残酷な現実
剣を振り上げた瞬間、シェーラはそっと手を上げた。
「展開、防御。」
魔法により攻撃が防がれてしまう。
「ノア!お願い!」
「了解!!」
「おいグレース!俺たちは周りから行くぞ!」
「私も今そう言おうとしてたわよ!!」
「喧嘩しないでよ…!」
順調に間合いに入る。
「はぁぁー!!」
「…いっ…!」
「効いてる!!」
「もう一回だ!!」
その後も何度も何度も攻撃を仕掛ける。
いつもなら光が壁のように広がるはずなのに、今は違った。まるで霧みたいに、形を保てずに崩れていく。
「はぁぁぁぁ……!!!」
「……!?」
シェーラの顔の前で剣を止める。
「終わりだ。シェーラ。」
「……っ」
シェーラの目が大きく揺れる。
その瞳に映っていたのは彼らじゃなかった。
まるで、どこか遠い場所を見ているみたいだ。
「…私の負けよ。さぁ早くやりなさい。」
「……いや。やらない。別に命を奪うつもりはないし、もうこれ以上傷つけない。」
「どうしてなの。私はあなたの記憶と大切なものも全て奪ったのよ…!」
「だって…あなたが苦しそうな顔をしてるから。」
「……夢を、見たの。」
その声は、今にも消えそうだった。
「あなたの夢。仲間たちの夢。失った人たちと笑っている夢。…少し羨ましいと感じてしまったの。大切に思ってくれている人がいる事実が。私はそうじゃなかったから…私を大切に思ってくれている人なんて…」
「いるよ。ここにね。」
「え…?」
「シェーラ様。私たちのこと忘れていませんか。」
そこにはアンフェニとアヴィニールが立っていた。どうやら意識が戻ったらしい。
「俺たちシェーラ様がいてくれないと困るんですよ!シェーラ様は俺たちの大切な人なんですから!」
「……私の事が大切?」
「はい。貴方がいなければ私たちはこの世界にいなかった。」
「それに、シェーラ様はいつも優しかった!」
「私たちがピンチの時はすぐ駆けつけてきてくれて、助けてくれて、困ったことがあればすぐ相談に乗ってくれる。シェーラ様は私たちにとってとても大切な人なんです。」
シェーラは震える唇でふたりを見つめていた。まるで幻でも見るみたいに。
アンフェニが一歩前に出る。
「俺たち、貴方に笑っていて欲しいんです!そのためならなんでもしますよ!」
アヴィニールが笑ってうなずく。
「シェーラ様がくれた世界で、私たちは生きてきたんです。だから今度は私たちが守ります。貴方がそうしてくれたように。」
シェーラは困ったように笑って彼らの手を取ろうとした。
「ありがとう。貴方た…」
その瞬間、シェーラの体を大きな棘が貫いた。バタリと倒れ込むシェーラ。そこ周辺には赤い血の海ができていた。
「あーあ。困るな〜そういうことされちゃ。シェーラは裏切らないと思ってたけど、残念だよ。」
キャリーはため息混じりに肩をすくめる。
「せっかく美しい世界を作ろうとしてたのにさ。やっぱりダメだったか〜」
「シェーラ様!!何するんだよ!!」
「シェーラ様……!ダメ…魔法でも、傷口が塞がらない...」
「そりゃそうだよ。だって、僕の魔法は君たちじゃ解けないから。忘れちゃったの?シェーラを魔女にしたのは僕だ。僕は、君たち以上に魔法が強いんだから。僕の魔法が解けるなんて思ってもらっちゃ困るなぁ。」
アヴィニールとアンフェニはシェーラに駆け寄り何度も傷口を癒そうとする。しかし、シェーラの傷は治らない。
「仲間を傷つけて…何がしたいんだ…!」
「ん〜特に意味は無いかな〜?邪魔になっただけだよ。いらなくなったら捨てる。ただそれだけの話。」
キャリーにとって彼女たちは捨て駒にすぎない。いらなくなったら捨てるだけ。まるで物のように扱っている。
「これ以上好き勝手させない!!」
剣を構え、全員が一斉に踏み出した。
「あ、待って待って。まだ伝えてないことがあったんだった。伝えてから殺し合おうよ。その方が後味いいでしょ?」
嫌な笑み。キャリーは指を鳴らした。
「チュラメリダ~例のやつ出して説明してあげて。」
「はい。キャリー様」
空間が歪み、奥から黒い装置が現れた。緑の液体で満たされており、前面がガラスで作られていた。その中で揺れていたのは、
「エゼキセル…!?」
「君たちの大切なお友達でしょ~久しぶりに会えて嬉しいんじゃない~♪別にやったのは僕じゃないよ。僕は管理するための箱を作っただけ。これすごいんだよ~この液体につければ、腐ることもないし、目覚めることもない。」
「どうしてエゼキセルまで巻き込んだんだ!!」
「だからやったのは僕じゃないって~ね、チュラメリダ。」
「まさか…チュラメリダがやったのか…?」
「えぇ。そうよ。あいつ頭がそれなりに切れる方だったから。裏切りのことがバレたら、後々に面倒だと思ってね。」
それを聞いたキャリーは楽しそうに頷く。
「合理的だよね〜感情より効率。無駄を切り捨てる判断。」
「だから口封じしたのか……!」
「まだ死んでないわよ。意識がないだけ。別に殺すつもりはなかったし。」
「……フレディたちに矢を撃ったのもお前だったんだな。おかしいと思ってたんだよ。弓が苦手なベギレネスがあんなに正確に人を打ち抜けるなんてありえない。」
ヒュラドは唇を噛み締めていた。それは裏切られた悲しみか、悔しさか。
「そう。私がやった。それにあなたを裏切ったのは私よ。私があなたを組織に告発した。上層部は簡単に信じたわ。それらしい証拠を並べただけなのにね。全部偽物とは知らず。」
「なんで…信じてたのに…」
「被害者ずらしないで。目障りだったのよ。あなたがいなければ、私はもっと師匠にたくさんのことを教えてもらえてた!!あなたがバディだから周りにフェニックスのおかげだって。役立たずだって。この気持ちわかる?!」
ヒュラドを陥れた犯人はチュラメリダだった。しかし、確かにそこにはべギレネスが犯人だという証拠があった。秘密の部屋と同じ筆跡の文字が研究室に。それに実験の紙も。
「なら、あの秘密の部屋と研究室にあった筆跡の同じ紙は…」
「もしもの時のために、仕込んでおいたのよ。実験の紙もね。まんまとはまってくれてありがとう。」
満面の笑みをこぼすチュラメリダはまるで毒された花のように、美しく、そしておぞましいほどの狂気に満ちていた。
「さてさて、お話し中悪いんだけど、そろそろいいかなぁ~?」
キャリーの声が戦場に響いた。その笑みには余裕があり余っている。
「…戦いは避けられない。みんな行こう。」
「シェーラ様を傷つけたこと許さない……」
「今からお前を倒す!!」
「おー怖い怖い。」
キャリーに向かい一斉に攻撃を仕掛ける。しかし、すべての攻撃が弾かれてしまった。7対1なのにも関わらず。
「7対1とか不平等じゃない~僕もいっぱい相手にするのは疲れるからさぁ~」
チュラメリダは武器を取り、それを彼らの方に向ける。
「応戦します。キャリー様。」
「うん。お願いー」
キャリーに攻撃しようとしても魔法で防がれ、その上、チュラメリダからの攻撃もよけなければならない。
「ぐっ…!」
その時、フレディの目の前に矢が飛んできた。今の位置からでは、到底避けることができない。
(これ…避けられない。)




