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巫女の行方⑤黄金丸



待ち合わせ場所の五区の辺境、大森林のそばの街にやって来たのだが…ギルドに入るなり弥之助に怒られた。


「遅いぞ!小僧!何をやっとたんじゃあ!三日だぞ!あんまり暇だから魔鳥をからかいに行って来たぞ!狩れなかったが…」


スズ原町からは近いと言っても、術も付与されていない徒歩では一日は掛かる。


…魔鳥…と言う事は谷の妖女の事だろうか?


この爺さんは一体何をやっているのだろう?


待ち合わせとは言っていたが、そもそも日時など決めて居なかったし、弥之助が三日前に到着していたのも初耳で有る。


怒られる(いわ)れは無いのだが、面倒なので適当に答える。


「あ〜向こうに移動系の付与してくれる術士の人とかいなくてさ〜爺さんは、依頼か何かで山行ってたの?あんまり無理しない方が良いよ?」


「かぁー!この小僧は本当に口の利き方を知らんな!年寄り扱いするんじゃ無い!ワシは【雷纏】ぞ!」


「え?この前アグニさんに腰が痛いとか言い訳していた様な気が…」


弥之助は正人とはとことん相性が悪いらしい、弥之助も正人の顔を見れば脊髄反射で何か言いたくなってしまうのだろう。


また、正人も訓練で超人に近い肉体を獲得し、小鬼や色付きとの戦闘を上手く進めた事で多少増長している部分は有るかも知れない。


ビビリな部分は中々解消出来てはいないのだが…


後ろに控えていたジョーイが突然、前に出る。


「もしかして…【雷纏の弥之助】?!光栄です!東部辺境でも有数の実力者、二つ名持ちの冒険者にこんな場所でお会い出来るなんて!正人!この方がいれば脅威の半分は無いも同然だよ!多大な精神力を消費して効果が有るか分からない避雷針モドキを作るより確実かも知れない!」


正人は不満な顔で尋ねる。


「モドキって、酷いなぁ…見た事が無い物を頑張って作ってみたのに、まぁ爺さんも昔は有名な冒険者だったっていうのは知ってるけど…【雷纏】…って事は例の特殊個体に強いみたいな話か?」


「ああ、俺が小さい頃は【雷纏】と【無音の弾丸】の武勇伝は四区にも聞こえて来たよ、二人合わせて【天魔落とし】なんて呼ばれていてさ、谷の妖女を何体か狩っていた筈だよ?空中を高速で移動する奴らを倒すのは、周囲への被害は少ないけど下手をすれば大鬼より難しいって聞くからね」


「谷の妖女と言えば雷槍の邪言か?成る程ね、しかし詳しいなぁ…無音って人は…?」


弥之助が答える。


「そりゃワシの女房じゃ、奴はワシと同じく大気の術が得意でな…但し、霊力の総量も低く、攻撃、移動、防御…いずれも使えなんだ、使えたのは補助のルーン、音消しと姿隠しの術よ、才能なんぞ無くとも、使い方次第で二つ名持ちの冒険者にだってなれる。勿論、鉄砲の腕は確かなモンがあったし、弾丸には破壊のルーンも刻んでおったが、元の霊力が少ないでなぁ、乱発は出来んから狙撃が上手くなったのよ。しかし、全く大した女じゃったよ…何しろ奴には秘密も通じんからな、いつの間にか何処からか見ておってな…恐ろしいわい…」


大戦前に祖霊に導かれて来た移民の子孫と、大戦が終了して数十年後にやって来た避難民の子孫では霊性の高さや霊力の総量に大きな差がある。


避難民達の霊力が低いのは代々の長い年月、霊的なものに触れておらず退化していた為だろう。


一部の…【魔法】を使う者達は別だが、連中は霊力はそれなりだが、霊性や霊格は低下の一途を辿り、魂が悪魔が棲むとされる異界の穢に、徐々に侵食されて居るのだと言う。


「はい…【無音の弾丸】アメリア=高木は避難民の子孫の一人でもあったんだ。かつて一緒に海を渡った同胞の子孫が活躍すればさ、やっぱり俺達だって嬉しいのさ…」


ジョーイの賛辞に多少は気分の良くなった弥之助が、今後の計画を纏める。


「ほう…若者よワシらの事を随分知っておるようじゃな、成る程、報告書にあった突然人が倒れた理由も理解出来た。確かに、こりゃあ貴重な情報を持っておる様だなぁ?しかし、おヌシは随分ボロボロじゃなぁ?例の焔の従士か?まぁ良い、取り敢えず敵の、もう半分の脅威の情報は宿で聞こう、それから準備を整えて明日には出立しようでは無いか」


 ◆ ◆ ◆


翌日、街から二時間程で街道からそのまま大森林に入った。


この事件が起こる前迄は大森林の一部で有るとは言え、一応はギリギリ第五居住区可能域内では有るので【谷の妖女】が巣食っている山道を通るよりは安全で有るとされていたのだが…


