①異世界転移したサムライ
三区の外れに有る村で装備を整え、マドカと別れた後、途中の村で【興味深い情報】を得て、四区を通り過ぎ、そのまま魔界の玄関口でも有る五区の東部に向かう事になった。
何故に四区は通過するだけなのかと言えば、簡単に言えば冒険者としては平和故にメリットが薄い地域…と言えるかも知れない。
四区辺りでは冒険者の需要は少なく、あったとしても結局は六区以降の魔界に赴いての前時代の遺物の探索やら、希少素材の探索依頼が探索系のギルドで出ているくらいで、結局は魔界に行く仕事ばかりになっている。
勿論アシハラの食料生産の大部分を賄って居る土地故に、作物を荒らす獣…時には魔獣も発生したりはするが、殆どが冒険者に頼らずとも対処出来るレベルであり、浄化ギルドに依頼が来るのは手に負えない魔獣【大猪】や【火熊】が出た時くらいで、それも滅多に有る事では無い。
正人達が登録した浄化ギルドの仕事は、四区周辺では滅多に無く、上位者が運営しているギルド故に、他のギルドから避けられているわけでは無いにしろ、少し距離を置かれる立ち位置ではは有るだろう。
とはいえそれは浄化ギルドに問題が有ると言うよりは、他のギルドが結局の所商売を目的としてるが故に、恐れ多い…或いは後ろ暗い気分になってしまう為だろうか?
依頼者も邪鬼に家族を攫われた者で有るとか、魔獣の繁殖による被害で有るとか、割と切実な…死地に赴く様な依頼や、三区の研究者が発注する依頼などは【魔界の深部における瘴気による植生及び鉱物の変異】の調査等々多分に学術的な依頼が多い事も有り、敷居が高くより近寄り難いイメージになっている。
依頼の料金もそれほど高くは無いが、案件を受ける受けないは緊急度による部分も有り、運営自体もほぼ三区の環状都市群からの支援と寄付で成り立っている組織でもあり、個々の冒険者のモラルも高く、故に札束で頬を叩く様な依頼をする者はおらず、そもそもそう言った手合いは依頼して来ない。
と…まぁ、どちらにせよ上位四区画からの依頼は少ない上に、学術、収集系ばかりで、討伐系や護衛の依頼が多くなるのは矢張り五区以降がメインだと言って良い。
正人達の目的で有る焔の巫女達も五区から先の魔界に散っているのだから、そちらに行くべきだろう。
四区東部を通過し徒歩で一ヶ月掛からずに五区に入る事が出来た。
そして街道沿いの森林地帯で【色付き】が率いる小鬼達と…精神支配され魔獣の如く戦闘奴隷と化した大型獣人、【馬頭】との遭遇戦と相成った。
皆のそれぞれの活躍もあり、正人は【色付き】の小鬼を仕留める事に成功した。
火炎と物質の形質変化を得意とする邪言使いだった様だが、些か反則気味の【地霊の刃】でほぼ無傷での討伐を完遂した。
とはいえ無茶な願いによる精神力と霊力の過剰消費で一度座ったら立ち上がるのも困難になり…危険な森の中で野営をする羽目になった事は反省すべきだろう。
精神支配から解放し共に野営した馬頭人から、村で礼がしたいとの申し出を受けたが、どうやら魔界の深部に村が有るらしく…また焔の巫女の情報持っていないとの事で、いずれまた機会が有れば…と丁重に断り【興味深い情報】の方を優先する事にした。
そして一ヶ月掛からずにアシハラ東部の町、北星町に辿り着いたのであった。
◆ ◆ ◆
「ハァァ~?円の上人?役行者では無くて?あれぇ?妙庵院の尼さんに聞いた話と違うなぁ???」
正人は聞いた話と違うと、戦士風の白髪の老人に問う。
「と…言われてものぉ?ワシが向こうに居た頃は鬼出村にそんな尼寺は無かったからのぉ…分からぬよ…」
【興味深い情報】…異界から流されて来た戦士、と言う触れ込みの冒険者であるこの老人は、街に入ってから直ぐに見つかった。
割とすぐに見つける事が出来たのはこの老人、高木弥之助が、この街の浄化ギルドの支部のギルドマスターであったからだ。
話を聞けば正人達と同じく南の赤い森の、あの場所に転移させられたらしい。
少なくともこの老人の故郷は山間の周辺であったのは間違い無い。
老人の話を聞く限り知っている地名も有る。
…だが問題も大いに有る。
この老人の存在、来た場所、年代…それは正人達の帰還を阻む壁であるのかも知れない。
「時代も違うでなぁ、お前さん達は随分後の時代の者なんじゃろ?四百年近く…【言の葉の護符】が無ければ話も殆ど通じんだろうさ、それにワシが鬼出の泉の見物に行ったのは元々、お前らが言う妙庵院?の場所に上人様の社と権現様が祀られておったからな…参拝のついでだったんじゃよね。…」
時代が違う、もし帰れたとしても、とんでも無い時代に行く羽目になったら?
