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山間討鬼伝…【R15】  作者: くとぉ
五章 焔の巫女を探して…
23/31

④琥珀色の蒸留酒



昼間に露天で会った狼人の冒険者に食料品や酒類を販売する商人を紹介して貰った。


その商人は露天で売らず、懇意にしている店に直接出向いて取り引きをするらしい。


到着して早々に定宿にしているホテルに向かったらしく、護衛や手伝いの者は暫し自由行動の最中であったらしい、部屋にも空きが有るとの事で護衛の冒険者と共に同じホテルに宿泊する事となった。



彼らの雇い主で有るマクドウェル商会の商会長、ビリーマクドウェル氏と会えたのは日も落ちてからになった。


夜は外から来た者は歩かない方良いとのマクドウェル氏の提案で、同じホテルに泊まる事になった。


中心部から少し外れた場所に大昔の…恐らくは元々小さめのビジネスホテルか何かだったのだろうか?


古い建物では有ったが精霊式浄水設備も完備で水には困らない。


電気は残念ながら使えず、夜はランプ等の照明器具で明かりを取っている。


美咲や英二は久しぶりに水が使える環境で部屋で身体の整備と……まぁ…その他の事で忙しいのだろう。


取りあえずはロビーで商人と正人、涼夏が雑談がてら情報交換をする事になった。


「……ってわけで焔の巫女を救出する為の情報が欲しいのデス…」


「はぁ…ジャックねぇ、割と多い名前ですからそれだけではどうも……それにしても異世界から来られたんですか?珍しいですなぁ!良く生きてましたねぇ!瘴気の濃い場所ではそんな事も有るのだと噂では聞いた事がありますが…どこかに異世界から来た戦士と呼ばれていた冒険者も居た様な…えっと二つ名も有って…一昔前の割と古い話ですが…う~ん思い出せない。」


その人物は正人達も良く知っている。


恐らくは弥之助の事だろう。


他に異世界人がいるとも思えない、彼は既に引退して十数年は経っているらしいので冒険者の武勇伝を集めるのが好きな人間でも無ければ殆ど分からないのが普通であろう。


ビリーは行商人で普段から冒険者と接している職業故にそんな噂も知っていた…と言う所だろう。


それに…異世界から来たなどと話を聞けば、商人の興味がどうしてもそちらに寄ってしまうのは仕方が無いのは分かるが…


正人が逸れてしまった話の軌道修正を図る。


「あぁ…それは多分ですけど弥之助って人ですよ、今は北星町で浄化ギルドの支部のギルドマスターやってます。知り合いなので興味が有るなら紹介も出来ますよ?それよりも…ジャック…もしかしたらジョンかも知れませんけどやっぱり思い当たる所は有りませんか?」


「いや私も今日来たばかりで、懇意にしている店にもまだ顔も見せていない状況で…しかも前回は二ヶ月程前になりますのでねぇ…流石に…まぁ…十件程ですが商品を卸している酒場が有りますので、明日にでも場所をお教えしましょうか?今出歩くのは非常に危険ですので…何にしても明日以降ですな、情報の対価と言うわけでは有りませんが皆さんの事を教えて頂いても良いですかな?異世界の話なんかも…」


確かに今現在出来る事も無い、もしかしたらそろそろ弥之助が五区の北部エリア、大森林の入り口の町に到着している可能性もあるが…まぁ…あの老人は暫く待たせておけば良いだろう。


協力の対価で…と言う事で有れば、見た感じ外部の人ではあろうし、悪人にも見えない。


ビリーに付き合って、上位の地球と下位の地球の違いに付いて議論するのも楽しいかも知れない。


「ん?まぁ…悪霊みたいのはちょっと興味有りますけど…物理的な害の方が多そうですもんね…じゃあ何から話しましょうか?ビリーさんが扱ってるのは穀物とお酒とかでしたっけ?植生は下もほぼ変わりませんから…植物なんかの種類自体は魔界がある分こっちの方が多いだろうし…いざ話すとなると何を話して良いか分からないッスよね。」



