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山間討鬼伝…【R15】  作者: くとぉ
六章 番外編 過去生の侵食
30/31

②赤鬼と青鱗の魔女



赤鬼のドンは集合住宅の廃墟を抜けて西の方角へ森を彷徨う。


背中にはずっと眠ったままのイダを背負って…


「…腹減った…なぁ……」


背中からイダの呟きが聞こえる。


起きたのかと思ったが…どうやら寝言らしい。


「クソッ!…寝言かよ…腹減ったなら早く起きろってんだ!」


トンは悪態を付く、不思議な事に揺すっても頬を叩いても起きないので既に諦め、食料を確保出来る一時拠点を探しているのだ。


暫くそのまま歩いていると…不意に森の匂いが変わった。


水の匂いが混じり始めた。


…淀んだ…腐った水の香り…


恐らくは沼地が近いのかも知れない。


だがほんの少し…その奥から微(かす)かに綺麗な沢の水の香りもする。


沼の水など流石の小鬼でも飲めた物では無いが、沢が有るなら飲み水は得られる。


…僅かな水の香りを頼りに、歩みを進める。


森の樹木が途切れ、少し開けた場所に沼地が見え始めた。


瘴気の濃い沼地の中にモソモソと動く影が確認出来る。


…太陽は天に輝いてはいるが濃密な瘴気で遠目には見えづらい、もう少し近づかねば正体は分からない、沼の魔獣の類なだろうか?


…それとも…


藻の様な体毛に覆われた醜い幼女の如き顔立ちの生き物。


黒き魂の眷属…沼地の幼女。


ドンは目にするのは初めてだったが、人型の藻…それ以上の感想は抱かなかった。


人間を目にした時の様に食欲や性欲は湧いて来ない。


勿論、穢れた沼で生と死のサイクルを繰り返す事を運命付けられた半植物の生物で有る、食用には適さないだろうが…


それともこれは、同じく魔界に住む知性体故の感覚なのだろうか?


ドンの本能が敵では無く、特に警戒は必要も無いと告げる。


一応は邪鬼の眷属ではあるらしいが、言葉も通じず進化もしない下等な存在だと聞いている。


その内一匹が足を止めドンをチラリと見たが、一瞬だけ目を合わせると、すぐに興味を失い、再びもぞもぞと沼地を彷徨い始めた。


知性は乏しいとは聞いた記憶も有るが…ドンが眷属で有ると言う事くらいは判るのかも知れない。


(この先だ、流れる水の香りがする…)


沼地に水を供給しているのであろう壊れかけた古いコンクリート製の水路を辿る。


そこには小さな滝が有り、水は川となり森の奥北方向に流れを作っている。


そのうちのほんの少しが壊れた水路に流れ込み、窪地に沼を形成するに至ったのだろう。


遠くにみえる滝の水を飲もうと歩みを進める…ほんの少し奇妙な感覚を憶えた。


そう…何か見えない薄い膜を破った様な違和感。


(なんだ?今のは…気のせいか?ん…?良く見りゃ…滝の裏に空間?…)


怪訝に思い、よくよく目を凝らせば、滝の蔭に洞穴の入り口らしき物が見える。


(水場の裏に洞窟……故郷の年寄りに聞いた記憶が…魔女の巣?なのか?)


ドンが入ろうか迷っていると、不意に洞窟の奥から現れたのは…


青い鱗に覆われ、妙にテラテラと油らしき粘液で照り返り、太く長い尾、鋭く湾曲した長い爪、白い髪に真っ赤な瞳のメスの邪鬼。


ゆうに身長は二メートルを超え、屈んていなければもう少しあるかも知れない。


そう…小鬼や色付きなどよりも上位とされる邪鬼、【青鱗の魔女】黒き魂の眷属である。


「なんなの?…人間以外が結界に触れる感触がしたから見に来て見れば…おっと!小鬼!ここから先は私の城だ!勝手に入るんじゃ無い!アタシの暴威頭は洞窟に侵入する異物には容赦しないからね!殺されたく無ければ入ろうとなんて思わない事だね!さぁ!とっとと森へお帰り!」


