③帰還の方法
アシハラ東部に有る五区の街から四区を経由して北部へ入った。
途中の街で一時的に風の精霊を憑依させてくれるシャーマンが商売をしていたお陰で、数日で平地が多い広大な北部の五区を通過し、第六居住可能区域に至る。
大八島国の八皇家。
日流女、月雄、海華星、雪白、火邑、鬼伏、大高杉、鹿室。
その中の一つ、伝説に語られる二千年前に起こったとされる八島大乱の時代の末期に八皇家に迎えられた雪白家の所領、雪の大島の首都でもあった。
雪白家自体は終末の大戦、大八島の大崩壊の十数年前に絶えて久しい。
かつての都市の廃墟らしきものが点々と続く、ひび割れたアスファルトの先にある街がスス原の街になる。
どこまでも伸びて行く道路は、かつては四車線道路であったらしく、周囲には高層ビルが建ち並んでいたのだろう。
現在は、高層建築は全て半ば崩壊し、残っているコンクリート建築は三階建て、四階建ての比較的低いビルのみである。
目の前には廃材を利用した隙間だらけの防壁に囲まれた廃墟の様な建造物群…
それはかつての日本の都市部にも似た建物が立ち並ぶ。
いや、やはり別世界なのだ。
似てる様で何処か違う。
確かにコンクリート建築も有るのだが、それだけでは無い。
恐らくは石材加工を生業とする術士団体は、今も昔もあったのだろう。
中には新しい建物も有るのだが…アシハラ人が大多数を占める街に比べると、そういった建物は遥かに少なく規模も小さい。
その現象は正規の術士の少なさと、民族性の違いも有るのだろうか?
また古い建物でも天然石を再生成したであろう建築物は他のコンクリート建築に比べ、存外に長持ちをしている。
なるほど、このアシハラの近代と古代が融合したかの様な石材建築物をみれば、何故下の世界の古代の人々が、天然石を用いて巨石建造物を作り上げたのかがよく分かる。
補修跡が無い建築物もかなり残っている。
これらの建築は不思議な事に全くの自然石で有るのにも関わらず、内部に水道管やガス管が最初から存在したかの様に埋め込まれており。
中にはそう言った水道管などが無い、どう作ったのか石材の中にガスや水が通る空洞を作っている建物まで有る。
こちらの方は管に使う人工素材が劣化しない分、より長持ちするのかも知れない。
電気やガスこそ使える建物は少ないが、今でも水道だけは使えるらしい。
これらの自然石を術で加工した建物は、大規模な浄水設備を必要とせず、屋上に設置された雨水を溜めて浄化する仕組みのお陰で、蛇口をひねればいつでも綺麗な水が出る仕組みになっている。
移民が来たばかりの頃は、直ぐにそう云った設備を独占する者が出て、新たな権力構造を築こうとした者も現れた。
水は生命活動に最も必要な要素で有り、ライフラインを独占してしまえば支配は容易い。
だが…結局その試みは全て途中で瓦解している。
突然上位者が現れ、全ての設備のシステムを止めて去って行ったのだ。
律の影響が強い四区迄ならわざわざ上位者は人々の生活空間に出向く事はまず無いが、律の影響が瘴気で阻害される五区や六区では、何も語らずに住人の生活に影響を与える事も有る。
但し完全な魔界で有る…七区に関しては大鬼の様な強力な邪鬼が出現しない限りは完全放置、或いは監視するだけでは有るのだが…
勿論権力を握りたかった者は、浄水システムを何とか再び稼働させようと試みたが…
殆どの者が数世代は霊術とは無縁な環境で生きて来た東大陸の住人には無理だった。
技術自体は海外の大型の水道設備等の技術が元にはなっており、浄水の仕組みを組み込んでいる為に、一見、構造の違いは有るが普通に使える様に見える。
だが、アシハラの誇る精霊式小型浄化システムを稼働させている精霊そのものに、そっぽを向かれてしまってはどうにもならない。
つまり…水の浄化はされず…蛇口を捻っても腐った雨水が出て来るのみであったのだ。
第六居住可能区域に来た当時の避難民達は、内包する霊力は平均的ではあるが、霊性が低い者が大多数で祖霊との繋がりも絶えて久しく、当時はマトモに術すら使えない、そんな者が多かったのだ。
最終的には、権力の獲得を目論んだ者達は悪態を付き、第六の別の町へ去り、或いは辺境…魔界とも言える第七区へ向かわざるを得なくなった。
だが術を使える者も当然少ないが存在する。
今度は数少ない魔術師達が魔法で水を生み出し利益を得ようとしたのだが…
そうなると、またアシハラ中央から上位者が来て全ての設備を稼働させて去って行く。
難民としてアシハラに受け入れたのだから、せめて生命維持に絶対に必要な水くらいは、皆で公平に分け合え、恐らくはそんな意図でもあったのだろう。
まだ魂が黒く染まり切ってるわけでは無いのだから改心してやり直せ、まだ遅くは無い、そんな上位者独自の視点によるメッセージだったのか?
