死体を見ても、どれほどの悪党を自らの手で解体してきても決して揺らがなかった彼女の精神が、今、親友であるアリシアによって丸裸にされようとしている!


ルミナリアの足元に控えるメイド、シャルロッテもまた、息を呑んだ!


圧倒的な魔力と野生の直感を持つ彼女も、どうすることもできない。ここで彼女が魔法を使って警察を皆殺しにすれば、ルミナリアが死神であると認めるようなものだ。愛に溺れた二人は、今、真実という光の前に手も足も出ない状態に陥っていた。


「……警部。先ほど、邸内の魔導探知機が、微弱ですが『死神の魔力』を捉えました!」


通信機を操作していた魔導技師が、叫び声を上げた。


「どこだ!」


「座標……本邸の西棟、三階。……『書斎』です!」


その言葉に、ルミナリアの全身から血の気が引いた。

書斎。そこは、ルミナリアが死神としての装束や、犯行の記録を隠蔽している隠し金庫がある場所だ。もしそこを調べられれば、言い逃れはできない。完全に終わる。

ルミナリアは、ガタガタと震えそうになる膝を必死に押さえ込み、立ち上がった。


「……行きましょう、アリシア。我が家の中にそのような殺人鬼が潜んでいるなど、当主として捨て置けませんわ」


声の震えを隠すため、あえて冷徹なトーンで言い放つ。それが、ルミナリアにできる精一杯の虚勢だった。


「ええ、ルミ。私が必ず、貴女を守るわ」


何も知らないアリシアが、ルミナリアの震える手を強く握りしめる。


重武装の警官隊が西棟の廊下を制圧し、分厚いオーク材で作られた書斎の扉を取り囲んだ。


「突入する!犯人は凶悪な死神だ、抵抗すれば、射殺も辞さない!」


指揮官の合図と共に、扉が蹴り破られる。

ルミナリアとアリシア、そしてシャルロッテも、警官隊の背後から書斎の中へと足を踏み入れた。

薄暗い書斎の中。

窓枠に腰掛け、月光を背に受けて狂ったように笑っている人影があった。

その足元には、死神の仮面や、血に濡れたローブ、そして犯行に使われたと思われる凶器の数々が無造作に散らばっている。すべて、ルミナリアが隠していた本物の証拠品だ。


「……遅かったですね、警察の皆さん。そして、お嬢様!」


その声に、ルミナリアは息を呑んだ。

そこにいたのは、外部の侵入者ではない。ルミナリアの専属従者であり、いつもオロオロとしていて頼りない青年――ノア・アトウッドであった。


「ノア……?貴方が、どうして……?」


アリシアが信じられないというように呟く。

ノアは、手にした魔導リボルバーの撃鉄をカチャリと起こし、銃口を真っ直ぐにルミナリアに向けた。


「どうして?決まっているでしょう!僕は、貴族を、ラプラス家を、そしてルミナリア様を憎んでいたんですよ!だから、僕が仮面の死神となって、この腐った王都の悪党どもを掃除してやっていたんです!そして最後は……この忌まわしい主人を殺して、僕の復讐劇は完成する!」


いかにも三流の悪党が語りそうな、薄っぺらな動機。

警官たちは、「やはり身内の犯行だったか!」と色めき立ち、一斉にノアに銃口を向けた。


だが!


ルミナリアの圧倒的な知性は、その瞬間にすべてを察した。


ノアはずっと、気づいていたのだ!


昼間は気高く振る舞いながら、夜になると血の匂いを漂わせて帰還し、絶望に満ちた目で自室に閉じこもるルミナリアの孤独に!


彼は、才能もなく、魔法も使えず、ただの臆病な従者でしかなかった。だが、彼もまた、彼なりに、ルミナリアを深く愛し、その狂気と悲しみの戦いを陰から見守り続けていたのだ。

そして今、捜査の手がルミナリアに迫ったことを悟り。

彼は自ら、ルミナリアの隠し金庫をこじ開け、証拠品を並べ、すべての罪を被る『身代わりのピエロ』を演じる決意をしたのだ。


「ハーッハッハ!ルミナリア様!あなたの正義なんて、所詮は自己満足だ!ククク!……僕は、あなたを殺して、真の正義を完成させる!」


ノアは、狂気を装いながらも、その手は微かに震えていた。


(ああ……ノア。なんて馬鹿な子……)


ルミナリアの目から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。

彼は、自分が死神の汚名を着て死ぬことで、ルミナリアを自由にし、彼女がこれ以上罪を重ねることを止めようとしているのだ。それが、彼にできる唯一の恩返しであり、不器用な忠義だった。

警官隊がノアを撃とうと指に力を込める。

だが、それより早く、ルミナリアは傍らにいた警官のホルスターから、銀色に輝く『魔導拳銃』を引き抜いた。


「ルミ!?」


アリシアが驚きの声を上げる。

ルミナリアは、涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、銃口をノアへと向けた。自分の代わりに罪を被ろうとする愛すべき従者を、自らの手で殺さなければならない。彼が作ってくれたこの「舞台」を完成させるためには、当主である彼女自身が、彼を「悪」として裁かなければならないのだ。


「……仮面の死神は、貴方だったのね、ノア!」


ルミナリアは、血を吐くような思いで叫んだ。


「人は、どんな事情があろうと……!どんな悲しい理由があろうと……!命を奪い、悪を成す者は、絶対的な『悪』ですわ!!」


その言葉は、ノアに向けられたものではない!


正義を気取り、悪を殺し続けてきた『ルミナリア自身』に向けられた、痛烈な断罪の叫びであった!


私は悪だ!


私は間違っている!


だから……私を救おうとして悪を被る貴方もまた、ここで終わらなければならない!


