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Pilgrim Reaper  作者: 寿司川 荻丸


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31話ー恐怖ー


「ラウーシュ!!」


 双子の愚姉ネビアルは、俺よりいつも劣っていた。


「お前は優秀なのに!なぜその力を活かさない!」


 アルルカリアで名家と謳われるゾルゼウス家は、幼少期から魔法の教育を受ける。


 受けさせられる、と言った方がいい。


 それは強制であり、何の意味もないこと。


 何の役に立つ。


 大人が何を必死になっているんだと、幼いながらに感じていた。


 しかし、魔法とやらは"簡単"だった。


 一度手本を見ただけで要領は掴めるし、身体に巡る生命力も分かりやすい。


 それが、姉はできなかった。


 "そんなこともできず"、姉は俺の後を必死にしがみついてきた。


 何度罵られようが、眼光絶やさず。


「私は絶対にラウーシュを越える!」


 すれ違う度に、そう言われたものだ。


 そんな魔法に飽きた俺に、人生の機転が訪れる。


 それは14歳の時。


 アルルカリア大穢場に顕現していた穢獣(あいじゅう)に、"ゼレスカン"という名前が付与された。


 心躍ったよ。


 この時ばかりは家の連中に良い顔して、大穢場の見学したいって頼み込んだ。


 ゾルゼウス家の権力ってのは結構使い勝手が良くて、巡礼以外で開場することのない大穢場の中を、特別に見せてもらった。


 ゾルゼウス家直属の軍と教師まで同行した。


 敵対状態のゼレスカンの近くに行かせないよう、その者どもは必死になっていた。


 振り切ってゼレスカンの領域に踏み込んだ時は面白かったなあ。


 俺以外はすぐに死んで、簡単な魔法と刺突剣だけでゼレスカンを討った。


 服従。


 俺の中に宿ったゼレスカンは、さほど時間もかけずに従った。早期の覚醒を得る。


 大穢場を出た時、姉は血相変えていた。


 後になって思ったが、この時に殺しておけば良かったのだ。昂っていた為に、それに甘えてしまったのが欠点。


 憤った者らを殺した後、俺は国を出て放浪する。


 3年後にバデキオンを討ち、服従させた。


 そしてその2年後、ゼレスカンの巡礼日に事件は起こる。


 俺の巡礼を軍が待ち構え、その指揮をネビアルが執っていた。


 覚醒した名前持ち穢獣を保持し、憎いほどの眼光で睨まれたんだ。


 その軍を根絶やしにして、どうにか10秒の巡礼を済ませた。


「私はお前を許さない!」


 その言葉を起点に、ネビアルに押され始めてしまう。


 俺の後を這ってでも追いかけていた姉が、いつの間にか俺を越えていた。


 ……。


 何をもってして、その眼光の源になる。


 たかが血の繋がり。


 たまたま産まれた場所が同じだっただけ。


 またその姉も、"愛"だなんだと語っていた。


 恐ろしい。


 矮小な感情ごときに、瞳を燃やせるものか。


 "姉弟"とかいう言葉の縛りに、何故そうも本気になれる。


「ラウーシュ!!」


 逃げた時の貫くような声が、俺を焼くその眼光が、今も邪魔をしてしかたない。


 この世界に、意味のあるものなんてない。


 言葉なんて、ただの"声"にすぎない。


 あるのは、自分だけだ。


 それだけを信じればいい。





ーアルパース大穢場 第三拠点 バデキオン発動中ー


 0:21。


「嫌なものを見たな……」


 ラウーシュは目を覚ます。


 ふと現状を理解し、そして数字の意味を理解する。


 立ち上がろうと全身に力を入れたつもりだった。


 身体が重く。


 とにかく、寒いのだ。


 気絶してる間に、生命力で塞いでいた傷口が開き、多量の血が流れ出ていた。


 加え、度重なる爆発により全身の耐久度及び、生命力の枯渇。


 即座に微々たる生命力で筋力を補い、無理に身体を起こす。


 同時、ケメィも身体を起こす。


 "脚を引き摺る様子を見せた"。


 0:12。


 互いは全ての細胞を以て、駆ける。


 この身体の状態を、"現実"に持ち越す訳にはいかないと。