そんな、イタチごっこが何度か繰り返された後に、水だけは望んだ者に無償で与えなければならない。
そんな、街に共通の決まりが出来始めたのだ。
六区に住まざるを得ない、精神性の低い彼らでも流石に理解したのだろう。
また止められてしまっては全ての活動に支障をきたす…と
◆ ◆ ◆
但しこれは六区に限った事では無く、アシハラ全土の律でも有る。
アシハラでは土地の所有も、或いは水源地の占有も出来ない。
有るものは勝手に使え、人が居ない場所であるなら、先住権は有る。
…有ると言うのとは少し違うが…つまり人が作った物を奪う事は許されない。
例えば畑、建物…
許されないと云うのも少し違うかも知れない。
街毎に当然決まりは有るが…大きくは新世界の【有徳律】がそれを許さぬのだ。
律を破る=そもそも他者の作り上げた者を対価を払わずに奪う様な精神性の低い者は殆どの場所で苦しくて住むことさえままならない。
だから少しづつ…より瘴気の深い場所、律の機能がより緩い区域へと自ら追いやられて行く事になる。
また、瘴気は邪な欲望を持つ者の周囲に引き寄せられる習性が有り、土地や他者の作った物を占有などした日には…
精神性が高い者しか住めぬ土地で母なる大地に勝手な独占欲…邪心を抱けばその土地に瘴気が集まりだす現象が起こる。
新世界に於いての最大の罪とは人の住む領域に瘴気溜まりを作り出す事で有る。
だから瘴気溜まりを作り出した人間、或いは瘴気を集める性質の人間は、より律の影響が少ない土地へと動かざるを得なくなるのだ、人々に追われ、或いは自ら苦しくなり…
その誰かが作り出してしまった瘴気溜まりは、やがては聖域の中心から流れて来る浄化の風によって時間を掛けて魔界の方にまで吹き散らされて行く事になる。
区域によって段階は有るにしても、一区から半分魔界とされる六区で有ってもその律は何処にでも影響する。
邪な者は魔界に追いやられる【有徳律】住み分けの法則はアシハラだけで無く、今現在一部解放されている西大陸、やがては世界の全ての標準となるだろう。
世界は魔界とそうではない地域でくっきりと分けられる事になるのだ。
かつての大八島国は魔界が増えすぎて移動すらも困難になっていた。
世界の他の地域に比べれば遥かにマシではあったがそれでも人々の生活は困難を極めた。
だから、世界中の神格者が集まった大戦末期、聖歴1999年から新生歴0年までに、多くの死傷者を出しながら地殻変動を起こし、人類最後の砦としてアシハラに作り替えたのだ。
そう…今現在は中央から浄化の風が吹いて少しづつ瘴気を僻地に追いやっている途上に有る。
だが吹き散らせずに、大地や沼に浸透し残ってしまった場所も存在はするのだが…これが三区や四区にも少ないながら魔界が存在する理由で有る。
大地は本来誰の物でも無い。
作った物や建物を販売は出来る。
上位者達はそれを邪魔しない。
だが…【有徳律】の法則は土地の所有は認めない。
これが新生歴0年からの無言の法であった。
この街の様にアシハラの一部の都市の廃墟には、浄水設備の有る建造物は存在するものの…例え人が住んでいる建物でも水源の所有だけは許されない。
