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飛龍

「ナビゲーター協会のグレッグだ」映像に現れた顔は、合成された人間の顔であった。しかもまるで遊んでいるかのように、単語ごとに別人に切り替わるというせわしなさだ。本物の協会の人間は誰も見た事がない、宇宙花を使って移動する宇宙船には、必ずナビゲータルームが設けられ、そこに人のサイズより大きめのカプセルーその形状からしてコフィンと呼ばれるーに入ったナビゲータが据えられる。グレッグ自身もたたき上げから、協会の長に登り詰めたと言われる人物だ。


「ノード103のジム・ビルです」ビルは、画面から目をそらして応えた。


「貴様の要件は飲めない」グレッグがいきなり言った。


「しかし、協会では破壊活動をする船の通過は認めないとなっているでは、ありませんか」


「それはスペースフラワーの破壊活動が行われると認知された時に限る。」


「管制システムもまた、スペースフラワーの一部であると解釈できます」


「いや、貴様らが使用している、管制システムは、我々が貴様らに貸与しているものに過ぎない、スペースフラワーとは、あくまでも異星人により製造された、移動システムの基幹構造物のみを示すものだ」


「では、飛龍を停止させることは出来ないと・・・」


「我々は、海賊であろうが、警官であろうが、通行料さえ支払えば全ての宇宙船に対して航行の自由を保障するものである。したがって、中央軍の飛龍の停止はできない」


「このままでは、大量の死人が出ることになってもか」ビルは、思わず大声を出した。


「戦争の責任は貴様らにある。我々ではない」画面は、暗くなった。その瞬間、再び画面が明るくなり、一人の精悍で四角い顔をした男が映った。


「オールディズ・ボウイだ。これは傍受を防ぐために、仮想サーバーに録画したものからの送信のみとなっている。ノード103、今、我々は義勇軍を募り、武器とともに集結しつつある。しかし、飛龍の到着前にそちらに辿り付くことは不可能である。飛龍到着後、72時間、籠城で耐えてくれるようにたのむ。我々は必ず行く」


画面は再び暗黒に満たされた。


「72時間もか・・・」ビルは、ため息をついた。




「来たぞ」シュナイダーは、スペースフラワーの環の内部から葉巻型の巨艦の先端が現れたのを見て呟いた。


 角谷は、広いコックピットの中央にある大きな椅子に座り、忌々しそうに立体ディスプレイに映るノード103ステーションと、それと距離を置いて停泊しているスターホークを見ていた。「未だ始末していないのか」かみ殺したような声が彼の口から漏れた。


「弾頭ミサイルを用意しておけ」角谷は、コックピットの周囲に映る各部署の長の顔の誰を見るではなく静かに言い放った。


どこからとなく「アイアイサー」と声が響いた。


「シュナイダー、君は何をしていた」角谷は、壁面に映る長い顔の男をにらみつけた。


「羅刹による制圧を試みました。しかし、現在は、連絡が取れずステーション内部深くに誘い込まれ、鹵獲された状態にあると思われます」


「鹵獲されただと?」角谷は、唾を飛ばすように言った。その様子は、シュナイダーがいるコックピットにも映し出されていた。


奴は、こんなに激情的だったか?冷徹で計算ずくで上を目指すような奴だと思っていたが、昇進して、本来の性格がでたのか?シュナイダーは、この男とは今後どのように、やりとりをすべきか考えた。


「通信が途絶えたので、そう予想されます」


「鹵獲されるような装備で出したのか?」


「制圧モード3の装備です」


「バカか貴様は」角谷は大声で叱責した。「制圧モードだと?ここは殲滅モードだろ、なんでそんなバカな選択をした」


「ステーションにある武器は小火器のみであるという情報によるものです。」


「ふん、立てこもっている虫どもに情けでもかけたか」


「まずは、あちらの武力を早期に沈静化させ、降伏を求めるがセオリーかと」


「その結果が、鹵獲か。無能船長が、お前は後方に回れ、これより私が全ての指揮を執る」




「前原さん、だったかな」シュナイダーは、目の前で不安な表情を隠さない男を、見つめた。こんな状況だ、本来ならだれもが、この様に怖じ気づくのが普通だ。ステーションから避難した者として、法的に安全は保証されているとはいえ、まだ戦場にいると言っても過言ではないのだ。戦場では、どんな理不尽でも起こりえる、それを前原という男は、本能的に感じ取っているのだろう。


