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番外編〜ドン&イダ…黒き魂の記憶…①



突然の冒険者達の襲撃から一日、ドンは森の中をひたすら西へと獣道を駆け分け進む。


満身創痍の相棒を担いで…


故郷には戻れない、今帰った所で部族を抜けた裏切り者として処罰されるのがオチだろう。


だから北には進まず、イダの傷が塞がりやすい様に瘴気の濃い場所を探して進みながら…


一旦西に向かい、人間達が七区と呼ぶ場所に向かうつもりでいる。


そちらから西部に入って…


(それからどうする?…うぅっ!また変な記憶が…あのデカブツとやり合ってから何かがおかしい…)


プランは今の処は無い、ドンは黒き魂の記憶に悩まされていた。


ある人間、恐らくは現人の記憶だろうが、見慣れない服装、どの記憶も現人ばかりで獣人などは一切出て来ない…妙な記憶。


疲れを感じた所で、木々に埋もれた建築物を見つけた。


前時代の遺跡だろう、建物の塗装は剥げ二階建ての上部は崩壊している。


…大昔の集合住宅…


一階はボロボロだが崩壊はしていない部屋も有る。


扉は開け放たれ風雨に晒されている部屋が多い中で、手付かずの部屋を見つけた。


ドアには鍵が掛けられ、入れない様になって居るが関係ない。


強引にドアをこじ開け中に入る。


中には何も無い、埃は積もって居るが比較的綺麗な木製の床の上にイダを横たえ、部屋を中を見回す、何も無いが回せば水が出る蛇口を見つけた。


回してみると綺麗な水が出る。


大昔の人間達が作ったという術式水道設備と言う奴だろうか?


水を飲んで落ち着く…


(イダにも飲ませてやんなきゃだな…)


水を口に含んで、口移しに飲ませてやる。


イダをマジマジと見つめる。


瘴気が多い所を選んで歩いて来たお陰か傷は既に塞がりつつ有る。


黒き魂の魔性の生物とは言え、普通はこんなに簡単に傷が塞がる事は無い。


助かったのは急速な進化の途中にあったからに他ならない。


(俺みてぇに、コイツも変わる途中にあったんだ…故郷を飛び出して正解だった。あんだけ数がいて色付きはたった三匹、族長と側近の二人、部族の数は四百以上、俺が作った部族の十倍でたったそれだけ、俺は間違って無かった…クソっ!またこうなるのか?!……またって…なんだ?)


再び【黒き魂】の記憶が侵食して来る。


そう…ステゴロ最強、組織の殺人マシーン、刑務所から出たら組の一つも持てると確信していた。


…なのに…


組に帰ってみれば弟分が若頭に、しかも何人も舎弟を抱えていた。


それでも、かつての弟分が出所祝いだと催してくれた席、礼儀のなっていない弟分の舎弟に灸をすえるつもりだった。


あれは飲ませすぎたのがいけなかったのか?


(あぁ…そうだ、あの頭の薄いダルマみてぇなガキ、あのハゲ…奴に…)


弟分の舎弟の一人、名前は覚えて居ない。


覚えているのはずんぐりとした体型に丸顔、若いのに淋しい頭頂部、そして強烈な張り手の一撃、天井まで浮かび上がり激しく落下し、膝を破壊され、足を引き摺って歩く羽目になった。


組にいくばくかの慰労金、という名目の詫びを貰って、組では無く弟分のポケットマネーだったかも知れないが…引退となった。


日雇い労働者として日銭を稼ぐ日々、最後は…繁華街の路地裏、脇腹に突き刺さる銀色の刃物。


薄れる意識の中で誓った。


「ゲホッ…ゲェ…次に生まれ変わったら…子分をいっぱい作って…俺が組のトップに…いや…自分で組織を立ち上げるんだ…次こそは頭使ってよぉ…上手くやるんだ…子分に慕われる…そんな………………」


そして生まれ変わった先は、魔界と言う地獄の中に生まれ落ちた。


(あぁ…そうなのかそれで俺は、あのハゲと昨日のデカブツが被リヤがる…俺はまた…違う!俺にはまだ…イダがいる!それに黒い魂の記憶だって?フン!こんなものは、俺だとしても俺じゃない!惨めなジジイの記憶だっ!…他人の…現人の記憶に過ぎないっ!)


