↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Pilgrim Reaper  作者: 寿司川 荻丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/39

33話ー混乱ー


 眩い程の大歓声。


 国民の期待を大いに背負った6人。


 円卓の六将。


 輝かしいその姿に、誰しもが憧れを抱く。


 いいねえ。


 その希望が悉く砕け散る瞬間を。


 俺は見てみたい。





ー10年前ー


 突如、その男は現れた。


「俺を円卓の六将に入れてくれ!」


 齢18。


 活気に満ちたその青年は、こともあろうか、円卓の六将会議の途中にその場へ侵入した。


 会議の場所、大円卓があるのは城の最上階。


 その場所に辿り着くまでに、厳重な扉が何枚もある。


 しかも、精鋭の護衛がそこかしこに居るのにだ。


 男は何事も無いようにスーッと現れた。


 男はメスローデに担がれ、その日は厳重注意に終わった。


 しかし、何度も。


 何度も現れる。


 投獄しろとの声もあったのだが。


 その根気と諦めの悪さを、"良く"評価してしまう癖だ。


 これからこの国を担う若い青年のその熱に、当時の私は魅入っていた。


 円卓の六将会議、更に国王への直談判により。


 その青年"ロザンパーゴ・ガロ"を迎え入れてしまう。


 それすらも彼の策略だとは、思いもせず。


 それからというもの、ロザンは私の後を引っ付いてくるようになる。


 書庫、会合、戦争。


 追い払っても、追い払ってもだ。


 次第に周囲に溶け込み、その優秀さを徐々に認めていく。


 集団心理のそれが、今を産むのだ。





ーアルパース大穢場 第二門前ー


 第五拠点から、遠く離れたこの場所。


 門の横に仮拠点は作られ、兵士は順番に休息を取る。


 厳戒態勢となった今、兵士の精神が擦り減るのも早い。


 ジェンドは身動き一つせず、地面に脚を突き立て、待つ。


 ミリオットの情報によれば、ロザンパーゴまたはルゼラカルトは精神操作の魔法を使う。


 それにより第一門は開場させられ、侵入を許した。


 信頼する筈の身内を、疑わなければならない。


 "誰を使って"、"どう来るのか"。


 ジェンド第一軍は、ジェンドの発する言葉以外の発言を禁止し、怪しい動きをした者は拘束の対象となる。


 戦場での心の揺らぎは命取り。


 それは老将であるジェンドが痛いほど理解していること。


 それを踏まえても、ロザンパーゴは相手にしたくないのだ。


 積み重ねた時間が、発する言葉の重みを増す。


 仕組まれた戦略である。


 狡猾に攻めてくるのだろうと予測していたジェンド。


 しかし、それは意外にも。


 遥か上空に気配を察知。


「正面から来たか」


 ジェンドのその言葉に、軍は身を引き締める。


 太陽光に金属は反射。


 大きな音と共に地面を砕き。


 大旗は地面へ突き立てられていた。


 アルパース軍の紋章。


 その柄を支えに立ち上がり、対峙する軍を見渡した。


 皮肉を込めた、大旗。


 かつて軍を背にしていたその姿とは、意味が真逆に変わる。


「堂々としているな。ロザンパーゴ」


 対峙したジェンドは、ロザンパーゴの目を捉えて離さない。


「ジェンドさん相手となれば、小細工は失礼かなと思いまして」


 黒くウェーブのかかったミディアムヘア。前髪が真ん中から分かれ、輪郭まで伸びる。髪の内側は蒼く、遊びのある髪型。


 しかし眼光は、ジェンドの威圧をものともせずに貫いている。


 "覚悟の決まった眼"。


 言いたいこと、聞きたいことなど山のようにある。


「よくもまあ、欺いてくれたな」


 絞り出した言葉が、これしか無かったのだ。


 やはり本人を前に言葉にしてしまうと、心拍の変動は免れない。


