⑥戦名乗り
「式神?!こっちにもあったのか?…いや、向こうのがどんなもんか知らんけど…映画とかで見た気もする…」
弥之助は聞き慣れない言葉に少し怪訝な表情になり、何か思い当たる物事に当て嵌めたらしい。
「……映画?…あぁ記録投影機みたいなモンか?前時代の遺物でそんなモンが有ると聞いた事は有ったが…下の世界はこの世界の派生世界らしいからのぉ、似たようなもんが未来に出来たと云う事かのう?おっと話が逸れた。ワシ等は西国の陰陽術だの呪術やらの伝説を聞いても力無き公家共のヨタ話と信じとらんかったんじゃがなぁ。まさかこっちに来てワシ自身がそんなモンを扱う事になるとは思ってもみんかったよ、下と同じかどうかは知らぬがな。」
弥之助はどうやら公家や、当時の西国の文化に思う所があるらしい。
尾形氏が下刻上を果たす前にあの近隣を支配していた領主の一族は、数百年あの土地で過ごしたにも関わらず、土地の者と交わらず東人と見下し、いつかは都に戻るのだと…代々雅な装いを崩さず…その視線は常に西に注がれて居たのだと聞いた。
特に悪政を敷いていたわけでは無いにしろ、地元を一切顧みなかったのは確かではある。
だから戦国期の始まり…小氷河期に入った時に環境が激変し、作物の生育が思う様に行かなくなった。
だが領主の一族はいつか都に返り咲く事を夢に見、領地を顧みない。
家臣や領民の数百年に渡るフラストレーションが一気に爆発してしまったのだろう。
その為、形式上はその公家に恭順していた北部の守護であった阿良川家も尾形の暴挙に形だけ兵を挙げたが、高原地帯の支配権を巡って小競り合いを繰り返す程度で、本格的に攻め寄せて来る事はついぞ無かったのだと云う。
英二がふむふむと興味深げに頷き、自分の持っている知識で考察を始める。
「向こうの陰陽師は朝廷の下級官僚みたいなものらしいですね。吉凶を占ったり宮中の行事を取り仕切ったり…伝説で聞く術に関しては元々の日本古来の呪術をベースに中国から来た風水術や道術、或いは方位学などの学問を組み込んだとか?但し日本独自の物と思われる伝承も有りますね。人だとか鬼だとかの概念を昆虫等の生物に付与して人化させ使役する符術も有ると本で読んだ事が有ります、その辺が道術との違いなのでしょうかね?」
「あぁ、確かに台湾のキョンシー映画みたいなの観た事が有る。映画の中で符術は使ってたけど、中国や台湾には紙から疑似生命を創造するなんてのは無かった…よね?詳しくは知らないけどさ…」
英二は正人の疑問にもう少し詳しく説明を始める。
「う~ん聞いた話でしか無いんだけど道術の霊符はシステマチックな霊界の概念を作って、お役所みたいに…これこれこう言う訳だから目に見えぬ世界の者はこれを速やかに遂行して下さい…急々如律令!って言う意味らしいよ?…あれの概念は言うなれば役所の届け出書類みたいなもので、それを霊界に届け出る事で悪霊を封印したり、場の空気を浄化したり、キョンシー映画みたく死体を歩かせる事が出来るんだってさ」
正人が何かを思い出す様に自らの眉間をトントンと軽く小突く。
「ン~?あーそう言えば、この前ギルドハウスで話した役小角にもそんな伝説があったよな?」
「そうだね、彼は行者だから陰陽師では無く山伏みたいな山岳信仰に関連してる筈だけど…やっぱり神やら創造したモノを使役するみたいな概念は日本独自の発想なんだと思うよ?西洋なんかは別世界から精霊、従者を呼び出すとか、動物や何かを使役するみたいな話しか聞かないし…あっ!ホムンクルスの逸話があったっけ?…しかしこちらに陰陽術があったとは初耳です、言霊、声法を使う人が多数を占めてるみたいですし…式神なんてどうやって作ったんです?」