浄水設備の有る建物に居住する住人は、分け隔てなく他者が望めば水は分け与えなければならない、とは言え、それは旧世界の都市の建造物が多い、五区や六区話であって新生歴になってから隆起して来た新しい大地、一区から三区に住む者達の家や集合住宅には個別に浄水設備は完備されているし、旧世界で住みにくい僻地扱いされていた山岳が多く、元々インフラが整っていなかった四区にはそれは当てはまらない。
それに大崩壊の影響で個別に出来た自然の水源地は兎も角として、基本的には全ての水脈はアシハラの第一居住可能区域に集約している。
そこには最低でも二区に住めるレベルの精神性の者で無ければ近付く事も出来ない。
アシハラの中心、第一居住可能区域中央に有る湖から懇々と浄化の水が湧き出ており、その水は四つの大滝から二区へと流れる。
大滝から飛び散った細かな浄化の水の飛沫は浄化の風に乗ってアシハラの上位区画や一部五区や六区にまで微量ではあるが到達しアシハラ全体を常に浄化し続けている。
一区や二区の河川から流れる浄化の祈りが込められた水流は更に先の比較的平地が多い三区や山岳地帯四区の低い位置に幾つもの支流を作って流れて行く。
勿論森や山から流れ出した雨水で新たな別の水源…沼地や湖が出来る事も有るが、四区辺りまでの精神性の高い住民はそもそも占有などしないし他者から奪う事も無い、必然的にしなくなった。
だが浄化の祈りが込められていない天然の水源地は魔界になる所も多いので、使うには少々注意が必要かも知れない。
低級の魔獣の住処、或いは沼地の妖女が占有、或いは発生している場合もある。
これは上位区画の住人達から、稀にではあるにしても発生したごく微量の瘴気が浄化の風で吹き散らされる事の弊害でも有る。
これは瘴気が低い場所、浄化の風が届かない場所に溜まってしまう為に、ある程度は仕方が無いとも言える。
上位区画のその様な場所はケガレチなどと呼ばれ、見つかり次第、強力な邪鬼や魔獣が発生しない様に浄化ギルドの冒険者達が対処する事になっている。
◆ ◆ ◆
第六居住可能区域、スス原町は他の深度の深い…瘴気の濃い場所に比べれば遥かにマシな環境に有ると言えよう。
第五居住区域にも近く、流通網もあり、周囲の都市の廃墟から旧時代の遺物の発掘も盛んで、治安はまぁ…そこまで良くは無いが大変栄えているのは間違いない。
瘴気は街の各所に揺蕩ってはいるが、近くに川が有れば…一区から流れて来るが故に殆ど力は失ってはいるが、一応は微量ながら浄化の力を宿した水も流れている。
ほぼ魔界の第七区域などは標高が最も低い地域で、流れる川の水も浄化の力を殆ど失っており、島の外周を取り囲む岩山のおかげで一日の半分は日の当たらない場所すら有るのだ、そこに比べれば天国と言っても良い。
「へぇ…殺伐としてるけど、何か懐かしい気もするわね、建物のせいかなぁ…元は尾形市の東区みたいに会社のビルが立ち並んで居たのかもね…」
美咲がどこか懐かしそうに目を細めながら呟いた。
「でも本当に不思議だね。森でも無いのに瘴気が揺蕩っている。風が吹いても全く揺らがない…何処かへ動いては居るみたいだけど、浄化の風で吹き散らしても…動きはするけどあまり浄化されないと師匠から聞いたよ?でも別に悪い事だけじゃ無くて…確かこんな話だったかな?…鉱石の話も面白くてさ♪」