◆ ◆ ◆



「成る程ねぇ…聞いた限りでは便利な部分も多そうですので、円谷さんの世界の文明度は大八島の大崩壊の時点より少し前ぐらいなんですかね?宇宙開発なんてのはそちらの方が相当に進んで居るみたいですが、こちらの世界では大崩壊前に航空機が飛んでいたくらいで…宇宙開発なんてのは聞いた事も有りませんよ」


「こっちに来て直ぐに座学で聞いた事ありますね。空の魔獣や邪鬼が危険過ぎて話だけで終わったとか?下の世界でもさっき話した宇宙ステーションの話はまだまだ未来の話ですけど…俺のいた国で十何年か前に人口衛星とか飛ばしてましたね。外国ですけど月へ行った国もありますよ♪」


「そうそう♪月へ行った国はですねぇ♪こっちで言う銃の国とほぼ同じ場所に有った国なんデスよ♪」


割って入って来た涼夏の言葉にビリーの顔が綻ぶ。


歩んで来た歴史も違う異世界の国とはいえ、リンクしている部分は多い。


例え本当の意味では同じとは言え無いにしても、嬉しい物なのだろう。



「フフフ…そうですか、私の祖先の故郷は赤の陣営と青の陣営の争いの激化で滅んでしまったと聞いてますが…そうですか…そんな歴史を歩んだ世界もあったのですな……あ、そうだ…噂に聞く三区の環状都市群では住人は皆、瞬時に何処にでも通信可能な指輪を持ち歩いて居るとか?何でも空中に文字盤が出て街の全員で情報共有が出来るとも聞きました。大崩壊以前の技術の一部らしいですよ?確か…ハンドルリンクとか言ってたかな?円谷さんの世界にも同じ物はありましたか?」


恐らくは、魔法や霊術などがある世界でも有り、技術的には似ている部分は有るにしても、全く別の方向に発達している部分も有るに違いない。


「へぇ…なんか凄く未来的に感じますけど…通信機みたいのも有りますし、電話…遠くの人と話せる家庭用の機械なんですけどね。そう…それの小さめのを車に積んでるのは見た事が有りますね。」


これに付いては転移する時期が、後数年違っていたら正人の印象も多少変わっていたかも知れない、残念ながら異世界転移に巻き込まれた時は携帯電話は全く普及していなかった。


「ほう…やはり少しづつ違っている物なんですなぁ~車と言えば、ほら、廃墟で稀に見かける鉄の乗り物と同じ物ですよねぇ?あれは少量の化石燃料と火や大気の精霊力で動かしていたと聞きますが…円谷さんの世界にも同じ物が?」


それはマドカに聞いた事が有る話でも有った。


こちらの世界の自動車はあまり化石燃料を使わず、魔法やその他の霊術の仕組みを組み込み精霊力で動いていたらしい。


元々こちらの世界では、大地が少しづつ動いている事は既に二千年以上昔から分かっていた事でもあり、石油などは大地の潤滑油で有ると固く信じられており、それが不足する事で大規模な地震災害が起こるとも…それは遥か昔からの伝承ではあったが信じている者が多かったのだ。


それ故に化石燃料の採掘には産油国の政府は非常に慎重で有り、地上に流れ出ている分だけを利用していたらしい、勿論西洋諸国の海外進出は自分達に関係は無いからと…そう言った国々の土地を奪おうと進出して行った側面はあるが、下の世界に比べれば遥かに緩やかであったと言える。


とは言えこの世界では、エネルギー問題より魔界の侵食で人の住める地域がどんどん減って行く方が、より深刻な問題ではあった。


それに世界宗教崩壊後に魔術師達が空属性の派生属性で有る雷の力を引き出す事に成功していたが為に、エネルギー問題は然程深刻では無く、化石燃料の採掘もほぼやっておらず、つまりは手付かずの油田がこの世界にはゴロゴロと転がっている…と言う事にも繋がる。


「自動車はありましたけど、廃墟で見掛ける物とは結構形が違う様な気がします、聞いた限りでは仕組みが相当に違うみたいですね。俺もいずれ中古の買おうとは思ってバイトの金貯めてたんですけどね…その前にこっちに来ちゃったんで…あまり詳しくは…ハハハ…それにしても情報の対価ってこんな話で良いんですか?」


