表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/17

「ハロー・ジアース!」

 ラジオのスイッチを捻ると、マイケルの『Beat it』をBGMに、よく通る男の声が飛び出した。

「グッモーニンッ、フォールンポリスッ! 午前8時をまわりました。皆様に墜落都市の今をお届けする番組『ハロー・ジアース!』の時間です。本日は西暦2050年7月1日、皆様お待ちかね! 墜落都市全体を巻き込んだ一大レース、『トライアンフ』の開催日です! そんなわけで本日は午後18時まで『トライアンフ』特番として放送枠を拡大し、最新の情報を最速で皆様にお届けします。担当は私『チャッターボックス』、ゲストには初代トライアンフ優勝者『スピードマスター』さんにお越しいただいております。本日はよろしくお願いします!」

「スピードマスターです。よろしくお願いします」

「早速ですがスピードマスターさん、今年のレースの特徴は?」

「今年のレースは前回優勝者である『"フラッシュ"ゴードン』が不在という予想外の展開になっています。なのでニューフェイスが多く参加していますね。参加ランナーも大会史上最大数だそうで」

「45009人だそうです。前回優勝者が不在なおかげで、優勝商品の『願いを叶える権利』が若干手に入りやすくなっていると考えているのでしょうか? 注目してるランナーは居ますか?」

「やはり三大企業それぞれのお抱えランナーでしょう。『天帝』『レッドドラゴン』『韋駄天』、それぞれに大変特徴ある走りをするので見逃せませんね」

「ありがとうございます。レースはこのあと午前11時にスタートする予定ですが、あらためてここでルールを確認いたしましょう。スピードマスターさん、よろしくお願いします」

「はい。『トライアンフ』はスタート地点とゴール地点を指定され、途中二カ所のチェックポイントを通過しさえすればどのようなコースを通っても構わない、フリーラン・スタイルのレースです。つまり単純な速さではなく、どのようなコースを選択するか、どのように走るかということでも差がつくレースとなっております。サイボーグ・レースにありがちな、スペックだけでは予想がつかない奥深さが魅力ですね。

 スタート地点は今我々がおりますここ、墜落都市の北端に位置する『ノース・ポール』です。墜落都市には東西南北にそれぞれ背の高い塔が立っていて、ランドマークとなっています。『ノース・ポール』からスタートした選手は、第一チェックポイントである『イースト・ポール』へ向かいます。この区間は直線距離で約340キロメートルです。

 第二チェックポイントは『ウェスト・ポール』です。墜落都市の西端から東端まで、都市のど真ん中を横切るかたちになります。『イースト』と『ウェスト』間の距離は480キロメートルになっています。

 そしてゴールは墜落都市南端の『サウス・ポール』です! 『ウェスト』からの距離は340キロメートル! つまりこのレースは、円形の墜落都市全体をイナズマのような軌道で走り抜けるコースとなります! 合計距離は約1160キロメートル! 一般的なランナーなら3時間程度かかります」

「なるほど、シンプルでわかりやすいルールですね! 覚えにくいという方は『NEWS』で覚えましょう! このレースの模様はこの番組内で、CM無しのノンストップでお伝えいたします! ではここでスタート地点の記者に現場の状況を伝えてもらいましょう。メリル記者?」

「はい! こちらスタート地点のメリルドバラアスビルドです! 聞こえますでしょうか! スタート3時間前にも関わらず現場は大変な盛り上がりで、声を思いきり張り上げなければ会話もできません!」

「たしかにすごい歓声ですね、メリルさん!」

「はい! この歓声は集まった観客たちだけでなく、すでにスタートが待ちきれない選手たちのものでもあります! インタビューしてみましょう……こんにちは! 出場される選手の方ですよね!」

「はい!」

「お名前は?」

「『"戦鬼"ジョー』です!」

「赤いスーツと黄色いマフラーが素敵ですね! 吹きすさぶ風がよく似合いそうです! 優勝したら何を願いますか!?」

「世界を平和にしたいと思います!」

「素晴らしい願いですね、ありがとうございます! では次は――」

「V8! V8! V8! V8! V8!」

「――なにやら独特のかけ声をあげる集団がいますね! こんにちは!」

「なんてラブリーな日だ!」

「そうですね! あなたがたは!?」

「俺たちは『ウォーボーイズ』! 『"イモータン"マックス』のために命を捧げる! 『V8教』のものだ!」

「新興宗教団体でしたか! 頑張ってください!」

「俺を見ろ! 俺たちを見ろぉおおお!」

「はい! では次で最後にしましょう……こんにちは!」

「え!? あ、は、はい! こんにちは!」

「選手の方ですよね? お名前は!?」

「ま、マジロウです!」

「もし優勝したら、なにを願いますか!?」

「お、お母さんの心臓の病気を治してあげたいです!」

「なんと! 素晴らしい願いですね! でもそのために危険なレースに挑むのは怖くないんですか!?」

「……とても怖いです! でも! お母ちゃんの病気を治すにはとんでもないお金が要るんです! だから僕は、今日のためにサイボーグ化を」

「おおっと失礼、もう時間になってしまいました! このように『トライアンフ』に出場するランナーたちは、みな様々な願いを胸に秘めているのですね! しかし! 叶うのは45000人の中のひとりだけ! 49999の願いは叩き潰される運命にあるのです! 現場からメリルドバラアスビルドでした! スタジオにお返ししますね!」

「メリルさん、ありがとうございました! さぁいよいよ開幕まで二時間半を切りました! 予定ではそろそろ開会式がはじまるはずですが、そんな退屈なもの誰も聞きたくないと思いますので、スタートまでは墜落都市30年の歴史を振り返る往年の名曲メドレーの時間になります。最初の曲は2009年に母星に戻られました、地球でも大人気だったアーティスト、マイケル・ジャクソンさんの――」

 ラジオを切った。ハヤブサはゆらりと立ち上がり、ワゴン車のドアをスライドさせる。途端に、耳を覆いたくなるほどの騒がしさと熱気が車内に流れこんだ。

「じゃあ、行ってくる。G.G.」

「おう。やるからには、勝てよ」

 G.G.は運転席でそう言った。

 ハヤブサは車から降り、振り返りもせず、会場の人混みのなかへと紛れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