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魔法の世界  作者: manam
そのさん
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そのさん 1


 そのさん



 リゼイン社へ行ってから十日程過ぎた。その間何事も無く平穏な日々が続いている。ただ、〈元の世界〉へ戻る方法もまだ見つかっていない。『リゼ・那美一号』もあのあと故障したらしくどうやら望み薄だ。別にこの世界の居心地はそんなに悪くはない。むしろ、〈元の世界〉よりも面白いくらいだ。魔法を使って行うスポーツは見ていて燃えてくるし、家以外にもぬいぐるみみたいな使い魔がいたりして、ほっこりしたりもする。

 だけど、このままここに居るわけにもいかない。私は〈元の世界〉の人間だから。だけど戻る方法も見つからない。もどかしいったらない。

「那美ちゃん?どうかした?」

「ううん、別に」

 今私は、『科学部』の部室で友美ちゃんと彩花と三人でお弁当を食べている。

 なぜ『魔法世界』に存在しなかった『科学部』になぜ居るのかと言うと、それはリゼイン社へ行ったその日の夜まで遡らなければならない。



 私はベッドの中で今後どうするか考えていた。もっと情報を集めなければいけない。『リゼ・那美一号』以外にも空間移動装置はないのか。それに、空間移動魔法を使える人にも話を聞きたい。何かヒントになることがあるかもしれない。それに、彩花の言っていた『時空ホール』というものがなぜ発生したのか、その原因も調べないと。だけど、私一人じゃとても無理。何人かメンバーを集めなきゃ。そのメンバーを集める大義名分は何か無いだろうか。

 そこで閃いた。


「そうだ!科学部をつくろう!」


 次の日早速友美ちゃんにこのことを伝えた。すると友美ちゃんも賛同してくれて、その話を聞いていた彩花もメンバーとして入ってくれることになった。折角なので帰宅部の梢ちゃんにも入ってもらおうとその話をすると、「那美って、都市伝説とか迷信を信じる子だったんだ」とか笑いながら言われた。失礼な。私はそんな物を信じるほどお子様じゃないよ!雷が鳴ったらおへそは隠すけど、別に決して全然まったく信じてるわけじゃない。ホントダヨ?

 まあ、そんなこんな言いながらも、面白そうだからと入ってくれることになった。だけどこれじゃ女ばっかりで力仕事する時に不便だね。やっぱり一人くらい男も入れておかないと。そういうわけで、五十路君、君も入部決定。「一体俺に何をさせる気だ?」なんて言ってたけど、そうだね、穴でも掘らせとこうか。特に意味は無いけど。


 メンバーも確保できたところで私は部活申請用紙を生徒会に提出した。部長『相沢友美』、書記『四季彩花』、座敷童『美南那美』。ちょっと待て!座敷童って何だ!

「ナミにぴったりの役職がこれ以外に思いつかなかった」

 他にも何かあるでしょ!副部長とか参与とか内閣総理大臣とかさ!だけど彩花は聞き入れなかった。友美ちゃんも「それでいいんじゃない?」なんて言ったので泣く泣くこのまま提出したのである。

 こんなふざけた申請用紙で、しかも『魔法世界』で『科学部』だから許可されないんじゃないかと思ってたんだけど、その場で認められた。さすが我が学校。変なクラブが多いだけあって寛容だね。だけどさすがに「おいおい、本気か?」みたいな顔をして、『学校始まって以来のイレギュラー』とか言われた。『生徒達唯一の良心』と言われていた頃が懐かしい。



 そんなわけで始まった『科学部』だが、何の情報も集まってこないのはこれいかに。

「そういえば工藤さんはどうしたの?いつもは一緒に来るのに」

 隣に座って自分で作っていると言うきれいなお弁当を食べながら友美ちゃんが聞いてきた。友美ちゃん、私のお嫁さんになってお弁当を作ってくれませんか?なんてことを本気で思いつつ、私はいつものお子様弁当を食べながら、

「うん、なんか体調が悪いからって朝から保健室に行ったよ」

「そう、なんとも無ければいいけど」

 心配する心優しい友美ちゃん。だけど大丈夫なんじゃないかな?梢ちゃんは「昼ごはんまで寝てくるわ」と言い残して保健室に向かって行ったし。この前私に説教したくせに自分はサボりだなんてズルイ。

 ちなみに五十路の馬鹿もここにはいない。あいつはいつも学食だ。


「あ、そうだ」私は友美ちゃんに顔を近づけてこっそりと聞く。「〈元の世界〉の彩花ってどんな感じだったの?やっぱりこっちの彩花みたいに変な子なの?」

 すると友美ちゃんはうーんと考えるようなしぐさをして、

「実はあんまりよく覚えてないの。確かに同じクラスなんだけど…クラスの皆と話してる所も見たことが無いし、もちろん私も話したことが無かったわ」

 意外だった。こっちの彩花は聞いてもいない余計なことをペラペラとよく喋るのに、向こうでは存在感の薄い無口キャラ。こっちで喋る分向こうでは物静かで釣り合いを取っているのかな?そんなことを思い私の後ろ、窓際に椅子を持って行き座っている彩花の方を見ると、メロンパンを両手で持って、ボーっとした顔でかじっていた。脇にはさらに二つメロンパンが置いてある。

