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閑話〜異世界転移した武士



「ハァ?円の上人(えんのしょうにん)役行者(えんのぎょうじゃ)では無くて?あれぇ?妙庵院の尼さんに聞いた話と違うなぁ???」


正人は聞いた話と違うと、戦士風の白髪の老人に問う。


「と…言われてもなぁ?ワシが向こうに居た頃は鬼出村(おにいでむら)にそんな尼寺は無かったからのぉ…分からぬよ…」


正人達が辺境の入り口アシハラ東部エリア、第五居住可能区域のこの街、北星町に入ったのは旅立ちから十日程後の事であった。


異界から流されて来た戦士、と言う触れ込みの冒険者であるこの老人は、街に入ってから直ぐに見つかった。


割とすぐに見つける事が出来たのはこの老人、高木弥之助(たかぎやのすけ)が、この街の浄化ギルドの支部のギルドマスターであったからだ。


話を聞けば正人達と同じく南の赤い森の、あの場所に転移させられたらしい、少なくともこの老人の故郷は山間(やまま)の周辺であったのは間違い無い。


聞いた地名も有る…だが問題も大いに有る、この老人の存在、来た場所、年代…それは正人達の帰還を阻む壁であるのかも知れない。


「時代も違うでなぁ、お前さん達は随分後の時代の者なんじゃろ?四百年近く…【言の葉の護符】が無ければ話も殆ど通じんだろうさ、それにワシが鬼出の泉の見物に行ったのは元々、お前らが言う妙庵院?の場所に、上人様の社と権現様が祀られておったからな…参拝のついでだったんじゃよ…」


時代が違う、もし帰れたとしても、とんでも無い時代に行く羽目になったら?


正人は先程からどうしてもその不安が、脳裏によぎってしまう。


そんな正人の不安を英二が破る。


「円の上人…役小角(えんのおずの)の伝説は日本各地にありますが、鬼神を顕現(けんげん)させたとか、神を呼んだが役に立たないと谷底に投げ捨てたとか、時代の流れの中で同一視される事は良く有る事です、ふぅむ…」


弥之助が顎髭(あごひげ)を引っ張りながらそう言えば…と。


「……そうそう、その…役小角?の事は良く知らんが、祀られておった鬼神、愛羅権現(あいらごんげん)様は降魔(ごうま)鬼神(きしん)、戦の神などと呼ばれておってなぁ、円の上人様が顕現させたと伝えられておってな?そんで、確かあん時は、織田が攻めて来るちゅーてなぁ〜、尾形の殿様が戦の準備しとって、我等山川家の郎党も戦勝祈願でそれぞれ権現様に参拝しとったっけ?…」


美咲が微妙な表情で口を挟む。


「山川ねぇ、元彼と同じ名字であんま気分良く無いけど、結構いっぱい有る名字だし、流石に関係無いだろうけど、ん〜〜?編集長んトコで山川家がどうとか聞いた様な気がするんだけど…」


涼夏が眼鏡をクイッと上げながら弥之助に質問する。


「そうデスね確か…ギルドマスターはもしや…山川種厚と言う名前をご存知では?」


老人がハッと目を輝かせる。


「おお!四百年の後の世にもその名前は知られておったか!種厚様は我らの総領であった。そうか…では織田の侵攻も?」


「ああ、えっと確か、豪傑、吉野勝正と勇将、山川種厚がいなければ織田軍は押し返せ無かった…とか?」


正人の一言に老人は天井を見上げて目頭を揉む。


「……そうか…種厚様は…織田を…吉野家と山川家は山間の二代武家、尾形の殿様と共に祖父の代には下剋上を果たし…でも、高木の家は弟が継いだのであろうが、ワシは織田を恐れて逃亡したとか、そんな扱いになっとるのかと思うと…くうっ!聞かなきゃ良かった。」