「まあ仕方ないですよ」


 ロザンパーゴは、動揺せず。


「これが俺の生きる道ですから」


 逢い違う宿命。


 到底、交わることのない。


 人の背負うものは、正しく人による。


 その事実を、突きつけられた。


「第一軍総出でお出迎えですか」


 ロザンパーゴは軍の端から端を見渡しそう言った。


「果たして、信頼できる兵士は何人いるかな」


 ジェンドは号令の為に息を吸う。


 それと同時。


「全軍前進!」


 【従令(じゅうれい) ビドロクエラ】


 ロザンパーゴから、生命力の動きは無かった。


 しかし、前進した軍の中で、疎に位置する兵士の半数が違う行動を取る。


 味方に対して、剣を振るうのだ。


 ジェンドは瞳孔を絞る。


 能力の発動条件が、まるで分からない。


 生命力に少しでも動きがあれば、ジェンドはロザンパーゴへ剣を突く動作を準備していた。


 兵士は一対一の構図を強制され、行動を制限される。


 擬似的な、ジェンドとロザンパーゴの一騎打ちの構図。


 クロックヴェルクにて、住民が爆発した情報から、その"操作"も可能であろう。


 それをしない今、目的はこの"対峙"にあるか。


 ジェンドは対峙するその男に、一体どこまでが計算なのかと身震いする。


 味方であれば頼もしい頭脳。


 しかし、敵となった今、それは脅威なのだ。


 ジェンドは左腰に携えた長剣を右手で抜き、構える。


 隻腕の老将は、それを思わせない圧を放つ。


 踏み込むと同時に、ロザンパーゴへと間合いを詰めた。


 格納魔法により長剣を抜き出したロザンパーゴは、振るわれた刀身を防ぎ、甲高い音を響かせる。


 幾度もその音を響かせ、互いに一歩も譲らない。


 基礎的な武術は"互角"。


 何せ、ジェンドが鍛えたのだから。


 "師範"のクセは、身体が覚えている。


 真剣での打ち合いだが、それは鍛錬の時と変わりないのだ。


 接近戦により"操作"の質が落ちると予想していたジェンドだが、後方で味方同士が剣を打ち合うことに、何の変化もないことを悟る。


 "操作"というより、"指示"に近いのか。


 【形魂(なりだま) デペル】


 ジェンドの形をした生命力の塊が前方へ押し出され、ロザンパーゴはその勢いに押されて地面を抉る。いわばその"分身"は、勢いを止めた時点で離散した。


 戦場において隻腕という枷を背負いながらも、御歳まで健在な理由。


 生命力で生成される分身が、そう、卓越された"分身"が猛者を苦しめる。


 老将とは、この時代までの"生き残り"なのだ。


 対象との2馬身の間合い。


 これが、ジェンドの得意とする間合い。


 左右斜めに生命力の分身を出し、それは駆ける。ほぼ同時にロザンパーゴを挟んで剣を振るう分身。加え、正面に3体の分身を直進に駆けさせた。


 ロザンパーゴは剣で防ぐしかない。


 正面の分身3体目を防いだ直後、大きく振りかぶったジェンド本人が、分身の離散した中央から突撃するのだ。剣の向きは、直前の分身とは真逆。


 無理な体勢で受けるか、剣に掠りながら避けるかの判断を強制させられる。


 しかし、ジェンドの意識は、あろうことかロザンパーゴに向いていなかった。


 【従令ビドロクエラ 疑無(うたがうなかれ)】


 兵士の1人が、既にジェンドの真横まで迫っていた。


 涙ながらにジェンドに振るおうとする剣。


 ジェンドは横目で兵士の目を見た。


 途端。


 兵士は肉片を撒き散らして爆散。


 ジェンドはその威力に数歩よろける。


 飛び散った血が、ジェンドの顔に降りかかるのだ。


 兵士の感情は残っていた。


 "精神操作"などではない。


 これは紛れもなく。


「"命令"だよ。ジェンド」


 思考を突くその言葉。


 強制的に従わせる?


 しかし、その"指示を出す生命力"はロザンパーゴから出ていない。


 予め……なのか?