アシハラの言語で発声の音程を調整するだけで発動出来る言霊の法は使い勝手も良く、霊力や精神消費も訓練次第で少なくなる。
詠唱しなければならないと言う弱点はあれど、今では後に来た避難民も含め多く術者が使うポピュラーな霊術である。
逆に陰陽術は複雑な作法や術式も多く、敬遠されガチな面はあるにしても、即時、短期、自分の周囲のごく狭い範囲に効果を及ぼす言霊の術とは違い、霊符に力を込めておけば無詠唱の発動も出来、効果は弱くなるが永続的な結界を張り、或いは設置型の術式で罠を設置する事も可能、更には古来から続く呪術を取り込んだ事で【存在しない領域】の影響を受けず瘴気すら扱える陰陽術の汎用性は非常に高い。
使いこなせれば非常に強力な霊術では有るのだが…とは言え人それぞれ適正の有る属性や得手不得手も有り、その作法や術式は膨大な知識量になる事から、一生を掛けた所で一人の人間が覚えられる事には限界がある、それ故に一般的な霊術にはなり得ないのだ。
「まぁ、こっちじゃ言霊の術が一般的でのぉ…陰陽術は声法に比べれば少々まどろっこしい部分も確かにあったが、ワシはあの発声法を習得出来んかったのよ…音痴でな………」
「ぷっ!…そりゃ爺さ…痛っ!いきなり何だよ!」
正人が何か余計な一言を言おうとしたのに気付いた英二が手を伸ばして正人の耳を引っ張り、弥之助に続きを即す、勿論正人の抗議は無視する。
「こいつの事は構わず続けて下さい、単なる疑似生命なのか…それとも癖や特徴の有る思考力を有した存在なのか?複数作れるのかとか色々と興味があります。」
「ふむ…お前さんは熱心よなぁ、そこの不心得者と違ってのぉ…作る際は霊力の消費が激しくてのぉ、昏倒する事は無かったが二日近く気力が湧かなくなってしまったのぉ…こちらの世界の術師なら人間大やそれ以上の巨大な生物を作り出す事も可能であろうが…この黄金丸が当時のワシの最大限じゃった。今作ればもう少し大きいモンも作れるのであろうがな。此奴を使い続けておるのは愛着が湧いたからかのぉ?」
「術式なんかはどんな物を使うのですか?良く有る紙の依り代の様なものですか?」
「作り方か、最初は人型に紙を切って作った筈なんじゃが…手順通りに雷精を呼んでワシの霊体の一部と…最後に息を吹き込んで作るんのだ。紙は人型に切った筈なんじゃがなぁ?何故かオオクワガタになったのよ…」
「ハハハ♪なんだそりゃ?よっぽどオオクワガタに思い入れでもあったのか?」
正人の失礼な態度にも慣れてしまったのだろうか?諦めた様に心当たりの有るエピソードを語り始める。
「もしかしたらアレかのぉ?童の頃にな、弟がオオクワガタを捕まえたのよ、あんまりにも自慢されるモンだからワシも捕まえてやろうと山に三日ほど潜ったんじゃ…まぁ…結局捕まえられず、親父殿にこっぴどく怒られて終わりよ、きっとワシの無念の思いが黄金丸になったのやも知らんなぁ…」
「へぇ…それで山にね。凄いのか何なのか分からなかったけど…考えてみりゃ子供一人じゃ危ないモンなぁ…それにしてもコイツ格好良いよなぁ♪金ピカのオオクワガタかぁ~、そう言えば子供の頃はデパートの昆虫売り場でバカ高いオオクワを指を咥えて見てたっけな…なぁ!爺さん!ちょっと触らせてくれよ♪」
正人は弥之助の肩に乗る黄金丸を触ろうと手を伸ばすが、サッと弥之助に躱される。
「おっと!小僧!触らん方がええぞ!コイツはワシの分身みたいなモンじゃ、ワシ…お前嫌いだからコイツも多分お前の事は嫌いじゃぞ?」
「え~!何だよそれ!嫌われる様な事したっけ?ちょっとくらい良いじゃんか!ケチ!」