「はい、そうです」と応えた前原からは、すえた匂いが漂っていた。捕虜状態にある、彼や彼女たちは満足に体を清潔に保つことはできていないのだ。


「私の船は、後方に周り当面は戦闘に参加しない。そのため、余力となった兵士達に、君たち用の小さい個室を作らせる予定だ。当然、ホテル並とはいかないが、兵士同等の個室を与えるが、どうだね」


「余分なスペースがあるのですか?」前原は、今多くの避難者が居る武器庫を思い出していた。


「いや、現在使っている部屋に、区画を設ける程度だ。あと、シャワールームも必要みたいだな」


「それだけでも、助かります。その工事の間、彼女達はどこで待機すればいいですか?」

「ここだ。ここに誘導して欲しい」とシュナイダーは、一枚の紙を手渡した。「後方に付くとはいえ、兵士達と避難民を直接接触させたくない」


前原はそれを受け取って、しばらく経路とその行き先を見つめた。彼は不安そうな視線を艦長に向けた。


「心配しなくていい、脱出用の船に詰め込んで発射するような事はしない、それなら狭いが座席も充分あるし、トイレも綺麗なのが備わっているからな」



 やがて、スターホークは、ステーションと対峙する姿勢を取った飛龍の後ろに回った。

その暫く後に、ステーションの末端にある廃棄坑からゴミが一斉に放出された。その中には、幾つもの羅刹が混じっており、それらは機能を取り戻したのか、スターホークに向って移動を始めた。


「羅刹を回収しますか」リタは、再び通信を再開した羅刹からの信号をモニターで見ながら、シュナイダー艦長に伺いをたてた。


「船外に待機させておきたいな」彼は、どこか胸騒ぎを感じていた。敵の手垢が付いているかもしれないものは、近くに置きたくなかった。


「装備の交換はしないということで?」リタは、それを聞いて勿体無いと思った。まだ、格納庫には羅刹が用意されているが、価格を考えると、再装備してから使うべきだと思った。


「ウルフガング、お前は後方で見ていろと言ったはずだ」いきなり角谷の声が割り込んだ。「羅刹は飛龍で回収し、第一級装備を装着させる」


「しかし、一度敵に落ちたものを使うのは如何なものかと思われます」シュナイダーは、心のなかで舌打ちをした。


「あいつらに何ができる」角谷の傲慢な声が響いた。「ステーションごと葬ってくれる」


「ステーションの破壊は、条約違反になりますが・・・」シュナイダーが、心配そうに意見をした。


「だからどうした」と答える角谷の声がシュナイダーにはずしんと響く感じがした。こいつ、こんな奴だったか?確かに野望の固まりのようなやつだったし、同じような事は言ったことはある。しかし、今、角谷の口調に不吉なものを彼は感じずにいられなかった。


「さっさとこっちに、羅刹の制御を渡せ」角谷が、嫌とは言わせぬ強い口調で言った。


「リタ、聞いているな」シュナイダーは、困り果てているリタを呼び出した。


「はい」答えたリタの声はうわずっていた。大方、部外者扱いみたいにされて、他の事でも考えていたのだろう。突然呼ばれて慌てているようだった。


「聞いての通りだ、送出された羅刹の制御権を飛龍に渡せ」


「いいんですか?鹵獲されたものを調べもせずに安易に取り込むのは?」リタは、不安を隠せなかった。


「構わん、上からの命令だ。」シュナイダーは、投げやりに言った。「言われた通りにしろ」



「了解しました。向こうの羅刹操作士と連絡してみます」リタの返事はやや小声だった。

「頼む・・・」



やがて、羅刹の群れは、列をなしてゆっくりと飛龍に向って動き始めた。と同時に飛龍から羅刹を運搬するコンテナが送出された。


「おやおや、角谷船長はあれを自船に入れるつもりか」それを眺めていた、クーパーが呟いた。


「よもや飛龍とは・・・どうします?」マイヤーは、クーパーの横に立って彼の横顔を伺った。


「どうしまっすって?もうどうにもならないだろ?なるようにしかならないさ」クーパーは、遠くにスペースフラワーを臨む展望デッキの外で行われている回収作業を見つめていた。その近くには、巨体を宙に浮かべる葉巻型の飛龍、そして細長いシルエットのスターホークがその後ろに隠れるようにして留まっているのが見えた。「ウルフガングは、後方に移されたか・・・可哀想に」


