Despair 14 メルティアスの領都から
メルティアス公爵領の領都。
南部がルアリスに属する領都は、公爵邸が領境線ギリギリに建てられており、北側が公爵家としての正門となる。一方、裏側に当たる南門もまたルアリスの客人を受け入れる迎賓館直通の門として、豪勢な造りとなっていた。
その南門を前にしたとき、リーフレットは普通に門番を介して家令に連絡され、執事に案内され、応接室に通されるものだと思い込んでいた。何故なら、ここには当主の末娘がいて、将軍の邸宅でもそのような流れだったのだから。
そんなリーフレットの甘い認識は、地下牢に放り込まれた時点で消えていた。
何故か向かいの房に放り込まれているミノアに白い目を向けると、ミノアは決まり悪そうな笑みを浮かべてた。
「えへっ、ごめん。私、メルティアス追放されてたの忘れてた」
「……聞いてないんだけど」
「いや、もう何回も領地を追放されては連れ戻されてたからさ。ついうっかり」
あまりにも堂々と「ただいまー」と言って乗り込んでいったので、本当に追放されていたことを忘れていたんだろうなと思う。
粗末なベットに腰を落ち着けたまま頭を押さえていると、ミノアは天井を見上げたまま朗々と話し始めた。
「一回目は〈愛される呪い〉をこっそり使ったときだったかな。ファリシアちゃんに助けられた後に領地から追放されちゃってさ、仕方ないから南門を出た向かいの食堂で毎日ご飯食べてたら、家の恥をさらすなって連れ戻されたんだよ。私はちゃんと領地追放の命令を守ってたのにね」
公爵邸の南門を出た向かいはすでにメルティアス領ではない。それを逆手にとって家の前でうろうろしていたらしい。
叱られて家に入れてもらえない子供かっ。
「二回目は、ほら、話したじゃない。奥義書を捨てたら流出しちゃったやつ。元々、一回目の罰として何か写本しとけって書斎に放り込まれて、反省した私はちゃんと自分の奥義書を百冊も書き写してたのにさ、奥義書を量産する奴があるかーっ、ってまた怒られたの。だから処分しようとしたのに追放。……あれ? 私悪くないんじゃない?」
いや、燃えるゴミの日にそのまま出してる時点でアウトだと思う。
あんな危険な代物を誰でも読める状態で捨てるなど、リーフレットには考えられなかった。
「まぁいいや。でね、今度はメルティアスの領地からじゃなく領都から追放ってなっちゃって、じぁあ次は北に行ってみようって考えて領都を出てみたんだけど、これがまた寒くてさぁ。周囲どこ見回しても雪、雪、雪の連続で、あまりにも寒かったから辺りの雪を溶かしまくってたんだよね。そしたら、領都を洪水で滅ぼす気かーっって、また連れ戻されたの」
よく死刑にならなかったな。領都を滅ぼすほどの洪水ってどんだけ溶かしたらそうなるんだ?
「でね、三回目は……」
「ちょっと待った。たくさん追放されたのは分かった。忘れていたのももういい。一つだけ聞きたいんだけど、それが理由なら、どうして僕まで捕まってるわけ?」
「ん? そういえば、そうだね。付き合いいいね、リフっ」
抜群に軽快な笑顔を見せるミノア。
「有無を言わさず、ここに放り込まれたんだけど?」
「それはぁ、あなたが当主セルメキヤ・メルティアスの娘を拐かしたと思われているからじゃないんですかぁ?」
突然の声に、リーレットはベットから立ち上がると鉄格子の前に立った。
三房ずつ廊下を挟んで六房の地下牢。その入り口に一人の女性が立っていた。
ふわふわの金髪ソバージュを後ろで一纏めにした妙齢の女性。着ている服装と、看守の敬礼が一向に解けない状況から、かなりの身分だと分かる。
「拐かすって、誘拐した人間を実家の門前まで連れてくる犯人っています?」
「自首しに来たとか? ミノアちゃんに叩きのめされて改心したとかかしら?」
聞きながら、ミノアに目線を送り、「誰?」と小さく口を動かし声を出さずに聞いてみた。ミノアも鉄格子の前に来て、入り口の方を覗く。
「あっ、ソイ姉様。ただいまー」
鉄格子から手を出し上下に振るミノア。
「もう、ただいまぁ、じゃないですよぉ。三ヶ月も音信不通で、心配したんですからね。最後の手紙は絵本だけだったし」
「えへへ、ごめんね。あ、リフ。ソイ姉様だよ。サンワーナ兄様の奥さんで、私とファリシアちゃんの幼馴染みなの。ソイ義様、リフだよ。私の好きな人」
さらっと宣言されてしまって、恥ずかしさからミノアの方から目線を外す。
その様子をソイチルは温かい目で見ていた。
落ち着いたところで、リーフレットに向けて小さくカーテンシーをしてみせる。
「初めまして。領主代行サンワーナ・メルティアスの妻、ソイチル・メルティアスですわ。……で、リフ君は自首でしょうか?」
「違います。申し遅れました、リーフレット・ウェル・ジンズと申します。ここに閉じ込められるいわれはない……はず、です」
ちらりと将軍邸でのことを思い出す。ファリシアと違い、手を出していないと言い切れない。リーフレットの声が小さくなった。
「大丈夫だよ、リフ。いざとなったら地下牢の一つや二つ、どうとでもなるんだから」
リーフレットの脳裏に、倒壊した廃屋が思い浮かぶ。
「ミノア、やっちゃダメだからな。それしたら生き埋め確定だからな」
「そうですよぉ、ミノアちゃん。また地下牢を建て直すことになったらサン君が泣いちゃいますよ?」
前科者だった。