と…何故か若干赤面しつつ返す正人…何故赤面しているかと言えば…車が有れば女の子をデートに誘い易い…そんな多分に不純な動機から車貯金をしていた過去があった為で有る。


昭和末期から平成初期の大学生あるある…なのかも知れない。


正人から【対価】に対する疑問を問われ、あぁそう言えば…とビリーは笑いながら答える。



「対価?あぁ…そんな話もしましたなぁ♪下の世界は五区や六区と変わらないとも聞きますが…私が言った対価なんてのはね…貴方方(あなたがた)の人となりを知る為の方便に過ぎませんよ♪良く知らない人間に簡単に教えるのは気が引けますから…クセが悪くて多少歪んでいる人間が多いとは言え、私の取り引き相手は長い時間を掛けて信頼を築いて来た店ばかりですからね。どんな人間か理解も出来た上で知り合いになった人に親切にするのに対価は必要有りませんし…」


この世界に来てから求めるばかり、で他者に提供して来なかった事を思い出し急な羞恥心を覚え、申し訳無さそうな顔をする正人。


「あぁ…成る程…そりゃそうですよね…、いえ…何かスミマセン…」


五区や六区で商売している人間から親切などと言う言葉が出るとは思っても見なかった。


これまでに見て来た五区や六区の人々とは…恐らくは四区の人間であろう冒険者の狼人やビリーは少し違うらしい。


時代が違うとは言え、同郷の弥之助ですら、親切半分…恐らくは利用出来ると踏んで、自分の運営するギルドの常駐メンバーに勧誘して来たくらいで有る。


ビリーの他の人間との若干の精神性の違いを感じた涼夏が質問した。


「あの…ビリーさんはここら辺の方達とは少し違いますね?四区辺りのお生まれなんですか?その…発言もちょっと商人らしく無いと言うか…下の世界の欧米のビジネスマンともちょっと違って、利益…利益の…あんまりビジネスライクな人に見えないって言うか…」


…若干…何か有るのか…少し遠い目をしつつも、老いた商人ビリーは涼夏に優しく微笑む。


「ほう…そう見えますか…それでは矢張り私も少しは成長出来てるのかも知れませんねぇ、【有徳律】の法則はあっても他人から見て違うと指摘されなければ中々自身の成長を…魂の成長は実感出来ないですからね。そう見えるなら有り難い事ですよ…皆さんの事ばかり聞くのも適正な取り引きとは言えませんな、今度は少し私の事でもお話ししましょうか…そうだ!ウチの商会で今回初めて作った新商品が有るんですよ♪試供品として持って来たモノですが余分に有りますから一本開けるとしましょうか♪折角ですからお仲間も呼んでらっしゃい、一杯やりながら語るとしましょうか…」




◆ ◆ ◆ ◆


ビリーの話は格言の様な話が多かったが、彼の凄い所は言うだけで無くそれを実践しているところだろう。


言うだけ言ってやらない者は多いが彼は違った、と言うより変わらざるを得ない状況に追い込まれたそうな。


それはビリーがまだ若い時、と言っても四十半ばの時…二十年程前の話では有るらしい。


有る時、彼は…ふと…アシハラの地で良く言われている様な、タワ事を実践してみようと思い立ったのだとか?


「いや…そもそも私は五区の生まれでね。若い頃はこのスス原に住む人々と左程変わらない精神性だったと思う。切っ掛けはもっと前になってしまうんだけどね、それでも四十半ばまで変わらぬ強欲ぶりだったろう。そもそも育った環境が元々商家で、幼い頃から人を騙してでも安く仕入れ、出来る限り高く売り抜ける。物の質が良かろうが悪かろうがね。金を稼ぐ事だけが唯一の正しさだと教え込まれて育ったのだよ…」


