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魔法の世界  作者: manam
そのさん
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そのさん 2

 その日の放課後も、もちろん『科学部』へ行く。私の目を盗んで帰ろうとする五十路の馬鹿の襟首を掴み、梢ちゃんと引き摺って連れて行く。

 部室に入るとすでに友美ちゃんと彩花の姿があり、彩花は昼休みの時と同様にボーっと窓の外を眺め、友美ちゃんは本いすに座ってを読んでいた。読んでいるのはこの前私がショッピングモールで買って、部室に置き忘れていた物だ。

 タイトルは『まっしろなせかい』。まあ絵本だね。

「なんだお前?そんな子供っぽいもんが趣味なのか?」

「うるさいわね!ほっといてよ!」

 私のこと馬鹿にしながらこいつは自分で持ってきた少年誌を読み始めた。あんただって十分子供っぽいわ!

 梢ちゃんはその本の表紙をみて、

「それ、私も昔読んだことがあるよ。確か何も無い真っ白な世界に一人の女神がやってくるんだったよね?」

「そう、そして世界に色を生んでいくの」

 本の内容はこんなものだ。




 ここはまっしろな世界。ずっとずうっとまっしろ。なんにもない、誰もいないそんな世界。だけどある時、ひとりの女神様が、まっしろな世界にやってきました。まっしろな世界を、きれいな色のある世界にするために。

 だけど女神様は、なにをすればいいのかわかりません。女神様もまっしろな世界しか見たことがなかったのです。女神様は困りました。なんにもない誰もいないそんな世界にひとりぼっち。女神様はさみしくて泣いてしまいました。いっぱい、いっぱい泣いてしまいました。


 女神様が流したたくさんの涙はやがて、まっしろな世界を川となって流れだし、まっしろな世界に一つの色が生まれました。それは水色。

 やっと色が生まれたことに女神様は大喜び。だけど、ひとりぼっちなのはあいかわらず。やっぱりさみしくなって泣いてしまいます。


 そんなとき、川の向こうからぼんやりと見たこともない色がやってきました。それは橙色。丸くて、小さいのに、あたたかくて、女神様のさみしい心をつつみこんでくれる色でした。

 橙色は、川のまわりに新しい色を作りながら、女神様の方に近づいてきます。それは緑色。女神様のところに橙色がやってきた時には、緑色があふれていました。だけどそれだけではありません。緑色の中に見たことがないきれいな色がたくさん生まれていたのです。女神様はやってきた橙色に聞きました。橙色は答えます。緑色の中に生まれたあの色は、お花というものだよ。


 女神様の心があたたかくなって生まれた、女神様の心の色。だけど、ずっときれいなわけじゃない。あの色もいつかはきちゃうんだ。


 橙色の話を聞いて女神様はびっくり。

 せっかくきれいな色が生まれたのに、あのお花はいつかきえてしまう。それじゃあまたまっしろな世界でひとりぼっち。女神様はかなしくてまた涙がでそうになってしまいます。


 そんな女神様を見て橙色は言いました。あの色はいつか消えて、まっしろな世界にもどっちゃう。だけどお花はタネというものを残していくんだよ。そのタネがまっしろな世界をまたきれいな色のある世界にかえてくれるんだ。

 それにもうひとりぼっちじゃない。まっしろな世界でもボクはいつでもいっしょ。


 そういうと橙色はまっしろな空へと飛んで行き、色を塗っていきます。それは女神様がさいしょに生みだした水色。

 女神様はもう泣きません。色が消えてまっしろになっても、タネがまっしろな世界をきれいな世界にしてくれるから。

 女神様はもうさみしくありません。空を見上げれば水色があるから。空を見上げればともだちがいるから。




 なんとも不思議な絵本だ。空を見上げると友達がいるってことは、橙色の光は太陽ってことかな?世界は女神様が作ったけど、太陽は女神様が作った物ではなく、どこか別の所で生まれたってことか。

 でも子供向けの本でそんな難しいことを伝えるわけないか。きっとこの本は友達を作って仲良くしましょう、見たいな事を言いたいんだろうねきっと。

「この絵本ってさ、作者が不明なんだよね。いつ、どこで書かれたのかもわかってないんだって」

 梢ちゃんが得意気に豆知識を披露してくれるが、それなら彩花の方がもっと詳しく知っていそうだ。聞いてみる。

「私が何でも知っていると思うのは大間違い」

 ごもっともです。


 結局この日も、何事もなく、そして何の情報を得ることもなく、ただ部室でのんびりと喋るだけで終わった。『科学部』じゃなく『怠け部』に変更すべきかと本気で思う今日この頃。

 でも、どうしてだろう。早く〈元の世界〉に戻りたいと言う気持ちはあるのに、もう少しこんな時間が続いてほしいと言う気持ちもある。そんな私の気持ちが物事を前に進まなくしているんじゃないかと少し思ったり、思わなかったり。



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