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グラジオラス邸

「あ〜…ほんとに来てくれたんだね〜」


軽い拍子の声が、広い空間に響いた。

キャリーは楽しそうに手を叩き、フレディたちを見てくる。その目は明らかに彼らを馬鹿にしていた。


「よくここまで辿り着けたね〜。森の魔法結構自信作だったんだけどー簡単にクリアされちゃったらつまんないな〜まぁでも!いいか♪君たちに会えて嬉しいよ。」


キャリーはちらりと隣を見た。目をやった方にいたのはシェーラだ。


「シェーラ。ちゃんと案内できて偉いね。」

「私は何もしていません。」

「君がオブリビオンを作ってくれたからここまでこれたんだよ。ありがとうね♪」

「……」


シェーラは一歩前に出て、無言で彼らを睨んだ。それだけで、空気が張りつめる。


「キャリー、なんでこんなことをするの。人の記憶を奪って何が楽しい。」

「いきなりお説教か〜そうだな……教えない♪」

「教えないって…」

「う〜ん…それじゃあ、君たちがシェーラたちに勝ったら教えてあげるよ。それまではお預け。シェーラ。」


キャリーの指示に、シェーラは一歩ずつ近づいてくる。


「じゃ、始めよっか。せっかく来てくれたんだし、ちゃんと楽しませないとね。そう言えば…」


キャリーの視線が、奥に立つアヴィニールへ向く。


「無事に調整も終わったよ。どう?綺麗でしょ。結構大変だったんだよね〜抵抗しちゃってさ。」


そこにはアヴィニールが立っていた。目はにごり、何も映していない。本当にただの人形のように思えるぐらいだ。


「この子もこれで使えるようになるよ。」


にこっと笑って、キャリーは一歩下がる。

全員が武器を手に取る。


その時、アヴィニールの足元の魔法陣が淡く光った。

次の瞬間、何の躊躇もなくアヴィニールは魔法を放った。


「…っ!!」


アンフェニは腕で攻撃を受け、そのまま吹き飛ばされる。


「アンフェニ!!」

「俺のことはいい…!アヴィニールは俺が何とかする…!だから!!」

「…認識、完了。対象、排除。」

「アヴィニール…!」


必至に名前を呼ぶが返事はない。その瞳は、どこか焦点が合っていなかった。そこにあるのは敵意でも憎しみでもない。


(アンフェニに応戦したい…!けど…あの状態じゃ入れない。)


激しすぎる戦いゆえに入る隙がない。

そちら側ばかり見ていると、


「フレディ…!避けろ!!」


正面にシェーラの魔法が飛んできていた。

フレディは咄嗟に跳び退いた。ギリギリのところで避けられた。しかし声をかけられていなければ、今頃攻撃は彼に直撃していただろう。

魔法は床に擦れ、煙が上がる。床がえぐれ、焦げた跡が残る。


「…っ、速…!」


シェーラは表情一つ変えず、次の魔法を構えていた。詠唱はない。間もない。迷いもない。彼らに攻撃の隙を与えるつもりはないらしい。


「来るわよ!!」


防御ばかりで、攻撃が全く仕掛けられない。

攻撃を仕掛けられても、その攻撃は全てかわされてしまう。


「はぁっ…!」

「はっ!」


グレースとソフィアが左右から挟み込む形で武器を振った。しかし、シェーラにはいとも簡単に受け止められてしまった。そして吹き飛ばされてしまう。


「…くそ。はぁぁ…!!」


フレディも後に続き、剣を振り上げ、攻撃を仕掛けようとする。しかし、シェーラの魔法が直撃し、受け止めることしかできなかった。反動で体勢を崩しながらも、次の一撃に備える。

シェーラが素早く次の魔法を準備する。光が一瞬、空間にひびを入れたかのように走る。そのひびは、雷のようだった。


(攻撃…!避けられない…!)