前世の幻影に悩まされるドンはそう結論付ける。


…いや…そう思う事にした。


これは多くの小鬼、或いは黒き魂の眷属が稀に直面する悩みの一つである。


例えば人間で有れば、魂の仕組みにより人生を終えるまでは大抵の場合はキッチリと記憶にロックが掛かる。


精神性が上がり上位進化しない限りは滅多に過去生の記憶が蘇る事など無い。


ショックや事故で過去世の記憶が表層に浮かび上がる場合もあるが、それはレアケースだろう。


魂のシステムは余計な事で、その人生を悩ませない様に出来ている。


精神性が上がらなければ、いたずらに混乱するばかりで、有効に利用する事も消化も出来ないからだ。


だが黒い魂とは、既に穢れきってマトモな転生が出来ない魂である。


原因は誤作動なのか、それとも邪言を多用する事に依る異次元からの侵食による物か?


とにかく向き合い方は個体によるが、ドンは所詮は他人の記憶と、その様に結論付けた。


魔界を地獄と呼ぶ者もいる。


…邪鬼とは元々現人や獣人の魂を持つ存在である。


魂の穢を落とさず、生き方を改め無かったが故に、魂が瘴気に引き寄せられ、この様な場所で生きる事になった者達。


人間として生きる上で、魂の穢を落とさなければ、どんな神霊の加護も効果は半減するし全く効果が無い事さえある。


それであの神はご利益が無い、などと言われたら、祈られる神にしてもたまった物では無い。


穢を落とす唯一の方法は、生き方を改めて日々魂磨きに励む他無いのだ。


そして穢れた黒き魂が行き着く先、地獄…魔界とは人々が思う様な責め苦を味わう場所では無い、その在り様によっては心地よくさえある。


…つまり…


暴力に明け暮れる者は暴力の地獄に、小鬼達はまさにそんな存在だろう。


弱者から奪い…女を犯し、他者を支配し、他の眷属すら利用し、常に同族と戦争を繰り広げる。


地獄の中にあってさえ常に同種の、別部族の小鬼達と勢力争いを繰り広げる。


例えば自分の現状を嘆き、家に引き篭もり、或いは自分の場所、心の牢獄から動こうとせず己をかえりみず他者に呪いと呪詛をぶち撒ければ尚且つ女で有れば…


【沼の幼女】へと転生する


彼女達は生前の生き方そのままに、子供を産む事も無く、食べて排泄するだけの生物と化した。


その望み通りに仲間達だけの安全な場所を獲得し、食料が通りかからなくても最低限水と瘴気だけ有れば生きて行ける。


時折通りがかる旅人に毒を吐きかけるだけの生き物と化し、穢れた沼から動けない存在になってしまった。

 

【青鱗の魔女】


その幼女達を煽り旅人を襲わせてその忠誠と財貨を沼の幼女から掠め取る存在で有る。


恐らくは人であった時もその様な存在であったのだろう、幼女を煽り掠め取り利益を得る。


そして自身はオスの奴隷を侍らせ優雅な生活を送る。


時代によっては家柄と立場で、文明の発展した時代で有ればスマホとSNS。


攻撃的な彼女達の魂は、それらの代わりに強力な邪言と鋭い爪で、人を傷付ける存在へと転生した。


黒き魂の眷属は己に相応しい地獄へ堕ちたと言う事だ。


邪鬼達は邪悪で不浄な存在では有るが、それだけの存在と言うわけでも無い。


歪んでいたり打算的で有ったりはするが、確かに愛情、或いは愛欲かもしれないがそう言った物もちゃんと持っている。


沼地の幼女は普段は攻撃的だが、容姿に恵まれない女性には攻撃を仕掛けないし、青鱗の魔女に支配されてない沼地であれば容姿の良い男が襲われ、捕獲され青鱗の魔女に捧げられる事も無く、側を通れば何かを期待する様にソワソワして身繕いを始める。


藻の様な体毛を撫で付けて…


青鱗の魔女などは、娘が生まれれば英才教育を施してキチンと独り立ちさせるし、男の子が生まれたら、ベタベタに甘やかし、愛情をこれでもかと注ぎ、手元から離さない、結果…殆どの場合は乳依牛と呼ばれる存在になってしまうのだが…