英二が言う通り【浄化の風】以外の風が吹いても瘴気は全く影響を受けず、少しづつ魔界の方に動いているのみで有る、これは風の影響では無く瘴気の特性に依る現象でしか無い。
流石に六区までは浄化の風も届かない。
だが移動に関しては色が白い、或いは淡い色の霊素でも同じ事では有る。
こちらの方は上位区画や慰霊の森の様な定められた霊場に少しづつ動いている。
それらの世界の構成要素は、この世界で有れば目に見えるが下の世界では当然あっても見えない物質であり、触れる事の出来ぬ…宇宙の99%を占めるダークマターと呼ばれる構成要素でも有る。
このダークマターに比べれば、触れる事の出来る物質、または認識される酸素やその他の元素などが占める割合は…宇宙を人体に例えれば、爪の垢程度に等しい。
つまり物理的な性質を与えられた【物質】では無いので、普通の風で揺らぐ事も無いと云う事になる。
もっと正確に言うので有れば、霊素や瘴気もダークマターの中の一部に過ぎず、その殆どは物質の最小単位の原子、或いは素粒子よりも小さな、全ての構成要素の根源たる…敢えて言葉で表現するのであれば【霊子】で有ると言っても良いかも知れない。
汎ゆる生命体、或いは生命では無いと思われている水や岩、或いは火や風でさえも…或いは知性体が認識した光や闇…更には概念的な事象ですら…生成、成長の過程で霊子を取り込み、内部に霊素の塊でも有る霊体を生成する。
人類を含む生命体が成長しながら作り出したエーテル体を霊体と呼び、植物、無機物、器物、自然現象に集まった薄い自我を得た自然霊を精霊と呼ぶ。
つまり瘴気とは高度な感情を持つ知性体が存在する限り無くなる事が無い、穢れの塊であり、ネガティブな記憶を記録した霊素の事なのだ。
知性体の霊体は、多くは長い年月を経ると少しづつ拡散して霊素となり自我や記憶も薄れて行くのが通常では有るのだが、時々…魂に進化を果たし、より高みを目指し平行世界へ飛び立つ事も有る。
そう…知性体と言えど、原初の人類は魂を持っていなかったのだ、歴史を積み上げ、高度な精神性を獲得し、やがて魂が宿り、或いは作り出す存在となる。
作り出された魂は世界を飛び越え別の世界で…最初は昆虫や野生動物に宿る様になり、経験を積み知性体に宿る様になる。
だから【人類】は時代を重ねる毎に発展進化し、やがては皆が、肉体、霊体、より高度な魂を持つ三位一体の【霊長類】となるのだ。
邪鬼達に宿る黒き魂は高度な知性体、一度は霊長類となった【人類】の堕落してしまった魂と言う事になり…魂レベルのみで言うので有れば幼い魂とは比較にならぬ程に…邪悪で歪んでは居るがその力は強い…未熟な生命体の肉体と霊体を変質させる程に…
その黒き魂は未だ発展途上にあった、幼い魂しか持たぬ亜人達、或いは魂を持つ事が出来なくなった野生動物【魔獣】の肉体を乗っ取り、幼い魂を追い出し、その未熟な肉体や霊体を強引に黒き魂に満ちる欲望の力で改造し、新たな種族と成りおおせた存在で有る。
黒き魂は浄化の焔で破壊し一部は穢れも浄化は出来るだろう。
