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「フレディ!!」

「目開けた!!」


肺に空気が流れ込む。焼けるみたいに痛い。


「いたい……」

「よかった…!」

「…だい、じょ…ぶ…」

「大丈夫ではないわよ!傷口塞がってないし!顔色めちゃくちゃ悪いし!」


視界が滲む。胸の奥に、確かに残っている。


「……リアム。」


小さく呟く。涙がこぼれた。


「…そう言えば、キャリー…は…?」

「消えてなくなったわ。跡形もなく。」

(あぁ…そうだった。俺は倒したんだった…胸の奥が重い。勝ったはずなのに、少しも軽くならない。)

「シェーラ様…」

「起きてください…シェーラ様……」


少し離れた場所で、アンフェニとアヴィニールが膝をついていた。その腕の中にいるのはシェーラ。


「私たち、まだあなたに何も恩返しできてないんです…」

「そうですよ!俺たち、これからもっとあなたにいろんな話をしたい!」


アヴィニールが治癒の魔法を使おうとしてもなおシェーラは目覚めない。


「やっぱり魔力が足りないのかな…もっと私が魔法できたら…シェーラ様!あなたに学びたいことがたくさんあります!目を覚ましてください……!」

「シェーラ様!!お願い生きてください!!!」


その時だった。胸を貫かれたはずの傷口。そこに、微かな光が集まり始めていた。


「えっ…?」


さっきまで重く押さえつけられていた魔力が、ゆっくりと戻ってくる。


「魔力が……戻ってる…?」


胸の傷が、静かに閉じていく。指先が動いた。


「貴方たち…」

「「シェーラ様!!」」


シェーラの瞼が開いた。まだ焦点は合っていない。だが確かに、生きている。


「…泣いてるの?私が死んじゃったと思ったのかしら。大丈夫。私は生きてるわ。だから泣かないでちょうだい。」


シェーラは体を起こすと、腕を広げ、2人を抱きしめた。まるで母親のように。


「頑張ってくれたのね。偉いわ。さすが私の子たち。」

「…シェーラ様…グスッ…うっ…」

「生きててよかったです。俺たちシェーラ様に話したいことがたくさんあるんです。」

「えぇ。たくさん聞くわ。けど、その前に…彼をなんとかしなくちゃいけないわね。」

(息が苦しい。肺を撃ち抜かれたんだ。)


肩で息するのも精一杯になってきた。


「かひゅ……はぁ…っ…は、ぁ……」

(うまく吸えない。痛い。これほんとに死んじゃう。でもまだ死ねない…)


ぼんやりそんなことを思ったときだった。


「…今からあなたの傷を治す。じっとしててちょうだいね。」


シェーラは膝をつき、そっと胸の上に手を置いた。その瞬間、柔らかい光が広がる。その魔法は驚くほど優しかった。肺の奥に空気が流れ込む。さっきまでの痛みが少しずつ引いていく。


