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最近の若者は苦労を知らないそうで  作者: 木介


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9/17

特効薬争奪戦

        ーー警備隊ーー

「お疲れ様です」


弱い雨がぽつぽつと降るなか、施設外部に配置されている警備員が敬礼をした。


「隊長は?」


「奥の監視センターにいます」


偉そうに施設へ入っていく男はSBK設立者の【いち】である。

奥の監視センターに着いた壱は隊長を見つけるや否や指示を出した。


「施設を閉鎖しろ、中の者は外へ出さず、外の者は中へ入れるな」


「今ですか?」


「今すぐだ、早くしろ」


何の指示も無いまま突然の施設閉鎖に現場はパニックに陥っている。

そして壱は次の指示を出した。


「妙な行動をしている者がいたら共有しろ」


すかさず隊長が質問をぶつける。


「こんな状況で妙な行動ですか?」


「あぁ、今の状況で妙な行動だ」


ピンときていない隊長へ壱は続けた。


「こんな状況なのに目的を持って動いている奴を見つけるんだよ」


        ーー善子ーー

応援の警備隊に紛れて侵入したとたんに施設の閉鎖、善子は今の状況に困惑していた。

侵入がバレたのでは無いかと思考を巡らしたがその可能性は低い。

何故ならそれが分かっているのなら中へ入れる理由が無いからである。

恐らく確証は無いが誰かが侵入したと仮定して閉鎖したのであろう。


しき、対象がある場所まで案内お願い」


こんな状況でも善子はマイクを通してしきに指示を仰ぎ、行動していたのだ。

すると今度は突然施設の照明が落ち、非常用の照明が点灯した。


「今度は一体何なの…」


理解が追いつかない状況に善子は少しの不安を抱えつつも、その目的は見失わなかった。


        ーー監視室ーー

「見つけました。この警備員、何処かへ向かおうとしています」


監視センターでは既に善子の事を把握し、その動向を監視していた。


「よし、予想どおりネズミが紛れ込んでいたな、逃がすなよ」


このセリフを吐いた時、突然停電が起きる。

周囲が慌てているなか「騒ぐな!!」と壱が一喝。すぐさま非常灯が点き、今度は現状確認の指示が飛ぶ。


「外部にいる警備隊に確認した所、落雷によって一帯が停電しているとの事です」


「落雷ねぇ…、ネズミはどうした?」


「現状、このカメラ周辺を彷徨うろついています」


壱は今の現象について考えていた。


「お前、停電した時もカメラを見ていたか?」


「申し訳ございません、一瞬ですが監視を怠っておりました」


現場には緊張感が流れ、壱は黙って考え込んでいる。

そこへ「考え過ぎなのでは」と隊長が恐る恐る発言した。

それでも考えるのをやめない壱はじっとカメラを凝視し「カメラの時間は?」と聞く。

監視員はモニターについている右上の時計を見て「正常です」と応えた。


「正常? その映像繰り返されてないか?」


「えっ…そんなはずは…」


よく見ると全てのカメラの映像だけが繰り返されている。

右上の時計だけを動かして映像は過去のものを繰り返すという高等技術によって既に偽装されていたのだ。


「カメラはハッキングされている」


壱の一言で更に現場は大慌てである。

先程の停電、怪しい警備員、ネズミは一人じゃないと壱はこの時確信した。


        ーー善子ーー

一体何が起きているのか目的地へ行くまでの扉は全て開いており、そこにいた警備員は倒れている。

最速で動いていた善子にとってこの先にいる人物が脅威であるのは間違いなかった。


目的地の研究室へ着き感じたのは薬品の強烈な匂い。

直ぐにハンカチで口を覆い、息を殺す。

そこで誰かが暴れた事は明白であり、物が破壊され、薬品やら色々な物が床に転がっている。

これは人を寄せ付けない為に敢えてやっている事ではあるのだろうが、自らも犠牲になるのでないかと思考を巡らす。

だが人物、いや訂正しよう。2mはあるソレを見て善子は関係のない事だと悟った。


「オマエハ、タシカ、タナカヒカリ」

「ヤハリ、オマエモ、スパイダッタカ」


目の前にいるのは経理部の鉄人。

だがそのマイクを通して話している人物に善子は話しかけた。


「鏡操だっけ? そんな画面越しで会話しないで直接話さない?」


「モクテキノ、モノハ、テニイレタ、オマエニ、カマッテイル、ヒマハナイ」


そう言ってアタッシュケースを持った鉄人がもうスピードで突進してくる。

相手が人であったなら止められる自信があったが、鉄の塊が突っ込んできたのだ。

あえてぶつかろうとしてくる鉄人を寸前の所で避けて、善子はその背後を追う他ない。


鉄人はダンダンダンと大きな音を上げながら警備員達を吹き飛ばし出口へ向かう。

少しずつ離されつつもその後ろをついていく善子にとってはありがたい事ではあった。


だが辿り着いた出口には既に警備隊が守りを固めて待ち構えていた。


「止まれ、もう逃げ場は無いぞ」


壱が鉄人の行く手を阻む。

その後ろには盾を持った警備隊と厚みのある鋼製の重量シャッターが下ろされている。

鉄人は行き場を失い、止まってこう言った。


「カウントダウン、カイシシマス」

「ホウゲキマデ、ジュウビョウマエ」


(えっ? 砲撃まで10秒前?)


その場にいた全員がその言葉に耳を傾けた。


「キュウ、ハチ、ナナ、ロク」


アタッシュケースを離して、鉄人の手が斜め後ろに伸び、自分を支える姿に変形する。


「ゴウ、ヨン、サン」


「全員退避!!」


壱の怒号が響く。


「ニィ」


鉄人の口が光で満ち大きく開く。


「イチ」


カウントが終わると部屋が光で満ち溢れた。

鉄人の口からは集束されたレーザービームが真っ直ぐ放たれ、シャッターがその存在を消される。


あまりの眩しさに警備員達が目を眩ましているなか鉄人はその姿を徐々に戻していく。

そしてその隙を善子は見逃さなかった、彼女はビームが放たれた数秒前に目を閉じ手で覆って目眩ましを回避していたのである。

彼女の行動には迷いなどなく、遅れてきたのさえ作戦だと思わせる程、華麗であり、流れるように床に置いてあったアタッシュケースを奪って出口から立ち去った。


その光景をただ一人、壱は黙って見ていた。


「追わなくていいんですか? アイツ壱さんが目を付けてた奴ですよ!」


数秒遅れて、同じく目眩ましを回避していた隊長が聞く。


「あぁ、別に構わない、隊員が動けるようになったら追わせればいい」


「いや、別に構わないって…」


「それより気付いたかアイツ女だったぞ」


「こんな時になんですか?」

「…よく見てますね、私はそこまで気がつきませんでした」


「見る目が無いなお前は」


「…精進します」


警備隊と鉄人の障害を乗り越えた善子は急いで施設を出たのであった。

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