報復
「なんだ。これは」河瀬は、思わず目を疑った。バリケード作りの合間、仲間達とささやかな休憩を取っているときに、一緒に居た男からみせられた携帯端末に映っていた、SNS動画だ。
自分達が居るステーションから複数のミサイルが発射されている。しかも数え切れない程だ。飽和攻撃のため飛龍の迎撃が間に合わず、複数のミサイルが着弾していた。
「すごいな、ステーションにミサイルがあったか?」誰かが言った。
「フロンティア7から逃げてきた軍が持ってきたのじゃないのか?」
「そんな筈はない」河瀬は、首を振った。
その時、ステーション全員にメールが届いた。
「避難指示が出たぞ、こっちがミサイル攻撃で勝っているんじゃないのか?」誰かが不思議そうに言った。
「多分、この映像はフェイクだ」河瀬は、ぐっと奥歯をかみしめた。
「なんでこんな映像を?軍が不利に見えるじゃないか」
「軍は、こっちにミサイル攻撃を加える口実を公にしたいだけだ。協定で宇宙の居住施設は攻撃できないからな」どこからか、マイヤーがやってきて中に入ってきた。「多分、まもなくこっちはミサイル攻撃の餌食になる」
「シェルターブロックに行くべきだ」河瀬は、マイヤーを見た。
「お前はそうするべきだ。」マイヤーは頷いた。「もっとも俺は、ここから出るけどね。」
男達は、ざわざわと移動を始めたが、マイヤーはそんな彼らを見送るような感じで、まだ同じ場所にいた。
「あんたは?」そんなマイヤーを一歩、進んでから河瀬は振り返った。
「おれは、自分の船に乗る。クーパーの仲間達は、みな宇宙が好きでね。こんなステーションの壁に囲まれた場所にずっといるのは、そもそも性が合わないのさ」
「そうか・・・」河瀬は、じっとマイヤーを見つめた。「生き残れよ」
「お互いさまさ」マイヤーは、そういうと、反対側に向って早足で歩き出した。「急がないと、俺の船がぶっ壊れてしまう」
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シェルターブロックでは、多くの人々が不安な表情を隠せないまま、簡易宇宙服に身を包んでいた、痩せた高瀬には、ぶかぶかなフリーサイズの服、そもそも辺境のステーションでは、高カロリーな食事を継続的に摂ることが難しい貧しい人々だけが、ここに居残っていた。だれもがフェイスシールドをあげていたので、有象無象の中でもやがて由美に出会う事ができた。
「私達、どうなるのかしら?ミサイル攻撃なんかうけたら、たまったものじゃないわ」由美は、震えながら高瀬の腕を握った。
「いざとなれば脱出ポッドで、宇宙空間に放出されるだけかな、そして運良く救出されたら、犯罪者として裁かれると思うけどね」
「これだけの人数よ・・・」由美は周りを見渡した。シェルターには、どんどん人が入って来ていた。よく考えれば、よくまあこの状況でこのステーションに居残っていた人がこれほど居たことかと、感心してしまった。そして、どの顔も不安を隠せない。
「みな、行く場所がないからね」高瀬は、しんみりと言った。「攻撃が始まればここも混乱する。できるだけくっついて居よう」そうして、由美の手をしっかりと握りしめ、人が固まっている、ポッドの入り口とは離れた場所の壁で寄り添った。
「ここじゃ逃げられないわ?」由美は河瀬の顔を見つめた。
「俺たちは、ミサイル攻撃なんかしていない」河瀬は、宙を見つめた。「なのに、彼らは俺たちのステーションを破壊しようとしている。俺たちの誰かが生き残り、それを世間に知らしめられるのは、軍には都合が悪いだろうな」
「まさか、ポッドを落とすつもりじゃ?」
「その可能性も無くはない」
「ねえ、私達はここで死ぬことになるの?」
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「ミサイルの発射準備が完了しました。全ての弾頭脳の照準はステーションに合わせてあります。」
「100発の飽和攻撃で、一気にカタをつける。脱出の機会を与えるな。脱出ポッドももれなく破壊する。」
「艦長それは!!」思わずシュナイダーの通信が入ってきた。
「これは殲滅戦である。誰一人生かすな」角谷の姿がスターホークのコックピットの壁に投射された。その表情を見て思わずシュナイダーは息を呑んだ。ー笑っている?ー
「避難民は・・・まさか避難民も?」彼は、その不気味な笑みの中にあるものに、以前知っている男のものではない、何かを感じた。
「放り出せ」角谷の返事にシュナイダーは、しばし躊躇った後に、了解と答えた。
「宜しい」その言葉と共に、画像は消えた。
「リズ、居るか」シュナイダーは、船内の有線回線を使い、一人の女性を呼び出した。捕虜の身の回りの設備を担当していた、医務室の担当だった。
「ええ、後方なので、怪我人もなく暇をもてあましていますけど、急患でも出ましたか?」