最初の転機はまだ二十歳になるかならぬかの頃だったのだと言う。


それは家業である商売が成り立たなくなり、親族の暴走で一族もろとも五区の街を追い出されるに至ったのが彼の魂の旅が始まったのだと言う。


彼の家が代々やって来た事は、彼が先に述べた通り教えで、アシハラの商人達の哲学とは全く異なる教えだった。


大崩壊後の世界では現地の商人達は失って久しかった古い商売の教えに従っていた。


アシハラの商売の道とはこの様な哲学であった。


【良い物を仕入れ、出来る限り手頃な値段で提供し、信用を集め、日々コツコツと商いに励む事、さすれば老いる頃には商売は大きく成り、自然と豊かになっている。】


若い頃のビリーとその親族達はそんな緩慢で温い事をのたまうアシハラの商人達を陰で鼻で嗤っていたのだと言う。


五区に先祖が避難民と移住し軋轢を生んだ騒乱期より以降、それが一族のやり方であった。


品物の良し悪しは関係なく、どんな物でも安く買い、粗悪品であっても舌先三寸で高く売り抜く…


一族か移住して百十数年、一族の商会は突然終わりを迎えた。


第五居住可能区域は、中央から数えて五番目の区域で有る。


結界は中心から円形に張られており外に向かう程に結界の強制力は弱まる。


その為に、五区に住む彼の一族は新たな世界の仕組みに気付けなかった。


他の者達の様に思想の違いによる争いに加担せず己の家が儲ける事に邁進していた為に気付けなかったのだ。


良くも悪くも…


人類の歴史における【終末の大戦】の始まりは聖歴1999年で有るが、上位者が言う事が本当で有ればそれは1800年代には始まっていたのだと言う。


世界中の神格者が徐々に極東の島国に集まり始めたのもその時代から、1999年に大八島国に地殻変動を起こしたのは計画の一端に過ぎなかった。


それまでやっていたのは地脈、水脈、霊脈に対して新たな認知を刻み込む事、そのシステムを組み上げていたのだと云う。


即ち龍脈の噴出孔…聖域から溢れるエネルギーの波動が結界の正体で有る。


現在封印されている東大陸の結界も西と東から大洋の各所に有る、島々の聖域を開放し、巨大な結界と成した為、大陸を封鎖出来ているのだと云う。


西大陸に関しては大きな聖域が有る須弥山を解放し、その途上までの小聖域などにもシステムを組み込み新たな結界を発生させている。


…とは言え西大陸は広い…


その効果範囲は大地の広さに比べ微々たるものでは有るが…


だが、それを続けて行く事で最終的には全世界の聖域を解放すれば、魔界となる場所は世界の三割程度に抑え込める見込みであるのだと言う。


実はこの世界では、遥か古代から数回に渡ってこの世界を覆う結界の術は繰り返されている。


最初は数万年前…どう言ったルールを刻み込んだのかは定かでは無いが…


かつてアシハラと東大陸の間に巨大海洋国家が存在した。


そこで行われたのが最初であるとされている。


時を経て本島は海中に消滅し、大洋の西の端に有る島だけが残った。


かつての大八島である、現在のアシハラ人はその大陸に住んでいた人々の直系の子孫だとされている。


そして直近で有ると五千年前…


その当時の神格者達によってルールは書き換えられ、世界は数多の国家が繁栄し経済や流通は発展を極め、多くの技術や霊術を生み出した。


だが同時に、魔界をも増え、古くから魔界に生息する魔獣だけで無く、黒き魂を持つ邪鬼をも発生させる結果となった。


時は流れ…世界の九割が魔界に覆われ、終末の大戦と大八島の大崩壊が起こり…現在に至る。


一見、世界は滅亡の瀬戸際に有る様に思える。


だが、技術は今も生きており、第三居住可能区域、或いは第四の一部で有効に利用され、全ての民族が積み上げた分化と、人類が生み出したあらゆる科学技術と霊術はこの最後の聖域に集約されてさえいる。


これから…魔界からの解放の後には全世界に向けて拡散していく事になるだろう。


神人達の視点は、今の世界の現状とは別の物を見ているのかも知れない。


精神性の高い人間や下位の【真人】は今もまだ大部分が魔界に覆われている世界の現状を憂う。


だが…


【神人】達は柔らかな微笑みでこう語る。


「何をそんなに憂う必要が有る?人類は物質、精神共に発展し、全ての積み上げた科学技術、精神文化、霊術大系は【最後の聖域】に集約されている。終末…大峠は既に越えたのだ。既に喜びの時代は始まっているじゃないか?後は我々はやるべき事をやるだけだろう?さあ…共に新時代を進めよう」