正人は心外そうに文句を言うが…
人間とは自分の行動は意外と見えない物である。
特に興味無さげにジョーイと涼夏の様子を見つつ三人のやり取りを見ていた美咲が呆れ顔で零した。
「おじいちゃんさぁ~どうせ作るなら、もっと妖精みたいのとかさぁ?なんで男って虫とか好きかなぁ?アタシは触りたいとか思った事無いんだけど…変なの~」
「何を言うか!カッコいいじゃろがい!まァ…オナゴに分かって貰おうとは思わん……ふむ…」
美咲を一喝し、弥之助は顎髭を引っ張りながらニヤニヤして正人に告げる。
「それになぁ、黄金丸とワシは繋がっとるでな、だから雷撃に対しては無敵と言って良い。それにな…他の人間が触れると……ククク♪ほりゃ!これはさーびすじゃ!黄金丸!小僧の手に乗ってやれ!」
「お?良いのか♪」
正人が手のひらを差し出す…
黄金丸がブン、と羽根を羽ばたかせて正人の手の平に乗る。
…その瞬間…正人が悲鳴を上げて飛び上がる。
「にぎゃあ!!!ビリッと来たぁ!!!」
黄金丸は直ぐに飛び立ち、再び弥之助の肩に戻る。
「わっはははは~!小僧!ザマァ無いのぉ~どうじゃ電撃の味は♪殴られるのと全く別物じゃろ!一撃で心の臓が止まる事すら有る!雷術を使える者は大気の素養が有る者でも使える者は少ないでな♪小僧の土の術で、石や鉄を創造出来んのと同じよ♪敵におったら対策は必須…水術使いの水の壁で散らすか…それでも完全に散らす程の質量の水を生み出せる術師は滅多におらん、地術の避雷針もあったか?…例の小鬼が使う落雷はどうにかなるだろうが、魔鳥の雷槍の様な指向性を持った術には効果が薄い、大気の壁でも防げはするが、完全に…と言うほどでも無い、ある程度は被弾するじゃろう、だから皆が谷の妖女を避けるのだ。」
水の障壁などで有れば質量次第では有るが雷の術を無効化出来る。
空属性の大気の壁で有れば攻撃を逸らす事は出来るかも知れないが、集団戦で有れば他に被弾する可能性がある。
土の属性術で鉄を変化させるなら指向性を持たない落雷は防げるだろう…但し雷槍の様な指向性を持った術を投擲された場合は防げるかはかなり怪しい。
正人の地霊の天蓋…土のドームなら防げるで有ろうが、視界は塞がれ行動出来ない上に消費も大きく、ダメージ量次第でマインドダウンを起こす可能性すらある。
正人の作る防壁は、緊急の危機回避なら兎も角…今回の作戦に組み込むには多少無理が有る。
冒険者の逸話に詳しいジョーイが雷属性の希少度に付いて補足の説明をする。
「雷術師が希少ってのは昔からなんだ【五闘星】って有名パーティーの中に【雷符連撃】って二つ名の道士がいたんだけど、彼は他のメンバーに比べて二十以上年下でね、若くして有名パーティーに参加出来て二つ名持ちになれたのも雷術を使えたからだって言われてるんだよ」
正人はその話を聞き、成る程と…やっと合点がいった。
(うぅ…マジでびっくりしたぜ、感電ってこう言う事なんだ…耐えるとかそう云うタチの話じゃ無いかも、それに…爺さんが妙に自信有り気なのはそういう理由か、久しぶりに現場に出てはしゃいでるってワケでも無さそうだな、英二と鈴本さんを守りながらザコ狩りに専念するか、ボスは美咲ちゃんに任せて…)
等と内心の思考にもヘタレな部分がチラチラと顔を出す、、正人の精神性の向上はまだまだ先が長いのかも知れない。
「……分かったよ…取り敢えず斬り込むのは爺さんに任せた方が良さそうだ」
「かぁっ!やっと分かったか!小僧らで魔獣や雑兵、それと出来れば親玉に対処せい!雷術使いの小鬼はワシに任せるがええ!お前らで無理なら大将首もワシが貰う!さぁ眼鏡の娘が起きたら奴等の集落に乗り込むぞ!それまで各人食事やら準備を済ませておけい!」
