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『家族』

「その魔法は、僕も知らないな〜」


渦を巻く魔力は今までとは明らかに違っていた。まるでこの世界そのものが拒絶しているような力。


「ふーん。自分の魔法なんていつ作ったんだろう〜?」

「これはシェーラ様が私のために残してくださったもの…シェーラ様は言っていた。この世界の魔法は全てあなたが作り上げた。既存の魔法でこちら側が勝つのは無理。だから自分だけの武器を作れと。それなら…あなたの知らないものを作るまで…!!」


キャリーは初めて一歩後ろへ下がった。


「へぇ……面白い…」


その声には、さっきほどの余裕はなかった。


「知らない魔法を上書きするのってムズいんだよね。それでも…消してあげるよ。この世界の魔法は僕が作り上げたんだから。」

「この魔法は消せないわ!これは私の力を全て使う代わりに強大な力を持つ。上書きなんてさせない!!出力最大…!」


アヴィニールの足元に巨大な魔法陣がいくつも重なって浮かび上がる。高速で回転するように、光が渦を巻くように、中心へと吸い込まれていく。床に細かな亀裂が走り、壁が軋み、全体が悲鳴を上げているかのようだった。


「……っ!」


轟音とともに、一直線の光が解き放たれた。鋭い破裂音。威力は比べものにならないほど強烈でこの場所一帯が吹き飛びそうな勢いだった。光は一直線にキャリーへと突き進む。


「……」


ドォンッ!!!


閃光。衝撃波。視界は真っ白に染まり、誰もが吹き飛ばされそうになる。爆発的な衝撃が戦場を飲み込んだ。



----------



「はぁ…!」

「遅いわよ。」

「.......っ!」


チュラメリダとヒュラド。こちらでも激しい戦闘が続いていた。

倒れ込んだヒュラドに重たい足音が近づく。チュラメリダは肩に斧を担ぎ、静かに見下ろしていた。


「昔の方が強かったんじゃない?手加減してるの?」

「チュラメリダが相手だから。」

「随分と舐められているのね。やっぱり私のこと見下してたんでしょ?自分の方ができるから、才能があるからって。」


斧がゆっくりと地面に降ろされる。


「私はあなたの家族じゃない。」


ヒュラドは鎌を握りしめ、立ち上がる。


「少なからず、俺は楽しかったよ。あの時間が。家族3人で過ごした時間が。」


チュラメリダが踏み込んだ。風を裂いて振り下ろされる斧。ヒュラドは鎌で受け止めた。


ガンッ!!


衝撃が腕に走り、地面にひびが入る。


「私はあなたを家族と思ったことなんて一度もないわ!」


斧が横に振り払われる。それを後ろへ跳び、紙一重でかわす。


「それでも…俺は…あなたとの時間が好きだった!」


2人は同時に駆け出した。斧と鎌がぶつかる。


ギイインッ!!

火花が散り、衝撃波が走る。

ドンッ!!


「はぁっ!!」


チュラメリダは踏み込み、連続で振り下ろす。縦、横、叩きつけ。斧が嵐のように襲う。風圧だけでヒュラドが吹き飛ぶ。地面を転がり、血が流れる。それでも立ち上がる。


「流石ね。天才さん。」

「俺は知ってる。チュラメリダが優しいことも…誰よりも努力家なことも。だから…」


ヒュラドは地を蹴り、一気に距離を詰める。

鎌が弧を描く。


「ここであなたを止める。」


チュラメリダの腕をかすめる。血が飛ぶ。


「っ......!ずいぶんと生意気を言うわね。でも…」


しかし次の瞬間。斧の柄がヒュラドの腹に叩き込まれる。


ゴンッ!!


「がはっ……」

「あなたの癖は私が一番よく知ってる。バディとして一緒に戦ってきて、あなたのことをずっとカバーしてきたもの。」


斧を頭上へ。


「これで終わりよ。」



----------



「私…ヒュラドのこと…」

「君は悪くないよ。悪いのは君を認めなかった周りの人間だ。君は本当に賢くてすごい。」

「本当に…私、ちゃんとできてますか…?」

「できてるできてる!上手だよ。だから、何も心配しなくていいんだよ。」


キャリーはチュラメリダの頭に手を置いた。


(この方に忠誠を誓う。この方はちゃんと認めてくれる。ずっと求めていたものをくれる。この方の為ならなんだってできる。この方の幸せのために生きるんだ。)


彼女はそう思った。

もう後戻りなどできないのはとうにわかっていたのだ。だからこそ本気なのだ。


----------


ヒュラドは咄嗟に鎌を突き上げる。


ガキィイン!!


