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嫌い

「みんな幸せな夢を見てるわ。」

「この夢って、いつまでも寝させられるの?」

「いつまでもは無理。夢の中には構築しきれないものもあるし…」

「ちょっと面白そうだから僕も体験してみたいな〜」

「あなたはダメです。この魔法操作するの大変なんだから。」

「ケチだなぁ〜」


シェーラとキャリーはくだらないことを喋っていた。


「そう言えば…どうしてあなたはこちら側に来たの?人類を裏切ってまでして。」


シェーラはチュラメリダにそう聞いた。


「……私はこの世界にもう諦めたから。」

「その割には、僕の話にノリノリで乗ってきて必死だったけどね〜」

「うるさいです。」


シェーラは何も話さなかった。ただ彼女を見つめるだけ。


(私を認めてくれなかったこの世界が悪い。どれだけ努力しても、世界は見向きもしてくれなかった。あの頃から、私はずっとそう思っている。)



----------



「エリカ。お前なら立派な捜査員になれるだろうな。」

「精進します。」


アルヴィンは彼女にとって特別な存在だった。街で捨てられていたエリカを引き取って、育てたのだ。


「師匠。私は師匠のような捜査員になります。」

「それは楽しみだな。お前なら俺よりもっとすごいやつになるもな!」


エリカはアルヴィンから様々なことを学んだ。愛を知らない彼女にたくさんの愛を与えたい。


(嬉しかった。楽しかった。ずっと続くと思っていた。)


しかし、それはヒュラドが来てから変わった。


----------


「エリカ、今日から一緒に過ごすヒュラドだ。仲良くしてやってくれ。」

「…よろしく。」


ヒュラドが来てから彼女の中の歯車が狂いだした。


(どうせ血の繋がらない赤の他人。気にする必要ない。)


初めはそう思っていたのだ。


----------


「エリカ姉さん!俺にも教えて!」

「誰が姉さんよ。」

「俺より年上でしょ?」

「ふたつしか変わらないじゃない。」


ヒュラドはしつこいぐらいに彼女に付きまとった。毎日毎日、どこにでも付いてきた。

エリカはこの頃から捜査員になるために本格的に勉強を積み始めた。それを見て、ヒュラドも隣で彼女の教科書を眺めていた。


「ねぇ、エリカ姉さん。姉さんは捜査員になってどうしたいの?」

「…師匠のように立派な人になる。」

「なら俺もなる!」

「あんたが?結構難しいけど。」

「でも絶対なる!姉さんみたいにかっこよくなりたいんだ!教えて!教えて!」

「…わかったわよ。少しだけね。」


無邪気な笑顔を向けてくるヒュラド。所詮血の繋がってないただの他人なのに、心の中で、本物の家族のように感じてしまう。

エリカは親に捨てられて家族というものの温かさを知らない。だから今が心地よかったのかもしれない。

この温かさがいずれ憎しみに変わることも知らず。


----------


「始め。」


エリカは捜査員になるための試験を受けていた。何度も何度も勉強を重ね、無事合格。


「エリカ。おめでとう。」

「ありがとうございます!師匠。」


アルヴィンも彼女を沢山褒めた。やっと夢のスタートラインに立てたのだ。


「師匠〜!俺も!俺も試験合格しました!」

「ヒュラド、お前も合格したのか!どれどれ…正答率90%じゃないか!こんな正答率はじめて見た。すごいな〜」


この時、エリカは何も言うことができなかった。


(…なんで?私よりも随分と後に勉強を始めたヒュラドが合格?しかも正答率90%…私の正答率は76%…試験の合格ラインは70%。私はギリギリで合格していると言っても過言では無い。この試験に合格するためには少なくとも、5年かかると言われている。ヒュラドはここに来てまだ3年。たった3年で合格した。

信じられない。きっとまぐれだ。そうに決まってる。)


