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27話ー氷雷ー


ーアルパース大穢場 第二拠点ー


「初めまして。リク・シャルダーンと申します。ジェンドさんに仰せつかり、誇り高き隊を任せていただけて光栄です。よろしくお願いします」


 隊へ合流直後に、リクは左胸に右掌を添えて深々とお辞儀した。アルパースランドの敬礼である。


 不満を抱えていた兵士も居たが、その姿を見て印象が変わったのも事実。


「いきなりですが、これから対峙する相手はヌルビアガという組織の者です。個々が絶大な武力を持つといった噂を耳にしたことあると思います。よって、被害は計り知れない」


 リクの眼は、鋭かった。


「第四軍は、ジェンド様率いる第一軍へ合流してください」


 兵士達は騒めく。


 兵士が口を開く前に、リクはたたみかける。


「皆様を信用してない訳ではありません。誓います。ヌルビアガを止めるとなれば、俺の魔法に巻き込まれてしまう可能性があります。それを制御して戦うことがリスクとなり、責務を全うできない」


 言いたげではあるものの、その現実は予測していた兵士達。


「ご協力の程、お頼み申し上げます」


 兵士の中心人物であろう男が一歩前に出る。


「ご武運を」


 敬礼。


 続き、兵士達は頭を下げる。


 踵を返し、第一軍へ合流する為に歩み始めた。


 そして、侵入の通達が入る。


 夜中の風に吹かれながら、しばらくの時。


 リクは第三拠点を背に、夜明けの陽に刺されていた。


 気配を察知し、格納魔法から小斧を取り出し両手に握る。


 飛翔する、冷たすぎる生命力。


 覚えしかない。


 グリテンリバー穢場(けがれば)で対峙した人物。


 団子に結んだ紫色の髪。


 そしてその、冷徹な眼を。


「ヨデン・グルーゼス……」


 地面を駆けて助走。


 【流月(るげつ) コスケール】


 【氷雷(ひょうらい) メデレス】


 リクの陰から影が伸びる。それは、ヨデンを突き刺す為に直向かう。


 対し、ヨデンはリクを目視した瞬間、顔を崩して笑った。そして冷気を帯びた青白い雷を放つ。


 影は氷雷を通り抜けた。互いの攻撃が互いに触れる直前、リクは影を実体化させて氷雷ごと打ち消す。


 速度は互角。


 それを理解しあう。


 リクは足元から地中へ魔法陣を展開。


 ヨデンは落下最中に後方へ、"半太陽"の紋章入りの魔法陣を展開。リクは目視した。ヌルビアガだと確定する。


「"影のリオルドラン"か!!ラウーシュをいじめた奴だ!!」


 歓喜の混じった声色。


 影を扱う巡礼者相手に、ヨデンは堂々と地面を砕いて着地する。


 地面に格納魔法を展開し、引き抜くようにして身の丈に合わない大剣を取り出した。


 標高が高い故に積もる雪。空は雲が気持ちよく泳ぐ快晴。陽は雪に反射して恐ろしく眩しい。


 美しい景色とは裏腹に、対峙する2人の空気は底に沈む。


 リクは地中で加速させた影の槍を突き放つ。


 足裏で若干の振動を感じとったヨデンは、大剣の切先を合わせて防ぐ。威力により空中へ投げ飛ばされた。


 【流月コスケール 影庭黒柱(えいていこくばしら)


 地中から幾本もの陰の柱を空へ伸ばす。


 自身の陰に沈むリクを、ヨデンは睨んだ。


「陰の中移動すんのマジ面倒くせえな」


 陽が差しているのに陰が消えないのは生命力が付与されているからかと、能力を冷静に分析するヨデン。


 手の中だけで瞬間的に雷を出し、その光によって陰が揺らぐのか検証。陰柱に若干の揺れを確認。


「光作れないラウーシュが苦戦すんのも納得だな」


 にしても、陰の中に潜ってるあいつの生命力まるでわからん。


 移動してんなら、位置掴まないとウチ死ぬな。


 ヨデンはふと、自身から落ちる影を見た。


 注視する部分が多すぎる。


「クソな性格してんぜまったく」


 【氷雷メデレス 氷忌走雷(ひょうきそうらい)


 ヨデンから八方に放たれた冷気の雷は地面を抉り、通過点に氷が生成される。氷山に似たそれに、ヨデンは乗った。


 陰の柱は氷を通過。屈折するのだ。


 光に似た原理かと、ヨデンは読む。


 氷山に乱反射した陽光が、地面を疎らに照らす。氷内部をまた乱雑に動かすことによって、地面の陰は動き続ける。


 これが吉と出るか凶と出るかは、後手になってしまう。


 そこは、割り切る判断をした。


 氷山の一角に触れ、地面に雷を流す。霜の付いた地面は帯電する。索敵も兼ねた牽制であり、ヨデンの常套手段である。


「メソメソ隠れてんじゃねえよ!撃ってこい!」


 煽りも欠かさず。


「チッ」


 不気味な静寂に、居ても立っても居られないヨデン。


 【氷雷メデレス 氷轟輝斬(ひょうごうきざん)