「何かしたのか?クーパー?」後ろから疲れた声がかかった、ジム・ビル管制官長だった。


「ああ、大きな花火が見られるかもしれない」クーパーは、振り向きもせずに前をみていた。


「飛龍に何かしたのか?」ビルは、クーパーの横に車椅子を寄せた。


「今、回収されている羅刹が自爆するように仕向けただけだ」


「そうか・・・」ビルは、しばらく目を閉じてから何度もうなずいた。「脱出用ボートはまだ残っているか?」


「ここにいる全員は無理だろうな」クーパーは、老人が何を言わんとしているかが、理解出来た。確かにある程度の大きな花火は見られるだろう、しかし飛龍にとっては、線香花火程度だ。そして、それを攻撃と理解した角谷は、激怒するだろう。


「タグも使おう」ビルは、ふうと息を吐いた。「シュナイダーはきっと救助に向ってくれる」


「俺たちの、貨物にも人を詰め込もうか?」クーパーは、訊いた


「お前の船が好きなように使えば良いだろう、それよりクーパー、あんたはどうする気だ」


「俺は、最期まで此処で戦う、部下は自分の意思に任せる」


「72時間・・・飛龍到着後から72時間後に、ボウイが来ると言ってきた」


「それまで、耐えろか・・・」


外では、羅刹をコンテナが回収を開始していた」


「私は、全員に避難の最終勧告を行う」ビルはクーパーに背を向けた。


「クーパーさん、俺も一緒に戦いますよ」マイヤーは、にやりと笑った。「くそ面白いない時代をわくわくして生きたいからね」


「俺が、お前らに俺の意思を押しつけた事があったか?」クーパーの目は外を見つめていた、「自分で自分の生き方を決めろ。人生を人にあずけるな」


「わかってますって」マイヤーは、拳を握った。「さて、向こうさんは、どういう手を打ってくるかな」


「多分、この施設に攻撃を加えるだろうな」


「それは、条約違反だ」マイヤーは、笑った。


「拡大解釈すれば、こっちも自爆型のドローンを敵に向わせたようなものだ。」クーパーは、じっと外を見たままだった。やがてコンテナが、動き始めた。



 狭い二人の部屋で、高瀬と由美は、短いながら愛の営みを終えていた。互いに疲れきっていたが、まるで互いに生きて居ることを確認するだけのような、ささやかな営みだった。


「下に何か残り物がないか見てくるね」由美は、服を着てみなりをそそくさと整えると、まだ裸のまま、天井をみている高瀬に言った。


「ああ」高瀬は、そう答えただけだった。鹵獲した羅刹をことごとく、メンテナンスモードにした上で、自爆回路に手を加えた、放出後、12時間で自爆回路に信号が流れるようにしたのだ」


あと、どれくらいで、スターホーク内で自爆するだろうか・・・スターホーク内に避難している人々は、大丈夫だろうか?自分がしたことは、あるいは仲間を殺してしまう事になったのではないだろうか、作業の疲れ、そして自責の思いが疲労感を増していた。


由美は、おふくの店内にある。保存食を漁っていた。いくつかの冷凍食品を手にすると、それをレンジで解凍する。だれもいない店内と厨房、多くの人々はきっと疲れ切って、瞼を閉じているだろうなと考えた彼女もまた、この施設内で抵抗することを決めた人々への食事の提供をしたり、バリケードの作成を手伝ったり、休む暇もない一日だった。


だれもが、明日をもしれない日々を生きて居る。


そういえば、じぶんそっくりのロボットは部屋になかったけど、どうしたんだっけ?と由美は、考えながら解凍した食事を運んだ。


薄暗い部屋では、高瀬が憔悴した感じで、うなだれたまま座っていた。既に下着は着ていた。


「ねぇ、ロボットはどうしたの?」と食事が入ったトレイとスプーンを差し出した。


「あれは、診療所に貸したよ。言ってなかったっけ?」高瀬がトレイに乗っている、どろりとしたペースト状の食事にスプーンを挿した。


「ああ、そうだった」由美は、それを昨日聞いていたことを思いだした。日々やる事が多すぎて、何かしら忘れてしまう。


「疲れているのさ、誰も彼も」高瀬は、そう言ってがつがつとペーストを口に放り込んだ。正直いってお茶漬けが懐かしい。同じように、かきこむような食事ではあるが、あじけない感じがつきまとう。


「歯を磨いてさっさとねましょう」由美も、たちまち食事を済ませていた。


「そうだね」高瀬は、あれが爆発する様子を想像した。仕掛けてたのが自分であると思うと、それが発動する様子を見たくはなかった。できれば、寝ている間に全てが終わって欲しい。その結果がどうなろうとも・・・



 クーパーは、ずっと展望室に居たままであった。マイヤーは、見届けるとは言ったが、いつの間にか硬い椅子に座ったまま、こっくりこっくりと船を漕いでいた。


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