「いや、捕虜のことだ。」
「なにか問題でも?」
「彼らを誘導して、救命船のドックに連れて行ってくれ」
「いいですけど、なんでまた?」
「彼らをこの船から放り出す。説明は、私から前原に話すことにしよう」
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宇宙という広大な中において、ミサイルというのは、破壊には優れているが、目標までの距離を考えると、遅いため目標に逃げられるのがオチであるが、動けない相手には非常に有効である。しかも加速を一気に行って慣性で突き進んでも、多少の軌道修正を加えるのに微量な燃料を使うだけで、速度が落ちることもない。
飛龍から放たれた数多くのミサイルは、その距離からすればゆっくりと、ステーションに向っているように見えた。そしてステーションの周囲には、クーパーが連れてきた部下達が、めいめいに戦闘機に乗り込み迎撃体勢を組んでいた。
しかし、その数は圧倒的に少なく、人が乗り込む戦闘機に掛けられるGは、ミサイルに比べて格段に弱い。
僅かなミサイルは、確かに迎撃はした。しかし、飽和攻撃では、その全てを迎撃するのは不可能だった。しかも、そのミサイル群の中には、戦闘機に接近した上で、わざと迎撃されたあげく大量のクラスター爆弾を周囲に散らばらせるものまで混じり。
そのため多くの戦闘機は、それに破壊されていった。
ミサイルがステーションに当たる度に、シェルターでは、悲鳴やどよめきが巻き起こった。脱出ポッドへ向う扉は、解放されて多くの人々が殺到していた。
そしてポッドが発射されると、飛龍からもミサイルが発射された。ポッドを狙ったものであった。
ステーションは、小さい隕石への対応のために、決して脆弱な外壁は持っていない、しかし、ミサイルはその外壁で爆発を起こす度に、それを剥ぎ取っていった。破片は宇宙に撒き散り。外壁を失った場所に更に次のミサイルが命中すると、巨大な穴をそこに穿った。破片はさらに飛び散り、その中には人々の遺体も混ざっていた。
スペースフラワーからは、いつの間にか機械が飛び出し、破片を回収しては戻ってゆく動作が繰り返された。ただし、遺体だけは宇宙空間に残されたままであった。有機物は不要であったからだ。
ステーションが破壊されてゆく有様は、スターホーク内の前原達も各々の携帯端末で見入っては、慟哭をしていた。多くは女性や子供達だった。
繰り返し繰り返し絶えることの無いような攻撃は、ステーションを削りとってゆくような有様だった。反撃することもなく、時折内部で爆発が起きて、そこに更に大きな穴が空いた。
前原は、シュナイダーに呼びつけられた。兵は哀れみの表情を隠すことなく、彼の肩を押して、移動してきたばかりの部屋から彼を出し、弱い疑似重力のかかった通路を案内した。
「また、移動ですか?」連れて来られたあのは、シュナイダーの私室であった。前原は、疲れ切った声で不満そうに言った。
「ああ、君たちには救命艇に乗り込んでもらう」シュナイダーは、前原の死んだような目をしっかり見て言った。
「ええ、なんで?」
「君たちを生かしてここから出さない計画が持ち上がった。」
「どうして?、私達はただの避難民だ。あなた達は、私達を守る義務がありませんか?」
「ここで起きたことを外に漏らさないためだろう」
「救命艇に乗せて、船ごと破壊するというのですか?」前原は、思わず声を大きくした。
「ああ、上からの命令だ。私には、多くの部下がいる。大切な仲間だ。命令に背けば、多分飛龍はこの船ごと君たちを抹殺するだろう、それは避けたい。」
「なんで、私にそれを話す。知らなければ、解放されたものと希望を持って乗り込めるのに・・・絶望を抱えて絞首刑台に上れというのですか」
「絶望か、希望か・・・どちらにするかは、君たち次第だ。」シュナイダーはじっと前原を見つめた。
「どういう事です?」
「自分で切り開いてくれ、君たちの船には予備のナビゲーターを搭乗させてある」
「でも、どうやってあれから逃げ切るんです?救命艇の推進力では到底スペースフラワーまで追っ手を振り切れない・・・無理だ」
「飛龍から切り離された、ブロックを使え、今スペースフラワーから発射された、スカベンジャーマシンがこれを回収している。」シュナイダーは、外部映像を映せというと、壁には、宇宙空間の様子が映された。
そこでは、かつての羅刹ブロックに多くの機械が群がり、それをスペースフラワーに持っていこうとしたり、細かく分解しようとしていた。
「あれに、アンカーを打ち込み。スカベンジャーに連れていってもらえ、そうすれば充分な隠れ蓑になるだろう」
「そんな・・・うまくいくわけがない」前原は、壁に映った画像を見つめた。「スカベンジャーに切り刻まれるかもしれない」
「運をあれにまかせるんだな、すくなくとも飛龍に任せるよりはいい」