 突き上げた大剣の切先から氷雷を地面に向け放つ。帯電した霜の地面に落雷し、それは轟くように伝播する。


 地中を駆け巡った氷雷が、最後に行き着く空に向かって踊り舞う。


 地面に氷雷が満ち、薄くなった陰が揺らぐのを感知。


 "陰に潜ってるのではなく、同化してる"と、ヨデンは認識。


 光に照らされれば陰は薄くなる。同化してるのであれば、若干の息苦しさやら感じる筈。


 帯電する氷雷は発光を繰り返す。


「そこに居るな」


 氷雷で自身を弾き、薄まる陰の中で特に濃い部分へ大剣を突き刺す。


 金属の衝突音。


 陰の内部、小斧でそれを防ぐリク。


 周囲の陰柱から枝分かれした陰がヨデンへ突き伸びる。


 発光により陰の到達を遅らせ、その隙にヨデンは再度氷山へ飛び乗る。


 陰の中に居るリクの位置を見破った者は数少ない。ヨデンの実力を、髄から理解した。


 陰の波紋を広範囲に展開。


 その陰が、ヨデンから落ちる影に触れると、一瞬ではあるが動きが抑制される。


 同時。


 ヨデンの陰を伝って、実体化したリクは間合いを詰めた。


 目玉だけを動かしてそれを見ていたヨデンは、氷雷で強制的に身体を動かし、大剣を振るう。


 陰を纏った小斧と、氷雷を帯びた大剣がぶつかる。


 甲高い金属音と氷雷の轟音が合わさり、衝撃波が広がる。


 互いに後方へ吹き飛び、互いに雪の積もった地面を抉って勢いを止める。


 ヨデンは冷気を帯びた息を吐く。


 リクは陰柱を引っ込めて、生命力の消費を抑える。


 強者と認め合った間合い。


「おいリオルドラン」


 ヨデンの冷えた声が、静寂に響く。


「お前らはこの世界に、何を望んでんだよ」


 対となる組織。その根幹にある想いは、到底分かり合えるものではない。


 だからこそ、気になるのだ。


「こんな穢れた世界なんざ、終わらせちまった方がいいだろ」


 リクは驚いていた。ヌルビアガという組織でさえ、情で動くものが居ようとは。


 しかし、同調できる節がある。


「だとしても、お前らのやり方は外道だ。命を尊重する方法があるにも拘らずに、奪う選択をしている」


 意外にも、反論せずに聴くヨデン。


「それは、"穢獣(あいじゅう)"も然りだ」


「穢獣を命と言うな。この世界が創り出した穢れの化身だろ。それを利用されて終わるんが、世界が一番望んでないことだぜ」


 ヨデンの目は笑わず、口元だけをニヤけさせる。


「世界の嫌がるやり方で、ウチらは終わらせる」


「穢獣にさえ、意思と想いはある。この世界の被害者に過ぎない」


「……その思想を持つ者が増えたら困るから、国は"書物"を封印したんだろ」


 リクは眼球を揺らす。


「国は現状に満足してんだよ。自分たちの権力や武力に拘って、承認を満たそうとする穢れ共だ」


 その大剣に、稲妻走る。


「……そう言えば。アルルカリアの書庫から"書物"が無くなったそうじゃんよ」


 リクは、思い浮かべた。


「持ってんな……お前ら」


 リクも構える。


「外道はどっちだクソが」


 ヨデンは自身を帯電させ、霜に帯電する地面から若干浮く。


 左手を突き出し、氷雷を多量に纏わせてから拳をつくる。


 【氷雷メデレス 鳴氷泥泥(めいひょうでいでい)


 拳の先に収束した氷雷が濃い線となり、リクへ直線に飛翔。


 リクは正面に長方形の陰を出現させる。


 発光する氷雷はその陰を退かしながら前進。


 互いに"やっぱり"と言った。リクは陰が防御に使えないことを確かめた。横の陰を伸ばし、自身を引き寄せて氷雷を躱す。


 物が発光した場合、それに照らされた物体には濃い陰が生じる。ヨデンとの相性が悪いようで、案外そうでもない。


 厄介なのは、発光により陰の動きが瞬間的に鈍くなること。


 接近戦……そうなれば、有利なのはヨデン。


 しかし、そんな逆境の立場なぞ、幾度も潜り抜けた。


 "二重太陽"の紋章を背負えることが、彼らの糧となる。


 そして巡礼者の戦いは、互いの能力を理解してから激しさを増すのだ。


 【流月コスケール 影龍(えいりゅう)