暴威頭(ボーイズ)とは、極めて戦闘力が高く美しい容姿を誇る人間の奴隷で構成される守備兵であり…魔女の愛玩動物であり…コレクションでも有る。


小鬼と青鱗の魔女は眷属と言った所で、別に血の繋がりが有るわけでも無い、共に穢れた黒い魂を持ち、魔界の住人で有る事以外に共通点も無い別種でしか無く、魔女にしてみれば助ける義理は無い。


だがドンもこのままスゴスゴ引き下がるわけにも行かない、水も食料も必要なのだ。


魔界の知性体同士、飢えていれば捕食し合う事も有るが、余裕が有れば何らかの取り引きをする事も有る。


言語は訛っては居るが同じくアシハラの公用語で有り、交渉次第で上位の種族が下位の種族に施しを与える事もあるにはあるが、それは恵まれた人間が恵まれない人間に対して寄付をするのとは違い、鳩や野良猫にエサを撒く様な感覚に近い。


だが…ドンは今の所、メスの邪鬼が欲しがる類の品は何も持っていない、物品での交渉は不可能…ならば機嫌を取りつつ哀れみを乞うしかない。


「チッ、住んでる奴が居たのかよ~残念だぜ…良い感じの拠点になりそうなのによぉ~でもあれだな♪話には聞いていたが…デカいけど割とそそるメスじゃねーか!…へへ…♪」


今は怪物でも、元々は人間だった魂を持つ存在で有り、へり下りおべっかを使われれば悪い気はしない、メスは特に賛辞には弱い。


ドンの言葉に興味を引かれた魔女は、ゆっくりと近づいて来て上から下まで眺め回し…ジロジロと値踏みする。


色付きの小鬼であったとしても、魔女からすれば大した存在では無い。


二メートルを超え、岩をも砕く強靭な尾と鎌の様に鋭い爪を持ち、更には高度な水流操作の邪言を駆使する魔女にしてみれば、小鬼としては大柄なドンでも警戒する理由も無い小型の邪鬼に過ぎないのだ。


「へぇ♪おべっかも使えるのかい♪アンタも小鬼にしちゃあ、割と良い面構えのオスじゃないさ、残念だねぇ♪…眷属でなければ私の奴隷…暴威頭(ボーイズ)に加えてやったのにさ♡それに…へぇ…色付きねぇ…後ろに抱えてるのはメスかい?メスの子鬼とは珍しいねぇ!ホントにいるとは…百年近く生きてるけど初めて見たわ♪」


だが、ドンはまだ気付いてない、生まれてから十年近く一緒に居るのだ。


その認知は覆し難く…イダは男で有ると思い込んでいる。


「はぁ?コイツはアレは小せえしメスみたいな面してっけどよぉ、これでも一応オスだぜ?それよりよぉ、何か食い物恵んでくれよ。ちっこい兎しか食って無くてよ…コイツも怪我してるし、何かくれたらとっとと消えるからよぅ…頼むよ鱗の姐さん…」


一応は種は違えど、同じく黒き魂の眷属では有る。


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「なるほどね、お前らは寿命が短いから知らなくても仕方無いのか…そういやぁ、群れはどうしたんだい?小鬼は群れるのが好きだろ?フフ♪ハグレモノって奴かい?それとも…まぁ…良いわ♪珍しいモンも見れたしね♪昨日の食い残しで良けりゃ、くれてやるからそれ食ったら森へ帰るんだね、ちょっと待ってな…」


