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魔法の世界  作者: manam
そのさん
24/30

そのさん 4

 梢ちゃんを家まで送って行ったその帰り、少女は友美ちゃんに話があると言い、近くにあった公園に行くことになった。友美ちゃんをこんな人と二人っきりに出来ないのでもちろん私も一緒だ。少女は納豆にケチャップをかけられた時のように嫌な顔をしていたけど、拒否はしなかった。

 友美ちゃんと少女は並んでベンチに座り、私は落ちていた木の棒を拾って手に持ち少女の前に立っている。もし何かしようとしたらこれで頭を殴って逃げよう。

「単刀直入に聞く。お前、『魔法世界』の人間じゃないだろう?」

 私と友美ちゃんは驚いて顔を見合わせる。私達が『魔法世界』の人間ではないということを、誰にも話したことはない。唯一私達の境遇を知っているのは彩花だけのはずだけど、どうしてわかったのか。

「魔力の流れだ。あたしはそれを感じることが出来る」

「魔力の流れとは?」と、友美ちゃん。

 少女は少し考えるような仕草をして、

「お前、何で自分がここに連れてこられたかわかるか?」

「いえ…ただ偶然巻き込まれたと聞きました」

「時空ホール…だな」

 またもや驚いた。リゼインさんですら知らなかった『時空ホール』のことをなぜこの少女が知っているのか。問いただそうとして、友美ちゃんに止められた。


「確かに、お前はただ巻き込まれただけかも知れねえな。だけど、意図的につれてこられた奴らもいるんだ」少女は親指で自分を指し、「それがあたしらのクラスだ」

「どういうことですか?」

「あたしらは、二ヶ月前、そう入学して間もない頃に『魔法世界』に飛ばされた。最初は気付かなかった。だけど、次の日学校に行くと、時間割の中に『魔術』とかアホみたいなことが書いてあったのをみつけてな、クラスの皆で笑ってたんだ」

「…だけど…それは…」

 冗談ではなく本当に『魔術』の授業だった。

「皆焦ったな。魔法なんてもん使えるはずがねえからな。だけどな、あたしは思ったんだ。使えねえと思ってたら一生使えねえ。だからちっとは努力してみようかってな。クラスの皆もそういう気持ちだったんだろ。そしたら一週間としないうち殆どの奴がに使えるようになった。その時からだな。魔力の流れが見えるようになったのは」

「それで、どうしてその魔力の流れで〈元の世界〉から来たとわかるんですか?」

「あたしのクラスにもまだ魔法が使えない奴がいる。そいつを見てみると、空間の魔力が体の中を通って、どこかへ消え失せているのが見えるんだが、魔法を使えるようになった奴にはそういう流れは見えないのさ」

「なるほど…だから〈元の世界〉の人間かどうかわかったんですね」

「だけど、魔力が消え失せるってどういうこと?体のどこかで消費されてるの?」

 私が疑問を投げかけると、少女は俯き、

「いや、違う。体を通った魔力の行き先は〈元の世界〉だ」

「〈元の世界〉?そんな…どうして…」

「わかってることは一つだ。あたしらが飛ばされた理由。それは魔力を〈元の世界〉に送るためのアンテナとして飛ばされたんだ。そして『魔法世界』に居たはずのあたしらは逆に〈元の世界〉に飛ばされている。アンテナから送られた魔力を、〈元の世界〉に放出するための受信機としてな」


 アンテナ…そうか…だから友美ちゃんは魔法に当たっても平気だったんだ。元々魔力である魔法の炎は、友美ちゃんに吸収されて〈元の世界〉に行ってるであろう『魔法世界』の友美ちゃんに送られて行ったということだ。じゃあ逆に『魔法世界』の人にライターの火を喰らわせちゃったらどうなるんだろうか、なんて疑問も浮かんだけど今は関係ないので考えないことにする。今度彩花にでも聞いてみよう。

「でもどうして〈元の世界〉に魔力を?」

 友美ちゃんが質問をすると少女は、

「知らん。だがどうせろくな目的じゃないだろ」


 少女の言葉でなぜリゼイン社を襲ったのかわかった。彼女達は私達と同じくリゼイン社の空間移動装置

『リゼ・那美一号』で〈元の世界〉へ戻ろうと考えていたんだ。だからあの時仲間に友美ちゃんも連れて来るように指示を出したんだ。だけど何で友美ちゃんだけで、私も連れて行こうとしてくれなかったの?やっぱり胸か…?