そう信じなければ、壊れてしまう。


「姉さん、姉さんも合格したの?ならこれからは一緒に仕事できるね!」


ヒュラドは笑顔を向ける。彼女はその笑顔が気持ち悪くて仕方がないと思ってしまった。


「そうね…」


言葉を出すにはこれが精一杯で、話す気力すらもうない。

それからエリカの中の糸が少しずつちぎれ始めた。


----------


「ヒュラドってすげーな。試験の正答率90%だったんだろ?しかもさっきの実技授業、めっちゃすごかったじゃん!」

「本見るの割と好きだからな!」

「でも1時間で資料1000枚捌くのはダテじゃないだろ。」


研修期間。ヒュラドは同期の中でも頭ひとつ抜けていた。誰もが成し遂げられないことを1人でやってのけるほどに。


(負けたくない。)


エリカは人一倍努力をした。毎日毎日、必死で。寝る間も惜しんで。それでもヒュラドには追いつけることはなかった。周りはみんなヒュラドを評価する。彼女のことなんて目にとめてくれない。


「姉さん、顔色悪いけど大丈夫か?」

「…気にしないで。少し寝不足なだけよ。」

「…ほんとに大丈夫なの。心配。」

(何心配よ。なんでも持ってるくせに…)

「…ありがとう。気をつけるわね。」


純粋な心配でさえも素直に受け取ることができなかった。


----------


研修期間が終わり、2人はとうとうコードネームを与えられた。コードネームはこの施設で捜査員になったと認められるもの。ヒュラドはフェニックス。

そして、エリカはチュラメリダという名前が与えられた。チュラメリダのバディはフェニックスだった。


「これからは二人で協力してやっていけよ。」

「姉さんと…!これから頑張ろうな!」

「…うん。」

「フェニックス。これからは姉さんではなくチュラメリダって呼ぶんだぞ。」

「そっか…そう呼ばないといけないのか…わかりました!チュラメリダよろしく!」

(…嫌だ。こんなに期待されているやつの隣に立つなんて。)


----------


それからは色んな任務をこなした。2人が配属されたのは潜伏捜査課。各国の秘密情報を集めてくるための課だ。

各国を周り、たくさんの情報を持ち帰った。おかげで彼女たちのバディは高く評価された。でもその大半はフェニックスの力だろうと言われた。

チュラメリダがヘマをして死にそうになったこともあった。それを助けたのはフェニックスだ。


「さすがフェニックスだな!」

「フェニックスのおかげ。」

「バディは役立たず。」


耳を塞ぎたくなるような言葉ばかり。

フェニックスに追いつきたい。その一心で、彼女は努力をし続けた。


「…なぁ、チュラメリダ。最近疲れてないか?顔色がすごく悪い。少し休もう。」

「大丈夫。私はまだ…」

「チュラメリダ…!チュ…リ…!」


----------


「…ここは…」

「チュラメリダ!よかった目が覚めて!」

「…私…」

「疲労困憊で倒れたんだよ。」

「何日寝てた?」

「え…えっと、確かまる2日とか。」

「そんなに…早く仕事しないと…」

「あぁ!動くなよ!安静にしとかないとダメだぞ。それに仕事なら俺がやっておいたから!」

(どういうこと?あの仕事を?たった2日で?あの大量の仕事は1週間かかってもおかしくないのに…たった2日…)


チュラメリダは理解できなかった。慣れている職員でさえも、5日はかかると言われている仕事を、フェニックスは2日で終わらせた。新人の彼がだ。


「しばらくは絶対安静だからな!」


フェニックスはそういい部屋を出ていった。

それから、入れ替わりにアルヴィンがやってきた。


「…師匠。申し訳ありません。」

「体調は大丈夫か?」

「かなり回復しました。ありがとうございます。」

「お前が無事でいてくれるのが1番だ。謝らなくてもいい。仕事のことに関しても、お前はよくやってる。1人で抱え込まんなくてもいい。お前にはバディ、フェニックスがいる。もし何かあれば頼ると良い。」

「…はい。」


この時悟ってしまった。


(私はフェニックスに…ヒュラドには勝てない。私が秀才なら、ヒュラドは天才。努力ではどうにもならないのだ。師匠でさえも私に期待はしてくれない。)


涙すら出なかった。悔しくて悔しくて仕方ないはずなのに。どこかで諦めてしまっていたのだろう。


----------


チュラメリダは外に出た。満月が街を照らしていた。


「…あれー?こんな真夜中に人…珍しいなー?」


そこに居たのはキャリー。白い髪に、紳士の服。儚く、美しすぎて、まるで天使のようだった。

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