寿命も短く、群れて暮らさねば生き残れない弱く小さな邪鬼を魔女は内心嘲笑っているのだ。


だが…珍しいメスの小鬼に免じて施しを下さる事に決めたらしい、ドンがオスで有る事も施しをくれる理由では有るのだろう。


対して無性ではあるが、自身をメスと自認している沼地の幼女達には全く違う対応を取る。


沼の幼女達は発声器官は無くとも言葉の意味を感じ取れる事が出来、態度や反応で感情も読み取れる。


どの青鱗の魔女も幼女に対して同じ様に語るのだ。


「アンタ達も同じ水辺に暮らす仲間じゃ無いの♪だからアンタ達もいつかアタシの様に美しく強力な存在になれるさ、その方法も教えてあげる、だから今は…私に尽くしなさい」と……


小鬼も幼女と同じく群れる弱き存在、内心バカにはしているが、ドンは小鬼としては見栄えも良く、気の効いた事も言える。


施しをくれてやるのも吝(やぶさ)かでは無い、醜く愚かな沼の幼女に関しては利用するだけ利用して自身の財を蓄えるのに使い潰すのみ、どうせ十年も待たずに寿命で息絶える。


だが、見た目のいいオスには多少甘い部分が有るのだろう、支配していないオスに素直な賛辞の言葉を述べられれば気分も良い。


魔女はドンに背を向け、昨日の食べ残しを取りに洞窟の方に戻ろうとした。


ドンは魔女の鱗の上を流れるテラテラした油に目をやり…薄く笑う。


普通で有れば、例え他の色付きで有っても単身で青鱗の魔女を襲おうと考える小鬼は居ない、だがドンはこう思った。


(くくっ♪良く燃えそうだよなぁ…滝は少し距離が有る…今なら…失敗しても森に飛び込んじまえば良い…ヒヒッ♪)


「ああ…ありがてぇ♪…黒い魂の導きだぜ、恩にきるぜ鱗の姐さん…よ…ヒヒッ♪…炎よ……」


片腕を魔女の背中に向ける。


魔女は格下の小鬼に警戒などしない、水の中ならドンに勝ち目など無い、腕力、身体能力でも勝ち目は無いだろう。


硬い鱗に小鬼の素手の一撃などほぼ通じない、近づく前に強靭な尻尾の一撃を食らうのがオチで有ろう。


川は近いと言っても距離が有る。


周囲には壊れた水路と陸地、森は直ぐ側…そして魔女は背を向けてもいる。


魔女の体表を流れる油は多少の炎など意に返さず、電撃も受け流し、武器攻撃さえ効果的にダメージを与えるのは至難の技。


だが…高温の炎で有れば魔女を炎上させる事は可能なのだ。


ドンの伸ばした手の平が赤く輝き、邪言により生成された火炎球が徐々に大きくなる。


惨めな眷属に施しを与えようと、完全に油断し、水の無い場所に歩み過ぎた。


…油断した青鱗の魔女に向かってドンが放った灼熱の火炎球が炸裂する!


「がぁ!この!小鬼如きが!あああぁ!よくもッ!」


苦痛の叫びを上げ、裏切り者の赤鬼に向かって魔女の炎に包まれた巨体が跳躍し、鋭い爪を振り下ろす。


「うぇぇ!あぶねぇ!」


だがドンも黙って見ているわけでは無い、後方に飛び退き鋭い爪の一撃を回避した。


「んがぁぁぁぁぁ!このっ……雑魚がぁあああ…良くもっ…あギィ…煙が!喉が焼け……息が……み…水…」


激しい炎が体表を流れる油に引火し、黒い煙に燻され、魔女の喉が焼ける。


近くには水も有るが喉を焼かれ…塞がれ…邪言は使えない。


「ヒヒヒヒ♪流石に油は良く燃えるなぁ♪思った通りだぜ!ザマァねぇな!格上さんよぉ!!!」


得意属性による相性も有るが、冒険者の魔女と戦う際のセオリーは決まっている。


水場から離れて高火力の炎で焼き殺せ、魔女は炎上に弱い…と…


炎術が使えなければ、火薬などの道具を使えば良いのだ、魔女を討伐する際の必須アイテムでも有る。


魔女の体表を流れる脂は燃え難い油分ではあるが、一度燃え上がれば粘度が有るが為に逆に消すのは困難でも有る。


ドンがそれを知るわけは無いのだが…単に油は火が付けば燃えるとの単純な発想だったのか?過去世の知識の片鱗なのか?