「だから…何で爺さんが仕切ってんだよ…しかも妙にやる気になってるし…」
◆ ◆ ◆
第五から少し奥に入った…まだまた大森林の入り口と言っていい場所にある…とある小鬼の集落。
巡回に出していた小鬼が、一匹だけで慌てて駆け込んで来た。
集落の周囲には何処かから掘り出して来た物なのか、木の柵と柵の間に比較的綺麗な有刺鉄線が張られている。
森の中に点在する廃墟の中にでもあったのだろう。
とはいえ、小鬼の背丈程度の高さの柵で有るので、小さな獣程度しか防げないのだろうが…
多少頭の回る獣や魔獣は異様な覇気を迸らせる色付きを警戒し、村を避けて通るに違いない。
「おーい!ドン!ドン!戦士風の現人のジジイがこっちに来る!旗も立ててねぇのに何で村に来れたんだ?!そ、そうだ!バグの奴が捕まって首を落とされちまった!」
集落の中央で冒険者から奪った酒ダルを抱え、酒を飲む小鬼…と…言うには妙に大きい。
背丈は現人の男と然程変わらない、筋肉の鎧に覆われた肉体に、真っ赤な肌、ほんの二ヶ月程前までは部分的に赤いだけだったのだが、今や全身赤色に変わり、その肉体からは凶悪な呪力が溢れんばかりに迸る。
完全な色付きに進化を果たしたこの集落の小鬼のボス…【大酒飲みのドン】
「フン!少し焦り過ぎたか…集落の場所を変えておくべきだったか?仕方ねぇ!一人で来るって事はそれなりの実力者かも知れん。奴隷とガキ共を小屋に隠せ!お前等は何時もの様に隠れて待機しろ!イダ!お前は岩山に登ってジジイを狙って雷を落とせ!」
凶暴そうでガサツな見た目に反して妙に知恵が回る。
イダと呼ばれた他よりは大きいが妙に甲高い声の小鬼、目の周りや身体に青黒い斑点が点々とある。
こちらは色付きになる途中であろうか?
ドンの右腕…イダが了解の返事をしながら問い掛ける。
「わかったぜ!赤毛のメスは吊るさ無くても良いのか?」
「ああ、今から来る奴はこっちで呼び込んだ奴じゃねぇ、奴に薬を飲ませて囮にする暇なんかねぇだろ?あの凶暴なメスは放っておけ…岩屋に閉じ込めときゃ良い…」
イダは岩山に駆けて行き、他の子鬼達は有刺鉄線を背に、二十匹程が枯れ草で作った遮蔽物で身を隠し…待ち構える。
ドンは十数匹を率いて入り口から離れた岩山の陰に待機する。
すぐ近くのコンクリートと鉄骨で作られた岩屋の鉄扉を叩く音と、くぐもった女の唸り声が聞こえる。
口でも塞がれているのか声が出ないのか、集落の異変を察知して騒ぎ出したのかも知れない。
「チッ!煩えメスだな!まぁ良い、強かろうが相手はジジイ一人だ、数で押し切れば問題無いだろう…」
小鬼の一匹に別の命令を下す。
「念の為にお前は魔獣の檻の前で待機しておけ、、問題無いとは思うが…万が一の時は分かってるな?」
「ああ…分かったぜ族長、どうせジジイだ魔獣のエサにするくらいしか使い道はねぇ♪」
命令を受けた小鬼は檻の前に走って行った。
やがて……踏み込んで来た現人の声と、大きな落雷の音が聞こえた。
「行くぞ!テメェら!多分イダが殺ったと思うが、油断すんじゃねぇぞ!」
小鬼達は雄叫びを上げ、入り口に隠れている仲間に合流すべく駆け出して行く、ドンもそれに続き走り出し…すぐに村の入り口に到達した。
だが…そこで見た光景は…
◆ ◆ ◆
集落の入り口から中に向けて小鬼の首が放り込まれ、コロコロと転がり周囲に黒い血を飛び散らせる。
集落に入って来た老人の周囲には、金色の光の様なものがブンブンと音を立て飛び回っている。
「小鬼共!聞けい!我が名は高木弥之助!お主らの奴隷と焔の巫女を貰い受けに来た!すぐに差し出せば痛みを感じさせずに首を跳ねてやる!差し出さねば……」
