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最近の若者は苦労を知らないそうで  作者: 木介


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会議室にて今後を決める

社運をかけた一大プロジェクト

大原社長おおはらしゃちょう】【大原専務おおはらせんむ】【佐藤常務さとうじょうむ】【浅川所長あさかわしょちょう】と会社のトップが揃い踏みした。


【営業部】

・佐藤 正 ・平野仁志 

【経理部】

鍋島哲也なべしまてつや

【人事部】

佐久間進さくますすむ

【総務部】

・清水律子 ・田中 光


会議室に集まったのは全部で十名。

簡単な挨拶を済ませて、プロジェクトよりも先に上がった話題は当然ながら【何故二人来ている部署があるか】であった。


「それに関してまずはこのプロジェクトのリーダーを務めさせて頂く私、佐藤がご説明致します」


「営業部の平野には大きな伝手つてがございますので、今回のプロジェクトには必須の人物だと考え参加をして頂きました」


伝手つてだって? それはなんだね?」


専務が大きな声で聞く。


「それは…」と佐藤が自ら言うべきか平野に目配せをする。


「三井総合病院です」


佐藤の言葉を受け取り平野が繋いだ。


「三井総合病院だって馬鹿言っちゃいけないよ、あそこは最先端医療の権威ある病院で日本医学発展研究会という学会の会長が院長を務めている病院だぞ、何でその病院と伝手つてがあるんだね」


相変わらずの大きな声で笑いながら言う。


「院長である三井修造みついしゅうぞう様のお孫さんは病弱で家にいることが多く専属講師を雇っていました、それが私だからです」


この言葉に周りがざわめき始める。


「なので私はご本人と繋がりがあり、必要であれば直接連絡する事も可能です」


言い終えた平野の後にすかさず専務が詰めよった。


「でたらめを言うな! 三井会長のお孫さんが病弱であるなど聞いたことも無い」


「信じられないという気持ちは分かりますがこれは事実です。それでも必要ないと仰られるなら私はこのプロジェクトに参加する資格はありません。会社の力になれず残念ではありますが退室致します。」


その権威ある三井修造と誰も知り合いでは無い為、嘘か誠か今は判断が出来ない。

だが善子には分かる、これは嘘であると。

そしてその意図は私への挑戦。

時間が経てばバレる嘘をわざわざつき、自分は近いうちに行動を起こすと私へ向けて短期決戦を挑んでいるのだ。


「良いじゃないですか、あの三井先生と繋がりがある社員がいるなら会社にとってプラスでしかない」


こう楽観的に発言したのは社長である。

社長にしては若く三十代半ばの彼が他の年老いた役人達より上なのだ。

こんな奴が機密事項を管理しているのか思うと周りは気が気でないだろう。

それとも絶対に外部へ漏れないという確固たる自信があるのかその真偽は測れない。


とにもかくにも社長の一言で役員達は黙り、さっさと次へいけという雰囲気だ。注目が善子へ集まる。


「では次に総務部の田中光さん何故彼女が必要であるかですが清水さん説明お願いします」


ただしからバトンを渡された清水は立ち上がり発言する。


「総務部の仕事は決して一人では出来ません、なので私が優秀だと思う部下を付けさせて頂きました」


「何を言ってるんだか」とまたしても専務が野次を飛ばしてくるかと思った時、「清水さんがそう言うのなら良いのではないでしょうか」と常務から意外な助け船が出てきた。


助け船を出す二つの理由を善子は知っている。


一つは元営業部長で清水の上司に当たる人であったが為、彼女の優秀さを知っているから。


もう一つの理由はこのプロジェクトリーダーである佐藤正の父親であり、息子の意図を聞いているからである。


白石部長が清水を推薦した理由、それはただしが父へお願いし彼女を推したからに他ならない。

ただしはかつて営業部で共に切磋琢磨し競いあった彼女の廃れていく姿は見るに堪えず、もう一度だけ一緒に仕事をして、かつての彼女を取り戻して欲しかったのだ。

そんな息子の想いを知っている常務は専務の野次を遮ったのだ。


意見の対立で二人が無言の睨み合いをしている中、社長が発言した。


「君はさっきの平野君みたいにこのプロジェクトの役に立つの?」


社長は直接善子へ問いかける。


ここはシンプルに「役に立ちます」と答えるべきか?

いやいや、「精一杯頑張ります」と新人っぽさをアピールするか?