老人の悔恨は無視して、山川種厚について聞いてみる。


「へぇ~爺さんの主君かぁ、どんな人だったんだ?」


「おっ!若様か?ワシも元服してすぐの頃は若様の供回りとして領内の村々を練り歩いたものよ、それはもう麗しい武者振りでなぁ〜道を歩けば女達から黄色い悲鳴が上がるほどで、そりゃあもう…ゲフン…お子には困らず山川の家は安泰で…」


美咲がゲンナリした表情で呟く。


「うわぁ、やっぱりアイツの先祖かも…もう二度とあんなのに引っ掛からないけどさ、小領主の家系なのに四百年後は団地住まいって、やっぱり因果応報で悪い事とか…そうそう!一回あいつの家であいつの母親に現場見られ…」


美咲の様子を見て英二が話題を変える。


…それ以上聞きたく無かったのだろう…


「ゴホン!えっ、えっと、それでギルドマスター!よくあの森に転移して無事でしたね!小鬼には見つからなかったんですか?それとも真人の誰かの助けが入ったとか?」


「いんやぁ?ワシの時は仙人共は来なかったぞい?まぁ…腰に刀も差しとったでな、ワシの刀は鋳物の量産品だったけどなぁ〜♪それでも折れて曲がるまでは随分役に立ってくれた。それにワシは、異界に転移したなどと気付いてもおらんかった。」


「じゃあ爺さんは小鬼と出くわさなかったって事か?平地だから気付きそうなもんだけどな?」


「いや、何か変だなぁとは思うとったよ?泉もなくなっとったしなぁ、夕暮れ時で…付近の民家に泊まって翌日帰ろうとも思っとったしな、普通じゃろ?山間から馬で二日は掛かる場所じゃぞ?あ、お前らの時代なら…鉄の車があったんじゃっけ?こっちにも残り少ないが、ワシもアレが走っとるのは一度も見た事無いでなぁ…」


話が少し逸れた事に気付き、軌道修正する。


「あ、あぁ…えっと…そうそう天邪鬼にも出くわしたよ?最初は流石に驚いたが、じゃが円の上人様や鬼切り左衛門の伝説を思い出してなぁ、これでワシも鬼退治の豪傑だと、勇んで斬り殺した。まぁ三匹程の、狩の途中の奴だったんじゃろ?向こうの方が驚いたとった。」


「おお…流石大昔の侍、やっと少し尊敬出来たぜ…ん?円の上人?何でソイツがここで出て来る?何か鬼退治と関係あんの?尾形氏が編纂した山間討鬼伝にはそんな記述は一行も…」


老人は正人を睨みながら脅す


「小僧、お前さっきからワシの事ちょっと舐めとるじゃろ!口の聞き方がなっとらん!ワシここのギルドマスターなんじゃけど!?…後で覚えとけよ?…」


「いやぁ、でもさぁ平地だぜ?あの森、山道と間違えようなんか普通無いでしょ?舐めてはいないけど…ちょっと…って思うじゃん?」


気を取り直して老人は話し出す。


「…まぁ…ええワイ…なんちゃら伝は知らんがのぉ、山間を救ったのは円の上人と初代の尾形左衛門だと言われとる。山間が鬼に襲われた時も西から任命された領主は山間の民など関係無いと、己の屋敷と領地に引き籠もったと伝えられておる。代々の領主はみんなそんなモンでの、確かに山間はあの領主の一族の土地では無かったがな、取引もしとったし、人だって働きに出しとったんじゃ、それが積もり積もって。ワシの爺さんの代に尾形の殿様がぶっ殺して奪ったワケじゃな♪焼き討ちして一族郎党皆殺しよ♪ワハハハ!」