今や西部へ向うには四区から大きく迂回せねばならず、物資の流通にも支障をきたしていた。


かつては八つの島を繋ぐ道路や鉄道が走り、世界で二番目に栄えた国として名を馳せた大八島国ではあったのだが…


島々で栄えていた都市は殆ど海中に没し、辛うじて残っているのが魔界の瘴気の影響も濃い、かつての小都市郡が残る七区と六区…五区や四区などは田舎、辺境と呼ばれていた。


現在は半ば平地にはなっているが、かつては標高の高い山岳地域が多い場所であった。


今現在アシハラの中心とされている三区、二区、一区は、聖暦1999年に起こった地殻変動によって隆起した新たな大地で有る。


当時の大八島国の為政者、国の運営を担う官僚達は、真人などの上位者の声に耳を傾けず、都市部は全て魔界と化し、心有る人々は早い段階で辺境に引っ越して行った。


大都市圏の大多数の人々は生きながらにして邪鬼に堕ち、【魔人】と化してしまった。


【魔人】とは生きながらにして魂が黒く染まってしまった者達の総称で有る。


…現人や一般的な小型獣人達であるが、彼等、彼女等はそうなってなお、自らは人間で有ると思い込んでいたのだが…


見た目では分からないので致し方あるまい、だが魂を覗ける真人や神人達から見ればその違いは明らかであった。


大八島国の国土の殆どが魔界と化し、国民の七割が魔界の住人魔人と化した。


聖暦1999年7の月…


巨大な地殻変動が起こり魔界の殆どは海中に没し、その後も数年掛けて断続的な変動が続き…


近隣の国々は気付いてはいたが、何処もほぼ魔界に覆われ、他国の事を気にする余裕も無く…


国々のバランスをかろうじて取っていた大八島国が消失した事で、各国の居住可能区域を奪い合う争い…【終末の大戦】が勃発した。


結局は更に居住可能区域を減らし、最終的には戦争を続ける事すら出来なくなってしまった。


それが大戦の終結…聖暦2012年である。


 ◆ ◆ ◆


大森林の小鬼達の集落の中には、かつての大都市の跡地を拠点にしている部族も多いとはいえ、森の外に有る町々の様に原型を留めている場所は少ない。


高層建築は残っておらず、コンクリート建築は崩れ、術法で建築された建物には蔦が絡まり、天然石の建造物さえも半ば崩壊して緑の地獄に飲み込まれている場所が数多くある。


五区から七区に跨り広がる大森林の奥地では、そんな光景も見られるが、入り口に近い場所は穏やかな緑の森にしか見えない。


時折赤い瘴気もチラ付くが気にするほどの濃度でも無い。


入口から内部に作られた街道を歩き、かつて焔の巫女が襲われた場所に辿り着く…


だが…今現在は戦闘の後も痕跡も何も無い、微かに馬車があったであろう場所に車輪の跡が付いているくらいであろうか?


「ここが……ふむふむ…なるほどです…」


そこそこ大きい樹木に手を添え、涼夏が呟やく様に…目にしたもの、木々から聞いた事を報告する。


「連中の集落を見つけました。ここからそんなに遠くは無いです、木々の話によれば半月前迄はこの辺や森の入り口に旗を立てて冒険者を集落まで誘導していたらしいデス、今は……あぁ…理由が分かりました。…赤ん坊や子供が増えたんですね…だから旗を外して一旦冒険者を引き込むのを止めたんじゃ無いでしょうか?」


弥之助が訪ねる。


「お嬢さん、集落の地形や歩哨に立つ子鬼の数なんかは分かるかのぅ…?」


「集落の中には木々が少なくて、詳しくは見えませんが、楕円形…三日月型で…小さな岩山の周囲に沿って住居を建てていて…奥にコンクリート材や鉄骨を組んで作ったんでしょうか?岩屋みたいなものが有ります、金属製の扉…連中意外と器用ですね、格好は原始人みたいなのに…多分…巫女がいるとしたらあの中でしょうか?壁は漆喰みたいなもので塗り固められて…壁面に文字…力を感じます…あれで巫女の霊力を封じてるんでしょうか?…歩哨…見張りは集落の入り口に二匹…周囲の森の中を巡回しているのが三匹程…子供や赤ん坊を入れたら五十匹は居るかも…現人や獣人の女性は…奴隷にされてるのは十人くらいです…ボロを纏った裸みたいな格好で…可哀想…作業をしたり赤ん坊をあやしたり…」


涼夏が手を離し膝を付く…


「ふぅ…疲れました…少し休ませて下さい…」


ジョーイが食い気味に涼夏に詰め寄る。


「詳しく教えてくれ!その奴隷達の中に金髪碧眼の体格の良い女性は!東方人風の顔立ちの猫科の女の子は!細身の黒人男性と…金…」


商人と丁稚の事を聞こうとして思い留まった。


…彼らはジョーイの目の前で物言わぬ肉塊になったのだ、ムトゥバはもしかしたらまだ生きているかも…


だが…


「巫女と女二人は生きとる可能性も有るだろうさ、無事では無かろうが、男は…奴等に食われとるだろうなぁ…残念じゃが…」


それは厳しい言葉であったが、まずその通りなのだろう、涼夏も自身の術について説明する。


「ジョーイさん…ドルイドの術は上位者達の千里眼とは違って…見るとは言っても木々の感じた場所の光景を私の視覚に変換しているのです…大まかな性別や大きさ…服装は分かっても…後は魂の色を判別するくらいしか…木から見たらみんな動物ですし……ぁぁ…意識が………」


