ジョーイ=ドワイトの受難①【焔の巫女】
南の辺境の監視所から遠く離れた、第二居住可能区域にほど近い街の付近。
…正人…美咲…涼夏には多少居心地が悪い…
恐らくは区域毎に、アシハラの中心から張られた多重結界の為だろう。
英二はそれ程影響を受けて居ない様だが、この第三居住可能区域と精神性が合致しているのだろうか?
今の正人達の格好は、普段の道着や着物では無い、旅支度を完全に整えた出で立ちで、異世界感に溢れた格好である。
正人は普段の道着の上から、軽めの金属製の胴鎧、腰には物入れが付いたウエストバック、肩には革袋を担ぎ、武器は…小さめの…ナイフだろうか?実戦向きには見えないが、問題は無いのだろう。
地霊の加護を持つ彼には触媒さえ有れば充分なのだ、このナイフは彼が望むままにどんな形状にも変化する。
そしてこの地に来た時よりも二回り程身体が大きくなっている。
正人は随分と精悍な顔立ちになった。
英二は黒いコートの下には、同じく黒く染めた革製の厚めの胴着、黒いズボン、何処か厨二臭い格好では有るが、別に自分で選んだわけでは無い、マドカの勧めで火炎耐性、熱耐性に特化した装備品を注文したらこうなってしまった。
腰のベルトの周りには油の入った瓶だの、オイルライターに松明、松脂、その他細々とした、恐らくは補助具や触媒が沢山ベルトに付いた入れ物の中にセットされている。
勿論メガネのレンズも入れ直した。
下の世界に有る物は大体こちらにも有る様だ、無いのは複雑な家電くらいで、街によって異なるが、大きな街だと電球や冷蔵庫などは見掛ける事があった。
二区に近い環状都市辺りで有れば未来都市の様な風情で有ると聞くが…この小さい村ではそこまでの文明度は感じない。
涼香は緑色のマントとドルイドの師匠から貰った銀の装飾が施された軽鎧、そして先端に瑞々しい葉が付いたままの…【生木の杖】…何か…不思議なくらい生命力を感じる。
これはあの監視所付近に生えていた、涼夏とコミュニュケーションを取った中で最も相性が良かった木がマドカの言霊により変化した姿で有る。
重量は形に見合った重量になっているが、その中の潜在力はそこそこ大きい樹木と同等…
既に根は無い、変わりに大気中からエネルギーを少しづつ吸収する事が出来るらしい、勿論数日に一度水遣りや手入れは必要だが…
これは涼夏の相棒と言って良い、近距離でこの杖を使用する術て有れば、ほぼ精神力や体力を消費せずに無詠唱のドルイドの術が使え、言霊で指向性を付与すれば杖から鋭い槍や棍棒に変化する。
森で無くとも…広範囲の術は出来ないにしろ、ドルイドの術が使えるのが強みで有る。
森の中で広範囲に術を使うので有れば、余裕が有るのなら言霊を使用した方がコストは軽減出来る。
涼夏は森の中での索敵や臨機応変な対処が出来る術士となった。
街の中から美咲が走り寄って来た。
「お待たせ!少し節約して装備整えたよ♪…みんなで稼いだお金だしね♪正人君も鎧とナイフだけだし、路銀の事も有るし辺境に行くまでは仕事も無さそうだしね…まあこんなもんでしょ♪」
美咲の格好は、以前訓練中に慰霊の森で霊体となった獅子人の女性から貰った遺品を修繕した物、軽鎧と今街で買い求めて来た銀色に輝く具足、そして鉄鋲が付いた革手袋2点だけらしい。
「デスねぇ、異世界来ても結局お金かぁ〜今のギルドじゃ調査と魔獣の討伐がメインですもんねぇ、最初こそビビリましたけど、慣れてしまえば…第四居住可能区域の魔獣の素材では大した額にはならないですし、他のギルドにも登録すべきでは無いでしょうか?」
「護衛専門のギルドや採取専門のギルドもあるって師匠から聞いたよ?掛け持ちする人もいるみたいだけどあんまり歓迎されないみたいだね…」
「でも…アレだろ?この前登録した浄化ギルドが支部数も多くて仕事の種類も多いらしいじゃん?辺境の方に行けばもっと色々有るだろ?登録してた場所の近くが魔界になってたからそれが急務だっただけで、あの街には他のギルドもあったから」
マドカは少し離れた場所で風の術の一つ、術師達が情報を風に乗せて世界へ飛ばす…
【風の囁き】…風に乗った様々な情報を読む事が出来る。
風に適正の有る言霊使い達だけの情報伝達ツールで情報を漁っている。
何を探して居るのかは知らないが…
この世界で情報を伝達する手段は色々と有る。
一番人口の多い第四居可能住区域にはラジオ放送をする街も有りはするのだが、そちらはあくまで番組としての色合いが強く、基地局が有る御当地の宣伝が多いし情報も新しかったり古かったりとマチマチである。
