悪役令嬢はおねだりする
パーティーの前夜、久しぶりに今夜はお義父様のはお仕事が終わらず二人きり寝ることになった。
一緒に寝るときはいつもリザちゃんベッドに潜り込むのだけど、今夜は明日のパーティーの準備でリザちゃんの部屋に行くのが少し遅くなったためリザちゃんがこちらの部屋を訪ねてきたのだ。
書類を纏めてからベッドに入る。
するとリザちゃんの方から体を擦り寄せてきた。
「甘えてるみたいだね。明日のこと緊張してるの?」といいながら頭を撫でる。
リザちゃんが肩に頬を寄せてすりすりとしながら、
「うん。パーティーみんなで盛り上がれたらいいね。」
と上目遣いで俺を見てきた。
…そのまま目を閉じる。
えっ、何この雰囲気、
キスのやつじゃん!
…キスのやつじゃん!
とキョドる。
リザちゃんが目を閉じたまま、唇を震わせて、
「…ダメなの?」
と今にも泣きそうな声を出す。
ふと、我に帰り、リザちゃんを見つめる。
好きな男の腕のなかで小刻みに震える女の子を、
これ以上こんな想いをさせるのが優しさなのか?
自分に叱咤激励する。
幼さを残す頬を輪郭をなぞるようにゆっくりと撫でる。
そして顎を持ち上げて唇を重ねるだけのキスを落とす。
「愛してるよ。」自然と言葉がこぼれた。
リザちゃんははっと目を開き、そのまま涙を流して
「…嬉しい!私もラルクのこと愛してる。
私、本当は自信がなかったの。
ラルクは私に魅力を感じないからキスをしてくれないのかと思ってたから…。」
「本当に大切に想ってる。
こんなに大切なのはリザだけだよ。
だからこそ、大人になって自分の力で幸せにできるまではと思っていたんだ。
でもそれがリザには辛かったんだね。ごめん。」
そう言うと、リザちゃんは震える声で告白してきた。
「あのね…、本当はラルクの婚約者はテレス様の予定だったの。
あの方のお家は領地も繁栄していて…繋がりを持つためにもいいんじゃないかと、お父様も考えていたみたいで…。
なのに私が我が儘言ってラルクと婚約したでしょ。
幼くて結婚がどんなものかわからないラルクを騙して…。
ごめんなさい…ごめんなさい…。」
あまりにいたたまれなくなり、
「そんなことない!
俺には最初からリザだけだ!」と強く抱き締める。
「でも…最近、ラルクがテレス様ばかり見ている気がして…。
私より本当はテレス様の方がラルクにはお似合いだったのかもと、不安で…
だから…だから…」
俺の胸の中で堪らず泣きじゃくるリザちゃん。
「ごめん!そんなに不安にさせていたの気づかなくて。
それに俺が我が儘言ってリザの婚約者になったんだよ。
こんな素晴らしい人が恋人になって俺は幸せなんだ。
テレス嬢の事ばかりみていたのは、リザが前に嫌がらせを受けていたと聞いたから、何か起こったら嫌だなと、警戒していただけなんだ。」
リザちゃんは恥ずかしそうに小さくなっていた。
「じゃぁ、テレス様のことを好きな訳じゃないのね…
よかった!」
笑顔になってくれたリザちゃんの背中を撫でながら
「明日は俺のそばから離れないでね」と呟く。
こくりと頷いて胸にすりすりと頬ずりするリザちゃん。
美しい髪を鋤きながら、リザちゃんが寝息を立てるまで
そのままリザちゃんの温もりを抱き締めた。
リザちゃんの寝息を聞いて、安心した俺もやっと眠りについた。
***
パーティーのホストである生徒会のメンバーは、他の生徒より早く会場に到着する。
学園のパーティーなので、午後の茶会と同じ時間に行われるが、ダンスやドレスコードは舞踏会と同じになっている。
テーブルセッティング、飾り付けや、お茶にお菓子の盛り付けや、タイムテーブル、段取り、もろもろの最終調整や確認をする。
招待客である生徒が会場に到着し、挨拶をしていく。
有力貴族や、領地で素晴らしい業績を上げて王都でも有名な貴族のご子息や、ご令嬢。
学年が違うだけで、なかなか繋がりが出来にくい家の生徒とも挨拶をした。
ダンスの曲がかかるも、なかなか生徒たちはおしゃべりに夢中で、ホールはがらがらになりやすい。
そこで生徒会のメンバーが中心にダンスを誘い踊ったり、誘わせれば断ることはせず踊りまくるのだ。いわば盛り上げ隊だな。
あとは話に熱が入り少し喧嘩っぽくなっているものがあれば、仲裁に入ったりもする。
普段は保護者と参加するパーティーに、今日は親はいない。はめを外すやつがいないか、見張りながら、テレスのことも気にかける。
なるべくリザちゃんのそばにいるようにするが、リザちゃんも生徒会。
しかもあの美貌。次から次へと男子生徒からダンスに誘われる。
くそっ!いつもなら牽制して、独り占めするのに!
と醜い嫉妬心を隠しつつ、女生徒に誘われたのでまたダンスホールに足を向けた。
なるべくリザちゃんのそばに行くようにステップを踏み近づく。
テレスも男子生徒に誘われたのか、ホールに入って踊りだす。
マーロンも踊っていたので、アイコンタクトを取り、リザちゃんには近づけないよううまく立ち回る。
一曲終わり、礼をしてダンスの相手と別れると早めにリザちゃんの隣をキープした。
「ラルク…」袖を摘まむように引っ張られる。
昨夜の事があるからか、リザちゃんがいつもより色っぽく見える。
ふふっとリザちゃんが笑い、
「飲み物取りに行こう?」とダンスホールに背を向けた。
飲み物を手にハロルドとレベッカがいるテーブルまで近づく。
リザちゃんとレベッカが楽しそうに話始めると、ハロルドが
「今日は色っぽさが、半端ないな。さっきからダンスの申し込みも途絶えないし。気を付けた方がいいぞ。」
と小声で忠告をしてきた。
やっぱり、リザちゃんの色っぽいのは俺だけ感じているのではないのか。うっかりはぁとため息が漏れる。
「美しい婚約者を持つと大変だな」とハハハ笑われてしまった。
「楽しそうですね。どんなお話をしていたんですか?」
好奇心の塊のようなレベッカの興味を引いたようだ。
「お互い婚約者がきれいだと、うかうか出来ないなと笑いあっていたんだ。」とハロルド。
一方的にからかわれていただけなのに、いつの間にかお互いの彼女自慢をしていたと美談?にしてしまっている。
しかし女の子のハートは掴んだみたいだ。
「やだ!二人とも!」
何て言いながらも二人とも満更でもない表情だ。
女の子って誉められるの好きよね。
ハロルドの話術を俺も勉強しようと思うのだった。