 火事場の馬鹿力に近い、全身全霊の10秒。


 両者共に、穢纏(あいてん)解かず。


 間合いに入る。


 【穿廻ゼレスカン 穿廻(せんかい)】


 限界に近い中で、絞り出した生命力。


 空弾の軌道上に、"ケメィ"は居なかった。


 ラウーシュの頭上をケメィは通り越し、更に蔓に引っ張られる形で距離を離す。


 ラウーシュは目を血張らせた。


 穿廻を、撃たされたのだ。


 脚を引き摺っていたのは、この為の布石か。


 機動力は無いと、限界の中で錯覚させる為の。


 ケメィを目で追う中で、彩りを取り戻す世界が視界に飛び込んだ。


 この瞬間、両者の穢纏は世界へ通知されることになる。


 荒くなる息。


 ラウーシュが焦っていることを考慮し、ケメィは自身の疲弊など気にも止めず、この判断をした。


 そしてケメィの推測通りに、ラウーシュは大きく判断力を失う。


 脳内を駆け巡る焦り。


 目眩がする程、考え得るリスクの猛襲。


 ケメィは蔓の遠心力を利用し、再度ラウーシュへ距離を詰め始める。


 身構えるラウーシュ。


 まさに、その瞬間だった。


 ケメィの音声転送魔具より通達。



「"リオルドランの紋章提示により、2人が入場しました"」



 その音声は、集中状態の両者の耳へ大きく届く。


 まさに想定外。


 その音声を耳にした者ら全員が、固唾を呑むのだ。


 唯一、仲間である"リオルドラン"のみが、微笑みを見せる。


 "予定より2日早い到着"。


「名を___」


 明らかに動揺するラウーシュへ、ケメィは狙いを定める。


 【棘爆(しばく)ジュユド 荊槍(いそう)】


 同じく限界に近いケメィの、振り絞る一撃。


 蔓を直線に伸ばし、先端は鋭利に奔走する。



「___"ネビアル"とサイカ」



 ケメィの眼光と、脳裏に焼き付く姉の眼光が重なる。


 それは歪み、命を刈り取る蔓への焦点を惑わせた。


「ラウーシュうううう!!!」


 音声転送魔具から、今にも捻り潰されるような劈く怒号が溢れ出る。


 蔓の先端は、ラウーシュの眼鏡中央を砕き。


 頭部を貫いた。


 【棘爆ジュユド 荊爆孤咆(けいばくこほう)】


 兄オドムが導き出したこの技で。


 ラウーシュは、恐怖と悔しさのあまり。


 笑うしかなかった。


 蔓に生命力の光の線が入ると同時。


 ラウーシュ頭部の内側から、爆ぜる。


 その爆発音は更地となったこの場所に、ただ響かせた。


 頭部の無くなったラウーシュの身体から、穢纏は灰となって解ける。


 重力に身を任せ、背中から倒れた。


 流れ出る血が、土へ染み込んでいく。


 同時。


 アルルカリア大穢場にて、穿廻(せんかい)ゼレスカンと時葬(じそう)バデキオン、その他名前無し穢獣の融合個体が顕現。


 その衝撃により、一部地形は変形。


 幸いにも、顕現による被害者ナシ。


 そんな遠い土地のことなど、今のケメィは知る由もない。


 弾けるように穢纏は解けた。


 目玉が裏返るような感覚に、ケメィもまた背中から倒れる。


 ラウーシュの大技から兵士を守っていた巨大な蔓は萎み、状況を把握しきれない皆は呆然としていた。


 頭が弾け飛び力尽きるラウーシュと、右手を太陽に向けるケメィの姿。


 軍の皆は、一目散にケメィへと駆け寄るのだ。


 ケメィもまた多量の出血により、極度の悪寒に襲われていた。


 しかし、輝きながら昇る太陽が、暖かくてしかたない。


 掌をかざし。


 指の隙間から溢れる陽光に、眩しいなと唇を動かす。


 薄れゆく意識の中で、これだけは忘れてはならないと。


 クルスエドとオドムの繋いだ現実が、ラウーシュを討てたことに直結する。


 その2人が居なければ、今は無い。


 "役目を、全うできました"。


 声など出ない。


 しかし、唇は確かに動いた。



「緊急通達。こちら第三拠点、第三軍。軍隊長ケメィ・シユジールにて、ラウーシュと思われる標的を撃破しました。ケメィ軍隊長に応急処置を施し、存命です」



 その通達は、それを耳にした者全ての士気を高める。


 絶大な武力を持つと噂される9人の組織。


