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魔法の世界  作者: manam
そのさん
23/30

そのさん 3

 学校からの帰り道、私と友美ちゃんと梢ちゃんの三人でコンビニへ寄っていた。

 彩花はそのまま帰宅し、五十路はバイトがあるとか言って部室を飛び出して行った。そんなにお金を稼いで何に使うのやら。

「結局さ、『科学部』なんて作って一体何がしたいの」

 梢ちゃんはコンビ二で買った野菜ジュースを飲みながら、今更な質問をしてきた。部活を立ち上げる時に説明したはずなのにもう忘れてるようだ。仕方がないのでもう一度説明してあげる。


「だから、空間移動をしたいんだってば」本当はその先の時空移動だけど。「空間移動できる装置や人の情報がちょっとでも欲しかったの。だから『科学部』を作って、そういう情報を皆からも募ろうと思ってね」

 私も少しは空間移動のことについて調べてはいた。空間移動魔法を使える人は世界に五人。その内の一人は日本人であるらしい。ネットで調べてわかったのはこれだけで、個人で調べるにはこれが限界だった。だからこそ、それ以上の情報を得ようと、『科学部』を作ったんだよ。

「だけどそれってどう考えても『科学』じゃないよね?だったら『空間移動研究部』とかでも良かったんじゃない?」

「それはそうだけど…」

 でも、やっぱり私は『科学部』がよかった。いや、『科学部』じゃなきゃダメな気がした。


「最初に科学っぽいものを作ったでしょ?」

「ああ、あの『じてんしゃ』ってやつ?なんなのあれ?ホントに乗り物?あんた達よくあんなバランスの悪いものにのれるよね。おかしいよ」

 その言葉、そっくりそのままリボンと熨斗と紅白の水引をつけてお返ししたい。私達にとってみれば箒なんかで空を飛べる人の方がよっぽどおかしくて変人だ。

 私達も箒に乗れたらあんな苦労をせずに済んだんだけど…自転車を作った時本当には大変だった。材料になるものを山まで探しに行ったりたり、そこで何か変な物をみつけたり、それを処理するのに奔走したり。話すと長くなるのでまたの機会にするけど。


「自転車が出来て本当に便利になったわ。お使いに行ったとき重い荷物も運べるしね」

 友美ちゃんはオレンジジュースを両手で可愛く持って、感謝するように微笑みかけてくれた。私の自転車の前かごに、荷物じゃなく友美ちゃんを積んで持って帰りたいくらい可愛い。

「私は置き場所に困ってるんだけどねー…お母さんにも文句言われるしさ」

 そんなことを言っているが、駄々をこねて自転車を作らせたのは梢ちゃん自身だ。五十路の奴は最初から要らないって言ってたけど、彩花にあいつの分まで作ってもらって無理矢理押し付けてやった。

 だけど梢ちゃんの性格からして、陰でこっそり乗る練習をしてそうだ。結構負けず嫌いなところがあるからね。


「私は『科学部』でもいいと思うわ。その方がなんだか夢があるしね」

「ま、面白ければいいか。そうだ、また何か作ろうよ。彩花っちの家の古文書ってのを見せて貰ってさ」

 私は緑茶を飲みながら考える。じゃあ次は黒電話でも作ってみようかな。〈元の世界〉と『魔法世界』を繋ぐ黒電話をさ。


「あっ…」


 小さな声でそう言ったのは友美ちゃんだ。後ずさりするように私の横へ来る。熊でも出たのかと友美ちゃんの視線の先を見てみると、熊以上に怖いリゼイン社を襲ったあのリーダーの少女がそこにいた。反射的に身構える。だけどそれは私だけじゃなかった。


「あんた!」


 なんと梢ちゃんまで戦闘体勢に入っていた。野菜ジュースを地面に落として少女を睨み付けている。梢ちゃんはリゼイン社に行ってないから面識はないはずなんだけど…

「梢ちゃん…知ってるの?」

「うん…中学の時の同級生だよ」

 ありえない話ではないけど、正直驚いた。まさかあの少女と同じ中学だったなんて。

「おいおい。今日はあたしはオフなんだ。やりあうつもりはねえよ。しっかし…工藤…やっぱあたしとは因縁があるんだね」

「あたりまえでしょ。あの時のこと、忘れたわけじゃないよね?」

 梢ちゃんとこの少女の間には過去に何かあったらしく、かなり仲が悪そうだ。少女の方はやる気はなさそうだけど、でも何かきっかけがあれば今ここで魔法合戦が始まりそうな雰囲気だ。


「あんな昔のことさっさと忘れろよ。お前はもう捨てるつもりだったんだろ?」

「何を言ってんの!私の大切な…くそっ!今すぐ返せ!」

 梢ちゃんと少女の間には物凄く複雑な因縁があるようだ。梢ちゃんは何かを取られたらしいけど一体…?私が考えを巡らせていると、

「…彼氏…?」

 友美ちゃんがポツリと言った。なるほど、確かにそれだとつじつまが合う。梢ちゃんは中学時代付き合ってた彼氏がいて、別れようと思っていたけどやっぱり彼とは離れられなかった。だけどそこであの少女が横から梢ちゃんの彼氏を奪って、ドロドロの愛憎劇を…緑茶のペットボトルを握る私の手にも力が入る。


「すごいわ…まさかリアル昼ドラを見られるなんて…」

 そういう趣味があるの?友美ちゃん…まさか毎日録画予約して見てるとか…?