 私が自分の胸を見ていると少女が、

「〈元の世界〉に戻るまであと一歩って所まで行ったんだが…それをこいつらに潰された」

 そう言って私の顔を恨めしそうに見上げてくる。そんなことを言っても仕方ないじゃない。あなた達の境遇なんて全く知らなかったんだから。それに…

「あんな強引なやり方をされたら、止めなきゃって思うよ!戻りたいのならもっとちゃんと説明して…」

「馬鹿か。説明してわかるような奴じゃねえんだよ。それにあたしらには時間が無い。魔法を使えるようになったことで、あたしらはどんどん『魔法世界に帰化』していってるんだ。このままここに居たら魔力無しでは生命維持できない体になっちまう」

「そんな…じゃあ早くしないと戻れたとしても〈元の世界〉では生きられなくなる…」


 友美ちゃんが苦しそうな、悲しそうな顔をして俯き、そしてすぐハッとしたように少女の方を向き、

「それじゃあ、『魔法世界』から〈元の世界〉に飛ばされた私達も危ないんじゃないですか?私達の体から向こうに魔力が行ってるらしいとはいえ、空間にそんなに魔力は無いでしょう?今頃どうなっているか…」

「あんたは大丈夫さ。あんたの体から向こうのあんたに魔力が送られてる。そして生命維持に必要の無い分がオーバーフローして空間に出て行くんだ。だけど、魔法を使えるようになったあたしらのクラスの大半は、多分、命の危機に晒されているだろうな。魔法を使えるようになったことで、魔力を向こうに送る能力が失われてしまったからよ」


 そうか。だから彩花は魔法を使わない方がいいって忠告したんだ。今のままなら、この少女の言う『帰化』は起こらないし、向こうに飛ばされた『魔法世界』の私達も無事で居られるから。

 私はとんでもないことをしてしまったのかも知れない。折角〈元の世界〉に戻れるチャンスを掴んだ彼女達の夢を、潰してしまったんだから。

「あの…私、謝ったほうがいいかな?」

「いや…実はあの後もう一度プランを組み直している時に気付いたんだが、あの方法では戻れないって事に気付いたんだ」少女は苦々しそうな表情を浮かべ、「結局あたしらは、奴の掌の上で踊らされていたってことだ」

 奴って?彩花のこと?

「違う。あたしらを『魔法世界』に飛ばした奴だ」

 飛ばした人物ってわかってるの?それは一体誰?


「リゼイン・ポートマンだ」


 私は耳を疑った。友美ちゃんも聞き間違いじゃないかと困惑している。そんなはずは無い。だってリゼインさんは時空ホールと言う言葉も知らなかったんだから。それにどう考えてもあんなにいい人が、この騒動の張本人だなんて信じられない。

「奴は英語の特別講師としてあたしらのクラスにやって来た。その時に見たことのない端末も持ってきていたんだ。多分それが時空ホールを発生させる装置だったんだろう。あたしらはその時に『魔法世界』に飛ばされたんだ。気づかないうちにな」

「やっぱりあなたの言うことはおかしいよ。もしそうだとしたらリゼインさんもこちらへ飛ばされていることになるじゃない。そのリゼインさんはどこに行ったって言うの?まさかこの前会ったリゼインさんがそうだって言うの?」

 少女は首を横に振り、

「この前の奴は『魔法世界』の『奴』だ。魔力の流れを見ればわかる。あたしらを飛ばした〈奴〉は、多分その装置を使って〈元の世界〉に戻ったんだろうよ。だが、この世界の『奴』も信用できねえ。この前は何も知らないようだったが、あれはそう見せかけてるだけかも知れねえしな」

「そんなこと無い!絶対…絶対リゼインさんは…」

 少女は呆れたように息を吐き、ベンチにもたれ掛かって横を向く。


「あの」と、友美ちゃんが小さく手をあげ、「あなたはどこで時空ホールという言葉を?」

「あたしらが〈元の世界〉に戻る方法を探している時に、一人の研究者を見つけたんだ。そのおっさんが今のことを全部教えてくれたのさ。あたしらは空間歪曲時に出来る時空ホールに飲まれたんだってな。だけど時空ホールってのは『魔法世界』ではまだ確立されいないおっさん独自の理論らしいけどな」

 そんな研究者さんが居たんだ。彼女達にとったら私達の彩花みたいな存在だね。

「そんでそのおっさんに、どうすれば〈元の世界〉に戻れるか聞いてみた。そしたらワケのわかんねえ模様を書いた紙を何枚も渡してきて、これを空間移動出来る装置に刻み込めばもしかしたら時空移動出来るかも知れねえって言ってきた。最後までそのおっさんに面倒を見てもらおうかと思ったんだが、急に連絡が取れなくなっちまってな。しかたなくあたしらだけで、あそこまでやったってわけさ」