 たった9人で構成されるものの、世界が恐れることに列記とした理由がある。


 その一人一人が一国と渡り合えるだけの力と戦略を持つが故。


 しかし噂とは皮肉なもので。


 それを口にする者の殆どが、ヌルビアガが何者か知らず、実在するかを証明できない。


 だが。


 今。


 それは確実に、ケメィの手によって。


 ヌルビアガの1人は討たれたのだ。


 "半太陽"の紋章を携えた黒い三重魔法陣。


 二層目の魔法陣に等間隔で記される9つの"記号"。


 ラウーシュを表す"愛"の"古代文字"が消滅。


 残る8人のヌルビアガは、その魔法陣の変化を感じ取った。


 レイゼルと対峙するルゼラカルトは、瞳孔を縮める。


 アルパース大穢場の大外結界近辺まで逃亡していたヨデンは。


「ラウーシュが……死んだ……?」


 と、言葉を漏らした。


 ロザンパーゴは、深く瞬きをする。


 他の"5人"は、それぞれの場所で、その事実に驚愕した。


 数日前から立て続けに穢纏の通知。


 アルパースランドにて、異常なことが起きていることを世界中の国が感じ取っている。


 大穢場の主を狙う戦争は度々起こることだが、名前持ち穢獣の穢纏の通知数が異常。


 これはもはや、戦争と言う他ない。


 遠い土地の者達は、その戦争の行末を待つしかないのだ。





 ジェンドは穢纏使用の通知書を見て、また、目を閉じて上を向いた。


 記されるは、穢獣名、使用場所、そして"使用者名"。


 ケメィ・シユジールの文字。


 オドムがケメィへ穢獣を譲渡した。


 "命を以て譲渡する"その行為。


 またも、国を支えた者が命を落とした。


 3人が命を賭けて、ヌルビアガの1人を討った。


 この功績は、大きすぎる。


 通知書を丁寧に折り、また、懐にしまう。


「この命の限り、感謝する」


 第二関門へ到着。


 馬を降り、首を撫でて休ませる。


 振り返り、軍の前にて。


 眼光鋭く、ジェンドは仁王立ちにて待つ。





ーアルパース大穢場 第二拠点と第三拠点の中間地点ー


「あの力の無かった軍人が、ラウーシュを殺したのですか」


 ルゼラカルトは、ひたすらレイゼルから距離を離して小言。


「それにしても、一番嫌な相手と当たりましたね」


 糸で纏めて背負っている"宝剣"である子供。


 どう使ってやるのが正解かを、ただ考えていた。


「ロザン、どうしますか。計画を強行するんですか」


 ヌルビアガが1人落ちた今、計画は既に破綻。


 しかし、ロザンパーゴは先を行く。


「するのであれば、私も出し惜しみはしませんが」


 うーむと、レイゼルを見やりながら、顎の傷跡を触る。


「逃げてんじゃねえよ!来いや!」


 空間に弾かれながら、レイゼルは声を張る。


「にしても、不思議な男ですねえ」


 クロックヴェルクで見せた、血の出ない身体。


 生命力の感じ取れない身体。


 それに、その時切り落とした筈の左腕は、何も無かったかのように繋がっている。


 前例の無い男。


 巡礼者という感じもしない。


 ルゼラカルトの"予測した事実"が、真であれば。


 殺せない。


 "行動不能"が正解かと。


「宝剣て、どうやって元に戻すんでしょうか」


 記憶の隅に、何か手がかりがないか考える。


「聞いておけばよかったですね」


 レイゼルは空間を強く弾き、ルゼラカルトへ距離を詰める。


 策が無ければ、レイゼルへの攻撃はほぼ無意味だと身をもって理解している為に、迎え撃たない。


 ルゼラカルトは避け続ける中、視界の端でそれを捉えた。


「厄介なことになりましたぁ」


 それはレイゼルも同様に、視界に入る。


 ルゼラカルトを追ってきた、イゼとカリンの姿。イゼはカリンを背負って爆走している。


「ベラケリぺ!!それがそいつの!2体目の穢獣の名だ!!」


 イゼの生命力の乗ったその声は、レイゼルへ届いた。


 ベラケリぺという名前を聞いて、レイゼルは能力を理解。


 脳の片隅に、対策を置いておく。


「種明かしなんて、嫌われますよ剣聖さん」





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