 なんてのんきなことを言ってる場合じゃなかった。いきなり魔法戦が始まった。少女は火を出し、梢ちゃんは氷でかき消す。けたたましい音を響かせながらコンビニの前で激しいバトルが繰り広げられる。

 巻き込まれると大変なので私と友美ちゃんはその場を離れ、二人のバトルを見守る。


「今すぐ返せ!」

 氷の矢が八つ同時に飛び出す。

「返せるわけないだろ!」

 氷の矢を自分の前に出した火柱で消す。

 右に左に駆け回りながら、魔法の撃ち合いが続く。次第に見物人も増え始め、どちらが勝つか賭け始める人達まで出てきた。そんなことをする暇があるのなら誰か仲裁に入ってくれないものか。いや、そもそもなんで誰もこの魔法戦を見て通報しないのか。迷惑を被っているであろうコンビニの店員までもこの事態をのんびりと見学していた。もしかして『魔法世界』ではこんなことは日常茶飯事なのか?


 この勝負はなかなか決着がつかない。それは多分二人の能力が互角だからだろう。このまま延々と魔法のかき消し合いが続きそうだったが、少女が少しずつだがバテて来て、梢ちゃんが押し始めた。


「なんだよ!あんたこの一年で随分腕が鈍ったみたいだね?もうバテたの」

 少女は息を切らしながら、

「うるさい!お前が元々体力馬鹿なんだよ!」

「このままだと私の勝ちだね!今すぐ返すって言うなら、許してやってもいいよ?」

「返すも返さねえも、もう持ってるわけねえだろ!」

 少女の言葉に違和感を覚えた。もう持ってないってどういうこと?少女もその彼氏と別れたってことだろうか?


「うるさい!とにかく返せ!私のくーぽんけん!」


 はい?くーぽんけん?私と友美ちゃんは「どういうこと?」と顔を見合わせる。くうぽんけんという人を巡って争っていたのか?それともただのクーポン券のことだろうか?可能性が高いのはどう考えても後者の方だが…

「お前、机の中に入れっぱなしで忘れてたじゃねえか!だからあたしが使ってやったんだよ!期限もあの日までだったしな」

「帰りにそのクーポンを使うつもりだったんだよ!トリプルビッグバーガーを返せー!」

 やっぱり後者だったか。というかそんなことでこんな魔法合戦を繰り広げるなとツッコみたい。呆れて緑茶も飲めやしない。確かに食べ物の恨みは恐ろしいとは言うけど、あまりにも幼稚すぎる。愛憎劇じゃなくて友美ちゃんもさぞかし残念だったろう。

「トリプルビッグバーガーを巡る三角関係…すごいわ…人じゃないものをお互い愛してしまったのね…」

 想像力が豊か過ぎる…


「これで終わり!」

 梢ちゃんが渾身の力をこめた最後の攻撃を仕掛ける。もちろん少女も力を振り絞り大きな炎を放ってきた。私の予想は両者引き分けだった。だけど。

「う…っ?」

 梢ちゃんが突然膝から崩れ落ち、その場にうずくまってしまった。一体何が起こったのか…なんて考える暇もなく、少女の放った炎はその梢ちゃんの上を通り過ぎ、真っ直ぐにこちらへ向かってくる。

 うわ…私終わった…

「那美ちゃん!」

 その声とともに私は横へと投げ出され、景色がスローモーションで変化していく。私の顔の前を友美ちゃんが飲んでいたオレンジジュースの缶が通過して行き、そして倒れる。倒れた私の頭の向こうにジュース缶が、カランと音を立てて落ち、転がった。


「友美ちゃ…ん」

 私は友美ちゃんを見て絶句した。さっきまで私が居た場所で、友美ちゃんが少女の放った炎に巻かれていたのだ。私を助けるために身を挺して…友美ちゃんを助けなきゃ!でもどうすれば…誰か友美ちゃんを助けて!

 泣きながら助けを求めようと辺りを見たら、見物人達はもう誰も居なかった。コンビニの店員も見てみぬふりだ。絶望した。もう…どうしようもない…

「友美…くっ…私が、倒れなければ…せめて…カタキだけでも…」

 梢ちゃんはフラフラになりながら立ち上がろうとする。

「やめとけ。無理すると命削っちまうぞ。今この辺の魔力は殆ど無いみたいだしな。お前が倒れたのもそのせいだ。それに見てみろ」

 少女は燃え盛る友美ちゃんを指差す。私は泣きながら燃える友美ちゃんを見上げて、また絶句した。

 炎は友美ちゃんの体に吸収されるように消えて行き、そしてその中から無傷の友美ちゃんの姿が現れた。本当に無傷だ。火傷も無いし、服も燃えていない。

 私も梢ちゃんも驚いて声が出ず口をパクパクさせていたが、当然一番驚いているのは友美ちゃんのようだ。何事も無い自分の体をあちこち見ながら、触りながら目をぱちくりさせている。


「よかったー!友美ちゃん!」

 私は友美ちゃんに飛びつき、抱きつきながら心底ほっとした。

「やっぱりな、思った通りだった」

 少女は梢ちゃんを引き起こしながら納得したように友美ちゃんを見ている。思った通りってどういうこと?まさか何かを確かめるためにわざと友美ちゃんに魔法を当てたんじゃないでしょうね?

 いや…さすがにそれはないか。梢ちゃんが魔法を使えていれば、あの炎はかき消されてたはずだから。


「工藤、悪かったな。クーポンの埋め合わせはいつかする。だから許してくれ」

「最初からそうやって謝っておけばよかったのよ。もういい。その代わり私を家まで送ってって。ちょっと疲れて動けそうに無い」

 どうやら一年越しで梢ちゃんと少女は仲直り出来たようだ。

 少女は梢ちゃんに肩を貸してあげて、私は梢ちゃんの鞄を持って家まで送って行くこととなった。もちろん友美ちゃんも付いて来た。中身のこぼれた梢ちゃんの野菜ジュースを持って…

 


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