…と




◆ ◆ ◆



マクドウェル家の当主は…銀行業務を始めようとした。


銀行自体は別に問題無い。


金銭を必要としない第二や第一はともかく三区にも四区にもやっている街は存在する。


投資も融資も適切なレベルで有れば問題無い、事実三区や四区では暴利を貪る事も無く、投資したからと言って、居丈高に振る舞い借り主のやる事に口出しする事も無い。


上位区域では、そもそも適当な話で金銭を得ようなどとする低い精神性の者はいない。


邪心を持って利益を得ようとすれば…


それは魔界を呼ぶ…つまり瘴気をもたらす事になる。


現在の法も罰則も無いアシハラで罪と言える行為は、魔界をもたらし魂を黒く染め上げる事のみなのだから…。



 ◆ ◆ ◆



かつての西洋、海外の他の国も…かつての大八島国でさえ、何故魔界が発生するのか詳しくは分かっていなかった。


それは今の結界の有るアシハラと違い、遥かにゆっくりと進行していたので誰も根本的な原因に気付かなかったのだと言える。


近代に入ると事象は加速し始めた。


東大陸に落ちた【悪神の残滓】【自由】は無制限の自由で富を掻き集め格差は拡大し続ける。


西大陸から渡って来た【支配】の分体を受け継いだ人間達もそれを後押しした。


故意に他国の政治に介入し、戦争を起こし兵器を売り、銃の国の行いは世界中を巻き込み混乱に落とし入れた。


それに対抗していた【博愛】を受け継いだ者の死後、その概念はまた再び分裂し…歪み…暴力的で過激な抗議活動をする者が増加し、それはさも正しい事で有る様に世界に波及し、更に混沌は加速した。


何かに引き寄せられる様に集まる、他の悪神の残滓の残りカス、歪み変質した【平等】【正義】【選民】を受け継ぐ数多の人間達に掻き回され、世界は混沌の坩堝に陥ったので有る。


…気付けば…世界は魔界に覆われていた。



 ◆ ◆ ◆



「いやね、前々から瘴気が街の周囲に引き寄せられて来ている。なんて街人は噂してたんですけどね…私の叔父、マクドウェルの当主が銀行を始め独自通貨を発行しよう…なんて言い出した頃ですかねぇ、とうとう屋敷に瘴気が集まる様になりましてね。それはもう……誰の目にも明らかでした。それで一族は街を追放、一家は離散、叔父や父は六区へ、他の者や兄弟も五区の他の街への移住しなければならなくなりました。百年の努力もほんの数ヶ月でパーですよ…」


ビリーはそう語る。


ビリーも、自分で商売を始めた頃は親に教えられた通りの商いで利益を得て身を立てようとしていた。


だが…一族でやっていた頃と違い、老舗の信用も無く、全く上手く行かない。


うだつの上がらないまま行商人を続ける中…三十も半ばで二度目の転機が訪れる。


父からの手紙で六区の食料事情と、前時代の遺物の話や魔界の瘴気で変質した希少金属や魔獣の素材、珍しい植物などの話を聞き付け、大儲けの予感を感じた。


穀物を仕入れ食料不足の六区で売り、そこで仕入れた魔界の産物を上位区域に出向き高値で売り付ける。


魔界に近づくのは危険な道でも有るし、四区の【有徳律】の影響も心配の一つでは有る。



護衛の冒険者も必要になるであろうし、当然経費もかさむだろう、それでも五区の街や村々だけを巡り小さな商売を続けるよりは、一発逆転も期待出来る旨味の多い話かも知れない。



ビリーはアシハラの一大穀倉地帯でも有る、四区にまで足を延ばして仕入れと行商をする事に決めた。


人伝に情報を集め…小麦や大麦の生産地として有名なだった同胞…銃の国の移民達が作った村、ドワイトヴィレッジにたどり着いた。


安く買い叩くのは…笑いが出る程に簡単だった。


村の設立者の孫であるマイク=ドワイト氏に六区の同胞達の窮状を涙ながらに訴え、安く買い叩く事に成功した。


村の代表者マイク=ドワイト氏は、同じ移民として来た同胞達の窮状を聞き、他の村人にも訴え、更には少し離れた場所に有る、マイクの祖父が世話になったと云うアシハラ人の村にも声を掛けてくれた。


