心のコア
「魔法陣展開。殲滅。出力最大…!」
ドォンッ!!!
アヴィニールが放った魔法はキャリーへと直撃した。そして爆煙がゆっくりと晴れていく。舞い上がった砂埃の向こうに、白い影が揺れていた。
そこに立っていたのは大した怪我もしていないキャリーだった。
「ゲボゲボ…煙たいなぁ…あんまりいい気持ちじゃないや〜」
大きく広がった純白の羽が盾になりキャリーの身体を守っていたのだ。何枚もの羽が焼け焦げ、宙を舞いながらはらはらと地面に落ちていく。
静寂の中に、羽が崩れ落ちる音だけが響いた。キャリーはゆっくりと羽を畳み、肩をすくめる。
「さすがに全部は守りきれなかったか〜僕の綺麗な羽が焦げちゃったよ。」
足元には折れた羽が数枚転がっている。けれどその身体に致命傷はない。
かすり傷程度。呼吸も乱れていない。
「僕の羽が攻撃を全部吸収したからよかったけど…他の場所に打ってたら、この場所ごと消し飛んでたね〜」
軽く笑いながら、指で焦げた羽をつまむ。
「全くもう〜ずいぶん手荒なことしてくれるじゃないか〜仲間だったのにひどいねー」
視線が、まっすぐアヴィニールへ向いた。
「あなたを、仲間だなんて…思ったことないわ……」
「ひど〜悲しいよー僕は君たちのこと大切に思ってたのになぁ〜」
背中から新たな羽が、ざわりと広がる。光を帯びて再生していくように、ゆっくりと形を取り戻していった。
「あれ?」
キャリーは首を傾げ、アヴィニールの息の荒さを見た。
「魔力がほとんど残ってないね?さっきの大技で全部使い切っちゃったのか。そういえば言ってたね。力を全て使う代わりに強大な力を持つって。そのせいか!」
アヴィニールは歯を食いしばる。
「はぁ……はぁ……」
キャリーは優しく微笑んだ。
「君は魔力がないと何もできないよねー?力がない正義って、ただの願望なんだよ?」
ズンッ。
次の瞬間、キャリーの腕がアヴィニールの胸を貫いた。
「……っ??…?」
光が砕けるように散り、アヴィニールの胸にヒビが入っていく。そして中から何やら光るものを取り出した。
「希望って、壊れるとこんな音がするんだー」
アヴィニールの身体が力なく崩れ落ちた。
「…アヴィ?」
返事はない。その瞬間。アンフェニの指が震えた。
「……ふざけんなよ。」
痛む傷口を押さえ、アンフェニは無理やり立ち上がった。
「アヴィに何したんだよ…俺の妹に何したかって聞いてんだよ!!」
涙と血が混ざって頬を伝っていた。
「その光のやつ!アヴィのコアだろ!前に言ってた!アヴィニールはそれが心臓なんだって!返せよ!!俺の大切な妹を!返せよ!!」
空気が震えるほどの怒号。けれどキャリーは楽しそうに笑うだけ。
「うわ〜怖い怖い。家族愛って綺麗だね〜」
「はぁぁぁ……!!!」
拳を振りかぶり、一直線に突っ込む。怒りそのまま叩き込もうとしたその瞬間。
ドンッ!!
羽が鞭のようにしなり、アンフェニの身体を横から打ち抜いた。
「がっ……!!」
衝撃で宙に浮き、壁へ叩きつけられる。
ガシャァン!!