どちらにせよ…魔女に取ってドンとの属性の相性は最悪だったにも関わらず油断してしまったのは、自分の利益と愛欲に溺れる業を背負った魔女の…ほんの少しの…かつての人間だった部分…女故の感情が仇となったのだ。


「ヒィ…グギィ…アタシの…美しい顔が焼けるぅ…アタシは…私は…また炎上で…ネットの愚民共とは違…みんなの憧れ…セレブなの…に…」


死に接して過去生の記憶の扉が開いたのだろうか?


意味不明な呟きが零れる。


陰振流怨嗟(インフルエンサー)とも呼ばれ、恐れられる魔女の断末魔の悲鳴が滝の音に掻き消される。


魔女は水を求めてやっと滝に到達したが、どうやら少し遅かったらしい…


ドンが近くに寄った時には腕と頭を滝に突っ込み、絶命していた。


高温で熱され、急激に流水で冷やされた鱗にパリパリとヒビが入る音が鳴る。


「……あぁぁぁ!……」


「…だぁ!…これはぁ!」


「…ソ!魔女………だ!」


暫くすると洞窟の中から人間の叫び…数人の男の声が聞こえた。


「なんだ?魔女の奴隷か?支配が解けたのか?!不味いな……何処か隠れる場所は…川ン中で良いか…」


今は武器も持っていない、それに魔女の奴隷は生殖用の愛妾であると同時に屈強な護衛の兵士でも有る。


つまり…武装している可能性が高い。


この深度が深い魔界に居ると言うことは…


そして魔女に囚われ奴隷にされている状況を考えれば、魔女の討伐に来たそれなりの冒険者であった可能性も捨てきれない。


勿論道に迷って幼女の麻痺毒を浴びた不運な男の可能性も有るが警戒するに越した事は無い。


可能性は低いが、この前集落を襲撃して来た冒険者よりも手強い可能性すらある。


ドンは川に向かうと、水の中に飛び込み、出来る限り深い部分を探して身を潜める。


洞窟の奥から三人の男達が慌て気味に飛び出して来た。


その格好は…


武器はそれなりだが防具は実用的では無い。


ほぼ裸の様な格好に金や宝石付きの腰帯や銀色の鎖で編んだ腰巻…或いは恥部隠しのみの何とも扇情的な格好で有る。


三人のいずれもが筋骨隆々とした美丈夫で、恐らくはそれなりの使い手では有るのだろう。


一人は二メートル近い猫科の獣人…獅子人、体格の大きさから中型獣人などと呼ばれる事も有るが分類的には現人と交配可能な小型獣人で有り、現代では見た目は然程現人と変わらない。


だが大柄な体躯と耳と尾、特徴的な赤茶色のたてがみで獅子人だと分かる。


後は現人が二人、全員が逞しくも美しい容姿の男達、実用的では無い装具は魔女の趣味だろうか?


「いたぞ魔女だ!コイツ…よくも!誰が殺したか分からんが有り難い!せめて首を持ってギルドに…」


「おい…えっと、名前は知らんがそれは後で聞くとして…魔女が焼けている…多分近くに何かいるかも知れん警戒しろ!」


「待て!こんな格好では魔獣に出くわしてもマトモに戦えん!魔女の近くには必ず幼女の沼が有る。こんな裸の様な格好では奴らの毒にも対処できん!とにかく一度森に入ろう!」