結果…大量の大麦…小麦や米…新鮮な野菜や肉、様々な食材を破格の値段で仕入れる事が出来た。


六区で窮地の人々の足元を見て食料品を高く売り暴利を貪り、その金で魔界の希少な産物と、前時代の遺物を安く買い漁る。


それを旅の途上で五区や四区の大きな町で高く売り歩く日々…


そんな取り引きを何度か繰り返してるうちに、四区での旅の最中…違和感が生じた。


今までは少々居心地が悪いだけだった。


だが日々罪悪感は膨れ上がり、苦しい程に心を苛み始めた。


だが止められない…この取引は儲かる。


商売を始める前に知人から借金もしている。


もう少しでその借金も完済出来る。


苦しかろうと止める事など出来ない…


ビリーは欲望と募る罪悪感の間で日々苦しむ事になった。


それは…四区で仕入れ始める前には思った事すら無い感情の奔流であったのだ。


そして何度目かの取り引きの時にマイクの笑顔を見て…ビリーの心は決壊した。


マイクに、全てを懺悔し告白した。


マイク=ドワイト氏の反応は五区で生まれ育ったビリーには予想外のものであった。


「ああ、別に今まで通りの値段で構わないさ、新しい畑も作ってるしな、俺達は特に生活には困ってないわけだし、それはアシハラ人の友人の村でも同じじゃ無いかなぁ…だが六区の同胞にもう少し手に入り安い値段で売ってやってくれよ、それでアンタの心も楽になるんじゃ無いか?」


