飛龍2
飛龍の羅刹制御士である。ドゥラは、コンテナがハッチから入ってっくると、羅刹を一体ずつ呼び出して、自動検査室に誘導した。細いレーザーが羅刹の表面をくまなく走査して異物が付着していないかを検査する。作戦後、羅刹を戻した場合に敵側が、羅刹の胴体に爆弾を付着させるケースが想定されるからだった。他にも、危険なウィルスを表面に塗りつけられる事も想定された。
検査装置は、どれも異常なしを知らせ、羅刹は自ら装置から歩いて出てくる。それに対してドゥラは、停止の命令を与えた。すると、待機していた羅刹運搬用のドローンクレーンが羅刹を大きな爪で捕まえて、奥にあるロッカーに運んで行った。
ドゥラは、この自動殺戮を目的としたAIが好きであった。自分自身、性別は無い存在と思っていて、手術のあげく性器を完全に無くした。男でも女でもない、それは、AIにも通じるものだった。自分が求める姿が、羅刹にあるような思いが常にドゥラにはつきまとっていた。
「ドゥラ、羅刹のチェックは順調か?」唐突に、ドゥラの居る部屋の壁に、上司のAI上級戦術官であるヒョーの顔が現れた。軍人らしい角刈りの頭に、東洋系の細長い目に低い鼻、そして見た目にも、ごつい顔が男性らしさをアピールしている。
ドゥラは、正直この上司が好きではなかった。船の中には男も女も居るが、ヒョーは、誰彼構わず、男らしさ、女らしさを部下達に求めていた。ドゥラにも産まれた時の性としての行動を求めていたからだ。
噂の範疇だが、ヒョーは元々はかなり細面の顔であり、多分女装すれば女性より綺麗だったらしいが、それにコンプレックスを抱き、整形手術で今の顔にしたとの事だった。
「はい、今のところ問題のある機体はありません」投射された壁に向って、話しかけた。
「分った、鹵獲されていた機体だ、なにか仕込まれている可能性もある、特に念入りにたのむ」
「了解しました。問題がある場合は、自爆でいいですね」
「そうしてくれ」そして、投射は消えた。
次々と羅刹が検査装置を通ってゆき、ドゥラも眠気を感じた頃、突然、モニターに警告ランプが灯った。
そして問題箇所が、ディスプレイ上に色々な角度からの映像が組み合わされ、3D画像として映った。その羅刹の胴体には、薄く羅刹と同色の固形物が粘着性のもので接着されていた。その固形物の末端には小さいICが一個取り付けてあった。
「敵さんもなかなかやるけど、この程度では私の目はごまかせないな、ドゥラ百戦百勝だぜ」そしてドゥラは、ディスプレイ上にある、隔離のボタンを押した。すると、一機のごついドローンが、問題のあった羅刹をつまみ上げて、厚い装甲を持ったカプセルの中にそれを押し込んだ。そして羅刹の格納庫から宇宙空間へ放出されていった。
ディスプレイには、そのドローンが映っていた。そしてディスプレイ上の「破壊」ボタンを押した。やがてドローンがカプセルを開くと、宇宙空間に細かい金属破片がばらまかれた。
結局全ての羅刹をチェックすると、3体に爆弾が仕掛けられて居たことが判明した。
「ヒョーAI上級戦術官を」ドゥラは、部屋の中で呟いた、すると壁にヒョーの姿が映し出された。
「ドゥラ、終わったのか?」
「はい、完了しました。3体に爆弾の装着が確認されましたので、それらは全て破壊しました。羅刹の精査結果は、ファイルRI5010BXに記載してありますので、確認をお願いします」
「分ったご苦労、尚、今後、角谷船長の指示により、全ての羅刹に重火器を装備させるので、準備をしておいてくれ」
「重火器のレベルは?」
「殲滅戦Aになるだろう」
ドゥラは、耳を疑った。「殲滅戦Aですか?」と思わず聞き返した。
「ああ、交渉に応じず、戦いを臨む者に与えられるべき報いだ」
壁に映ったヒョーの顔が消えた。
