特効薬争奪戦5
ーースリーエス本部ーー
「33番との交信が途絶えました」
「まさか、やられたというのか…」
スリーエス最高責任者である男、ナンバー零は驚きを隠せなかった。
自分の組織で最強の男33番、ある時から元GSの全という伝説のスパイへ固執するようになった。
今回も全の弟子と一騎討ちをすると言い出し、「手出しはするな」と言葉を残して何処かに消えてしまう。
仁志は自らの仕事に拘り、情報を共有しない。
それが彼のやり方であり、今まで失敗など無かった為、大目に見ていたが今回それが仇となった。
「交信が途切れた場所は?」
「貴重品倉庫へ続く通路です」
彼らのいう交信とはスリーエスのスパイに埋め込まれているチップの事である。
一人でやらせる代わりの条件で突然意識が途切れるなどの緊急時に交信が途絶える。
いわば生命活動を監視しているチップだ。
「33番はそこで気絶したのか、最悪死んだか…、カメラはどうなってる?」
見るとそこには何も映っておらず、既に敵の手中にあることを確信した。
「コードレッドを発動しろ」
「えっ? 零さんいいんですか? 多くの者が犠牲になりますが?」
「構わん、必要な犠牲だ」
自らが作り出した最高傑作である33番が負けた相手が既に施設に入り込んでいる。その事実が零の気持ちを焦らせた。
「承知しました、コードレッド発令!!」
「全隊員に告ぐ、コードレッド発令!! 直ちに全員避難せよ、繰り返す…」
ーーGS本部ーー
ブツンとカメラの接続が切れる。
「ばれたな」と壱が呟いた。
「ここからはこちらで指揮を取る、鏡君と言ったね、席を空けてくれるかな」
「…」
まだ中に二人取り残されており、任務は途中であった。中途半端に投げ出すのは彼の性に合わず、素直に席を譲る気になれない。
「アタッシュケースは無事回収したわ、案内をお願い…」
善子からの通信が入る。
当然のように応えようと手を伸ばした時。
「そこまでする理由がないだろ」
壱の言葉で我に返った。
即席のチームであり、何をした所でもらえる物など無い。
この場にいるのはただ自分も利用されていたという悔しい思いをし、自分の価値を証明したかっただけである。
「…ねぇ、…聞こえてるの?」
再び通信が聞こえた時にはそれに応える気持ちは持ち合わせていなかった。
そんな彼の様子を見て、壱が返事をする。
「善子、早乙女、こちら壱、君達の潜入がバレた、我々はこれより突入する、脱出ルートはこちらで誘導する」
そう告げて壱は空いた席へ別の隊員を座らせた。
「壱、愛子と直接会話は出来る?」
「出来るがどうするつもりだ?」
「いいからやって」
壱は少し考えたが、考えなしに行動を起こす人物では無い事を信じて二人の通信を繋げた。
「愛子! 聞こえる? 爆弾は設置した?」
「爆弾? もう全部設置したわよ」
「じゃあ、爆破して」
その場にいた全員が正気を疑った、それはもう関係ないという想いで端から聞いていた操も同じである。
「おい、善子何言ってるんだ。お前達も巻き込まれるぞ、何もせずに戻ってくるんだ」
壱はそう言って引き止めた。
ーー早乙女愛子ーー
(爆破しろ何て正気じゃないわ)
壱の指示どおり何もせずに戻るのが正解。
下手な事をして自分が死んでしまっては意味がない。
善子と壱のやり取りを聞きながら愛子はそう心に決めていた。
「わかったわ…、愛子あなたの判断に委ねる」
善子の最後の言葉に震えた。
(私の判断に委ねる? 馬鹿言わないでよ…何で最後の最後で私が決めないといけない訳…)
ふと周りを見渡すと何やら逃げ惑う人々がいる。
「あれって…鉄人?」
営業部で見かけた人型ロボット鉄人、それが大量に押し寄せ人を襲っている。
「教官!!」
愛子が振り向くとそこには爆弾を仕掛けていた時に出会った訓練生がいた。
「敵襲です、どうすればいいですか?」
息を切らしながらその子は愛子に尋ねる。
「警備隊の指示に従って…」と愛子が言い終わる前に「それがおかしいんです、警備隊の人が見当たらないんです」
確かに改めて見てみると襲われているのは若い人達、恐らくは訓練生である。
(侵入者を見つけるため、無差別に襲わせているの?)
自分達の安全のみを確保し他人は見捨てる。
以前であれば、スパイなら当然起こり得る事態、これぐらいの事を予期せずに巻き込まれているのは自分の力不足だと高みの見物をしていたであろう。
そして愛子は思い出す。
「だから女はダメなんだよ」というかつての上司の言葉を。
「で、やるのやらないの?」というライバルの言葉を。
「教官! 危ない!!」
愛子の後ろには鉄人が近づき猛威を振るおうとしていた。
瞬間、各場所で大きな爆発が起きる。
動かなくなった鉄人を見ること無く、愛子は腰の抜けた彼女へ手を差しのべた。
「あなた名前は?」
「私は2169…」
「いや、もういいわ」
彼女の言葉を遮り愛子は言う。
「あなたには私の名前をあげるわ、これからあなたは沙夜と名乗りなさい」
「えっ…、あなたは一体…」
「私は愛子、教官ではないわ」
「じゃあ、あなたが侵入者」
そう言って距離をとり身構えた。
「今はそんな事をしている場合じゃないでしょ! 周りが見えないの!?」
「周り…」
言われて見ると襲ってきたロボットの動きは止まったが、皆どうして良いのかと立ち往生していた。
「私は彼らを安全な場所に逃がすわ、あなたも協力して」
「えっ! いや、私は…」
突然、侵入者だとカミングアウトされ、今度は協力しろと促される。
「沙夜! やるの? やらないの?」
かつて自分が言われたセリフを彼女へぶつけた。
「……沙夜!!」
「もーう! わかったわよ!」
「早速だけど沙夜、皆を逃がすから誘導して! 建物に関してはあなたの方が詳しいわ」
愛子は沙夜を味方につけ、自らを追い込み決めた。人を殺めないという善子の理想に付き合うと。