 私の視線に気付いたのか彩花は、

「………」こっちを見てしばらく沈黙し、新しいメロンパンの袋を開けて「食べる?」

 いや、いらない。お弁当だけで十分だから。


 そういえば心なしか、ここ数日の彩花はちょっと大人しい感じがする。リゼイン社に行った次の日なんて、また遊びに行こうとうるさいくらいに誘ってきたのに、今の彩花はガスの抜けた風船のように元気がない。あんまり喋ってきてもうるさいけど、あんまり喋ってこないってのも何だか寂しく感じるから不思議なものだ。

「でも四季さんって、不思議な感じがするわね。何でも知ってるし、何でも出来ちゃうし」

「まあ確かに…普通の人とはちょっと違うかもね」

 何しろ〈元の世界〉と『魔法世界』を一方的なリンクを結べる特異体質の持ち主だからね。彩花の不思議な雰囲気はそんな能力があるから醸し出されていると言っても過言ではないんじゃなかろうか。

「あ、そうだ。あの時聞きそびれたことをまだ聞いてなかった」

 この世界の私はどこに行ったのかって事。そういえばあの結界の中にどうやって入ったのかも気になる。まさかあの結界も烏賊も彩花が私を驚かせるためだけに用意した物だったんじゃないでしょうね?この際だから聞いてみよう。


「ねえ彩花。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「やっほー、元気回復!お待たせしましたー」

 聞こうとした所に元気よく梢ちゃんが部室に入って来た。しかしなんだろう。私が大切な話をしようとしている時に邪魔が入るのは、この世界の仕様なんだろうか?

「あれ、那美?顔が福引にはずれた時みたいになってるよ?」

 それは梢ちゃんのせいでしょ?もうちょっと空気を読める人になって頂きたいものだ。

「もう体調はよくなったの?」

 梢ちゃんはテーブルを挟んで私の正面の席に着き、お弁当を広げながら、

「まあね。ちょっと疲れが出たのかもしんない。ここんとこ魔術の授業で張り切りすぎたからさ。ま、もうちょっとでテストだしちょっとセーブしてくことにするよ」

「テスト…?」

 その言葉を聞いて、血の気が引いた。

 そうだ!もうすぐ中間テストがあるんだった。私と友美ちゃんにとってそれはこの世界での一番の懸案と言っても過言ではないだろう。通常教科の試験は一夜漬けでもすれば何とかなるかもしれないが、『魔法世界』には、魔術の実技試験というものが含まれていた。ちょっとでも魔法が使えないと赤点決定。補習、追試が、もれなくプレゼントされる。それはいただけなし、いただきたくもない。


「那美もさ、小さい火くらい出せるようになっておいたほうがいいよ?」

 梢ちゃんが本当に体調が悪かったのか疑わしい位の食欲で、お弁当をモリモリ食べながら軽く言ってくる。そう言われても、出せないものは仕方ない。あの日彩花に魔法は使わないほうがいいと忠告されてから、魔術の授業など右から左に聞き流していた。友美ちゃんも『突発性魔力失調症』で押し通しているらしいし。どうしたものか?

「ねえ彩花…インチキできない?」

 困ったときの彩花様。小声で聞いてみる。

「インチキは出来ない。不正はいけない」ですよねー…「だから、はい」

 と、取り出したのは、百円で売っていそうなライターだった。そう言えばまだこの前のライターを返してなかったはずだけど、それまた作ったの?

「いや…あのね…?今自分で不正はいけないって言ってなかった?」

「だからこれ」

 グイっと押し付けるように突き出してくる。

「これを使えば試験はギリギリ合格できる。これは不正ではない。このライターは言わば触媒を使った魔法」

 何か難しいことを言い出してきた。


「ライターだけではない。科学と言うのはそもそも、触媒を使った魔法であると私は考える。この世界では装置を動かすのに魔力を使う。科学では電気、ガス、石油。これらの物が魔力の代わりとなる触媒」

 ふむ。なんとなく言いたいことはわかるような気がしないでもないけど、それって屁理屈ではないだろうか?

