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戦いの始まり2

 色黒で体格のいいマイヤーは背後に河瀬の視線を感じながらも、ディスプレイ上に表示されたテキストボックスにAIに与える文字列を打ち込んでいた。

「ファイルF:Data.mpzをVC48K方式で解析せよ。ヘッダー部分は1024バイトとする」エンターキーを押下すると、PCのファンがうなりをあげ始めた。


「なんですVC48Kって?聞いた事がないですけど」高瀬は背後から訪ねた。


「音声データに紛れ込ませた暗号データだよ」マイヤーは、画面を見ながら答えた。「人間の可聴領域外に音を被せているんだ、ただ、解析が面倒でね、データを抜き出すにはAIが欠かせない。高瀬さんは、ロボットエンジニアだから。しらなくて当然だよ」


 画面には、解析中を知らせるかのように小さい棒グラフに似たものが、蠢きながら右から左へと流れてゆき、かつ画面右下ではファイルサイズが分母に解析が済んだサイズが分子として表示され、分子の数値が目にも止まらない速度でカウントアップされてゆく。


「あんたのような優秀なエンジニアなら、こんなところでくすぶっていなくても、地球で働き口もあったのじゃないか?「


「色々とあってね。犯罪を犯したわけじゃないが、逃げてここに辿り着いただけさ」


「まぁ、人それぞれ事情ってのがあるものな、それにしても、えらい事に巻き込まれてしまったな。なんで出ていかなかった」


河瀬は、一瞬返事に困った顔をした。

「ここが好きなのですよ」河瀬は、ようやく愛しい女性の顔を思い浮かべて返事をした。「可能ならここで一生を終えたかったですよ。」


「物好きな奴だな。」マイヤーは笑みで答えた高瀬を見た。「しかしこんな辺境でも住めば都だということか。俺は、クーパーの行くところが故郷みたいなものだ。あいつと一緒にいると、面白いからな」


「マイヤーさんの方こそ不思議ですよ。ずっとあっちこっちに行っているのですか?」


「まぁ、そんな感じだ。俺はデラシネなのが一番性にあっている。クーパーに出会う前もあちこち放浪していたしな」


「その割りには、しっかり技術持ちなのですから余計不思議ですよ」


「放浪と行っても、傭兵だ。工兵採用だけどな」


「それで、こういうものに詳しいのですね」


そのとき、PCの処理が終わった。


「さて、メンテナンス インタフェースを手に入れたぞ。あとは、羅刹に試して中身を見てみようか。もし失敗すれば、ドカンかもな」




 羅刹は武器である。しかも高度な技術が集積されたものだ。したがって、力尽くでその中身を知ろうとすれば、機密が他者に漏洩するのを防ぐために自爆機能が設けられている。マイヤーと河瀬は、それを相手にしようとしていた。


 リサイクルセンターと言えば聞こえは良いが、事実上の不燃物のゴミ集積場には、コマンドで停止状態にある羅刹がまだあちこちに転がっている始末だった。それを、フォークリフトが一台づつすくうように持ち上げては、ゴミが取り払われ、床が見える場所に置いてゆく作業を続けていた。


 この場所では、このフォークリフトだけが稼働しているだけだった。マイヤーの愚痴に応えて、クーパーが他に応援を頼んだものの、ほとんどがバリケード作りにかり出されており、場所によっては、他のフォークリフトが作ったバリケードの為に身動きがとれないものさえあったのだ。


 フォークリフトを運転している、ユアンは疲れ切った体と頭脳にひたすら鞭をいれていた。ゴミの上に倒れた羅刹を運ぶ前に、そこまでの道も整備しなくてはならず、まずはゴミを運びながら床を露出させる。そして羅刹を運んで並べる。その繰り返しで、リサイクルセンターは、ゴミの壁に囲まれた巨大迷路に変貌しつつあった。


 マイヤーと河瀬は、羅刹と通信可能なPCを持って、その迷路の中を急ぎ足で歩んでいた。閉鎖されたリサイクルセンターの中では、フォークリフトが発する騒音だけが、背丈より高いゴミの壁の向こうから聞こえてきていた。そのゴミの壁といったら、どうやらゴミ同士がたまたまうまく絡み合う事で、ほぼ垂直に積み上げられている状態を保持しているように見え。二人とも、何時崩れるかと恐怖を覚えながら、先を急いでいたのだった。


「すごい事になってますね」てっきり、羅刹をここにおびき入れ、コマンドにより停止状態にしたまま放置されているとばかりに思っていた河瀬が、周囲を見回しながら呆れたように言った。