ドゥラは、ディスプレイ上の羅刹準備のボタンを押すと、ディスプレイ上の認証エリアに人差し指を当てた、その指の中に小さい認証用チップが手術で埋め込まれているのだった。続いて現れた装備一覧から、殲滅戦Aを選択した。再度確認を行うダイアログボックスが表示され、続行ボタンを押した。
はやく作戦を終えて帰りたいと思った。地球に戻れば、同じく性別を失ってはいるが、愛すべきパートナーと、二人のDNAから作った精子と卵子で生まれた愛すべき子供が待っているのだった。
ドゥラは、ポケットから写真を取り出して、その中に映っているパートナーと子供に向って、「もうすぐ帰るからね」と呟いた。
その時、ドックの中で複数の羅刹が自爆を始めた、その自爆の影響で近くにあった羅刹も、次々と爆破し、装着を初めていた重火器もまたその影響を受けて連鎖的に爆発を繰り返し、ドック全体が内部から破壊されていった。ドゥラが居た制御室もその煽りをくらった。写真は破け。ドゥラは血まみれになって宇宙空間に吹き飛ばされた。
□
「始まったな」クーパーが呟いた。飛龍の中央部から、次々と破片が宇宙に散らばってゆくのが見えた。
「やりましたか?」目をこすりながらマイヤーが椅子から立ち上がった。「沈むでしょうか?]
「さあな」クーパーはじっと様子を見ていた。
やがて、破壊が始まった部分を含む船体の一部が扇形の大きなパーツごとに四方にまるごと宇宙に放出された。それを待っていたかのようにスペースフラワーから、小さい装置がそれに向って飛び出してきた。
「羅刹のドックをまるごとパージしたか・・・」クーパーは舌打ちをした。「流石だな、良い船だ」
「しかし、これで羅刹からの攻撃は無くなりましたね」マイヤーは、クーパーの顔を見たが、そのいかつい顔は、まるで苦虫を潰したように、機嫌が悪そうに見えた。
「できれば、もっとダメージを与えたかったが・・・」
□
「Dセクションを切り離し完了です。ダメージは最小限になりましたが、羅刹による攻撃は今後は無理です」ヒョーが、コックピットでローレンスが操作する端末を見終わると、角谷に告げた。画面内では、切り離された羅刹ブロックが四方八方に飛び去る様子が映っていた。そのブロック内に生き残っていた人員が、救命艇で急いで脱出をして飛龍に向っている。その救命艇とは反対に、スペースフラワーから放たれた小型の機械が切り離されたブロックに向っていた。それは、金属をバラバラに裁断して、スペースフラワーに持ち帰ってしまう。そのため、こういう状況になった今は、すでにブロックの回収は不可能となる。
「構わん、さて、これからあの忌々しいステーションに対する攻撃について、命令を下す。」角谷の言葉は、冷たくコックピット内に響いた。「我々が受けた攻撃は、ドローンによる破壊攻撃でああると判断する。これは、条約規定の例外事項、ステーションからのミサイル攻撃と同等のものであると解釈する。したがって、我々もまた103ステーションに対するミサイル攻撃を行う。これは報復攻撃である。担当部署は、配置に付け」
「あなたは・・・」とコックピット内に居たヒョーが、思わず口にしたが、冷たい角谷の視線に思わず続く言葉を飲み込んだ。予想していたのですか?にもかかわらず羅刹を船内に取り込み、大事な部下と施設を失わせたのですか?
「なんだ?」角谷は、敢えてヒョーに訊いた。
「いえ、大丈夫でしょうか?後に市民の反発が予想されます」
「構うものか、今までの統制が緩すぎたんだ。今後、ステーションは中央に従順であることが求められるだろう」角谷は、ふと考え込んだ。「いや、情報統制はかけることにしよう、メディア部はステーションから当艦およびスターホークにむけてミサイルを発射した合成画像を拡散しろ。その方がより説得力がある」
「了解しました」コックピットに不在だったが、オンラインで参加していた担当の画像が、壁に投射された状態で、返事をした。