正人は先程からどうしてもその不安が、脳裏に過ってしまう。
そんな正人の不安を英二が破る。
「役の行者…役小角の伝説は日本各地にあります、鬼神を顕現させたとか、神を呼んだが役に立たないと谷底に投げ捨てたとかですね。まぁ…時代の流れの中で同一視される事は良く有る事でが…ふぅむ…」
弥之助は白くなった顎髭を引っ張りながらそう言えば…と。
「……そうそう、その…役小角?の事は良く知らんが、祀られておった鬼神、えっと名前は何と言ったか?愛…何じゃったっけ?まあ…権現様は降魔の鬼神、戦の神などと呼ばれておってな、円の上人様が顕現させたと伝えられておる?そんで…確かあん時は織田が攻めて来るちゅーてなぁ、尾形の殿様が戦の準備しとって、我等山川家の郎党も戦勝祈願でそれぞれ権現様に参拝しとったんだっけか?…」
美咲が微妙な表情で口を挟む。
「山川ねぇ、元彼と同じ名字であんま気分良く無いけど、結構いっぱい有る名字だし、流石に関係無いだろうけど、ん~~?編集長んトコで山川家がどうとか聞いた様な気がするんだけど…」
涼夏が眼鏡をクイッと上げながら弥之助に質問する。
「そうデスね確か…ギルドマスターはもしや…山川種厚と言う名前をご存知では?」
老人がハッと目を輝かせる。
「おお!四百年の後の世にもその名前は知られておったか!種厚様は我らの総領であった。そうか…では織田の侵攻も?」
「ああ、えっと確か、豪傑、吉野勝正と勇将、山川種厚がいなければ織田軍は押し返せ無かった…とか?」
正人の一言に老人は天井を見上げて目頭を揉む。
「……そうか…種厚様は…織田を…吉野家と山川家は山間の二代武家、尾形の殿様と共に祖父の代には下剋上を果たし…でも、高木の家は弟が継いだのであろうが、ワシは織田を恐れて逃亡したとか、そんな扱いになっとるのかと思うと…くうっ!聞かなきゃ良かった…」
老人の悔恨は無視して、山川種厚について聞いてみる。
「へぇ~爺さんの主君かぁ、どんな人だったんだ?」
「おっ!若様か?ワシも元服してすぐの頃は若様の供回りとして領内の村々を練り歩いたものよ、それはもう麗しい武者振りでなぁ~道を歩けば女達から黄色い悲鳴が上がるほどで、そりゃあもう…ゲフン…お子には困らず山川の家は安泰で…」
美咲がゲンナリした表情で呟く。
「うわぁ、やっぱりアイツの先祖かも…もう二度とあんなのに引っ掛からないけどさ、小領主の家系なのに四百年後は団地住まいって、やっぱり因果応報で悪い事とか…そうそう!一回あいつの家であいつの母親に現場見られ…」
美咲の様子を見て英二が話題を変える。
…それ以上聞きたく無かったのだろう。
「ゴホン!えっ、えっと、それでギルドマスター!よくあの森に転移して無事でしたね!小鬼には見つからなかったんですか?それとも真人の誰かの助けが入ったとか?」
「いんやぁ?ワシの時は仙人共は来なかったぞい?まぁ…腰に刀も差しとったでな、ワシの刀は鋳物の量産品だったけどなぁ~♪それでも折れて曲がるまでは随分役に立ってくれた。それにワシは、異界に転移したなどと気付いてもおらんかった。」
「じゃあ爺さんは小鬼と出くわさなかったって事か?平地だから気付きそうなもんだけどな?」
「いや、何か変だなぁとは思うとったよ?泉もなくなっとったしなぁ、夕暮れ時で…付近の民家に泊まって翌日帰ろうとも思っとったしな、普通じゃろ?山間から馬で二日は掛かる場所じゃぞ?あ、お前らの時代なら…鉄の車があったんじゃっけ?こっちにも残り少ないがあるぞい?ワシもアレが走っとるのは一度も見た事無いけどな…」
話が少し逸れた事に気付き、軌道修正する。
「あ、あぁ…えっと…そうそう天邪鬼にも出くわしたよ?最初は流石に驚いたが、じゃが円の上人様や鬼切り左衛門の伝説を思い出してなぁ、これでワシも鬼退治の豪傑だと、勇んで斬り殺した。まぁ三匹程のう…狩の途中の奴だったんじゃろうな…向こうの方が驚いたとったわ。」
「おお!流石大昔の侍、やっと少し尊敬出来たぜ…ん?円の上人?何でソイツがここで出て来る?何か鬼退治と関係あんの?尾形氏が編纂した山間討鬼伝にはそんな記述は一行も…」