「痛くない…」

「これで大丈夫そうね。」

「ありがとう。シェーラ。」


体の痛みがなくなり、かなり楽になった。これで一件落着……かと思いきや。


「そういえば…ダリウス!」

「ダリウス?」

「あ、ごめんごめん。エゼキセルのことだよ。あいつの本名。あのカプセルどうやったら割れるんだ?」

「…俺の出番だね。このアンフェニ様が手伝ってあげるよ。」


アンフェニはにやりと笑った。


「これで…行くぞ!」


アンフェニはお得意の一撃を披露する。するとカプセルの表面に亀裂が走った。

バキッ、と小さな音を立ててカプセルが割れ、内部の液体が溢れ出す。


「…エゼキセル!」


エゼキセルは、ゆっくりと目を開けた。


「ん…ん?ゲホゲホ…!ヒュラド…?ここどこ?みんないるじゃん!どうしたの?てかなんでそんな傷だらけ!?大丈夫!?」

「色々あったんだよ。」

「なんだよ色々って〜はしょんないで伝えろよ!あとなにこれ!?変な液体みたいなの纏わりついてんだけど…気持ち悪…」

「元気そうだなお前。」

「そっちが元気ないだけだろ!早く説明してくれよー!!」


エゼキセルはヒュラドをブンブンと揺さぶった。


「話す…話すから…!ぶんぶんするな!酔う!」

「うんうん!」

「…端的に言えばオブリビオンが消滅した。」

「ん?オブリビオンが消滅?」

「そう。オブリビオンの元凶の敵を倒したんだ。」


それからヒュラドはエゼキセルに長々と事の経緯を話した。


「うん。なるほど〜つまりこの世界は平和になったと…うーん。でもなんで俺あそこ入れられたんだ?俺、関わってないよな??」

「……それはわかんないんだよ。俺たちが来た時にはもう閉じ込められてた。」

「えぇ!?なにそれ怖!鳥肌!!」


エゼキセルは腕をさすりながら大げさに肩を震わせた。ヒュラドは小さくため息をつく。


「これからどうする?オブリビオンも倒せたし…」

「そうね。まずはここを出ましょう。ここにいても何も進まないもの。」

「フレディ立てる?僕、手貸そうか?」

「大丈夫。シェーラのおかげでもうほとんど回復したから。ありがとう。」


皆がその場を去ろうとした時、ヒュラドだけ動いていなかった。


「ヒュラド?どうしたの?」


ヒュラドは横たわるエリカを見下ろした。


「……エリカ。連れて帰りたい。」

「…チュラメリダ…?なんであんなに血だらけなんだ…?フェニ…ヒュラド?」

「エリカはもう死んでる。」

「な、なんで…わんちゃん生きてるとかないか!?」


エゼキセルは彼女のそばに駆け寄る。しかし、その体は冷え切っていた。


「ほんとに…なんでこんなことになったんだよ…そもそも、なんでチュラメリダがこんなところにいるんだよ!!」

「…エリカは人類を裏切って、キャリー側についた。俺に濡れ衣を着せた件も、真犯人はエリカだった。べギレネスは冤罪。」

「…それでも、こいつはお前の家族だろ。」

「そうだ。エリカは人類を裏切って、キャリー側についた。それがいけないことだっていうことはわかってる。けど、俺にとっては大切な家族だ。」


その表情はとても辛そうだった。


「…私が預かっておくわ。」

「え?」

「あなたたち、今疲れてるでしょ。一応全員に回復の魔法をかけたつもりなんだけど、傷を癒すだけであって、疲れを取る魔法じゃないの。だから一度休んだほうがいいわ。この子はまた私が見ておくから。」


シェーラは部屋の奥から例のカプセルを取ってきた。


「このカプセルの中に入れば時を止めて保管することができる。だから、あなたがまた来るまでこの中に入れて預かっておくわ。」

「シェーラたちはここを出ないの?」

「えぇ。たくさんの人を巻き込んだ。だから、片をつけなくちゃいけない。」

「それなら私も残ります。この場所は少なからず、私にとっては家のような場所ですから。」

「俺も残ります!シェーラ様に恩返ししたいですから!」


2人は勢いよく返事をした。その言葉を聞いてシェーラは優しく微笑んでいた。


「なら、いろいろお手伝いしてもらおうかしら。」

「はい!」

「任せてください。」


ヒュラドが小さく息を吐く。怒りなのか、悲しみなのか、自分でも分からないような顔だった。


「師匠と、迎えに来るから。」


そう言って、ヒュラドはエリカを抱き上げた。ゆっくりとカプセルの中へ横たえる。液体が静かに揺れ、エリカの体を包み込んだ。

蓋が閉じる。小さく、音がした。


「待たせて、悪い。行こう。」


今度は振り返らなかった。ヒュラドの今の気持ちを想像することは、誰にもできない。だが、大切な人を失う痛みは彼もよく知っているから。


扉に手をかけた。


----------


扉を開けた先は、先ほどまでの暗い空が嘘のように、青空が広がっていた。オブリビオンの姿もなく、まるで、さっきまでの戦いなんて最初から存在しなかったみたいに。


「うーんいい天気だなぁー!天気の良い日は、外に出てピクニック…待てよ……俺、長い間気絶してたと思うんだけど…仕事溜まってるんじゃね!?」

「あ〜確かに。サボり魔のお前のことだからばっくれたと思われて仕事さらに増やされてるんじゃないか?」

「それじゃあ、次の休みなくなるじゃん!!俺急いで帰るわ!!てかここどこ!どうやったら帰れるんだよ!」


ヒュラドが呆れたように言う。


「ここはオブシディアンの荒地。ほら、目の前不毛の地じゃないか。」

「ほんとだ。て事は…このまま南に進めば帰れるのか…サンキュー!」

「気をつけろよ。」

「わかってるって!」


エゼキセルはその場を去ろうとした。しかし数歩進んだところで、立ち止まり、ヒュラドの方を振り向いた。


「……ヒュラド。お前も早く帰ってこいよ。みんな待ってるから。アルヴィンさんも心配してる。べギレネスも会いたいって言ってるし。チュラメリダのことも。」

「……わかった。」


エゼキセルの背中が、だんだん小さくなっていく。


「これからどこの国に行くの?この近くだとやっぱりトルマリン王国かな?」

「うーん…俺、会いたい人がいるんだ。ミナミ。ターフェアイト王国の。」

「あ〜あの子ね。……フレディ、あのことどういう関係なの?」

「え?普通に友達。」

「ならいいけど…」

「?グレース?」

「なんでもないわよ。」


グレースはプイッとそっぽを向いてしまった。


「ふふ…」

「またやってる。」

「あ〜そういう感じか。」

「え?みんな何言ってるの?ソフィアは何か笑ってるしノアやヒュラドはわけわかんないこと言ってるし!なんで教えてくれないの?」

「いやーこれは当人たちで話し合わないといけないことだからな。」


ソフィアも続けた。


「そうそう。わたしたちは口出しできない問題だから。」

「よく考えたらわかるんじゃない?」

「ん〜??グレース……俺、悪いことした?」

(これで気づかないと。さすがフレディ。)

(やっぱり女心がわかってないのかな…)

(2人ってそういう関係だったんだ。それにしても気づかないんだな。これで。)

「もういいわよ!っていうか、その3人も茶化さなくていいから!!早く行くわよ!」

「はーい。」


ターフェアイト王国へと向かった。

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