目をぎゅっと瞑る。

しかし、痛みは一向に訪れない。ヒュラドが攻撃を受け止めてくれていたのだ。


「ぐっ…!」

「ヒュラド!」

「はぁっ…!」

「ギリギリだったけど、何とか受け止めれた。」

「ありがとう。でもどうしたら勝てるんだ攻撃が全く届かない。届いても、全部魔法で防がれちゃう。」

「…何とか隙を作れれば…」


5対1なのに。それほどまでにシェーラは強い。ほんの少しでも攻撃の隙を作れればいいのだが、全然できない。

その時だった。ピュンっとシェーラの方へひとつの矢が飛んできた。


「今の矢…ノア?」

「……」


ノアの方を振り向く。ノアはシェーラに届く矢を放った。ギリギリのところで避けられてしまったものの、タイミングが良ければ当たっていただろう。この調子でいけば攻撃できるかもしれない。

しかし、ノアの様子がいつもと違う。いつものノアはもっと優しい目付きをしているのに、今は氷のように冷たく、鋭い目付きをしている。


「…貴方…」

「返してよ…僕の大切な人の思い出返してよ!!!」


今まで聞いたことのない大声だった。

ノアは今にも泣きそうな目をしていて、それでいてシェーラを強く睨んでいた。


「アメリアは僕が辛かった時、ずっとそばにいてくれた。その大切な思い出も全部全部奪ったんだろ!!僕の大切な人を返してよ!!」


矢先が、わずかに震える。

放たれた矢は、真っ直ぐに。だが、シェーラ本人ではなく、その背後の柱へと突き刺さった。

その瞬間、シェーラに一瞬の隙ができた。


「…っ!」


それは迷いでも油断でもない。

ただ一瞬、何かを思い出しかけたような、ほんの刹那。


「今!!」


グレースの声が弾ける。誰が最初だったかはわからない。だが、全員が同時に踏み込んだ。防ぐだけだった攻撃が、初めて攻めに転じる。剣が、衝撃が、想いが重なり合い、シェーラへと押し寄せた。


「……!」


空気が軋む。

弾かれるはずだった一撃が、確かに通った。


「当たった…!」

「このままいくぞ!!」


シェーラが一歩後ろへ下がり距離をとる。


「前よりもずいぶん成長してるみたいね…でも…」


あちら側も攻撃の威力を上げてきた。


「わっ…!!」


それでもノアが作ってくれた絶好のチャンスを逃すわけにはいかない。全員がその場で踏んばり、何とか吹き飛ばされずにすんだ。


「私には敵わないわ。」


魔法の威力がどんどん強まってくる。本気を出してきたのだろう。これが本気と言えるかは怪しいものだが。

それでも、ここで勝たなきゃいけない。彼女を倒して、終わらせなくてはいけない。今まで磨き上げてきた連携技を使う時だ。


「みんな!!!」


フレディが合図を出すと、仲間全員がそれを感じ取った。再び、全員が動き出す。


動きが重なり、少しずつシェーラを追い詰められている。間合いに入れる。


「ノア!!」

「了解!」

「行くぞ!グレース!ソフィア!」

「わかった…!」

「そんなこと、あんたに言われなくてもわかってるわよ!!」


一瞬の隙を、確信に変えるために。


「はぁぁぁ!!!!」


もう少しで届く!!その時だった。シェーラは彼らに向かって魔法を放った。それは光の矢のようなもので、飛び空間を裂くように衝撃が走る。全員が身を翻し、攻撃を避けつつ反撃を試みる。剣と魔法が衝突し、火花が散る。

シェーラの間合いから外れてしまった。その上、全員が攻撃をもろに受けてしまい、衝撃でうまく立つことができない。


「…終わりね。」


トドメをさそうと魔法を向けている。全員が反撃できない。攻撃を受けとめることできない。


「さよなら…」

(もうダメだ…)


ドカァン!!

背後で轟音が鳴った。

壁が砕ける音。魔力が爆ぜる音。轟音の正体は、アンフェニが壁へと吹き飛ばされた音だった。

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