そして…小鬼の場合は…


 ◆ ◆ ◆


集合住宅の廃墟に身を寄せて二日。


少し外へ出たが、この辺は瘴気は濃いが獲物は少ない。


取れたのは角が生えた兎の魔獣が一匹だけ…


一角獣と呼ばれる魔獣だが、馬や豚、熊の場合も有る。


…瘴気によって肉体だけが一部変質した動物だろう。


その角は特効薬の材料になるとされており、人間達はわざわざ魔界にまで狩りに来る者もいる。


だがドンには一角獣の角などに用は無い、欲しいのは肉である。


(クソッ…こんなんじゃ全然足りねぇ…水が有るのは良いが…移動するべきか…イダも目を覚まさねえし…だけどコイツ…どんどん変わってくな、前々からメスみたいな顔をしてるとは思ってたが、色は黒いや濃い青か?イカヅチの力のせいか?髪も生えて来た…胸が…)


木製の床にの上に腰みの一枚を身に着けて、横たわり眠り続けるイダ。起きる気配は無い、周囲に揺蕩(たゆた)う瘴気が少しづつイダに引き寄せられ、傷は今や塞がり、薄っすらと白い跡を残すのみ。


小鬼達は髪が生えている者は少ない、それは個体差だろうが、イダも元々は角が有るだけで髪は生えて居なかった。


今や、黒い硬そうな髪が肩まで生え揃い、体色は濃い青に変色し、身体も少し大きくなり、ドンとそう変わらないかも知れない。


ドンよりも筋肉量は少ないが、筋肉も盛り上がって来ている。


唇は艶の有る輝きを放ち、睫毛が長い、徐々に胸が膨らみ始めている。


まるで人間のメスの様に…


ふと、気になったドンはイダの腰みのをペロリとめくってみる。


(うっ!…なんて可哀想な奴…こんなに(ちぢ)んじまって…子供並みかよ。これじゃぁ、もう奴隷と楽しめねぇ、子作りも出来ねぇだろ…?…でもなんでだ?変化の代償か?聞いた事がねぇ…まぁ良い、雷の力さえ使えれば…)


これはドンが知らないだけで、人間の学者達の中では結論が出ている。


小鬼は進化すると性別が変わる事が有る。


黒い魂が最後に人間であった時の性別に…


邪悪な人間であった事は間違いないだろうが、元々は性別にこだわりが無く、或いは女として生まれても女として扱われなかった。


()しくは男の様に生きてきた存在であったのだろう…と…


 ◆ ◆ ◆


イダは眠りの中で過去の記憶を見ていた。


年代は分からない、荒れ果てた小さな村、今年も不作であったと両親らしき夫婦が嘆く。


子供の数は多い…


その中に取り分け大きな少女がいた。


イダはそれが自身で有ると認知した。


少女は腹を空かせ、いつも大きな身体を持て余していた。


黒き魂が見せる記憶、街道を格好良い甲冑に具足、烏帽子(えぼし)を身に着けた武者の集団が通る。


(あぁ、ええ武者ぶりじゃなぁ!オラもあんな風になってみてぇなぁ、でも無理か、オラ…オナゴじゃし、川むこうのあん姉みたいに、侍に貰われたら、美味いもんいっぱい食えんのかなぁ?あぁ、でも、それも無理じゃなぁ、お父に言われたでな、オラは不器量で嫁の貰い手もねぇって…あぁ…腹減ったなぁ…)


時は小氷河期、全世界で食物の不作が相次ぎ、戦争は世界中のあちこちで行われていた。


荒んだ時代、日本もその影響で戦国期を迎えようとしていた。


次の記憶は…


口減らしで目隠しをされたまま、山に連れて行かれ、そのまま放置され家に戻る事も叶わなかった。


不器量で身体の大きな娘、醜女と呼ばれ、嫁の貰い手も無く大食らい、しかも手癖も悪いときては…


幼い頃より人の物を奪うことに何の躊躇いも無かった。


(だって…欲しいもんは欲しいんじゃもの…仕方無かろうもん…)