男達は洞窟の入り口が有る滝の前で焼け死んでいる魔女を見つけると、全員で一発づつ蹴りを入れる。


その後、男達は周囲を警戒しながら森の方へ去って行った。


男達が完全に見えなくなったのを確認して川から上がる。


「やれやれ…やっと行ったか…流石にこの前のデカブツみたいな奴がいたら不味いからな…」


あの背の高い男の一撃は今までに喰らった事の無い強力な一撃だった。


僅か何回かの攻防で防御は崩され、こちらの一撃は効いてはいたようだが、分厚い毛皮を持つ魔狼でさえ棍棒を使ってではあるが、数撃で沈めるドンの攻撃を何発当てても倒れず…


達人の剣士の斬撃でも断てなかったドンの骨に、ヒビさえ入れて来た。


更には顎へのクリーンヒットを一発食らっただけで、暫く立てなくなるダメージを負うなど初めてであった。


それ故に、冒険者を見れば警戒してしまうのは仕方が無いだろう。


洞窟の中で食料を漁ろうと入り口に近づく、その時だった。


魔女の死体から赤い人型の霧が湧き出て、ドンの首を絞め上げる。


「へっ♪どこぞで彷徨ってりゃそのままでいられたろうに、自分が死んで霊体になってる事にも気づいて無いのか?首なんか絞められても効きやしねぇぞ?バカなメスだぜ♪直ぐにチリに変えてやる…待ってろ…」


集中して肉体から呪力の波動を飛ばす。


霊体は自我と感情の塊で有る。


騙し討ちした相手を呪いたくもなるだろうが…


霊体に一切の物理攻撃は効かないが、死んですぐの霊体は攻撃的な霊力や呪力には弱い、彷徨い時間が経てば、ある程度の防御や霊体特有の能力で物理的な干渉を引き起こす事も可能では有るのだが…死んですぐでは自分が無防備になっている事にも気付けまい。


「ふんっ!」


ドンの攻撃的な呪力の波動に魔女の霊体は呆気なく崩壊し、周囲に揺蕩う瘴気の一部と化した。


「おぉ…良いじゃねぇか♪上質の瘴気だぜ、こんだけ濃けりゃコイツも目を覚ますかも知れねぇなぁ♪」

 

背中に背負ったままのイダに目を移す。


起きる様子は無い、頭を振って滝を潜り洞窟の奥へ足を進める。


ふいに…妙な波動を感じ…魔女の死体が有る入り口に目を戻す。


魔女の死体の近くに黒い影がユラユラと立ち竦んでいる。


形は魔女と同じだが、霊体はたった今霧散した筈だ、こんなモノは見た事が無い…


だが、霊体の様な念や感情は伝わって来ない、ただその場に佇むのみ。


この影の正体は黒い魂…


魂はアストラル体で有り、エーテル体の霊とは位相が違う。


この上位世界で有っても、高ランクの霊能者で無ければ、意識の裏側…精神の領域…アストラル領域に存在するものの観測などは出来るものでは無い。


恐らくは色付きに完全に進化したお陰なのか、或いは過去世の記憶に触れた事が切っ掛けかも知れない。


「なんだ?これは…魔女の姿なのか?…こっちには見向きもしねぇ…憎い俺が目の前にいるってのに…」


不思議に思い観察していると、徐々に小さくなり、最後は黒い球になった。


黒い珠は…フラフラと漂い…何処かへ向かおうとしている。


(もしかして…これが黒き魂なのか?)


故郷の老人から聞いた事が有る。


黒い魂を噛み砕き食べる事が出来れば…


それを繰り返せばやがては大鬼に至れる。


…と…当然故郷の老人達にした所で黒い魂の観測などは出来て居ないだろうが…短命の子鬼達にも多少は伝承も残ってはいるのだ。


(だが…瘴気と同じで触れやしないだろ?こんなもんどうやって食えってんだ?……ん…よし!)


手に呪力の膜を張るイメージ、手に呪力の手袋が出来、逃げようとする魂を捕まえる。


(良し!触れたぜ♪へへっ…このまま飲めば良いんだったか?いや…確かジジイ共は…)


故郷の部族の年寄りの話を思い出す。


『大昔の大鬼は砕いて溢れる液状の瘴気を飲み干したってよぉ、ワシもそれ以上は知らん、ただ砕かぬまま飲み込めば、気が変になったり性格が変わっちまうんだと、嘘か本当かは分からん、黒い魂とは言うがワシだって見た事無いんじゃから…』


(やってみるか…んっ!くっ!硬てぇ!このっ!…………!)