結局、各街を巡る隊商などが、最も情報に早かったりもする。
四人が買い物から帰ったのを確認して、マドカがこちらに向かって来る。
「みんな♪この三カ月良く頑張ったね♪今の君達は居住不可能な地域に入ってしまっても問題無く危険に対処出来るだけの力を身に着ける事が出来た。僕はこれから第一居住可能区域に有る、西大陸浄化部隊の交代要員として準備をしなきゃならない」
「今までありがとう、マドカさん。アンタがいなければ俺達はあの森で奴等に食われて死んでたよ、それに散々な思いもしたけどここまで強くなれたのはアンタのお蔭だ。感謝してるよ、アシハラに戻って来た時にまだ俺達がいるかは分かんないけど………また会おうぜ…兄弟…」
正人に続いて四人の学生達から次々にお礼の言葉が続く…
涙脆い美咲は涙を流し、英二に肩を預け別れを惜しみ…
英二は美咲の肩を抱き寄せて何度も感謝の言葉を述べた。
マドカを憎からず思っている涼夏は正人達を向こうに送り出した後は…また会いたい…などと秋波を送り。
そして…旅立つ直前にマドカが正人に耳打ちする。
【精霊の囁き】の中に有る情報には焔の巫女に関する情報は何件かあった。
訓練の為に従士と共に辺境を巡り冒険者として活動し、力を高めている巫女達はそれなりに居る。
だがマドカが望んだ情報は得られなかった。
だがそれでも己の過去生の記憶を信じた。
一つの平行世界で起こった出来事は別の世界でも必ず起こる、例え遠く離れた世界で会っても形を変えて似たような事象として発現する。
それは地球の平行世界での共通の法則だと言って良い。
「いいかい?兄弟…あちらに帰るには膨大な霊力が必要になる…【焔の巫女】普通に頼んでも無理だろう、だから出来れば事故に巻き込まれた巫女を探せ、下衆な話だが恩を売るんだ。」
それともう一つ…
「これは予言みたいな物だと思って一応…心に止めておいてくれ…地下の長い階段の先…多分英二君を連れて行くのはマズイ…詳しくは分からない…予言だからね…どうしても英二君が行くと言うならば…出来る限り気に掛けてくれ…」
◆ ◆ ◆
土地の因果とやらのお陰で、突然異世界に転移してしまった四人の大学生達。
小鬼に襲われ、危ない所を【真人】マドカノミコトに助けられ、異世界に適応すべく、やがては元の世界に帰還する為の修練を始めて三ヶ月になろうとする頃…
アシハラの北部に有る別の場所でもう一つの運命の歯車が動き出そうとしていた。
◆ ◆ ◆
彼の名前はジョーイ=ドワイト。
ややくすんだ色の金髪に、青い瞳、微かに顔に浮かぶ薄いソバカス。
アシハラの地にもそれなりに多い、東大陸からの避難民の子孫で有る。
彼の曽祖父の代に赤の魔王と青の魔王の勢力争いで、荒れ果てた故郷を脱出し、家族でこの地に逃れて来た。
現在先祖の故郷である、東大陸は、氷の島のエルフ達とアシハラに集う世界中の神人達が両サイドから張った結界により、外に出る事も中に入る事も叶わない。
結界の内側がどうなって居るのか分からない、ずっと二大勢力が争っているのかも知れないし、それとも別の勢力が台頭しているのか、百万に一つの可能性で人間が生息している可能性も有りはするが…どちらにせよ東大陸の南北共に九割が魔界と化しているので危険すぎて近寄れない、多少残っていた人々ももう生きては居ないだろう。
結界は強固で大きい力や黒き魂を持っている者は出られない。
そこから出れるのは力の無い魔獣か水生生物くらいであると言う、正確に言うならば人類は入れるのだが、故郷を懐かしみ調査に出た者は誰も戻って来て居ない。
ジョーイは己のルーツは西大陸北西部の、氷の島の程近くに有る海の戦士の国の末裔であると固く信じて疑わない。
薄っすらとソバカスが有るので多分西大陸の果てに有る島国だとは思うが…
まぁ、近くでは有るので数%は混じっているだろう…多分。
だから十五歳の時に第四居住可能区域に有る移民の村、彼の曽祖父の家名を冠したドワイトヴィレッジを後にし。
いや、こっそり家出し、第三居住可能区域の北部寄りに有る街、雪形町…別名ルーンの街へ向かった。
一生を小麦農家で終わるなど、御免被りたい、自分にはもっと光輝ける未来が有る。
と…若者らしい故郷を後にし、冒険心で旅立ったのだ。
目的はルーンを継ぐ家系、ヨハンセン家が起こした私塾に通う為で有る。
この家系はルーンを継ぐ者として、何人もの有名冒険者を輩出した家系でもある。
【ルーンバレット】魔弾の銃士ルーンの継承者ソール=ヨハンセン。
【斬岩の刀士】ソールの愛弟子、魔印の戦士、明星透
【ルーンマスター】魔印の守術師エマ=ヨハンセン。