「整理しておけとは言ったんだが、まさか、こんな事になっているとは・・・」マイヤーとしては、ゴミがどこかにまとめておいやられ、羅刹は羅刹でまとめておいてあるだろうと思っていたのだった。


その羅刹がどこに置いてあるのか見当もつかない。まずは、音がする方向に向えば、羅刹を運んでいるフォークリフトに出会えるだろうという認識だけで、急いだ。


そして、機械の音が近いと思った瞬間、目の前のゴミの壁が音を立てて崩れ落ち、そこからフォークリフトのフォークが崩れた壁からにょきと現れた。


 悲鳴をあげる余裕さえなく、二人は倒れ込みながら後ろに飛び退いた。フォークは一端下がり、崩れたゴミをすくうとそれを高々と持ち上げ、それを二人のいるゴミの通路を構成するゴミの壁の上に慎重に乗せた。しかし、その中のひとつが大きな音を立てて、高瀬の足下に落ちるとそのまま跳ね返って、マイヤーの腹の上に乗っかった。古いオーブントースターだった。


「畜生」マイヤーは悪態をついて、トースターを手で払い落とすと、立ち上がって大声でわめいた。「おい、俺たちを殺す気か」


しかし、フォークリフトは、バックして残りのゴミをすくい上げ、また上に持ち上げていた。「あの野郎」マイヤーは、トースターを拾い上げると、それを砲丸投げの要領で、フォークの向こう側に向って放った。ドンという音がすると、フォークリフトの動作が止まった。


「誰だ、ゴミを投げるやつは」怒鳴り声が、ゴミの壁の向こう側から聞こえた。


「お前こそ、俺たちを殺す気か」マイヤーが怒鳴った。


「ああ?いまは作業中だ、ドアに立ち入り禁止って貼ってあっただろ」そして、はげ頭の男・・・いや、女性が崩れた壁から現れた。


「女?」マイヤーが、思わず呟いた


「あん?性別に文句でもあんのか?」女性は、両手を腰にあてて仁王立ちのような体で言った。「確かについているものは、女だが、ハートは、しょぼくれたちんぽを持ったお前らよりナイスガイのつもりだぜ」と右手で自分のムネをさしてみせた。「で、その萎え萎えちんぽのお二人さんは、ここに何か用なのかい?」