「必要な物と発動体が異なるだけ。必要な物は先に言った通り。それを使い、魔法は自分の体で発動し、科学は道具を使って発動する。その結果出た火は、どちらも同じ物。魔法と科学は表裏一体。魔法で科学は解き明かせるし、科学でも魔法は解き明かせる。ただ同時に存在しないから解き明かせず、迷信、都市伝説と言われる」

「ガスの火と、魔力の火は全然同じじゃないと思うけど…?」

「では、ガスの火と、石油の火は?」

「えっ…?それは…同じ…?燃料が違うだけで…」

「ではなぜ魔力の火とガスの火は違うのか」

 彩花の理屈では同じ物なんだろうけど、やっぱり私は納得できない。もし火の魔法がその理屈だったとしても、氷や雷の魔法はそれでは通らないと思うんだけど。

「火と氷と雷を同じように考えてはいけない。それぞれ別の理論」

「でもやっぱり魔法ってのは非常識な力のことを言うんだと思う。何も無いところから火を出すんだから」

「なら、ライターもそう。こんな小さな器に入った得体の知れない液体が気化して、火花や静電気で着火することなど、『魔法世界』では非常識極まりない。非常識な物が魔法だというのなら、これは立派な魔法ということになる」


 ええ?そんなもんかな?何か無理やり言い包めようとしてるみたいだよ?だけど横に居る友美ちゃんが私の服の裾を引っ張って、小声で、

「那美ちゃん。〈元の世界〉と『魔法世界』の常識は違うのよ。私は四季さんが言ってることが正しいと思う。もちろん納得できないところもあるけど、このライターは『魔法世界』の人が見れば魔法に見えるんじゃないかしら」

 そう言われてもやっぱり信じることは出来ない。私がまじまじとライターを見てると、

「なにコソコソしてんの?私も混ぜてよ」

 お弁当を頬張りながら梢ちゃんが身を乗り出して会話に混ざってきた。

「ねえ梢ちゃん、今の話聞いてた?」

「まあね。ぼそぼそ言ってるからそんなによく聞こえなかったけど、魔法だの科学だの言ってたよね。そんで、そのちっちゃいので火がどうとか。もしそれで火が出るのなら試験は大丈夫なんじゃない?誰もそんなのから火が出るとは思わないからびっくりすると思うよ?」

 丁度いい。それじゃあ今ここにいる唯一の『普通の魔法世界人』の梢ちゃんにライターの火をつけて見せて、本当に驚くか試してみよう。

 私は彩花の手からライターを受け取り、火をつけてみた。同時にカラン、と音がした。何?


「うっそ…マジで?」

 私の予想とは裏腹に、梢ちゃんは箸を落とし、かなり驚いた様子でライターの火に見入っている。それにしても梢ちゃんの驚いた顔なんて珍しい。

「なんなのそれ?『魔力機関』でもないし…それが科学ってやつなの…?」

「らしいね。なんでも彩花の家にある古文書に書いてあったらしいよ?」

 そういうことにしておこう。でないと彩花の秘密がバレちゃうしね。

「いいなあ…それ私にちょーだい?」

 にっこりと微笑んで私の方に両手を出してくる梢ちゃん。まあライターくらい、いいかと思い渡そうとしたら、彩花が私の手からライターを取り上げて、

「これはアイザワトモミの物」そう言って友美ちゃんに手渡し、「そもそもクドウコズエにこれは必要ない」けんか腰で言う。


「ねえ、彩花っち…もしかして私のこと嫌いなの?」

 なんだかいきなり険悪なムードになってきた。梢ちゃんは身を乗り出したまま彩花を睨み、彩花は横目でめんどくさそうに梢ちゃんを見ている。二人の視線がぶつかり合い、私の頭の上で火花を散らしている。

 しばらく無言の睨み合いが続き、私は視線の火花を断ち切るように立ち上がり二人を止めようとすると、彩花が口を開き、

「クドウコズエはズルイ。いつもいつもナミのお弁当を貰っている。それに同じクラスでいつも一緒に居る。せめて、ここでは遠慮して欲しい」

 は?なに…?どゆこと…?つまり…


「やきもち?」


 私が聞くと彩花はぷいっと窓の方に向いてしまった。いやはや、出会ってまだ一月も経たないというのにそこまで慕われていたとは…嬉しいような何というか…複雑な心境だ。

「なるほど…それは気付かなかった…悪かったね。これからは気をつけるよ。ほら、まだ那美のお弁当残ってるし、後は彩花っちが食べな」

 梢ちゃんは許可もなく彩花に私のお弁当を差し出す。まだ半分しか食べてないのに…でも、彩花はジーっとこっちを見てキラキラオーラを放ってるし…しかたない。

「いいよ。食べかけでよければね」

「むしろ食べかけがいい」

 そう言うと彩花は私の食べかけのお弁当を嬉しそうに受け取り、そしてその代わりと言わんばかりに自分の食べかけのメロンパンを差し出してきた。いやいや、食べかけを渡すのならさっき開けて私に渡そうとしていたメロンパンを頂きたい。それとも何だろう…お互い食べかけを交換して、間接キスでもしようって言うのだろうか?私にはそんな趣味はないし、それにどうせ同じ食べかけなら友美ちゃんの物を頂きたい。私の胸のために。

 しかし、なにはともあれ、彩花の機嫌は直ったようで一安心だ。

「そんじゃ彩花っち、私にも火の出るあれちょーだい?」

 梢ちゃんはにっこり笑いながら彩花に向けて両手を出すが、

「だめ」


 あっさり却下された。




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