 少女達があそこまで統率が取れていたのも頷ける。この二ヶ月間、〈元の世界〉に戻るためクラス一丸となってこのことに取り組んできたんだから。その絆は物凄く強いに違いない。


「長々と話をして悪かったな」

 少女はそう言うと立ち上がり、公園の出口に向かって歩き出す。私は彼女のに向かって、

「あの!私達も〈元の世界〉に戻る方法を探すから!だから絶対ヤケにならないでよ!」

「ならねえよ。それよりお前、工藤と仲良くしてやってくれよ。あいつああ見えても結構寂しがり屋なんだ。よろしく頼むぜ」

 そう言ってこちらを振り向いた少女は今までの怖いイメージとは違う表情を浮かべていた。


 初めて見せたその顔は友美ちゃんに負けず劣らず、抱きしめたくなるほど可愛いい笑顔だった。




 公園で友美ちゃんとも別れ、私は家への道を歩いていた。

「そう言えば、私達はなんで時空ホールに巻き込まれたの?彩花はたまたま偶然って言ってたけど…私や友美ちゃんの家の近くでその装置が使われたって事なのかな?」

 そうだとして使ったのは一体誰?やっぱり…リゼインさんだろうか…?だとしても何で〈元の世界〉のリゼインさんは『魔法世界』なんかに…

 それに少女の言ったことでまだ気になることも残っている。彼女達は魔力を送るためのアンテナとして『魔法世界』に飛ばされたらしいけど、魔法を使えるようになってしまったことでその役目を果たせなくなってしまっている。アンテナとして使いたいのなら、魔法を使わせないようにさせておくべきで、これはあまりにも迂闊ではないだろうか。それとも他に彼女達を送った目的があるのだろうか…?


 考えながら歩いていると、いつの間にか家の近くまで来ていた。そして、私の家の前に一台の車が止まっているのが見えた。この世界で車なんて珍しい。家に誰かお客さんかな?

 見ていると、玄関から出てきたのはリゼインさんだった。何で私の家に?

「リゼインさーん」手を振り、呼んでみたがリゼインさんは気付かずに車に乗り込み、そのまま行ってしまった。まあ、遠かったし気付かないのも無理ないか。

 何て思っていると、私のケータイが鳴り響いた。『魔法世界』に来てから始めての着信だ。誰だろうと思い画面を見てみると、それは見たこともない番号だった。出るか出ないか迷ったが、ここは前者を選んでみることにしよう。


『あ、もしもし?美南那美さんかしら?』

 この声は…

「リゼインさん?何で私の番号知ってるんですか?」

『相沢友美さんに聞いたのよ。ところであなたに聞きたいことがあるの。この前『リゼ・那美一号』のことを聞きに来た時に、『時空ホール』がどうとかって話をしてたわよね?』

「しましたけど…リゼインさん聞いたことが無いって言ってましたよね?」

『ええ。だけどこの前うちに乗り込んできた犯人達が残していった資料の中にその『時空ホール』について書かれた書類が見つかったのよ。驚いたわ。あんな理論初めて見たから。魔力の消費をもう少し効率化する必要があるかも知れないけど、あれを使えばあなたの言った通り『時空移動』が出来るかも知れないわ』

「ほ…ホントですか?」

『ええ。詳しい話をしたいから今度の休みに社まで来てくれるかしら?出来ればあの小さな子も連れて来て貰えると助かるわ。あの子、結構詳しそうだね』

 あのー…それってもしかしなくても本命は私じゃなく彩花の方では?

『あたり!あの子を連れて行けるのはあなただけだって相沢友美さんに言われてね。でもあなたも興味あるんでしょ?『時空移動』。一番熱心だったしね。相沢友美さんも連れて三人でいらっしゃい。また、あのレストランでお茶でも飲みながら話をしましょう』

「わかりました。じゃあ次の休みに。あ、そうだ。もう一人連れて行きたい子が居るんですけどいいですか?」

『もちろんよ。もしかしてあの男の子かしら?』

 違います。なんでそこであの馬鹿が出てくるんですか!あんな毒にも薬にも恋人にもならない奴が居ても有益な情報を得ることなんて出来ませんよ。私が連れて行きたいのはリーダーの少女。あの子ならきっと力になってくれる筈だ。それに、リゼインさんに対する誤解も解きたいしね。

「あ、もしかしてそれで私の家まで来てたんですか?」

『何のこと?私はずっと会社に居たわよ?今も会社だしね』

 それじゃあ今私の家から出てきたのは…


「〈元の世界〉のリゼインさん…?」



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