涼夏の意識が途絶え木を背にして眠りこける。


「あ…鈴本さん寝ちゃったよ、一時間もすれば起きるだろうけど、ちょっと範囲が広すぎたか?精神活性剤飲ましとけば良かったなぁ…」


「ん〜アレも結構値が張るからさぁ、小鬼の住処を襲撃する前に飲んで貰った方が良いんじゃ無い?それよりも入り口は一つなのよね?…私は遊撃手として動くけど…先頭は正人君?」


正人は少し考える。


「そうだな、俺が踏み込んで挑発して地霊の盾で、いや地霊の天蓋の方が…万が一電撃を食らっても…今の俺なら耐えれる筈、その隙に爺さんが雷撃使いを仕留めて、美咲ちゃんが奴らのボスを、ジョーイの防御のルーンは突入前に全員に…雑魚は英二の言霊で焼き払うか?…うーんどうかな?」


だが、弥之助とジョーイがそれぞれ横槍を入れる。


「わざわざ無駄に電撃受けてどうすんじゃ?!そんなもん相手は最初にそれを狙って来るんじゃから見張りを派手に倒して先に準備させたらええわい!騙し討ちもええがなぁ、ワシがおるんじゃ!ワシが先陣を切って敵に雷撃を撃たせた方がええぞ?敵の裏を掻くっちゃうんはこう言う事じや!小僧は浅はかよのぉ〜♪」


「正人!俺を前に行かせてくれ!でなきゃ!俺は成長出来ない!…それに…」


ジョーイがブレストプレートを外し、シャツをはだけ胸を見せる。


そこには生々しい焼け跡が有り…ルーンが身体に刻まれている。


【マンナズ】【ベルカナ】【テイワズ】


意味は自己…成長…戦士…


これはかの【超人】エリック=スヴェルドルフにあやかっての物なのか?


【超人】エリック、彼の両親はヨハンセン家と同じく西大陸西方北部にルーツを持つ真人で有る。


つまりは焔の巫女と同種の存在であり、男で有る事から霊力では無く、生まれながらに超人的な身体能力を持つ、下の世界で言うところの、ヤマトタケルやヘラクレスの様な英雄の資質を持っている。


更には自らの肉体にルーンの入れ墨を刻む事で、数多の大鬼クラスの邪鬼を打ち倒し、現代の勇者とまで言われる存在に成り上がった。


現人で有りながら、武力のみなら神人に勝るとも劣らない当代切っての英雄で有る。


「おわっ!おい…大丈夫なのかよ…それ…痛そうだぞ…」


英二がジョーイをフォローする。


「大丈夫だよ…昨日ジョーイに頼まれて俺がやったんだ、ナイフで刻んだらしくてさ、治癒師の所に行こうって言ったんだけど聞かなくて、仕方ないから炎で焼いて処置したのさ、だから切り込むのはギルドマスターで良いとしてジョーイも前に出してやってくれよ、補助は俺と鈴本さんで頑張るからさ」


「うーん…そこまで言うなら、じゃあ先頭は爺さんで…ん~~いつものフォーメーションが崩れちゃあなぁ…爺さん…本当に大丈夫なのか?」


度重なる正人の失礼な言い草に弥之助が怒鳴る。


「こりゃ!小僧!まだ疑っとるんか!……しゃーないのぉ…ちょっとだけ見せちゃるわい…まぁ数日前に魔鳥の力を食らったでな…今は元気いっぱいじゃ!」


ブツブツと文句を言いながら腰に付けた大きめの小瓶の蓋をあける。


魔鳥の力を食らうとはどう言う事だろうか?確か討伐出来なかったのでは?


「来い!黄金丸!」


言葉と共に小瓶の口がパチパチと電気を発し、突然金色の何かが飛び出し高速で飛び回り、暫くすると弥之助の肩に乗る。


そこには…バチバチと電気を発する金色のオオクワガタが止まっていた。


「え?!………クワガタ?」


「んあ?こりゃあのう…ワシの式神よ………」


大昔、大八島国に大陸極東の道術が入って来た時に生まれた符術を含む霊術、言霊を行使する声法と並ぶ、アシハラ古来の術の一つ陰陽術。


高木弥之助は戦士であり陰陽術、特に符術を得意とする術師で有る。



出直し完了m(_ _)m


天地を綺麗に掃除して、世の中をひっくり返して元の神世に戻すぞ。その時に臣民を神と獣にはっきり分けるぞ。……だって…さ

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