どっちにしろ黒き魂を持つ者とは相容れない、惨殺…殲滅以外の選択肢は無い。
それは小鬼達も理解している。
イダの落雷を待つ。
岩山の上からイダが下をみてニヤリと嘲笑った。
「バカナジジイメ!クサソウナニクダゼ、ツカエソウナノハ、ヨロイトブキクライカ……ジャア…サヨナラダ!」
周囲の瘴気を引き寄せ…エネルギーを溜めた手を弥之助の方に向ける。
老人の数メートル頭上…狙った箇所の空気中がバチバチと放電し始める。
そして…下に向かってゴウッと轟音を立てて光の柱が立つった。
今までにやって来た者達のリーダーも何が起こったかも分からずに絶命したのだろう。
だが…
轟音と閃光が収まっても、老人…弥之助には何も起こって居ない。
それどころか周囲を飛び回る光は、先程よりも強い光を放ち高速で飛び回っていた。
「ナッ!ナゼダ?!」
状況が分かっていない小鬼達が轟音を合図に一斉に枯れ草の影から老人にトドメを刺すべく飛び出す。
「黄金丸!紫電の檻じゃ!」
飛び回る光が弥之助の頭に止まると、老人を中心に半径二メートル程の空間に断続的に稲妻が走る!
「アギャ?!ナンデジジイイキテル?!」
何故老人が無事で立っているのかは分からないが、一度飛び出してしまえばそのまま襲うしか無い。
群がり弥之助に殺到した数匹の子鬼が、結界に触れて叫び声を上げながら次々と地面の上に転がる。
「グギィィィィィィ!!!」
それを見た他の子鬼達は躊躇して踏みとどまり、集落の奥から赤鬼と配下の数十匹の小鬼が走り寄って来る。
慌てる小鬼達に駆けつけて来た族長らしき赤い色付きから怒鳴り声が飛んだ。
「コレハ!ナニガアッタ!アノジジイ…イダトオナジチカラカ!?……ケッカイモナガクハモタネエハズ!ヤツノケッカイニサワルナ!ヒカリガヨワマッタラカズデオシツブセ!」
カレンを倒したのと同じ作戦を取る、彼女との戦闘では地属性故に攻撃しなければならなかったが、エネルギーを放出して結界を維持している雷属性故に近付く事は出来ないが、力の消費は激しいだろう。
待っていれば力は弱まる。
待つだけで良い、この老人が本当に一人で来ているので有ればだが…
「カカカカ!ワシが一人で来たと思っておるのか!デカくとも所詮は小鬼よ!者共!今ぞ!」
「応!地霊よ♪……」
「了解しました!マスター弥之助!」
「赤鬼が親玉ね!アイツは私に任せて!」
正人とジョーイ、美咲がそれぞれ何も無い筈の空間から突然姿を現し…言霊を歌い武器を構える。
ジョーイが予め掛けておいた、保護と空白のルーンの合成術、炎属性に適正が特化したジョーイでは短時間しか効果は持た無いが問題は無い。
…襲撃の際にはうってつけの術であろう、声を上げる事で術が解ける。
ジョーイの足が震えている。
…その身に刻んだ三つのルーンに霊力を注ぎ発動させる。
【マンナズ】【ベルカナ】【テイワズ】
自己、成長、戦士…自らの肉体に刻んだが故に…この戦いが終わった時には戦士としてより多くの経験を積んでいる事だろう。
そして、自らの肉体を傷付けた覚悟は【戦士】のルーンの力をより増幅させる事にも繋がり、ジョーイの炎の適正は闘争に於いて恐れを知らぬ猛火の様な戦士の心をも宿す。
ジョーイの足の震えが止まった。
「我が頼もしき肉体よ♪邪鬼を打ち倒す力を与えておくれ♪」
美咲が言霊を…願いを呟く、身体の奥から四肢に力が漲る。
以前とは違う、突然電池が切れる様な醜態は晒す事は無いだろう。
「ザコは任せたわ!アタシはアイツを…」
跳躍し他の子鬼を飛び越え…
そのままドンの脳天に踵落としの体勢で落ちる!