親に叱り飛ばされても、しおらしいのはその場限り、とうとうよその家の物にまで手を出した。


山に捨てられても、これ幸いと洞窟に拠点を構え山の木の実や獣を喰らい生きながらえた。


やがて、旅人を襲う様になるのに時間は掛から無かった。


最初の標的は、数人の巫女服の一団だった。


いずれも美しい容姿で、女だてらに腰から太刀などを下げている。


貴族達の前で舞を踊り、求められれば、一夜を共にし、そのまま見受けされる事も有る。


有名な静香御前なども、元々はこの白拍子の一団の一人であったとも伝えられている。


勿論襲って奪った。


太刀を持っていても巫女達は大した事は無かった。


皆、驚き逃げてしまったから…


一人しか捕まえられなかったが、それで充分だった。


この女は許せない、娘が欲しかった物を二つも持っていたから、当然殺して奪った。


美貌に関しては諦めても居たが、美しい衣服と…そして侍の太刀、彼女が欲しかった物を二つも奪う事が出来た。


美貌は手に入らないが綺麗な服と太刀は手に入ったのだ。


正確には侍の太刀では無く、剣舞用の得物であったのだが、どちらでも良いだろう、これを使ってまた旅人を襲うだけだ。


程なくして、峠に女の盗賊が出ると噂が広まり、何故か近隣から他の女やはぐれ者が集まり盗賊団の頭領に祭り上げられた。


男よりも大きく力も強く、襲った何人もの旅人の中には身を持ち崩した侍もいたが、相手にもならなかった。


それに男女混合の盗賊団、彼女

は醜女であったが、その力と立場で寄って来る男も増えた。


この時に男の味も覚えた。


毎日共に寝る相手には事欠かない、覚えているのは人肌の温かさ…


「よし!今日はアタイと一緒に寝ようしゃないかい♪新入りなのに大した戦果じゃ無いのさ!アンタ気に入ったよ!」


「えっ!新入りのあっしが今日のお相手で良いんですかい!?お頭と(しとね)を共に出来るなんて!頑張らせてもらいます!」


周りにも、もう少し見てくれの良い女盗賊はいたであろうが、頭領の夜の相手に選ばれる事は何よりの名誉、そんな文化がこの集団に形成されていたのかも知れない。


やがて領主に目を付けられた盗賊団は各地を転々とし、あちこちの村々を襲うようになった。


次の記憶は終わりの記憶…


とうとう朝廷に目を付けられるまでになり、炎であぶり出され、矢を射掛けられ、次々に死んでいく仲間達…


女にも最後の時は来た。


その侍は今まで襲ってきた身を持ち崩した武家とは別格の、次元の違う腕前だった。


彼女の力任せの剣術など通用しなかった。


そう、あの雷使い冒険者のジジイに付けられた傷と全く同じ形の傷、胸から腹までの傷…袈裟斬りに斬りつけられ絶命した。


血が流れ過ぎて身体の力が抜け動けない、意識が遠くなる。


眠りの中でイダの意識と娘の意識が混ざり合い同化していった。


(あぁ…オレは…本当にメスだったのか?アタイは女…何人もの男に抱かれて…いや…抱いて来たけど、アタイより強い男なんていやしなかった。強いと思った男はアタイを殺した、あの侍だけ、よくも…あの侍…報復しなければ、でもあの場所は?世界は一体?…強い男が必要、強いオスが必要、そうだ…アタイよりも強い…違う!近くにいるじゃないか!…ドン…ドン…なんでオレは、アタイは故郷を飛び出してアンタに付いて来たのか…やっと理解したよ…)


イダは小鬼にしては珍しく支配にそれ程のこだわりは無い、前世でもただ祭り上げられただけ、みんな好きに自由に暴れ殺し回れば良い、欲望の赴くままに。


或いは、支配的でなく無軌道で自由だった為に、人が集まり彼女を祭り上げたのかも知れない、女の盗賊と言う物珍しさもあっただろう。


結果は計画性も無く、物事を考えずに自由に暴れ、朝廷の怒りを買い、獣の様に追い立てられ討伐されてはしまったのだが…


それは今現在もそうかも知れない、ドンに右腕に取り立てられたが知略なんか元々無い。


ドンの様な奇策は思い付かない。


誰でも考えられる様な計画立案しか出来なかった。


それは近現代の人の感情や行動をよく知り、ある意味それで生計を立てるヤクザ者と中世の盗賊との違いかも知れない。


彼、今や彼女になりつつ有るイダにあるのは、欲しいものを手に入れる事、食べる事、寝ること…そして、望む物を得るために彼女は相応しい姿に進化する。


…深い眠りの中で…


 

高評価ブクマ宜しくお願いしますm(_ _;)m

手直し完了。


今度の岩戸開きで役目が決まったらそれが末代まで続くのだぞ。悪になったら輪廻転生しても悪のまま戻れないぞ。素直にすれば魂が入れ替わって、良い方へ回してやるぞ。…だそうでありますく(`・ω・´)

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