ドワイト氏はビリーを全く責めなかった。


その日からビリーは生まれ変わったのだと言う。


だから今は安く仕入れ、半分は人任せにせず、加工食品工場を作り、ドワイトヴィレッジや六区の街に持って行き、適正な値段で販売した。


途中で食品加工の面白さにハマり、趣味が高じて四区の端に工場を作るに至り、今では蒸留酒まで作る様になった。


勿論…真っ先にドワイトヴィレッジにも持って行った。


マイクと一緒に飲みながらこの酒は客に喜んで貰えるか、彼の出奔してしまった末の息子が今はどうして居るのかと…


そんな話をしながら酒を酌み交わしたのが一ヶ月程前の話だと言う。


「この蒸留酒の銘柄とか決まってるの?普段は私サワーしか飲まないからさ…美味しいとか良く分からないんだけどね。」


美咲がビリーに問う、ビリーはグラスに注いだ琥珀色の酒を舐める様に飲むと…こう言った。


「サワー?下の世界の酒かね?この酒はの銘柄は決まっとるよ?勿論【ドワイト】に決まってるじゃ無いか…」




 ◆ ◆ ◆ 



翌日からビリーに教えて貰った取り引き先を巡る事にした。


信用出来る取り引き先と言えど…流石に六区、先に何か注文しろと…中々にガメつく、昼間から酒を飲む羽目になった。


とは言え…目ぼしい情報は得られず…酔い潰れ、結局日をまたぎ翌々日に持ち越し…これで三件目になる。



「あの~すいませ~ん!この辺で…ジョージだか…ジョンだかって人がお客さんでいたりします?」


昼間だと言うのに薄暗い店内、カウンターと小さなテーブル席が三つ程の狭い店。


マスターの他には、客は一人のみ、髭面に汚れた服、腰にはショートソード、やや黒みががった金髪の男が一人だけ…


マスターが不満げに声を上げる。


「おいおい!ここはバーだぜ?聞きたい事が有るなら何か注文してくれよ!」


涼夏が正人を嗜める。


「ほら!正人君!取り敢えず席に着きませんか?ここはそういう街なんですって…昨日の店と同じですよ……」


「ん…でもなぁ、もう昼から酒は飲みたく無いぜ…また潰れたく無いし…マスター!食事でも良いかなぁ?!」


「ああ!構わんよ!簡単なモンしかねぇけどな!何か注文してくれ!話はそれからだ!」


四人は一番奥の四人がけのテーブル席を占拠する。


…すぐ前のカウンターには金髪の男…


「……っても、パンに燻製肉挟んだ奴と…よく分からんチーズ和えのマカロニみたいのしかねーや……みんなどうする?」


最初に英二が決めた。


「まぁ…酒を注文しろって言われるより良いじゃん?俺はサンドイッチで良いよ、美咲ちゃんは?」


「じゃあアタシもそれ…うぷ…まだ昨日のお酒ちょっと残ってる…本当はスッキリしたの飲みたいんだけど…そんなの無いもんね…」


「なら私もそれにシマス」


「一人だけ違うの頼むのも悪いか、スッキリしたのか…じゃあマスター!この燻製肉挟んだ奴を四人分!後…水もね!水はタダなんだろ?この都市はさ!」


「ウチは普通の水はメニューにねぇ!レモン水で良けりゃ出してやるよ!有料だけどな!」


青い顔の美咲の顔が少し輝く。


「レモン水…ちょっと欲しいかも…」


「良く考えてんな~、まっ…美咲ちゃんも欲しがってるし…じゃあそれで良いよ!」


「まいど!まぁ…燻製肉はともかく、パンは悪くねぇ出来だぜ?なんたってここの都市の小麦は四区直送だからなぁ!」



 ◆ ◆ ◆




「うん…悪く無い、燻製肉もなかなかじゃ無いか、マスター!んじゃあジョーかジャック…あれジョンだっけ?って言うお客さんは来て無いんだ?」


「ああ!焔の従士って奴だろう?似たような名前の奴は…」


マスターはカウンターの男をチラリと見たが反応は無い。


「似たような名前の奴は知ってるが…ヒャヒャ…ハッ!そんな勇者はこんな所で飲まねぇさ!……聞きてぇんだが、ソイツに賞金でも掛かってんのかい?多分…例の巫女の従士か何かで…逃げ出したとかそんなトコかねぇ………?」


マスターが少しねっとりした口調で、欲望を滲ませながら正人に問う。


カウンターの男が少し震えたが、マスターも四人も気付かない。


「いんやぁ?そんなの俺達以外探して無いよ、知り合いの真人の予言でさぁ、そいつから小鬼の話を聞きたいんだよ、俺達は焔の巫女に用事があってさ、どうしても頼みたい事が有るんだ…だから…正確な場所とか攫った小鬼の情報が知りたいのさ」


マスターはその話を知っているらしく、驚きバカな事を言う奴だと正人を嘲笑う。


「オイオイ!マジで言ってんのかぁ?ベテランパーティーも全滅したって噂だぜ?…まぁ兄さんくらいガタイが良けりゃ、自信が有るのは分かるが……止めときな!腕力だけでどうにかなる相手じゃねぇ!得体の知れない術を使ったって話も聞いたぜ!バカな事言ってねぇで観光でもして…精々金落として帰ってくれ!ヒャヒャヒャ♪」


「いやいや、だから無謀に突っ込んでくみたいな話じゃ無くてさ!生き残りの話だと最初の一人がいきなり倒れて慌ててる間に全員やられた、なんてわけのわからん話で、もしかしたら大鬼の仕業じゃ無いかって…」


大鬼の話を聞いてマスターも少し焦る。


「おいおいおい…物騒な話だなぁ…オーガーの事だろ?そんな奴が大森林に現れたって?ここなんかすぐ近くにあるんだぜ?三十年くらい前にオーガーが現れて西の七区の街が一度支配されてたって話は聞いた事はあるが、上位者は被害出るまで動かねぇからなぁ?…どうすんだよ…店を諦めなきゃならんのか?親父の代からやってる店だってのに…男は奴らに取っては食料だからな…」


カウンターの男がボソリと呟く…


「違う…」


だがそれは…殆ど聴き取れ無かった。


「…ん?なんだ?注文か?今は無謀な他所モンと大事な話してっから、ちょっと待って……」


店の扉が開く。


「やぁマスター!注文の商品持って来たよ!裏の倉庫に入れといたから後でチェックしといてくれ!それと今日は良い物があってなぁ!仕入れ販売じゃなく自家製の……おや?円谷君達じゃ無いか!君達も情報収集かい?お目当ての話は聞けたかい?」