鈍い音が響き、ドンが唸り声を上げる。
脳天には当たらず、ドンが咄嗟に上げた腕に踵の跡が付く。
「ググッ!……コノ…メスガァ…クラウカヨォ………」
(反応が異常に早い!…それに…妙に頑丈でグラつきもしない…耐久力は大型獣人…馬頭以上かも?本当に特殊個体なの?!それとも強化の邪言か何か?やっぱり…私のパワーじゃ…倒すのは難しい?…違う…今はそんな場合じゃない…徹底的に撹乱して引きつけておかなきゃ…)
最近、戦闘の度に痛感しつつある【悩み】を頭の隅に押しやり、攻撃を少し控え、ドンを引き付ける為に牽制しつつ周囲をステップで回り始めた。
◆ ◆ ◆
ルーンが発動したジョーイが小鬼にショートソードで斬りかかる。
その一撃を棍棒でかろうじて防御した小鬼が、後方にぶっ飛び苦痛の呻きを上げる。
「グギィ!」
「クソぉ!防がれた!だがまだ終わら無いぞ!うぉぉぉぉ!」
雄叫びを上げながら次の小鬼に飛び掛かり、剣を振るう。
「おお!ジョーイ!勢いあるなぁ…ヨシ!」
正人は、今日は鉄の装備は一切付けていない。
何故なら…
落雷が怖いから…
金属製のナイフすら持たず、道着のみの格好である。
白い綺麗な石材の触媒を握りしめ…独特な波長で歌う。
「地霊よ♪硬く強い…石の拳と石の鎧を作っておくれ♪」
流石に地霊の加護と言うべきだろうか?
正人のイメージ通りの…薄いが硬質の優美な白い大理石の鎧兜と、同じ素材の頑強な小手が瞬時に屈強な肉体を覆い装着された。
これはカレンが創造した鎧と違い、遥かに精巧で動きを阻害しない精緻な作りである。
気を取り直した小鬼の一匹が手に持った金属製のパイプらしき武器でガンガンと正人の足を打つ。
「どう?硬いっしょ?良い出来だろ~いや本当に…結構カッコ良いだろ?ここまでデザインに凝るの練習したんだぜ♪慰霊の森で散々義骸を作らされた甲斐があったな…」
呑気に出来ぶりを自慢する正人、これも成長故なのか?それとも慢心なのか?
「んじゃ…まぁ…」
小鬼の頭を小手でがっしりと掴む…
「ハナセ!ゲンジン!アタマガ…グギィ…!」
藻掻いて逃げ出そうとするが、正人の超人的な握力の前では脱出は出来まい。
片手で軽々と持ち上げ、岩山に向かってそのまま腕を振り、叩きつける!