だが邪な記憶の塊で有る黒い魂を破壊すると言う事は、浄化し切れない大量の瘴気が溢れ出す事にも繋がる。
いかに浄化の焔と言えど全ては浄化など出来よう筈も無い。
瘴気は霊体に作用し精神に様々な悪影響を及ぼす。
暴力的になったり、感情的になる者も出て来る。
浄化の風で吹き散らす事は出来る、浄化の水で洗い流す事も出来る。
だが完全に浄化は出来ずゆっくりと下へ下へと…大地へ浸透する。
但し、大地に関しては浸透し大地の精霊力を阻害させながら通過させる為、浄化自体は出来ない、故に地属性に浄化の術は存在しない。
ここからが面白い所で瘴気は人類に恩恵をもたらす事も有る。
大地の物質的な側面と欲のエネルギーの塊とも言える瘴気が長い時間を掛けて接触する事で思わぬ副産物を得る事にも繋がるのだ。
長い年月を掛けて浸透した瘴気は通過の過程で、鉱石を変質させ、元の性質により鉄で有れば魔鉄鉱、銅で有ればアダマント、銀で有ればミスリル、金であればオリハルコン…アシハラではヒヒイロカネとも呼ばれる希少な金属に変化する。
これは植物や魔獣と呼ばれる存在も同じ現象が起こっているとも言える。
植物に宿る微精霊に変化は無いが、植物自体は瘴気に長い年月…数十年数百年を掛けて世代を追う毎にその元の性質から変化し、希少な薬草や毒草、或いは野生動物や人間、邪鬼を問わず捕食する様なな凶悪な生命体に変化する事も有る。
また野生動物は魂を宿せなく成り、魔獣へと変貌するが…そういった植物や魔獣からは矢張り、希少素材が採集出来る様になるのは、知性体の欲望の残滓で有る瘴気にしか成せぬ神秘なのかも知れない。
そんな二人の会話を聞いた正人が興味を示した。
「へぇ~希少鉱物かぁ…術の触媒にはどうなんだろうな?でも瘴気で変質したってのがね。あんまりイメージはよくないよな…」
そんな正人の言葉に英二と美咲は何気ない返答を返す。
「それは問題無いんじゃ無いか?変質したとは言ってもあくまで変化した物質なんだからさ、特別な念を込めた人形みたいな呪物とは違うわけだし、稼いでる冒険者は上から下まで希少金属や希少素材の装備で固めてるらしいから大丈夫だと思うよ?」
「お金に余裕が出来たら正人君もそんな装備を揃えてみても良いかもね♪」
だが、次の正人の言葉で微妙な空気感になってしまった。
「そっかぁ…じゃあ下の世界に持ち帰ったら結構価値出るかもだし、考えてみるかぁ~」
話を変える様に再び英二が話出す。
「………………だね……ああ、それで…瘴気ってのは…」
瘴気自体は大地を透過し下へ沈んで行くのみ、だからと言って惑星の中心を通って逆側へ、と云うわけでは無く、プレートに到達すると龍脈のエネルギーに触れ下の世界へ次元を超えて下って行くのだ。
霊体のままでは次元の壁を通過出来無いが霊素…瘴気レベルで有れば透過して別の世界に浸透する。
下の物理世界では三つの領域に分かれているので、魔界に相当する領域のみに降り積もり、更に下へ浸透していく。
三千世界を巡り最後は最も下の世界に蓄積し、星の終焉…或いは何処にも存在しない領域に落ち…全てすり潰され、元の最小の構成要素、【霊子】へと戻るのだと言う。
その霊子は何処から来るのか?