老人は正人を睨みながら脅す…口の聞き方がカンに触ったらしい。
「小僧、お前さっきからワシの事ちょっと舐めとるじゃろ!口の聞き方がなっとらん!ワシここのギルドマスターなんじゃけど!?…後で覚えとけよ?…」
「いやぁ、でもさぁ平地だぜ?あの森、山道と間違えようなんか普通無いでしょ?舐めてはいないけど…ちょっとねぇ…って思うじゃん?」
気を取り直して老人は話し出す。
「…まぁ…ええワイ…なんちゃら伝は知らんがのぉ、山間を救ったのは円の上人と初代の尾形左衛門だと言われとる。山間が鬼に襲われた時も西から任命された領主は山間の民など関係無いと、己の屋敷と領地に引き籠もったと伝えられておる。代々の領主はみんなそんなモンでの、確かに山間はあの領主の一族の土地では無かったがな、取引もしとったし、人だって働きに出しとったんじゃ、それが積もり積もって。ワシの爺さんの代に尾形の殿様がぶっ殺して奪ったワケじゃな♪焼き討ちして一族郎党皆殺しよ♪ワハハハ!」
などと楽しげに語っており…
とは言え当時の人間の価値観を現代の尺度で測る方が愚かではあるのだが、英二以外の三人はドン引きで有る。
ドン引きして言葉を失った三人の変わりに英二が質問し始めた。
「成る程、左衛門は当時無名の兵士で鬼退治の功績で領主から姓を賜ったと聞いてますが?」
「はて?その辺はワシにも詳しくは分からん。高木の家は山川の郎党に過ぎぬ、小僧はワシを侍と言うが、高木の家は武士では有るが侍では無い、侍と言うのは山川家や吉野家の事よ、尾形の殿様など雲の上の方じゃしなぁ?左衛門の話にしても伝説みたいなもので天邪鬼を実際に目にするまでワシも信じとらんかったし、じゃが山間の伝承では鬼共に荒らされた後に生き残りを保護して何くれと世話を焼いたのが左衛門様と、円の上人様の縁の者だと伝えられとる。長い事付き合いがあったから、ワシらの先祖も尾形に仕えたんじゃろ…」
気を取り直して…涼夏が疑問を口にする
「私達の時代には円の上人では無くて役小角に変わってましたけど?縁の者と言う事は血縁関係でも居たとか?それとも弟子みたいな?」
「ん?確か三人の息子がいた…と言う様な話は聞いた事が有る様な…ん?あれは山姥と三人の子の昔話じゃったか?まぁ…どっちかは兎も角、一人は山間の娘と一緒になり吉野家の祖となったとか?まぁ吉野の泊付けかも知らんけどな、もう一人は西の山を越えて海に向かい、末っ子は篠山の北に向かったんじゃ無かったか?…いや坊様なのに息子がいるのもおかしいか?やっぱり山姥の方かも知れん、おお!上人様には弟子も沢山おったらしいぞ!都から来た僧侶で、阿良川氏の所領で起こった天言宗の開祖が上人様の弟子じゃよ?確か…」
「天言宗…あぁ、少ないけど東京にもあったなぁ?その宗派の寺…ウチは違ったけど…へぇ~あの辺に本山みたいのが有るのか?」
美咲が手を上げる。
「ハイ!ハイ!アタシ知ってるよぉ!私立の女子高とか幼稚園経営してる所!親友の母校なんだよ♪喧嘩も売りに行ってるし♪」
美咲の荒れた高校時代の話にげんなりしつつ…正人は時の侵食と歴史の不確かさに溜息を付く。
「喧嘩売りに…別にいいけど…まぁ…なんて言うか、千年後だか何百年後には名前も忘れられて、他の奴にすり替わっちゃってるってのも哀れだよなぁ?多分命がけで小鬼達と戦ったのに、でも小鬼で助かったのかもな、噂に聞く大鬼とかだったら向こうの人間には対処不能だろうしさ」
老人が目を剥く。
「天邪鬼だけでは無かったらしいぞ?未来には伝わらんかったのか?黒い大鬼と鬼神の伝説的な戦いの話は、儂らが童の頃は大人達がそんな話をしてくれたモンだが…」
正人は眉を顰める。
「そこなんだよなぁ?今思い返せば鬼神の話は血塗川の由来で少し残ってたけど、大昔には法力みたいなモンがちゃんとあったって事なのか?話に聞く大鬼ってのは人にどうこう出来る存在じゃ無さそうだけどなぁ?」
英二が持論を述べて纏めに入る。
「いや、どうかな?渡辺の綱…酒呑童子や茨城童子の伝承も有る。転移出来る場所があそこだけとは限らないし、それに大昔の法力僧や陰陽師の話だって有るんだ。現代の尺度で全てを判断は出来ないんじゃ無いか?星神…宇宙人が力を貸して対処した可能性だって有るかも知れない、かぐや姫…虚ろ舟の蛮女なんかのそれらしい伝説も有るから、可能性は有るだろ?…向こうにもいるらしいからね…星神は…」