指先で摘める程度の大きさの黒い珠を全力で潰そうと躍起になる。


(いや…違うな…力じゃどうにもならねぇ…呪力だ…)


暫く呪力を込めると卵が割れる様にヒビが入り…少量の黒い液体が溢れ出した。


急いで口を開け、喉の奥に流し込む。


ドンの肉体に急速な変化が起こる…それは力が溢れるのと同時に…激しい苦痛を伴ってやって来た。


「おっとぉ!!!………んっ!くぅぅぅぅぅぅぅ!!!身体が熱くなってきたぁ!こりゃなんなんだ!力が溢れて来やがる!うっ!がぁぁぁぁぁぁぁ!身体中がっ!痛てぇ!」


黒い液体は濃縮された瘴気、穢れた霊素、転生を繰り返した何百回分の人生の記録の塊。


黒い魂の記憶を魂ごと飲み込めばやがては二つの魂が主導権を争い…侵食し、発狂をしたり飲んだ者の性格の改変にも繋がる。


だが…魂を破壊し中身だけ取り出し、体内に流し込めば、それは高濃度の負のエネルギーを摂取するのと同義で有る。


バキバキと派手な音を立て、ドンの背丈が急激に数十センチも高くなり、身体も一回り大きくなった。


「ハァ…ハァ……ヒデェ目に遭った…だけど…こりゃ凄げぇ!!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!力が溢れて来る!そう言う事か…分かって来たぜ…」


滝の洞窟に…赤鬼の高笑いが響いた。





◆ ◆ ◆





眷属食い、邪鬼達は眷属の魂を食い合う事で力を高めるのだ。


邪鬼達が扱う邪言の根源は強い欲望、渇望と言い換えても良い、強すぎる欲望は、全ての滅び去り次元の狭間に磨り潰され、消え去った筈の世界の成れの果て…存在しない領域に繋がる。


そこには何も無く、何も存在出来ない、有るのは負の想念と思念のみ。


全ての並行宇宙から消え去った世界、或いはかつて知性体で満ちていた星々に住んでいた者の強い渇望で満たされた領域。


かつては下層世界にあって科学万能を誇り、見えぬ物を蔑ろにし、精神性を疎かにした結果…滅び消されるに至った世界の住人であったかもしれず…


或いは上位世界に於いて魔法文明を開化させたにも関わらず現世の利益と支配のみに奔走し、魔界に覆われた結果、狭間に飲み込まれた世界の思念でもあっただろう。


そんな次元の狭間に消えた文明や惑星はヒューマノイド型、レプティリアン、イセクトイドの文明を問わず宇宙に五万と有るのだ。


奴等は存在出来ない領域で混じり合い【個】を維持出来なくなった在りし日の消えた世界の知性体の欲望、思念でも有る。


奴等は邪言や魔法を使う者の欲望の念を媒介して現世に侵食を試みる。


それはここの様な高次現の世界だけで無く、下の下層世界、物理編重の世界へも…物質的な幸せ、或いは虚飾を求める者達を通じて侵食する。

 

個を維持出来ない集合思念で有る奴等に本来名前など無い、だから現世に侵食する際には…それが霊能を持つ人間であった場合などは、偽りの名を騙る事が有る。


パール、ルシファー、サタン等々適当な名前を名乗り、或いは…龍で有るとか神や天使で有ると偽って…


奴等はアクセスした者にこうのたまう。


「我に魂を捧げよ、さすれば汝の望みを叶えよう…」と…


そんな異次元の悪魔と呼ばれる存在は魂を欲し、肉体を欲し、得られる筈の無い物を欲し続ける。


奴等は欲するだけで何も得られない、既に消された世界の住人に何かを得る権利など元々無いのだ。

 

思念、想念はそれ自体がエネルギーで有り、それはあらゆる宇宙、平行地球の知識と想念が狭間の混沌で混じり合った無尽蔵の力とも呼べるだろう。


奴等に出来るのは何かを欲する者達にエネルギーを提供し、消費される変わりに精神に僅かな異次元の残滓を残すのだ。


異質な知識…思念を…


その想念に長く晒されれば、現世に生きる知性体はどうなるのだろうか?