【超人】魔印をその身に刻みし当代の勇者、エリック=スヴェルドルフ。
当代の校長はソールの孫娘で自身も二つ名持ちの冒険者であったエマ=明星
かつての性はヨハンセンである。
エマの冒険者としての師でも有る、明星透、祖父の愛弟子と結婚したらしい。
年が離れていた夫の透は、既に鬼籍に入っている。
そのエマの弟子である超人エリックは、現在西大陸で浄化の戦士として…当代随一の勇者として活躍中である。
講師には研究に携わる一族の者や、エマの他の弟子が教鞭を取っている。
他にも今売り出し中の名前の有る冒険者にはルーンの術を使う者が増えて来た。
二つ名で呼ばれる程、となればそうそう居ないが、ルーン使いは多い。
街は四区にも近い、第三居住可能区域にあるので、自身の精神性が少し低かった為、多少の居心地の悪さは感じたが特に問題は無かった。
小さい頃から貯めた金で下宿を借り、精肉店でひとまずの仕事にも就き…
ルーンの術と冒険者の心得を学ぶ為に、私塾の門を叩いた。
自分の適性など全く知らなかったが…何と!火の属性Bランク、運命的な物を感じてしまった。
他はほぼE+或いは−ではあったのだが…
頭の中に未来の自分の姿。
二つ名で呼ばれる未来を夢想していた【フレイムソード】悪く無い、いや【ファイアバレット】が良いだろうか?
彼の曽祖父は避難民だが、前時代には曽祖父の国は世界最強国家、銃の国と呼ばれていたのだから、銃を使うべきであろう。
小々値が張り、コストも掛かるがここは魔弾の銃士ソール=ヨハンセンの出生地でも有る。
元々起業して二百年と言う老舗の銃の工房も有るし、弾丸も他よりは安く手に入る。
ジョーイが火の属性に何の運命を感じたのかは分からない、火の属性など西大陸西域にルーツを持つ者の約六割が持っているポピュラーな属性で有る。
…他には生命、肉体、植物、地属性、石や金属は割と多い。
次に精神に関する陰と陽…少ないのは風や大気、水系統は希少だと聞く、複数の属性を持つ者もそれなりに存在する。
だがジョーイには自分のルーツや得意属性等々のそんな知識も無かったのだ。
多くの門下生に混じってルーンや冒険者に必須なサバイバル技術諸々を学び、精肉店で働く日々を送った。
それから六年、四年程で技術を習得し冒険者になり、この地にある組合、守護ギルドにも加入した。
アシハラに有る冒険者系の組合の中では北部の街に十を超える支部を持つ、そこそこ大きい組合であり主に隊商の護衛任務を引き受けている事が多い。
だが彼が受けれるのは第三から第四居住可能区域の往復ばかりで、ほぼ危険は無く、報酬も安い、稀に森から出て来た魔獣に出くわす事もあったが、他にも護衛は雇われている。
出る幕など無かった。
辺境へ出て名を上げるのが良いのだろうが、辺境では弾薬は手に入りづらい、勿論守護や強化のルーンも一通り収めてはいるが、仕事で一緒になったアシハラ人の言霊使いに炎の礫の術も教えて貰った。
声法は発声が難しく、精神力の消費は激しかったが、一応習得は出来た。
要練習と言った所だろうか?
だが、一人で辺境へ出るには少し準備不足なのは否めない。
近接武器も、あまり練習はしていないがショートソードも一応は持っている。
…どうするべきか悩む日々。
そんな時、街に焔の巫女の一団がやって来た。
ジョーイも人混みに紛れて近くで会話を聞いてみたのだが…
精神性はそれ程高く無いのか、やや驕慢で気が強そうな娘では有る。
街を歩きながらの白人と黒人の二人の従士との会話を聞くと、言動も言葉が強く少し男っぽいのが分かった。
そんな当代のスターとも言える【焔の巫女】そんな彼女達が何をしに立ち寄ったのか?
滞在している所を見れば、辺境を巡る為にただ立ち寄ったわけでも無さそうである。
ジョーイの元に二つの機関から連絡があった。
一つは守護ギルドから、焔の巫女の一行が辺境での仕事を受ける為に、守護ギルドに登録したとの知らせ、そして新たに複数名の従士の募集も…
エマの私塾からも、後衛や補助の技に特化したルーンの使い手を焔の巫女が求めている。
…と連絡を受けた。
そこでルーンを一通り学び、銃をメインに使うジョーイに案内の知らせが来たのだ。
そう…【焔の従士】の採用面接の案内であった。
ジョーイにもチャンスが巡って来たのだ。
修正完了☆そのうちまた修正するかもしれませぬ…
高評価ブクマ宜しくお願いします…m(_ _)m
星の国も途中から気付いて世直しを始めるが…星の国では無理ざぞ?そもそも始まりが間違っておるから星の国では世直しできぬのざぞ?…さて…