小鬼が凄まじい勢いで岩山に投げつけられ、グシャリと不快な音と共に岩壁に張り付き…ズルズルと落ちて血溜まりを作る。
訓練で培った超人的な膂力を存分に見せ付ける。
「うわっ!…ちょっとグロかったか…うげぇ…」
それを見た小鬼達が警戒して正人から一斉に離れ、一番弱そうなジョーイに殺到しようとした。
……有刺鉄線の向こう、森の奥から植物の花粉の様な物質が舞って来る。
小鬼達は次々と武器を落とし、倒れ…或いは立ったまま動けなくなる。
「ア…アガ…カラダガ…シビレ…」
「やった♪【麻痺の花粉】成功した♪次は田中君お願いします♪」
【麻痺の花粉】植物の精霊に霊力を注ぎ、一次的にその性質を変質させるドルイドの技。、
「渦巻く焔よ♪動けぬ小鬼を捕らえ灰に変えよ♪」
痺れて動けなくなった小鬼達に森の奥…英二が手にした火種から放射状に渦巻く炎が絡みつき、その身体を燃え上がらせる。
【渦巻く炎】…痺れた小鬼達は声を上げる事すら出来ず、黒い棒切れの様に炭化し、その場に次々と崩れ落ちる。
(まだ十匹ってとこか?次は霊力を抑えて礫で牽制するべきか…何が起こるか分からない…温存しておこう。)
渦巻く焔は複雑な動きをする分、霊力の消費も大きい、続けて炎の礫の詠唱の準備に入る。
美咲の攻撃を躱しつつ、周囲の状況に焦ったドンが大声で岩山の上に向かって怒鳴る。
「イダ!ツギヲウテ!ジジイハイイ!ホカノヤツダ!」
「ソンナニスグハウテナイ!チカラガタマッテナイ!」
弥之助が結界を解き、その瞳が体色が青に変質しつつ有る小鬼の姿を岩山の上に確認し、物騒な輝きを湛える。
「……ホォ~♪…そこにおったか♪待っとれ…今、首を落としてくれる…黄金丸!雷纏じゃ!」
黄金丸の姿が消え、弥之助の身体がパチパチとした電気を伴ったオーラに包まれる。
【雷纏の弥之助】の本領は結界でも雷撃を無効化する事でも無い、雷を纏い同化する技…
次の瞬間、乱戦の現場を越え…美咲とドンを通り過ぎ、その少し後ろに瞬時に移動する。
「ほう…あの坂から登り、ハシゴで上に行くんかい、なるほどのぉ~小鬼如きがよぉ考えとるわい、おっと…結界を長く使い過ぎたか?まぁイカヅチの一発も受ければ小金丸も元気になるじゃろ…」
再び弥之助の頭の上に黄金丸が止まる。
先程までのバチバチと発光はしておらず、心なしか色もくすんで見える。
弥之助の動きに気付いたドンは美咲の攻撃を防ぎ、周囲の子鬼を怒鳴り付ける。
「ダァァァァ!コノメスゥ!チョロチョロトォ!マズイ!ダレカ!ジジイヲヤレ!」
小鬼の一匹が弥之助に飛び掛かるが…
振り向きざまの一刀で斬り伏せられ地面に落ちるのが見えた。
弥之助は振り返らず岩山の登り口に向かって走って行く…
「ガァァァァァ!イダ!ジジイガイッタゾ!ニゲロォ!」
だが小さな岩山の上に逃げ場など無い、ふと…念の為に檻の前に配置しておいた部下の事を思い出し、美咲に棍棒を振るいつつ集落の奥に向かって声を張り上げる。
「ソウダ!!オイ!マジュウノオリヨアケロォォォォ!」
集落の奥、木製の丸太で塞がれた檻が跳ね上がり三匹の牛程の大きさがある巨大な灰色狼がのっそりと姿を現した。
いつ大峠が来るのかと待つなよ。
それは悪魔に心を使われてる証拠だぞ。この世は岩の神、荒の神、雨の神、風の神、地震の神殿の手伝いで、国常立の尊が作り固めたのだぞ。
それを上から目線で見ている政治家や役人共、何も統治出来ておらんぞ。
世間話に花を咲かす政治などしてるでないぞ。仕事が有るのは神の恵みだぞ。忙しく働けよ
某神示より…エピソードにあんま関係有りませんが…取り敢えずね。