違う。私は私らしい言葉で進むべきだ。

善子は平野の方をチラッと見て発言した。


「そこで意味なく睨みあっている二人よりかは役に立ちます」


周りは静まり返る。

会社の役員二人に突然喧嘩を売ったのだ。

今ヘタに発言したら目を付けられかねないと重い空気が流れたが、またしても空気を変えたのは社長だ。


「はっはっは、良いねぇ君、面白い」


社長がそんな調子であるいじょう二人は黙ってその場を黙ってやり過ごすしかない。

善子は社長に気に入られつつ、平野に返事を返したのだ。

私も長くいるつもりはないと、二人にしか分からないメッセージであった。


「さて、この二人の参加については私が認めよう浅川所長、我が社の新しい商品についてご説明を」


この言葉を合図に部屋が暗くなりプロジェクターが点灯する。


「ではご説明致します」

「我が社の新商品は名付けて【がんきえるんデス】という商品です」


「…」


「商品名に関しては再度検討するとして説明を続けて下さい」


「はい、この薬の売りは癌を完全に消し去るという効果にあります」

「そもそも癌とは何で出来ると思いますか?」


そう言って指されたのはただしだ。


「えーっと、タバコやストレス、それに不摂生が原因ですか?」


「確かにそれも原因です」

「癌とは健康な身体でも毎日出来ているんです」

「ただこれらは通常免疫機能が働き、排除しているから問題ありません」

「問題は排除されなかった癌細胞、細胞というのは本来古くなったら自然死するのですが彼らは不死、しかも無限に分裂していくという質の悪い細胞なのです」

「分裂した癌細胞は神経や血管、臓器に浸潤しんじゅんしていき、痛み、倦怠感、食欲不振、そして精神を蝕んでいきます」


その説明をしている時、実際の患者の写真が出てきた。

癌治療とは辛く苦しくそして長い、皆頭では分かっているが、改めて説明され患者の写真を見ると実感する。

とてもとても辛い病気なのだと。


「それに対して作られたのが現在の抗がん剤です。

ですがこの薬は悪い細胞と共に正常な細胞を攻撃してしまい、副作用の強力な薬となっています」

「これだけやっても完治出来ないのが現状でしたが、我々の開発した薬でその問題を解決するのです」


ここまで聞き、皆そんな事出来るのかと半信半疑の状態であった。


「どうやってと思われるでしょう?」

「…我々の薬は人間の細胞分裂を強制的に引き起こし短時間で細胞を全て入れ替えるのです」


「短時間で全て入れ替えるって? そんな事不可能だろ」


佐藤常務が疑問を口にした。


「その不可能を可能にしたのが我々の薬です」


「いやいや、そんな事をしたらそれこそ死んでしまうだろ…」


「仰るとおりです。患者様には一度死んで頂きます」


この発言に周囲がざわめきだす。


「静かに!」と社長の声が響いた。


軽く咳払いをして浅川は続ける。


「死んで頂くというのは誤解を生む言い方でしたね、バイパス手術をする時と同じで人工心肺を使っている間に行われます」

「なので時間で言うと二、三時間でどんな患者でも完治という事です」


「つまり人の細胞分裂を無理やり起こして入れ替えるという事か? だが癌細胞は死なないんではなかったのかね?」


今度は専務が疑問を口にした。


「えぇ、仰るとおりです。なので分裂を引き起こしている間にも全ての細胞を攻撃して破壊するという薬です」


「そんな危険な薬、誰が使うか!!」


先程も大きな声であったがそれとは非にならないくらいの大声で怒鳴った。


「使いますよ、私の説明を聞いてなかったんですか? 仮に従来の薬で苦しい思いをして治してもまた再発するかも知れないという恐怖から逃れられるんですから」


「…」


「この薬は細胞分裂を無理やり引き起こします。人間の細胞分裂は上限の回数が決まってますから、寿命を引き換えに癌を完全に消す薬、それが今回我々が販売する薬なのです」


正しい事を言えば非人道で違法なのであろう、だがこの薬に救いを求める人がいるのも事実。


(この薬の情報、盗んでもいいものか?)


そんな事を考えながらその後の細かい説明を上の空で聞いていた。


そして誰もいなくなった会議室。

プロジェクターがひとりでに動き出す。

善子達がやり取りしている間、既に彼らより一歩前進している鉄の影があった。

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