「ハロー・ジアース!」
ラジオのスイッチを捻ると、マイケルの『Beat it』をBGMに、よく通る男の声が飛び出した。
「グッモーニンッ、フォールンポリスッ! 午前8時をまわりました。皆様に墜落都市の今をお届けする番組『ハロー・ジアース!』の時間です。本日は西暦2050年7月1日、皆様お待ちかね! 墜落都市全体を巻き込んだ一大レース、『トライアンフ』の開催日です! そんなわけで本日は午後18時まで『トライアンフ』特番として放送枠を拡大し、最新の情報を最速で皆様にお届けします。担当は私『チャッターボックス』、ゲストには初代トライアンフ優勝者『スピードマスター』さんにお越しいただいております。本日はよろしくお願いします!」
「スピードマスターです。よろしくお願いします」
「早速ですがスピードマスターさん、今年のレースの特徴は?」
「今年のレースは前回優勝者である『"フラッシュ"ゴードン』が不在という予想外の展開になっています。なのでニューフェイスが多く参加していますね。参加ランナーも大会史上最大数だそうで」
「45009人だそうです。前回優勝者が不在なおかげで、優勝商品の『願いを叶える権利』が若干手に入りやすくなっていると考えているのでしょうか? 注目してるランナーは居ますか?」
「やはり三大企業それぞれのお抱えランナーでしょう。『天帝』『レッドドラゴン』『韋駄天』、それぞれに大変特徴ある走りをするので見逃せませんね」
「ありがとうございます。レースはこのあと午前11時にスタートする予定ですが、あらためてここでルールを確認いたしましょう。スピードマスターさん、よろしくお願いします」
「はい。『トライアンフ』はスタート地点とゴール地点を指定され、途中二カ所のチェックポイントを通過しさえすればどのようなコースを通っても構わない、フリーラン・スタイルのレースです。つまり単純な速さではなく、どのようなコースを選択するか、どのように走るかということでも差がつくレースとなっております。サイボーグ・レースにありがちな、スペックだけでは予想がつかない奥深さが魅力ですね。
スタート地点は今我々がおりますここ、墜落都市の北端に位置する『ノース・ポール』です。墜落都市には東西南北にそれぞれ背の高い塔が立っていて、ランドマークとなっています。『ノース・ポール』からスタートした選手は、第一チェックポイントである『イースト・ポール』へ向かいます。この区間は直線距離で約340キロメートルです。
第二チェックポイントは『ウェスト・ポール』です。墜落都市の西端から東端まで、都市のど真ん中を横切るかたちになります。『イースト』と『ウェスト』間の距離は480キロメートルになっています。
そしてゴールは墜落都市南端の『サウス・ポール』です! 『ウェスト』からの距離は340キロメートル! つまりこのレースは、円形の墜落都市全体をイナズマのような軌道で走り抜けるコースとなります! 合計距離は約1160キロメートル! 一般的なランナーなら3時間程度かかります」
「なるほど、シンプルでわかりやすいルールですね! 覚えにくいという方は『NEWS』で覚えましょう! このレースの模様はこの番組内で、CM無しのノンストップでお伝えいたします! ではここでスタート地点の記者に現場の状況を伝えてもらいましょう。メリル記者?」
「はい! こちらスタート地点のメリルドバラアスビルドです! 聞こえますでしょうか! スタート3時間前にも関わらず現場は大変な盛り上がりで、声を思いきり張り上げなければ会話もできません!」
「たしかにすごい歓声ですね、メリルさん!」
「はい! この歓声は集まった観客たちだけでなく、すでにスタートが待ちきれない選手たちのものでもあります! インタビューしてみましょう……こんにちは! 出場される選手の方ですよね!」
「はい!」
「お名前は?」
「『"戦鬼"ジョー』です!」
「赤いスーツと黄色いマフラーが素敵ですね! 吹きすさぶ風がよく似合いそうです! 優勝したら何を願いますか!?」
「世界を平和にしたいと思います!」
「素晴らしい願いですね、ありがとうございます! では次は――」
「V8! V8! V8! V8! V8!」
「――なにやら独特のかけ声をあげる集団がいますね! こんにちは!」
「なんてラブリーな日だ!」
「そうですね! あなたがたは!?」
「俺たちは『ウォーボーイズ』! 『"イモータン"マックス』のために命を捧げる! 『V8教』のものだ!」
「新興宗教団体でしたか! 頑張ってください!」
「俺を見ろ! 俺たちを見ろぉおおお!」
「はい! では次で最後にしましょう……こんにちは!」
「え!? あ、は、はい! こんにちは!」
「選手の方ですよね? お名前は!?」
「ま、マジロウです!」
「もし優勝したら、なにを願いますか!?」
「お、お母さんの心臓の病気を治してあげたいです!」
「なんと! 素晴らしい願いですね! でもそのために危険なレースに挑むのは怖くないんですか!?」
「……とても怖いです! でも! お母ちゃんの病気を治すにはとんでもないお金が要るんです! だから僕は、今日のためにサイボーグ化を」
「おおっと失礼、もう時間になってしまいました! このように『トライアンフ』に出場するランナーたちは、みな様々な願いを胸に秘めているのですね! しかし! 叶うのは45000人の中のひとりだけ! 49999の願いは叩き潰される運命にあるのです! 現場からメリルドバラアスビルドでした! スタジオにお返ししますね!」
「メリルさん、ありがとうございました! さぁいよいよ開幕まで二時間半を切りました! 予定ではそろそろ開会式がはじまるはずですが、そんな退屈なもの誰も聞きたくないと思いますので、スタートまでは墜落都市30年の歴史を振り返る往年の名曲メドレーの時間になります。最初の曲は2009年に母星に戻られました、地球でも大人気だったアーティスト、マイケル・ジャクソンさんの――」
ラジオを切った。ハヤブサはゆらりと立ち上がり、ワゴン車のドアをスライドさせる。途端に、耳を覆いたくなるほどの騒がしさと熱気が車内に流れこんだ。
「じゃあ、行ってくる。G.G.」
「おう。やるからには、勝てよ」
G.G.は運転席でそう言った。
ハヤブサは車から降り、振り返りもせず、会場の人混みのなかへと紛れていった。