「よぉ、円谷君も来てたのか…じゃあ俺は外で待ってますから…」


丁度、ビリーと護衛の狼人が店の中に入って来た。


護衛の狼人は店の中をチラリと見回し問題が無いのを確認すると正人達に一声だけ掛け、店の外で待機するらしい…すぐに出て行ってしまった。


「ビリーさん!お仕事御苦労様で~す!」



「お~~?なんだお客さんらビリーの知り合いかよ?!知ってりゃ…注文はしてもらうが…ツマミの一品くらいサービスしてやったのに…それよりビリー?良い物ってのはなんだい?タダで貰えるなら…」


マスターは正人に適当な事を言って、すぐにビリーの土産に興味が動いた様である。


「全く…六区の奴ってのは、そりゃやる為に持って来たんだから、まぁ良い…試供品として持って来たんだ、ちょっと飲んでみて良いと思ったら次から注文してくれ、他のお客さんの意見も聞きたいから、円谷君達には一昨日飲んで貰ってるし、そうだなぁ…そこのカウンターの人にも付き合って貰いたいなぁ」


マスターはビリーから奪い取る様にして早速ウィスキーのボトルを空ける。


「OK!早速飲んでみるか!アンタが作ったのか?へぇ~良かったなジョーイ!タダ酒が飲めるぞ!しかもアシハラの焼酎なんかじゃねぇ!俺達の酒だ!見ろよこの琥珀色の…香りは良い…味は…少し雑味が有るが…」


マスターはショットグラスに琥珀色の液体を注ぎカウンターの男の前に出す。


ビリーはマスターの言った名前を聞き、首を傾げる。


「ジョーイ?最近も何処かで聞いたなぁ……年を取ると物忘れが多くなって困る。…あぁ…円谷君が探してる…あれはジャックか?…まァ良い…どうだねジョーイさん?ワシの作った蒸留酒は…」


カウンターの男は、グイッとショットグラスの酒を喉に流し込む。


「あぁ…美味い…と思います…懐かしい…でも…なんでだろう…」


ジョーイと呼ばれる薄汚れた男の言葉を聞き、マスターも発注を決める。


「おっし!ビリー!次に来る時にいつものに十本それ追加しといてくれ!え~と…銘柄はなんて言うんだ?それと少し勉強…」


ビリーは眉を顰めながらも礼を述べる。


「マスターあんた本当にがめついなぁ!心配いらんよ!ワシが半分趣味で作ったモンだ、他のより安くしとくよ!人気が出たら値上げさせて貰うがね!銘柄は原材料の生産者に敬意を表して…【ドワイト】だ、覚えといとくれよ♪」


突然…カウンターのジョーイが小刻みに震える。


…店内の誰も気付かぬ…微小な震え……


「さて、そろそろ次の店に商品を卸さねば…ああ…代金は明日取りに来るからそれまでに用意しておいてくれよ!」


ビリーの言葉を聞いた正人が同行を申し出る。


「あっ!ビリーさん俺等も同行して良いですか?運ぶの手伝いますし、ビリーさんと行った方が情報も集まりそうだから…毎度毎度注文させられたら堪んないし…」


「そうデスねぇ~ビリーさんお願いしても大丈夫ですかぁ?」


涼夏もその方が効率が良いと判断したらしい。


「ああ構わんよ、じゃあ一緒に行こうか」


「そんじゃあマスターお勘定!」


「あいよ~都市銀貨一枚と銅貨で…」


その時…カウンターの男、ジョーイが立ち上がり…突然、正人に詰め寄る。


「待ってくれ!お…俺も一緒に連れて行ってくれ!俺は…俺は…行かなきゃならないんだ!」


突然の事に正人も目をパチクリする。


「はい?……え~と…どうしたのさ…突然…ってか…アンタ誰?…何者ですか?」


息を吸い込みジョーイは叫ぶように告げる。


「お…俺はジョーイ=ドワイト!ドワイトヴィレッジのマイクの息子…そして…アンタ達の探してる焔の従士だ…これは運命だ!頼む!俺を連れて行ってくれ!ルーンが運命を運んで来たんだ!」


マスター以下…店内にいる全員の口が開いたたまま…暫く…塞がらなかった。







日本から新しい時代が始まるぞ

真理に近づくぞ

邪気入らない様にして弥栄の世界を地上に正しく写してくれよ

某神示より…


かなり修整と加筆しました♪


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