刃同士がぶつかり、互いに弾かれる。


「……そんなこと言ったら俺だって…チュラメリダの癖はよく知ってるよ。俺だってさ、一緒に戦ってきたんだから。」

「あんたのそういうところが大っ嫌いよ!!」


連打。斬撃、叩撃、火花、衝撃。金属音が途切れない。


その後も乱闘が続いた。やり、やられ続け、互いに消耗している。2人とも息を上げ、それでもなお戦いは続く。


「さっさと諦めなさいよ…」

「そっちこそ…」


ガキン…!


どちらかが倒れるまで終われない。


「はあっ!!」

「チッ…ふっ!!」


ヒュラドの鎌が肩を裂く。しかしそれとほぼ同時に、チュラメリダの斧が脇腹をえぐる。


「くっ!!」


相打ち。互いに血を流しながら止まらない。


「どうしてそこまでして!!」

「……あなたに追いつくにはこうするしかなかったのよ!!!あなたがすごいって言われるたびに、私がどんな気持ちになってたかわかってるの!?頑張っても認められなくて、褒められるのはあなたばっかり!羨ましくて仕方なかったわ!!誰も私のことを認めてくれない…!だから、こうするしかなかったのよ!!天才にはわからないでしょうね!?追いつけない苦しみが!!」

「…理解したかったよ。姉さんが苦しんでる時、隣に行って支えたかったよ!!けど、いつも弱みを見せてくれなかったじゃないか!!わかろうとしたよ!何度も何度も!けど教えてくれなかったのは姉さんじゃないか!!」


姉弟喧嘩。2人がこうしてぶつかり合えたのはこれが初めてだった。

チュラメリダの力が一瞬緩む。その隙を突いてヒュラドが蹴りを入れる。


「ぐっ……!」


追い打ちをかけるように駆け出した。鎌を大きく振りかぶり、全力で振り下ろした。


「終わらせる……!」


チュラメリダは咄嗟に斧を構えるが、間に合わない。


ガキィィン!!


衝撃で斧が弾き飛ばされ、地面を転がった。

チュラメリダの体を押さえつけるようにして、ヒュラドは彼女の体の上に乗った。


「っ……!」


無防備になった胸元へ、鎌の刃先が突きつける。


「…なんで殺さないの。」

「できないよ。そんなこと。大切な家族なんだから。」

「所詮は、血のつながらないただの他人よ。」


そう冷静に言い放った。


「俺にとってはそうじゃなかった!!エリカは…俺のこと大切にしてくれてた。ちゃんとわかってる。俺にとってたった1人の姉さんなんだよ!」

「……私、フェニックスのことが嫌いよ。何でもできて、いつも私より前を行って。師匠にも周りにも期待されて…羨ましくて仕方がなかった。でも、わかってた。あなたがすごく頑張っていることも、私のこと心配して慕ってくれていることも。こんなに嫌いで仕方ないのに…一緒にいたいってなぜか思う。だから…だから、好きだったのかもしれない。ヒュラドのことが。」


そう言ったエリカの顔はどこか寂しそうだった。


「姉さん…」

「私はずっとそばにあった幸せに気づけてなかったんだね。私、あなたと家族でいられてよかった。3人で過ごした家族の時間は確かに特別だったのかもしれない。もう少し早く気づけてたらよかったのにね。」


エリカはそっと鎌先を持つ。


「…ヒュラド、大好きだったよ。だから…」


グシャ。


「幸せに…なって、ね…」

「姉さん…?」


エリカは自らヒュラドの鎌で心臓を突き刺した。

地面には赤い血の海が広がり彼女の身体からは力が抜けていった。


「う、嘘だ…姉さん…?返事してくれよ…まだ何も返せてない……家族って…やっと受け入れてくれたのに…」


その場に響いたのは家族の死を悲しむひとつの声だけだった。

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