と…言えば天上より再び舞って来る。
……より高次元の世界から綺麗な霊素は再びやって来るのだ。
その有り様は空を見上げれば雲とは別の半透明の靄として見えるかも知れない、濃く固まっている事も有り、それはエンゼルフェザーとも呼ばれる。
「はぁ~なるほど、何と無く分かった気がします、向こうの世界でエンゼルフェザーを見たと主張する人は…恐らくは分断されて見えない筈の霊界を見る才能が有る人だったんですよ…UFOも一緒に見たなんて場合は…向こうの星神達もそれを観測してた…みたいなオチですかね?地球人より霊性は高いらしいので分断された霊界も見えるのでしょう…ウンウン」
元より帰るつもりが無い涼夏は空気を読まず考察に走り、真偽不確かな結論で纏める。
少し気不味さ感じたのは英二だけで、他三人は全く気にしていないらしく…或いは正人は希望を失っていないのだろう。
「下の俺達の世界は分断されている。そこに俺達が帰還出来るチャンスが有るかも知れない。だけど移動する為の穴を作るには膨大な霊力が必要になる…だからどうしても焔の巫女が必要なんだよな…方法が見つかっても霊力量が無けりゃ次元の裂け目は開く事すら出来ないんだ…」
つまりどう言う事かと言えば、魔界に次元の裂け目は作り易い、こちらから帰還する時には、穴を通った場合恐らくは下の世界の魔界に相当する幽界、或いは常世と呼ばれる領域に落ちる事になる。
普通で有れば霊素、瘴気しか通れない穴を膨大な霊力を使い事象を捻じ曲げ穴をこじ開ける。
下の世界では生きている人間はそこに存在出来ない、つまりはそこから生者の領域に強引に弾き出される事になる。
過去の邪鬼達が生者の領域に出ているのだから、恐らくはそういった現象が起こったのでは無いか?との考察でしか無いのだが…
果たしてその理論が確かなのかどうなのか確認のしようも無いが、他の方法や情報が無い以上その前提で動くしか無いだろう。
基本的は上の世界や横の並行世界には行く事が出来るが、上下の世界間移動は全く無いわけでは無いにしろ、横軸の移動が起こったケースよりも遥かに事例が少ないのだ。
正人が来てしまったのはこの世界に何らかの因果があった為に、歪みに飲み込まれたのだろうとマドカは言っていた。
瘴気が抜ける場所と因果律…それが重なって起きた事故なのかも知れない。
他の三人は…恐らくは…
とばっちりで有る。
正人の因果に連鎖的に引き摺られたと見るべきか?
例えば周囲に正人とは一切関わりの無い、無関係の観光客がいたとすれば正人達は突然消えた様に見えたに違い無い。
この世界の他の場所にも下の世界から人が来た伝承や痕跡は有るらしい…が…
転移する場所は瘴気が溜まり易い魔界になってしまう。
それは瘴気の本質が歪みや欲望…つまり変化を起こす性質で有る事にも由来するのかも知れない。
というわけで、転移後に生き残れる確率は非常に低いらしい、特に今の時代の様に世界の殆どが魔界で有る場合には…深い森の中を歩く者など滅多にいるまい。
一応時代は違えど同郷で有る戦国時代の武士、高木弥之助がこちらに来てしまったのも何らかの縁があったからなのだろう。
血か…肉か…魂が引き寄せられたのか?
それとも元々…時空の歪が発生しやすい地域なのか?…
或いは他の並行世界で同じ事があった為の連鎖反応で有ると言うケースも考えられるが、詳細は霧の中だ。
兎に角正人達が帰還するには事象を捻じ曲げる以外に方法は無い。
下の幽界に落ち、生者の領域に弾き出されるのを期待するしかあるまい。
そして…弾き出される先は鬼出の泉…あの周辺になる筈だ。
◆ ◆ ◆
四車線道路には一部の通り道を残し、両脇に露天商と買い物客が溢れている。
何とも雑多な種族と人種の群れ、露店も多種多様な文化が入り乱れている。
アシハラ人らしき者もチラホラ見掛けるが、顔立ちから察するに西大陸極東の人々だろう、現人と見分けが付かないが稀に細い尾がチラリと見えるのは同じく西大陸極東から南部に多い有尾人で間違いない。