などと楽しげに語っており、とは言え当時の人間の価値観を現代の尺度で測る方が愚かではあるのだが、英二以外の三人はドン引きで有る。


「成る程、左衛門は当時無名の兵士で鬼退治の功績で領主から姓を賜ったと聞いてますが?」


「はて?その辺はワシにも詳しくは分からん。高木の家は山川の郎党に過ぎぬ、小僧はワシを侍と言うが、高木の家は武士では有るが侍では無い、侍と言うのは山川家や吉野家の事よ、尾形の殿様など雲の上の方じゃしなぁ?左衛門の話にしても伝説みたいなもので天邪鬼を実際に目にするまでワシも信じとらんかったし、じゃが山間の伝承では鬼共に荒らされた後に、生き残りを保護して何くれと世話を焼いたのが左衛門様と、円の上人様の縁の者だと伝えられとる。長い事付き合いがあったから、ワシらの先祖も尾形に仕えたんじゃろ…」


涼夏が疑問を口にする


「私達の時代には円の上人では無くて役小角に変わってましたけど?(ゆかり)の者と言う事は血縁関係でも居たとか?それとも弟子みたいな?」


「ん?確か三人の息子がいた…と言う様な話は聞いた事が有る様な無い様な…あぁ、一人は吉野家の娘と一緒になったみたいな話も聞いた気が、まぁ吉野の泊付けかも知らんけどなぁ、もう一人は西の山を越えて海に向かい、末っ子は篠山の北に向かったんじゃ無かったか?…いや坊様なのに息子がいるのもおかしいか?違うかも知れん、おお!弟子も沢山おったらしいぞ!都から来た僧侶で…尾形の所領の北の方で…そう!天言宗の開祖が上人様の弟子じゃよ確か…」


「天言宗…あぁ、少ないけど東京にもあったなぁ?その宗派の寺…ウチは違ったけど…へぇ~あの辺に本山みたいのが有るのか?」


美咲が手を上げる。


「ハイ!ハイ!アタシ知ってるよぉ!私立の女子高とか幼稚園経営してる所!親友の母校なんだよ♪喧嘩も売りに行ってるし♪」


「喧嘩売りに…まぁ…いいけど…まぁ…なんて言うか、千年後だか何百年後には名前も忘れられて、他の奴にすり替わっちゃってるってのも哀れだよなぁ?多分命がけで小鬼達と戦ったのに、でも小鬼で助かったのかもな、噂に聞く大鬼とかだったら向こうの人間には対処不能だろうし…さ」


老人が目を剥く。


「天邪鬼だけでは無かったらしいぞ?未来には伝わらんかったのか?黒い大鬼と鬼神の伝説的な戦いの話は、儂らが(わらべ)の頃は大人達がそんな話をしてくれたモンだが…」


正人は眉を顰める。


「そこなんだよなぁ?今思い返せば鬼神の話は血塗川の由来で少し残ってたけど、大昔には法力みたいなモンがちゃんとあったって事なのか?話に聞く大鬼ってのは人にどうこう出来る存在じゃ無さそうだけどなぁ?」


英二が持論を述べて纏めに入る。


「いや、どうかな?渡辺の綱…酒呑童子や茨城童子の伝承も有る。転移出来る場所があそこだけとは限らないし、それに大昔の法力僧や陰陽師の話だって有るんだ。現代の尺度で全てを判断は出来ないんじゃ無いか?星神、宇宙人が力を貸して対処した可能性だって有るかも知れない、かぐや姫…虚ろ舟の蛮女なんかのそれらしい伝説も、可能性は有るだろ?…向こうにもいるらしいからね…星神は…」


それに涼夏も追随する。


「デスデス!マドカ様のお話だと向こうは霊界や神界と分断されてて法力なんかは行使しにくいって言ってましたけど、それでも時代によって世界の認知は変わるとも言ってましたから、やっぱり現代よりはそう言う霊的な力が行使しやすかったんですよ♪きっと♪」



◆ ◆ ◆



ギルドハウスの応接室でお互いの情報のすり合わせと、最も重要な帰還の方法に付いての話を振ってみたが、弥之助は元々帰るなどと言う頭も殆ど無かったらしく、有用な情報は持っていなかった。