魂を得るに至った生物は他の者の魂を破壊し、喰らう様な行動は本来しない。


それは魂と云う、それぞれの世界の生命体が精神を発展させ進化に至り発現した…偉大なシステムに刻まれた防御機構、ロックでも有ると言って良い。


マトモな魂を持つ者で有れば、そんな事をしようとすらしないだろう。


それは黒い魂を持つ者で有っても、ある程度は機能している。


だから力が高まるのは分かっていても、そうそうそこには至らない。


だが邪言を使えば使う程に、異次元にアクセスする割合が増える。


ドンは無意識に強化の邪言を使い続けていた。


常に異次元の想念を浴び続けていた。


無謀にも格上の黒き魂の眷属を襲う、そんな行動も、その影響だったのかも知れない。


基本的には、力に従順な小鬼の性質では無い。


我慢の結果反乱を起こす事はあっても、小鬼達の性質上、格上の存在を襲うなどの行為はほぼしない。


神人達上位者が、かつて大鬼をアシハラから根絶したのには理由が有る。


この世から完全に魔界は無くならないし、邪悪は無くならない、欲とは行動の原理で有り、物事を発展させる力でも有る。


容量と用法を間違えなければ…無くてはならないのが欲望だと言っても良い。


だから魂を黒く染める人間…知性体は必ず発生するのだ。


特に下の重い世界では…欲望に呑まれ堕落する者は多い。


魂は百万世界を自在に旅する。


潰せば増える…世界がそれを補充しようとする。


そして、全ての並行世界で似たような現象は必ず起こる。


一つの世界で起こった事象は別の平行世界、或いは下の世界に何らかの形で波及する。


神人達はこの世界の事だけを考えて行動しない。


そんな高みに有るのだ。


時として上位者が下す無慈悲な決断は悪意に依る物では無い、大八島の大崩壊然り、東大陸の封鎖然り…それは高みから見た長大な視点に於いて必要な事で有るのだから…


これまでの十数万年の人類の記録でそれは明らか、それを分かっている神人達は敢えて魔界を無くさずに深度の深い、凝縮された魔界を作り、下の物理編重の世界に転生出来ない黒き魂が邪鬼として生まれてくる場所とした。


出来うる限りは…


魂のロックが壊れてしまった大鬼の様な存在を狩る事で、管理しやすい魔界を人類への試練として残す事にしたのだ。


つまり…この世界に於いてアシハラと云う土地は世界の雛形、新たなる新時代のモデルケースとなったのである。


数百年は掛かるであろうが、最終的には魔界を世界の地表の三割~四割に抑え、棲み分けと適度な脅威による、魂の修練場としての魔界が同居する新世界が完成する。


アシハラの外に多数存在していると言われる大鬼や…更に上位の魔王種、それは黒き魂のロックが完全に外れ、魂の共食いをし合った邪鬼達の成れの果てなのだ。


奴等は因果の法則からの逸脱種、放っておけば、魔界は減らず、やがては…次元の狭間で磨り潰され、並行世界から消え去る世界が一つ増える事になるのだから…



時が来れば日本は富栄え、マコトの国として永遠に発展していく様になる。

だが、そうなるまでに8割は人の心を失って獣の心になり、欲望のまま平気で他人を食いものにするぞ。

そうなって神徳を失った者には、マコトの社会はいたたまれなぐでまともに見られなくなるぞ。そう言う人間にならぬように気を付けよ。


某神示より…

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