記憶の中の声
「これじゃ死ぬのも時間の問題だね。他の仲間も動けないみたいだし。君と戦うのは楽しかったよ。さようなら♪」
手に力が入らない。肺が潰れたみたいに息もできない。おまけに視界が滲んで音が遠ざかっていく。
(結局できなかったじゃないか。あれだけ、大口叩いて、みんなを連れ回して…それで怪我させて。)
仲間の顔が浮かぶ。
文句言いながら背中を預けてくれたグレース。笑ってた時のノア。静かに支えてくれたソフィア。色んなことを教えてくれたヒュラド。
彼らに協力してくれたアンフェニとアヴィニール。
「…守るって言ったのに…」
声にならなかった。悔しさだけが胸を締めつける。まぶたが重く落ちていく。
その瞬間、ふっと周囲の音が消えた。
瓦礫も、風も、キャリーの気配も、全部遠のいて。代わりに、懐かしい空気が流れ込んできた。
「なんて顔してるんだ。お前にそんな情けない顔は似合わないだろ。」
聞き覚えのある声。
「リアム…?」
そこに立っていたのはリアムだった。昔と同じ姿で。穏やかに、でも少し困ったように笑っていた。
「ここで終わるつもりか?」
(もう……無理だ。体が痛くて動かない。内側からやられてるのがわかる。みんなもボロボロだ…俺のせいで…全部……)
リアムは静かに首を振った。
「違う。」
一歩近づいてくる。
「お前がいたからここまで来れたんだ。」
(でも…守れなかった…)
「フレディは気づいてないと思うけど、お前の仲間は全員、お前に救われてこの場所にいるんだよ。」
リアムはしゃがみ込み、まっすぐ彼の目を見た。
「俺はずっと見てきた。旅の行方を。新しくできた仲間。街で出会ったたくさんの人たち。それからお前が救ってきた人々。俺は知ってるよ。……それに強さは武力だけじゃない。相手を思う気持ちも大切な強さだ。フレディにはそれがあるじゃないか。」
聞いたことのある言葉。勝負で負けた時、決まってリアムはこの言葉をかけていた。
(またそれ…?懐かしいな…)
「でもこれ言われたときお前いつも喜んでたじゃん。意外と顔に出てたよ。傷だらけになっても前に出て、仲間を信じて仲間のために立ち上がってきた。」
リアムは微笑んだ。
「そんなお前が俺は好きだ。」
フレディの目からは涙がこぼれた。
リアムの言葉が胸の奥にゆっくり染み込んでいく。
「俺は…」
震える声で、はっきりと言った。
「もう…誰一人…失いたくない。」
仲間を守るためなら何度だって立ち上がる。そうしなくてはならないのだ。
「それでこそフレディだ。」
リアムの言葉が消えた、その瞬間。
静まり返った戦場の空気が、ゆっくりと揺れた。優しくて、あたたかい何か。
「……?」
その時だった。
遠くから、微かな声が重なって聞こえてくる。
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「誰か助けて…」
「こっちに!早く!!」
「安全なところに行って!」
「彼ならできるかも…!」
「あの剣士なら…!」
「フレディ…」
「あなたなら…あなたたちなら、きっとこの世界を救えるよね…?」
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聞き覚えのある声。旅の途中で出会った人々。救った街。守った命。一つ一つの想いが、溢れてくる。小さな光。それが集まれば無数の光へと変わる。
「誰かを想う気持ちは、この世界で一番強い魔法だ。」
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ひび割れていた地面の隙間から、淡い光が滲み出してくる。その光は仲間たちを包み込んだ。
傷口が塞がり、折れた骨が元に戻り、刺さった刃が光に溶ける。失われかけた命が繋ぎ止められていく。
「…なに?この光?」
キャリーが初めて動揺した声を漏らす。
光がゆっくりと引いていく。
グレースが自分の足を見て、目を見開く。
「どうして治ってるの…?」
ノアは腕を握りしめ、確かめるように動かす。
「ちゃんと動く!」
ソフィアは脇腹に手を当て、血の痕だけが残っているのを見つめた。
「痛くない…?」
アンフェニとアヴィニールも立ち上がり、互いの無事を確認し合う。
「…」
ヒュラドがゆっくりと顔を上げた。潰されていた右目には、もう血は流れていない。しかし、修復はされていない。
「コアが再生してる…私のコアは一度壊れたら復活しないはずなのに…」
「なんかよくわかんねぇけど、めちゃくちゃ力が湧いてくる!」
フレディも胸を押さえた。さっきまで息もできなかったのが、嘘のように空気が肺いっぱいに入ってくる。
心臓の鼓動が、力強く響いていた。
「みんな……」
震える声で名前を呼ぶ。全員が、ここに立っている。
「フレディ。」
グレースが笑った。
「私たちはまだ諦めるつもりはないわよ。」
「フレディが僕たちにしてくれたみたいに、僕たちもフレディを守りたい。」
ソフィアは静かに頷いた。
「ここにいるみんなは全員あなたに救われてるの。だから、力にならせて。」
「1人じゃないって教えてくれたのはお前だろ?俺たちがついてるよ。」
彼はぎゅっと剣を握りしめた。胸の奥が、熱く燃えている。
「敵だった私たちまで入れてくれたんだもの。あなたは優しい人ね。」
「今度こそ、俺たちの力であいつに勝つぞ!」
1人じゃない。後ろには笑ってくれる仲間がいる。
「…行こう……みんな。」
キャリーを真っ直ぐ見据える。
「今度こそ、終わらせる。」