「マジかよ?!普通帰りたいだろ?爺さんなんかは特に、家名がどうとか名誉がうんたらの時代の人なんだからさぁ…」


「…そりゃあ…まぁ、ちっとは考えん事も無かったが、森から出て彷徨ってる時に腹が減ってなぁ、どこかで獣かせめて木の実でもと…で山でアイツと会っちまったでな…」


と言いつつ小指を立てる。


この仕草はこちらでも同じらしい。


「え〜♪なになにぃ〜?恋バナ?おじいちゃんの奥さんとか?聞きたい聞きたぁ~い♪」


美咲がワクテカし始めるが、弥之助はそれを否定する。


「いやぁ~そんな期待される様な色っぽいモンでも、良い話でも無いぞい?最初は殺し合いでなぁ、ワシも南の港で南蛮人と取り引きする種厚様に付いて、男はチラリと見た事はあったが、女は初めて見たでな」


「殺し合いって、何でまた。」


「ん〜そうじゃなぁ、当時は…あの場所は第六居住可能区域で西方人が多い地域でな、第五辺りはもう落ち着いとったらしいが、ワシは現地のアシハラ人と間違えられてのぉ、女房のアメリアは移民の子孫って奴でな。まぁ…文化の衝突の煽りみたいな、ちょっとした地域紛争の最中にワシが現れた…と」


「あぁ…東大陸の、ちょっと聞いた事が有る。それで良く一緒になれたよな…」


「ワシもびっくりしたぞい、目があった瞬間!いきなり火縄も無い、ちっこい鉄砲ぶっ放しよってのぉ!まぁ!ワシには当たらんかったけどね!」


「銃弾避けたって?マジかよ…」


老人は自身満々に答える。


「当たり前よ!童の頃は怪童(かいどう)などと呼ばれとった。ワシの伝説の一つにな?五つぐらいの時じゃったかなぁ?虫取りしながら三日ぐらい山の中歩いた事も有るのだぞ?親父殿にはたっぷり説教食らったが…」


「それって…凄い…のか?…」


「…弾丸避けて鉄砲奪って、取っ組み合いになって、アメリアが【言の葉の護符】をもっとらんかったら、どうなっておったか、向こうも争いが嫌で家出した所を迷子になっとったらしくてな、んで…二人して第五居住区域に行こうって話になってな、来たは良いが金も住む所も無い、第四や第三みたいに人助けする様な者がおる区域でも無いでな第五は、そんで二人して冒険者ギルドに登録したのよ、でいつの間にやら夫婦(めおと)になっとった。まぁ…腐れ縁じゃな」


「なるほどね、生きるのに精一杯で帰る方法探す余裕は無かったって事か…じゃあ、やっぱり焔の巫女を探すしか無いのか?問題を抱えてる焔の巫女か、人に聞いても心当たり無さそうだし、片っ端から当たるしか…」


老人がヒゲを引っ張りながら微妙な表情で何かを考えている。


暫くそうした後に、何か思い立った様に応接室の扉を開け、階下にいる受付の娘を呼ぶ…


「お~いジョエル!一昨日来てた案件あったろう?!アレの詳細持って来てくれ!あとお茶のおかわり!」


「はぁ〜い!ねぇ!お祖父ちゃん!一昨日の案件ってどれ?!いっぱいあるんだけど?!」


どうやら、受付嬢は弥之助の孫娘らしい。


「あーあれ!焔の巫女の一人が小鬼に攫われたとか言うアレじゃよ!北の大森林…じゃったかなあ?第六に近い街の…」


あちこち巡る覚悟をしていた所であったが、意外と早くマドカの予言は成就しそうであった。





好評価ブクマ宜しくお願いしますm(_ _)m

手直し完了。


世の中に有る物事は、全て何らかの意味が有るのだぞ?

それを人間の尺度で邪だ悪だと見るから堂々巡りになるのだ…

 らしいぞよ?


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