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最近の若者は苦労を知らないそうで  作者: 木介


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3/8

ライバル達

善子はしきの情報を踏まえて乃亜以外の要注意人物を頭に浮かべていく。


        ーー経理部ーー

「鏡君、それと鉄君、おはよう」


鏡と呼ばれた人物は「おーす」と小さな声でめんどくさそうに返事を返す。


「オハヨウゴザイマス」ともう一人は片言の日本語で返事を返した。


鏡操かがみそう】、【鉄人てつじん】彼らも言わずもがなスパイである。

というより彼らは端から正体を隠すつもりが無い、何故なら鉄人は明らかにロボットであるからだ。

それもアンドロイドのような人間に近しい姿ではなく、戦隊ものに出てくるようなロボットである。


更に驚くのが周りの反応だ。

「多様性の時代だから」とその見た目には触れず仕事を任せている異様な光景であった。

経理部で残った新人は彼ら二人のみで当然、医学部出身である。


        ーー人事部ーー

「えー! そうなんですか! 初めて知りました!」


人事部長と仲良く話す彼女は容姿端麗、才色兼備、八方美人。そんな言葉がよく似合う。

彼女の名前は【早乙女愛子さおとめあいこ】肩まである少し明るい軽くウェーブが掛かった髪、甘い匂いと優しい声。

当然のように男達は彼女にメロメロであり、女であっても気を許してしまうような、まさしく非の打ち所が無い人物。


人事部では他と違い二人しか辞めていないが退職の原因は彼女だ。

辞めた二人は恐らくスパイ、二人しかいないのは会社の顔ともなる人事部に敢えて飛び込む者などおらず、素人か目的があるかの二択でしかない。

少なくとも彼女は後者だと言える。


何故、彼女がスパイだと思うのかという理由は簡単で、帰る際は尾行を気にする素振りを見せ、その立ち回りが素人のそれでは無いからである。

それに彼女も医学部出身であった。


そして最後の人物。


「やぁ、少し君の家で話せるかい? 善子・・さん」


そいつは善子もしきの調査でもノーマークの人物、営業部新人の【平野仁志ひらのひとし】であった。


彼の言動から同業者である事は明らかであり、善子よりも格上の存在だと認識できた。


「何か飲みますか?」


部屋に上がった仁志に善子が聞く。


「いや、お気遣い頂かなくて大丈夫ですよ」


丁寧でありながらも警戒をしている様子で仁志は応える。


「それで話って何かしら?」


家や名前を知っている時点でおおよその予想は出来るが敢えて善子から聞いた。


「話? そうだね、ただ話してみたかったんだよ、君と」


要領を得ない話し方に善子は不快感をあらわにした。


「そんな恐い顔しないで、話してみたかったっていうのは本当だよ、伝説のスパイぜん、唯一の弟子である君とね」


「…という事はあなた」


「そう、俺はGSグローバルスパイの人間」


スパイという存在でありながら、その正体を自ら明かすなどご法度中のご法度である。

何を考えているのか分からない上、スパイという職業柄、仕方のない事ではあるが得体の知れない気持ち悪さが彼にはあった。


「なんでそんなこと私に話すの? って顔してるね」


にこやかに話す彼の心の内は読めない。


「簡単な話、勝負しよう」


「勝負?」


「そう、どっちが早く会社の機密事項を盗めるかの勝負」


「なんで私と…」


純粋な疑問であった、どうせ勝負するなら大手のスリーエスと競うべきだと考えたからだ。


「なんでって、君があのぜんの弟子だからだよ」


ぜんの弟子、この言葉の重さを他人を介して善子は知ることになった。


そんな四人と争う事になるであろう。

彼らの情報は偽の経歴以外なく、バックアップもる事ながら大きな組織の人間である事は確かであった。

かくゆうこちらはしきと二人体制で競い、出し抜かなければならない。

それこそ伝説のスパイの弟子である善子にとってその名を業界にせしめる程に重要な仕事であると、この時密かに燃えていたのだった。


そんな中、社運をかけた一大プロジェクトによる人集めが始まった。

今年入った新入社員に声が掛かる訳がないが、彼らはどんな手段を使っても全員このプロジェクトへ参加する事になるだろう。


「部長! 今度のプロジェクト私にも関わらせて下さい!」


この時、善子は初めて自ら率先して動いた。

周りの彼女に対する評価は無難という他ない。

やる気さえ出してくれれば何の文句も無いような存在であったが故、この立候補に部長は戸惑った。


(ここで断ればこの子も辞めるとか言いかねない、かといって社運をかけた一大プロジェクトに新人を推薦する訳にも…)


悩んだ末に部長が出した答えは「検討しておく」という曖昧な返事でその場を上手く流された。


善子は帰り際、乃亜の元へ立ち寄り「あんたは参加しないわけ?」と声をかける。


すると乃亜は「私は大丈夫、だって意味ないし」と余裕の表情であった。


その表情に善子は絶対プロジェクトに参加してやると決意し、毎日のように部長へ声をかけた。

もし彼女が新人でなければこの話はすぐに終わったであろう、何故なら総務部からプロジェクトに対して立候補者が一人も出ていない。


そして誰がプロジェクトに参加するのか部長が決めた推薦人は清水律子である。

次にそのアシスタントとして名前が上がったのが田中光、彼女の地道な泥臭いやり方が通じた瞬間であった。


だがそれと同時に善子を認識していないライバル達にもその存在を明らかにする事になっる。


ーーー


「えぇ、そうです。総務部の田中光さん、この子も上手く処理お願いしますね」


人事部からはそんな声が聞こえた。

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