 しかし、そんな怪しい生命力を付与したとして、優秀な兵士達が気付かない訳がない。


 そう捉えさせない"条件"があるか。


 ……。


 国の内部に居座り、兵士の信頼を買い、人の命など何とも思っていない行動。


 身体の内から滲み出る。


 言葉。


「私はお前を許さない」


 凡人であれば尿を漏らすであろう重圧。


 ロザンパーゴはその表情を見て、片方の口角は上がるのだ。


 ジェンドは分身を絶えずロザンパーゴへ放ち続け、対しロザンパーゴは兵士を絶えずジェンドに向かわせ、爆ぜさせる。


 ジェンドの心労の方が、圧倒的に多い。


 このまま、無駄に仲間の命が無くなっていく。


 兵士にとって、不本意な死。


 自害よりも、屈辱な。


 例えロザンパーゴをこの場から遠ざけても、隣国クロックヴェルクまで"命令"が届くのであれば、まるで意味がない。


 ロザンパーゴ本人に、命令させる隙を与えてはならない。


 【形魂デペル 存體武呑(そんていむどん)】


 ジェンドの分身がロザンパーゴへ接近した瞬間、その分身から更に分身体が生成される。


 即座に死角へと回り込み、剣を振るう。


 更に追い討ちをかけるようにジェンドから分身は放たれた。


 しかも、消えない。


 今までの分身は剣を振るえば離散していた。


 残り続け、剣を振る。


 ロザンパーゴを囲む分身は増える一方。


 分身を消そうにも、ジェンド本体と同等の武術の為、剣が当たらない。


 "激しい剣戟を防ぎながら"、ロザンパーゴは"嫌だな"という感覚を持つ。


 腐っても老将。一筋縄じゃいかない。


 【従令ビドロクエラ___】


 "命を落とす"という言葉がある。


 器となる身体は機能しなくなり、魂が転がり落ちる。


 落ちたままの魂は自然と分解され、その土地その場所に生命力として溶ける。


 そんな、分解されるなんて勿体無いじゃないか。


 俺はそれを拾う。


 【___魂亡骸々(たましいなきがらがら)】


 ロザンパーゴ後方に広がる雪の地面が疎に突き上がり、生命力の残穢が徐々に形となる。


 生命力の記憶から"生前"の姿を型取り、色と質量共に再現される。


 12000近くの屍の模擬大軍勢となる。


 クロックヴェルクの元住人と、見知った軍人を真似たもの。


 その軍勢の圧は大きく、仲間と剣を打ち合う兵士もその異常に意識を逸らす。


 ロザンパーゴを囲んでいた分身を離散させた。


「お前はどこまで……人を踏み躙れば気が済む!!」


 ロザンパーゴはまた、片方の口角を上げた。


「お言葉ですが、俺ほど命を最期まで大切に扱っている人なんていねえぞ」


 ジェンドは口を閉じることができない。


 交わることのない思考。


「じゃあ……何故……」


 そこまで言いかけたジェンドだが、"皆、涙を流しているのだ"という言葉を出すのを止めた。


 返ってくる言葉を大方想像できてしまったのだ。


 閉じなかった口に力を込め、次第に歯は軋む。


「名誉ある魂よ!華々しく散って、この戦場を彩れ!」


 ロザンパーゴの歓喜の声色。


 その言葉に、身体無き屍の大軍勢は地を鳴らして駆ける。


 見た目が一般人である大軍勢に対し、兵士たちは剣を向けていいものか迷い、その隙に同士に身体を斬られる者も出た。


 大混乱である。


 混乱の最中、ただその漢は戦場に脚を立てる。


 ジェンドは迫り来る大軍を前に、剣を仕舞う。


 鍔が鞘に収まる音がする。


 ロザンパーゴはその行動を見逃す筈もなく。


 悪寒が走るのだ。


 その違和感は的中する。


 ロザンパーゴのすぐ背後に、ジェンドの分身が"在った"。


 長年ロザンパーゴの脳に擦り込まれた戦術。


 ジェンド本体からの分身ではなく。


「遠隔生成……」


 分身から振るわれた剣は、ロザンパーゴが咄嗟に構えた左腕に当たる。


 左腕に生命力を集中した為、切断は免れた。


 しかし、その斬撃は左腕の鎧を裂き、肉を深く斬ったのだ。


 その勢いに乗せられ、ロザンパーゴは進行する軍の数人を巻き込んでよろける。


 "痛み"を実感する。


 斬傷は、人生において初めてなのだ。


 その箇所は熱を帯び、腕が痙攣するような酷い痛み。


 生命力で斬れた筋組織を補填。


 ロザンパーゴの口角は、上がりはしなかった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。