「その萎え萎えは止めてくれ、本当に萎えてきそうになる。俺はマイヤー、こっちは、高瀬だ」マイヤーは、情け無さそうに言った。


「俺は、ユアンだ。で、萎え・・・マイヤーさんと高瀬さんは、ここになんの用だ」


「羅刹のある場所を知りたいんだ。調べる必要があってね。」


「解体しないだろうな?」ユアンは、眉間に皺を寄せて言った。


「いや外部からのインタフェースを調査するんだ」高瀬が横から口を出した。「この戦況を変えられるかもしれない重要な調査なんだ・・・それで」


高瀬の言葉をマイヤーが遮った。


「ユアン、誰かが羅刹を解体したのか?」


「ああ、アルドリーノさんの指示だとか言って、馬鹿どもが1体持ち出して、宇宙空間でバラしていたよ。そしてドカンさ」


「アルドリーノの?まさか」


「ああ、偽の指示だったよ。あんたらも、アルドリーノさんの指示かい?」


「俺たちは、AIの研究者だよ。一応、クーパーからの指示ってところかな」


「ここで、爆発さえさせなきゃ、文句はないよ」ユアンが、そう言ってふと考えた、「一体でいいかい?」


「もちろん」


「じゃあ、これから運ぶ羅刹を使うといい」クレアが背中を向けた「一緒に来な」



二人は、ユアンの後ろを付いていった。ゴミの山の中にできた通路に鎮座したフォークリフトにユアンは乗り込み、二人に見えるようにゴミの山に乗っている羅刹を指した。


「あと一回、ゴミを除ければ、リフトで近づけるから、一寸待ってくれ」そうしてゴミをすくうと、高く持ち上げて壁と化しているゴミの山に積んだ。


「よくまあ崩れないものだな」マイヤーが呆れたように言った。


「腕だよ、腕」ユアンが自分の腕をぽんぽんと叩いてみせた。


そうして、ふたたびフォークリフトは動き羅刹をフォークの上に乗せると、ゆっくりとゴミの中の回廊を動き始めた。マイヤーと高瀬は、その後ろを付いて行った。


やがて、一行は一つの扉の前にきた。扉には、ドクロのマークが書かれていた。


「そいつの扉を開けてくれ」ユアンが、フォークリフトに乗ったまま、二人に指示した。

「これは・・・」高瀬は思わず、ユアンに困惑の目を向けた。


「丁度いいだろ、この中なら爆発しても大丈夫だ」ユアンの声は嘲笑を含んでいた。


「中に、何も無いのだろうな」高瀬は、訊いた


「危険なものは、ともすれば武器になるからな、この前総ざらいした」クレアが、にやっと笑った。「クーパーさんの指示ってやつでね」


「判った」高瀬は、ドアの横にある握り拳ほどの大きさがある、青いスイッチを叩くようにして押した。グワングワンと音を立てながら、扉が左右に分かれていった。


暗い部屋の中に明かりが差し込んだ。高瀬は、フォークリフトが入る前に中に入り込んで、ドア脇にある照明のスイッチを押した。すると、中に強い明かりが灯り、床に何もおかれていない、殺伐とした中の様子が露わになった。


フォークリフトは、中に入ると、羅刹を置いてバックして外に出た。

「じゃあ、調査の際には扉を閉めておけよ」とユアンは、忙しい忙しいと言いながら、去って行った。


「こんな場所があったとはね」マイヤーは、羅刹の横に立ちあたりを見回した。「なんだいここは」


「放射能や細菌、汚染されたもの・・・ゴミとしては物騒なものの集積所ですよ」高瀬は、そういうとドア横にある、大きな赤いスイッチを、人差し指で押し込むようい押した。「さんざんここで働いていましたから」


厚いドアが左右からグワングワンと音を立てながら閉まり始めた。


「あなた見たいに優秀な人材が?」マイヤーが、驚いて高瀬の顔を見つめた。「こんな所で?」


「優秀かどうかは?」高瀬は、苦笑いをした。「本当に優秀なら、ここには来なかったですよ。ここでは必要とされない技術しかなかったら、どんな仕事でもやらないとね。さぁかかりましょう、時間が惜しいです」高瀬は手にしたPCを差し出した。


「そうだな」とマイヤーは、それを受け取り、羅刹の脇にしゃがみ込んだ。


キーボードを叩く音が、静かな室内で異様に大きな音で響いた。


やがて、ドラム缶に似た羅刹の装甲が、ガチャと音を立てて、幅10センチ

程度に輪切りにしたかのように切れ目が発生し、それが上部から、右、左と

交互にせり出していった。


「ぱかっと開くと思っていたが・・・」マイヤーが、呆れた。

「こんなふうに完全にアセンブリ交換できるってわけだ。よく考えたな」


「用途によって、組み合わせもできるのでしょうね」河瀬はむしろ楽しそうだった。「ロボットでこういうのは思い付かなかった」


「全く、どういう頭の持ち主がこんなものを考えたのやら、しかしだ、こうしてメンテナンスインタフェースは明らかに手に入ったわけだが、これをどう使うかだな」マイヤーが、頭を傾げた。


「ソフトウェアでのアクセスが可能になったけど、ハードウェアの変更が果たして可能かどうかですね。そもそも、貧相な装備しかないこれのハードをどう改造するか?」高瀬は、複雑な回路が実装されていると思われる、ブラックボックスがいくつも、並んでいる基板を見つめた。


「ここに爆薬が実装されている」マイヤーが左右に飛び出しているアセンブリで一番中央に位置している部品を指した。高瀬が、それを見れば大きな黒い箱がひとつ基板に着いていた。しかも、その黒い箱につながっているパターンは2本のみであった。そのパターンの先はいずれも小さいICの足に、接続されていた。


「無難にC4かな」マイヤーが、じっとそれを見つめた。「2本のパターンの先に雷管があるとおもって間違いあるまい。」


「それにしても、やたら雑な造り込みというか、分解された事を考えてフェイクのパターンを作ったりしなかったのですかね?」高瀬は、マイヤの顔の横に自分の顔を近づけて黒い箱を見つめた。


「その必要がなかったからだろ、メンテナンスを失敗してドカンと整備工場をぶっとばす訳にはいかないしな。インタフェースでメンテナンスモードにしてしまえば、全て大人しくなるようになっているのさ、これだけ完成された製品だ、メンテナンスの省力化も考えられているのだろう」


「さて、こいつを使ってどう料理するかだな」とじっとブラックボックスを見つめるマイヤーに高瀬は、「こんなのはどうでしょう?」と小声で呟くように言った。



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