ノアは、ルミナリアのその叫びを聞き、彼女の目から流れる血の涙を見た。

彼は、すべてを理解し、満足そうに微笑んだ。


「ええ……。もう、『終わらせる』!『撃ちます』よ、お嬢様!!」


ノアは、ルミナリアに向かって引き金を引こうとするフリをしながら。

最後の瞬間に、ルミナリアだけにしか見えない角度で、パチンと『ウインク』をした!


(お元気で、お嬢様。この不条理な世界を、必ず、作り替えてください……!)


「ぁぁぁああああっ!!」


ルミナリアの手の中で、魔導拳銃が火を噴いた。

放たれた弾丸は、ルミナリアがとっさに込めた『安らぎの魔法』を帯びていた。物理的な破壊をもたらすのではなく、対象の神経系を優しく遮断し、一切の苦痛を与えずに命の灯火を消し去る慈悲の弾丸。


光の弾が、ノアの胸の中央を正確に撃ち抜いた。


ノアは、一切の痛みを感じることなく、ただ、眠りに落ちるようにふっと糸が切れ、窓際から崩れ落ちた。


即死だった。


「……ノア……ああぁっ……!」


ルミナリアは魔導拳銃を取り落とし、その場に崩れ落ちて号泣した。


事件は解決した。


仮面の死神は身内の犯行であり、当主の手によって討たれた。警察にとっては完璧な幕引きだった。



だが。


この瞬間、もう一人、すべての真実に辿り着いてしまった者がいた。


アリシア・ヴェリタスは、崩れ落ちて泣き咽ぶルミナリアの背中を、見開かれた瞳で見つめていた。

証拠はない。状況だけを見れば、狂った従者が主人に反旗を翻し、正当防衛で射殺されただけの事件だ。

だが、アリシアの圧倒的な知性は、二人の間で交わされた『言葉のやり取り』と、感情の波長、そしてノアの最期のウインクというピースを、瞬時に繋ぎ合わせてしまった。


(ノアは……ルミを撃つ気などなかった。彼は、ルミを『庇った』の?)


(ルミが放った『悪を成す者は悪ですわ』という叫び。あれは、ノアに向けたものではなく……自分自身に向けた断罪の言葉だった?)


(そして何より、あんなにも深く、魂を引き裂かれるような涙を流すルミナリアの姿……)


アリシアの脳内で、幾千もの思考回路がスパークし、一つの絶対的な結論が導き出される。


『真の仮面の死神は、ルミナリア・フォン・ラプラスである』


雷に打たれたような衝撃。

自分が血眼になって追い、その独善的な正義を憎み、止めるために心血を注いできた残虐な連続殺人鬼。それが、自分がこの世で最も愛し、守りたいと願っていた親友だったのだ。


「ルミ……貴女だったの……」


アリシアの唇が、声にならない声で、そう紡いだ。

探偵としての彼女の倫理は、「今すぐ彼女の罪を暴き、法の下に裁きを受けさせろ」と叫んでいる。

しかし、博愛主義者としての、そしてルミナリアを愛する一人の人間としての彼女は、それを絶対に許容できなかった。

もし今ここで「ルミナリアが真犯人だ」と告発すれば、ルミナリアは死刑になる。ノアの尊い犠牲も、ルミナリアの悲痛な思いも、すべてが無駄になり、彼女を永遠の地獄へと突き落とすことになる。

言えない。

探偵であるアリシアは、真実を知りながら、愛のためにそれを隠蔽するという『共犯者』に堕ちる道を選択したのだ。

その時。

アリシアが「真実に気づき、そして沈黙を選んだ」というその微細な心の動きに、悪魔のように鋭い嗅覚で気づいた者がいた。


メイドの、シャルロッテである。


警官たちがノアの死体を調べ、事件解決の安堵に沸き返る中。

シャルロッテはふらりと立ち上がり、アリシアの傍へと歩み寄った。

二人の視線が交差する。

言葉など、必要なかった。

シャルロッテの黄金の瞳には、アリシアへの軽蔑と、底なしの愛、そして圧倒的な『独占欲』が入り混じった、ゾッとするような情念が渦巻いていた。


(……アリシア様。あなたは、いま、気づきましたね?)


(そして、愛するルミナリア様を守るために、知性を捨て、正義を捨て、沈黙を選んだ)


(……ならば、貴女もすでに、私の愛の泥沼の中ですわ)


アリシアは、シャルロッテのその視線の意味を、瞬時に悟った。

シャルロッテはすでにルミナリアの正体を知っており、それを利用してルミナリアを支配している。

そして今、真実を知ってしまったアリシアに対して、シャルロッテはこう言っているのだ。


『ルミナリア様を警察に売られたくなければ……誇りを捨てて、貴女の身体と心も、すべてわたくしに差し出しなさい』


純白の博愛主義者であるアリシアが、泥に塗れた一人のメイドの支配下に置かれる。


それは、アリシアにとっての完全な敗北を意味していた。


『ルミナリアを守るためには、シャルロッテの狂気に満ちた愛の鎖に、自分自身も繋がれるしかない!?』


アリシアは、微かに震える唇を開いた!


彼女は、シャルロッテの要求を察した上で、抵抗の意思を示すための言葉を探そうとした!


だが!


アリシアが言葉を発するよりも早く。

シャルロッテは、極上の微笑みを浮かべ、アリシアの耳元に顔を寄せた。


「そうですよ。」


たった一言!


アリシアが心の中で構築した悲劇のシナリオ、そのすべての絶望を肯定する、悪魔の囁き!


アリシアは、目を見開いた!


彼女の天才的な頭脳は、たかだか一人のメイドの、常軌を逸した愛と直感の前に、完全に敗北したのだ!

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