床が崩れ、アンフェニは床に転がった。
「ぐ……っ、は……」
息が詰まり、身体が言うことをきかない。そこへキャリーはゆっくり歩み寄った。
「君、もう戦える状態じゃないよ?それなのにここまでして偉いね〜」
足元に影が落ちる。
「妹想いで優しいお兄ちゃん。けどね、」
しゃがみ込んで、耳元で囁く。
「弱い優しさは、誰も守れない。」
「ア……ヴィ……」
指を伸ばすが、力が入らず床を掴むだけ。
「さてと〜あとは君だけだ。フレディ。」
キャリーの視線がゆっくりフレディの方へ向く。
フラフラだが何とか立ち上がることができた。しかし、それと同時に瓦礫の向こうから重たい足音が聞こえてきた。そこに立っていたのはヒュラド。顔や体は返り血でぐっしょりと濡れていた。
「ああ〜なるほど…死んだんだ。所詮、人間なんてそんなもんだよねー最初から期待なんてしてなかったし。」
瓦礫を踏みしめ、ヒュラドは彼の隣に立った。
「人間が2人いたところで変わらないよ。こちらには、もっとたくさん仲間がいるんだから。」
「仲間?」
「そう!君たちがずっと戦い続けてきたオブリビオンだよ。今頃街で暴れてるんじゃないかな〜いっぱい放ったからね♪」
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「とにかくオブリビオンのいない場所に!室内に入れ!!こっち側に戻ってくるなよ!!」
「オーウェンさん…リツたちもお手伝いする!声かければいいんでしょ!」
「……状況が状況だ。子供に手伝わせるのもダメだけどよぉ…頼む!ただし危険なことはすんなよ!!」
「はい!」
「カイル!お前はあっち側を頼む!」
「は、はい!!」
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「クロエ様!早く逃げましょう!」
「待ってちょうだい!家の中にまだ私の宝物があるのよ!」
「そんなのどうでもいいですわ!」
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「旦那様!奥様!早くお逃げに…!」
「どこへ行っても今はあの怪物だらけよ。だからいいの。」
「あぁ。君たちは早く逃げなさい。」
「……アメリアさん…」
「…行きましょう。」
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「お母さん!お父さん!急いで!!ホールの中は頑丈だからきっと大丈夫だよ!」
「わかったわ。早く行きましょう。」
「…!後ろ!お母さん!!」
「大丈夫よ…!お父さん!リリィちゃんを!」
「…待って!!お母さん!!」
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「…街中でオブリビオンが出た!」
「数は!?」
「わかりません…!!とにかく今までと比べ物にならないほどの数だと!」
「とにかく住民に指示をしろ!駆けつけられるものはすぐに駆けつけろ!」
「…何が起こってるんだ?」
「オブリビオンが大量に出たそうじゃ。」
「アルヴィンさん…」
「ここも危ないかもしれん。」
「……」
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「きゃ〜!オブリビオンよ!!早く!」
「ロバートしっかりつかまっとけよ!」
「うん!」
「ミナミ!何してるの!?早く逃げるわよ!」
「フレディ…」
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2人とも歯を食いしばった。彼らが戦ってる間に街までもが巻き込まれてしまった。あの場所には関わった人もたくさんいる。
「絶対止める!!」
「威勢がいいね〜さっさとやっちゃおうかな。」
次の瞬間。キャリーの羽が一斉に宙を裂いた。
「ヒュラド、右!!」
「任せろ!」
ヒュラドが鎌を振り抜き羽をまとめて叩き落とす。火花が散り、床に突き刺さる。その隙に踏み込み、キャリーの方へと向かう。
「はぁっっ!!」
キィィン!!
衝撃でキャリーの身体が後ろへ滑る。つかさずヒュラドが回り込む。
「今だ、ヒュラド!」
鎌が大きく弧を描き、キャリーの背を裂く。
「ふーん……」
「一気に行こう!」
「わかってるよ!」
二人同時に駆け出す。剣と鎌。上下からの挟撃。キャリーは防御するが、完全には防ぎきれない。羽に傷が入った。
「……」
キャリーが後退した。このまま押せばいけるかもしれない。
「ヒュラド…!このまま……」
「フレディ!!!」
その時、背後から小さな羽刃の雨が降り注いできた。
「ヒュラド!大丈夫!?」
「な、なんとかな…」
ヒュラドの体には数本の刀が刺さっていた。
「大丈夫、これぐらいすぐ取れる。」
「ご、ごめん…俺のせいで…」
「お前のせいじゃねぇよ。安心しろ。」
しかし。次の瞬間。
ドシュ。
ヒュラドの顔へ刃が飛んできた。
「…!!」
刃が、右目を貫いた。
「はぁ…はぁ…ぐっ…。」
視界が一気に赤に染まった。血が頬を伝ってポタポタと落ちてくる。
「ヒュラド!!」
フレディが駆け出そうとした、その瞬間。
ザアアアッ!!という音と共に羽が嵐のように降り注いだ。
「邪魔だ…!!」
剣で弾こうとするが、数が多すぎる。ヒュラドの方へ寄れない。
その隙をキャリーは見逃さなかった。
「意外と楽しかったよ。ヒュラドくん。」
ズブッ!!
鈍い音が響いた。刃がヒュラドの胸を深く貫き、背中から突き出る。
「がはっ......!!」
「ヒュラド……!!」
彼の叫びが虚しく響く。ヒュラドを守りきれなかった。血を吐き床へ崩れ落ちるヒュラド。ピクリとも動かない。それを見てキャリーは楽しそうに微笑んだ。