 リクの足元の陰が拡張され、そこから影の龍が畝りながら空へ昇る。


 4馬身はあろう図太い胴体を撓らせ、全長は街一個分ほど。


 ヨデンが見上げ影龍を目視した隙に、リクはまた陰へと潜った。


 先程と同じやり方で、リクを見つけようと動いたヨデン。


 頭上の影龍が接近を開始した。


 巨大な影に、自然と視線を移してしまう。


 死角から突き抜けたリクの振るう小斧が、ヨデンのうなじに触れようとしていた。


 頭を傾けて避けたヨデンの右耳軟骨を、リクの小斧は斬る。


 避けた際に左手をリクに向けていた為に、そのまま【鳴氷泥泥(めいひょうでいでい)】を突き放つ。


 陰を濃縮させ盾とし、身体への直撃を防ぐ。しかし威力は殺せず、大きく後方へと突き飛ばされた。


 直後、下降して口を開けた影龍がヨデンを呑み込み、そのまま地面へ潜る。


 ヨデンは氷山にしがみつき、全身に帯電させていた氷雷を放電し続ける。影の圧に押し潰されそうになりながらも、ヨデンは耐える。


 自身へ物理的圧力があり、対し影が身体を通り抜けることから、この龍は"半物体化"していると判断。


 歯を軋ませ、大剣の刀身に氷雷を集中。


 ヨデンは、影の圧の中で大剣を振るった。"半物体化"した氷雷が、斬撃に似た動きをする。


 影龍の尾の部分は縦に裂け、再度閉じるまでの隙にヨデンは抜け出した。


 陰に潜ったであろうリクを、また探さなくてはならない。


 二重魔法陣の展開。


 【氷雷メデレス 雲乃雷氷(くものらいひょう)


 大剣の切先から空に向け放たれた氷雷が、泳ぐ白雲へ触れる。瞬間、それは灰色雲へ変わり、たちまち広範囲に広がった。


 ヨロレイヒ湖国で雪を降らせた雲が生成される。自身の生命力を自然物である雲に感化させ、私物化する高等魔法。


 陽の光が雷雲を下から照らし、凹凸の明暗がくっきりと浮き出るのだ。


 雷雲は発光と雷鳴を繰り返し、ヨデンの攻撃の手段は格段に増えたことを告げる。


 地面には変わらず霜に帯電し、陰の中のリクを探し続けていた。


 雷雲から落とした氷雷を自身に纏わせ、空中へと留まるヨデン。


「埒が明かねえ」


 停滞し続ける戦況に、小言を漏らす。


 先程の影の龍を斬る時に、"半物体化の氷雷"を初めて試したヨデン。


 仮にリクが半物体化して陰に潜っている場合、半物体化の氷雷であれば攻撃できるのではと考える。


 生命力か、物体化かの二択であったヨデンの氷雷に、新たな可能性を見出してしまう。


 その思考は、リクすらも想定していないこと。


 リクの"嫌な予感"は、顕著になる。


 ヨデンの放つ氷雷の"全て"を、"半物体化"させた。


 思いついてからそれを魔法に落とし込むことなど、常人では到底成し得ない業。


 魔法という学に対して、相当な知識がなければ思い付きさえしない。


 霜に帯電する氷雷は、リクに痺れと悪寒を与えた。


 戦いの中で、"進化"を遂げたヨデン。


 こんなにも早く、自身の"影"の能力の対抗策を見出されるなど……。


「引き摺り出してやんぜ」


 雷雲は発光と雷鳴を重ね、その轟音は大地を振動させる。


 芯に響く低音と、張り裂けるような雷鳴が緊張感を煽る。


 次第に音が大きくなるそれに合わし、ヨデンは大剣の柄を逆さに持ち、切先を地面へ向けた。


 全ての音は止む。


 静寂にすら、身体を掴まれるようで。


 【氷雷メデレス 地雷氷峰(じらいひょうほう)


 雷雲から大剣の柄先へ、幾本もの氷雷を落とす。


 それは柄を伝い、瞬時に刀身を氷雷で染め上げた。


 切先から放たれた、濃縮された氷雷の線が地面へ落ちる。


 瞬く間であった。


 四方八方に稲妻の如く突き伸びる氷塊。


 歪で壮大な氷山が、地面から突き上げて形成されたのだ。


 リクは、空中へ放り出されている。


 右脇腹を氷塊が貫き、撒き散らされた血が陽光に反射しながら。


 ヨデンの凍りつくような鋭い目線が、リクを捉えて離さない。


 リクもまた、ヨデンを見据える他ないのだ。





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