東洋風の顔立ちの者達は殆どが西大陸極東地域からの避難民の子孫だと思われ…恐らくは仕事で来ているか観光客の類だろう。
この街の住人の大多数を占めるのは白人や黒人、白人同様に彫りが深い顔立ちに白髪に近い金髪、目の虹彩が独特な有角の山羊人や羊人などの獣人達は東大陸からの避難民の子孫達だろう。
人口の少ない大型獣人こそいないが、まさに種族の坩堝の様な場所である。
この場にいない水棲系種族は魂を持つに至り、人語を話す種もいるが、殆どが人型で無いので地上人との接触は少なく、水中で独自の文化を築いている。
人魚の様に下半身が魚類のままの種は淡水系の種族の一部、真人や神人に進化したごく少数の者が、一区の巨大湖で浄化の水を作り続ける仕事に着いているらしい。
一般の者はアシハラ南部の港で稀に取り引きに訪れるくらいでこちらもほぼ接点は無い。
海底にも魔界は有る様で、海竜の様な魔獣や人魚種の魂を持つに至れ無かった下位種が黒き魂に乗っ取られ邪鬼と化し暴れ回っているらしいが、高度な水の術を使える者で無ければ水中に行く術も無いので水の中の事は水棲人に任せる他無いのだろう。
詳しい話は殆ど聞かない。
爬虫類種に関しては、今の人類が知るのは青鱗の魔女や魔獣化した飛びトカゲの如き存在しか存在しない、竜人、ナーガ、レプティリアンと呼ばれる下手な星神より高度な存在は既に地球を去って久しく、そもそも町中などで見掛ける存在でも無い。
そんな水棲系や爬虫類系、大型獣人を除く全ての種がこの街で暮らし、或いは数多く訪れている。
このスス原町は第六居住可能区域の中でも最も栄え人の多い街であると言えよう。
まぁ…その分、殺人、窃盗、詐欺、その他の犯罪や霊障被害の坩堝とも言えるのだが…
今の世界にはかつて国であった場所でさえ数千人の人口しか無い場所もざらにあるのだ。
ここまで欲望に満ち溢れ、尚且つ栄えてる都市は珍しいかも知れない。
「流石は北部最大の街…瘴気は少し気になるけど…それでも流石に昼間は活気が有るなぁ…」
露店で売られてる物は主には食料品…原材料が多い…これらを売って居るのは外…五区から来た商人達だろうか?
護衛の冒険者も近くに居るので分かりやすい。
現地人は廃墟を漁って掘り出した過去の遺物などを販売している。
使えるのかどうか分からないが通信機らしき物も売られている。
沢山のボタンにデジタルウォッチの様なサイズの小ささに比べ大きめガラス板が嵌め込まれた画面の通信機らしき遺物もある。
正人達の世界には無いモノだが、ここは三百年近く先に相当する世界でも有る。
いつかは正人達の世界でも似た物が販売される様になるのだろうか?
これらの遺物は、外から来た冒険者や商人が購入している様だった。
店先で物色していた術師風の狼人に尋ねてみた。
「それって使えるんですか?」
「どうかな?それは俺も分からない、これは四区や五区にコレクターとか職人がいてさ、そいつらから依頼が出てるんだよ、前時代の廃墟が多いからな、魔界の多い第六居住可能区域に来るのなんて、商人か冒険者、後は変わり者の観光客とか…おたくらは?…あぁ浄化ギルドなんだ…じゃあこう言う依頼は無いかもね。」
「へぇ…ああ…そうだ酒場とかで知ってるトコって無いですかね?危ない店が多いみたいで…店もいっぱい有るみたいだし、人探しなんですけどね。何処から探して良いものか…ちょっと途方に暮れちゃいますよねぇ…ハァ…」
「あぁ…それなら…実は遺物の購入依頼はアルバイトみたいなモンでさ、俺の正式な所属は守護ギルドなんだ。ウチの依頼主が酒場に商品卸す業者でね。なんなら紹介しようか?」
偶然に出会い声を掛けた獣人の紹介から、物事は動き出す事になる。
大幅修整しました☆
一部設定変えたり、追加要素はありますが大筋は変わりません。
加筆修正終わり次第ちょっびっとづつ再公開してきます。




