悪役令嬢は義弟の前世を知る
今日はテレスと前世の話をしたせいか、1日ずっと何かにつけて前世の自分を思い出していた。
もう大分思い出すことなかった記憶を引き出すと、次から次から忘れていたようなものまで出てきた。
今もお義父様とリザちゃんの三人で寝ていると、なんだか前世の父や妹の事を思い出してしまう。
前世での俺も、父と妹と三人で布団を二枚敷いて寝ていた。
今と違って妹を真ん中にしていたけど。
はじめて会ったときまだ妹は、6才だったな。
父の再婚した女の連れ子で、10歳下の天使のようにかわいい妹ができたのを喜んだっけ。
妹の母親はネグレクトで、妹をまるで居ないかのように扱っていた。父がいるときだけ、俺や妹に優しい振りをした。
高校生だった俺が親代わりで、妹のごはんに着替えにお風呂も俺が入れていたっけ。
よくオムライス作って!とか絵本読んで!と甘えてくれたな。
しかしその女は結婚して一年も立たないうちに、父の会社の金を持って逃げてしまった。
そのせいで会社は倒産。ぼろぼろの1DKのアパートに引っ越した。
借金を返すために俺も高校を止めて働いた。
良く三人で寝ていると、父が苦労をかけるな…と寂しく笑っていた。
そんな生活も父と俺とが働いて、妹にはなに不自由なく暮らせるほどのささやかな暮らしができるようになっていった。妹が14才の誕生日、友達がやっているゲームが欲しいとわがままを言って、このゲームを買ってあげたんだった。
いつもわがままなんて言わない妹が、欲しいと言うのだから貯金を崩して買ってあげた。父には甘いなって笑われたもんだった。
仕事が終わると妹と二人でゲームを楽しんだ。
お兄ちゃんはラルクに似てるって良く妹に言われたな。
ラルクがかっこいいから、このゲームしたかったんだって言ってたっけ。
俺は妹はリザちゃんに似てるって返した。不貞腐れてツンっとするところとか、天の邪鬼なところとか。でも心根は素直で一途なところとか。
妹も俺もリザちゃん押しだから、そう言うとめちゃくそ喜んだ。
そんな妹も高校に入ると変わってしまった。
高校で付き合うようになった先輩が、悪い奴でそんな奴に妹は一途に熱を上げてしまった。
いくら言っても付き合いは止めなかった。
そのうちその男の子供を身ごもってしまい、産みたいと迫ると暴力を受けて流産してしまった。
妹が入院した病院で、そんなことになっていたことに気づいた。
父と二人でなぜこんなことにはなったのかと憤り、相手の男を警察につきだした。
妹がそれでも警察に被害届を出すのを渋り、慰謝料だけ貰う形で幕は降りた。
しかしこの騒ぎが学校にも伝えられてしまい退学することになってしまった。
退院してしばらくは家にこもっていた妹が、少しずつ友達と連絡を取り合うようになっていったからてっきり元気になってきたと思っていた。
ある日仕事から帰ると、父が首を吊って亡くなっていた妹にすがって泣いていた。
妹はまだ17才だった。
妹の友人が葬式で話していた。
あの男が新しい彼女を作っていたらしい。
その噂を知ったときの妹がひどく落ち込んでいたと話していた。
いまだに妹があの男を愛していたのを思いしった。
もっと妹の心に寄り添っていれば、こんなことにはならなかったと後悔した。
妹は血が繋がっていないながらも、この家に無くてはならない存在だった。父も俺も脱け殻のようになりながら、仕事場と家を往復するだけの毎日を過ごして…
たまに妹と一緒に楽しんだゲームもやったな。この時だけが癒しの時間だった。リザちゃんを見ると妹に会えた気がした。
「お兄ちゃんは女心がわかってないから、そんな選択肢選んじゃうんだよー」妹の軽口を思い出すと勝手に涙が溢れたりした。
俺はいつ死んだのだろう。
28才、妹の一周忌に墓参りしたのは覚えている。
頭が霞がかって、良く覚えてなかった。過労なのかもな。
あの頃は仕事をしていないと、辛くて、家に帰っても妹が亡くなった家ではうまく眠れなかった。
父は妹に、俺と大切な家族が立て続けに亡くなって、今はどうしてるのかな?
前世の父を思い出して、隣にいるお義父様を見ると今度は家族を幸せにしたいな…という想いが込み上げた。
***
学園から帰ると、リザちゃんはすぐに俺の部屋に来てくれた。
メイドにお茶を運ばせると、人払いをする。
俺の隣に座り直したリザちゃんは俺を見つめて何も話さない。
お茶を一口飲んで、落ち着ける。
「俺の前世なんだけど、」と切り出し、前世の父と妹の話をする。
テレスとは前世のゲームの話ばかりで、どんな人生だったかは話してなかったから、リザちゃんは驚きと悲しみを浮かべながら全て聞いてくれた。
「妹さんがそんな亡くなり方をなさったのね。」と俯く。
「うん、大切な人だったから、辛かった。」でも、と続ける。
「この人生では、リザっていう大切な人がいつもそばにいてくれた。前世の記憶を取り戻して、守ることもできた。」
リザちゃんの髪を一掬い取り上げて口付ける。
「辛い前世の記憶もリザを助けるためなら、思い出して良かったと思うんだ。俺がラルクでリザを守れる存在で、本当に良かった。」
「私、ラルクのこともっと知りたいなんてわがまま言ってごめんなさい。…だけど、私の側にラルクがいるのはその記憶のおかげなら、話してくれて良かったと思うの。」と水晶のように美しい薄紫の瞳からポロポロと涙を流す。
「キレイだな。リザの心根のように美しい涙だ。」唇で涙を拭い、そのままリザちゃんの目を見つめた。
「ラルクの涙の方がキレイだわ。」
言われて、自分の瞳から溢れているものに気づいた。
リザちゃんはそっと俺の頬を濡らす涙に口づけて
「いつも守ってくれてありがとう。気づけなくてごめんね。」
僅かに首を傾けて仄かに微笑んだ。
チカチカと妹の顔が浮かぶ。
あれは男に暴力を振るわれて、病院に入院した時だった。
「いつも私に言ってくれてたのに、いうこと訊かなくてこんなことになって…。なのにこうして来てくれた。…お兄ちゃん、
いつも守ってくれてありがとう。気づけなくてごめんね。
こんな妹で…ごめんね。」と僅かに首を傾けて仄かに微笑んだ妹。
本当に一途にあの男を想っていた。だからこそ絶望してしまったんだ。
ああ…こんなにも、リザちゃんと妹は似ているんだな。
一途でツンで優しいリザちゃんだから、守りたいと思う。妹のような絶望はしてほしくない。
一生俺の手で幸せにしたいと思うんだ。
「学園を卒業したら、俺と結婚して欲しい。
リザの全てを俺のものにしたい。」
精一杯の誠意を込めて告げると
「幸せな花嫁にしてください。」
真っ赤な顔を涙でぐしゃぐしゃにして、俺の気持ちに応えてくれたのだった。
やっとラルクの重すぎる前世もわかり、リザちゃんへの溺愛の理由が書けました。
悲しい前世を乗り越えて二人で幸せになってくれたらいいなと思います!
次回最終回です!