それに涼夏も追随する。
「デスデス!マドカ様のお話だと向こうは霊界や神界と分断されてて法力なんかは行使しにくいって言ってましたけど、それでも時代によって世界の認知は変わるとも言ってましたから、やっぱり現代よりはそう言う霊的な力が行使しやすかったんですよ♪きっと♪」
◆ ◆ ◆
ギルドハウスの応接室でお互いの情報のすり合わせと、最も重要な帰還の方法に付いての話を振ってみたが、弥之助は元々帰るなどと言う頭も殆ど無かったらしく、有用な情報は持っていなかった。
「マジかよ?!普通帰りたいだろ?爺さんなんかは特に、家名がどうとか名誉がうんたらの時代の人なんだからさぁ…」
「…そりゃあ…まぁ、ちっとは考えん事も無かったが森から出て彷徨ってる時に腹が減ってなぁ、どこかで獣か…せめて木の実でもと…で、山でアイツと会っちまったでな…」
と言いつつ小指を立てる。
この仕草はこちらでも同じらしい。
「え~♪なになにぃ~?恋バナ?おじいちゃんの奥さんとか?聞きたい聞きたぁ~い♪」
美咲がワクテカし始めるが、弥之助はそれを否定する。
「いやぁ~そんな期待される様な色っぽいモンでも、良い話でも無いぞい?最初は殺し合いでなぁ、ワシも南の港で南蛮人と取り引きする種厚様に付いて、男はチラリと見た事はあったが、女は初めて見たでな」
「殺し合いって、物騒な…何でまた。」
「ん~そうじゃなぁ、当時は…あの場所は第六居住可能区域で西洋人が多い地域でな、第五辺りはもう落ち着いとったらしいが、ワシは現地のアシハラ人と間違えられてのぉ、女房のアメリアは移民の子孫って奴でな。まぁ…文化の衝突の煽りみたいな、ちょっとした地域紛争の最中にワシが現れた…と」
「あぁ…東大陸の、ちょっと聞いた事が有る。それで良く一緒になれたよな…」
「ワシもびっくりしたぞい、目があった瞬間!いきなり火縄も無い、ちっこい鉄砲ぶっ放しよってのぉ!まぁ!ワシには当たらんかったけどね!」
「銃弾避けたって?マジかよ…」
老人は自身満々に答える。
「当たり前よ!童の頃は怪童などと呼ばれとった。ワシの伝説の一つにな?五つぐらいの時じゃったかなぁ?虫取りしながら三日ぐらい山の中歩いた事も有るのだぞ?親父殿にはたっぷり説教食らったが…」
「それって…凄い…のか?…」
「…弾丸避けて鉄砲奪って、取っ組み合いになって、アメリアが【言の葉の護符】をもっとらんかったら、どうなっておったか、向こうも争いが嫌で家出した所を迷子になっとったらしくてな、んで…二人して第五居住区域に行こうって話になってな、来たは良いが金も住む所も無い、第四や第三みたいに人助けする様な者がおる区域でも無いでな…第五はよ、そんで二人して冒険者ギルドに登録したのよ、で…いつの間にやら夫婦になっとった。まぁ…腐れ縁じゃな」
「なるほどね、生きるのに精一杯で帰る方法探す余裕は無かったって事か…じゃあ、やっぱり焔の巫女を探すしか無いのか?問題を抱えてる焔の巫女か、人に聞いても心当たり無さそうだし、片っ端から当たるしか…」
老人がヒゲを引っ張りながら微妙な表情で何かを考えている。
暫くそうした後に、何か思い立った様に応接室の扉を開け、階下にいる受付の娘を呼ぶ…
「お~いジョエル!一昨日来てた案件あったろう?!アレの詳細持って来てくれ!あとお茶のおかわり!」
「はぁ~い!ねぇ!お祖父ちゃん!一昨日の案件ってどれ?!いっぱいあるんだけど?!」
どうやら、受付嬢は弥之助の孫娘らしい。
「あーあれ!焔の巫女の一人が小鬼に攫われたとか言うアレじゃよ!北の大森林…じゃったかなあ?第六に近い街の…」
あちこち巡る覚悟をしていた所であったが、意外と早くマドカの予言は成就しそうであった。
好評価ブクマ宜しくお願いしますm(_ _)m
手直し完了。
世の中に有る物事は、全て何らかの意味が有るのだぞ?
それを人間の尺度で邪だ悪だと見るから堂々巡りになるのだ…
らしいぞよ?




