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5 残されたクロウフォード家の綻びと、元婚約者の焦燥

 翌朝のヴァレンシュタイン公爵邸の食堂は、庭園の木々を渡る風の音と、銀器が触れ合うかすかな金属音に包まれていた。

 高いアーチ窓から差し込む朝の陽光が、磨き上げられた長卓の木目を淡く照らし出している。

 卓上には薄切りのコールドミート、固焼きのライ麦パン、数種のチーズ、それに林檎の薄切りが整然と並べられていた。

 長卓の端と端に座るオズワルドとエヴリンの間には、優に馬二頭分ほどの距離がある。


 オズワルドは濃い茶を一口啜り、正面――遥か前方の席で、背筋を真っ直ぐに伸ばしてライ麦パンを咀嚼しているエヴリンへと視線を向けた。

 昨日の激しい衝突の余韻など微塵も感じさせない、冷徹なまでに落ち着き払った横顔である。


「エヴリン」


 オズワルドが低く呼びかけると、エヴリンは手元のフォークを静かに置き、ナプキンで口元を拭った。


「何でしょうか、公爵閣下。昨日の推薦状の件であれば、私の回答は変わりません。名ばかりの閑職に就く気は毛頭ございません」

「その話ではない。いや、その話の続きだ……」


 オズワルドは僅かに眉をひそめ、言葉を選び直すように顎を引く。


「君の意向は分かった。当家の威光を笠に着た職が嫌だというのなら無理強いはせん。だが、昨日の今日で、君を無防備に放り出すわけにはいかないという私の判断も、依然として変わらん。……そこでだ。君が当面この屋敷に留まるための新たな条件を考えた」


「結構です。閣下の考える『条件』は、どうせ私を都合よく丸め込むための包装紙に過ぎませんから」


 エヴリンは間髪を容れずに切り捨てた。

 その徹底した拒絶にオズワルドの額に微かな青筋が浮かぶ。だが、彼は苛立ちを深呼吸で押し殺し、腕を組んだ。


「まだ何も言っていないだろう。最後まで聞け」

「聞くだけ時間の無駄です。なぜなら、私のほうから提示する契約案が、すでにここに完成しているからです」


 エヴリンは椅子の脇に置いていた革表紙の手帳から、昨晩のうちに清書しておいた二枚の紙片を取り出した。

 立ち上がり、迷いのない足取りで長卓の側面に沿って歩み寄ると、オズワルドの目の前にその書類を滑らせる。


「これは何だ?」

「『ヴァレンシュタイン公爵邸一時滞在および業務受託に関する暫定覚書』です」


 オズワルドは眉間に深い溝を作りながら、机上の紙に視線を落とした。

 そこにはインクの滲み一つない几帳面な筆跡で、箇条書きの条項が整然と並んでいた。


「第一条、滞在費の清算。私は本邸の客室利用料および飲食費として、一日につき銀貨十五枚を公爵家家計口座へ支払うものとする。支払い原資は、私個人の手元資金および後述の業務報酬を充てる」


「……滞在費の話は昨日断ったはずだ」


「私が納得しておりません。無償の保護など、後でどれほど法外な要求を突きつけられるか分かったものではありませんから。次に第二条、信書の送受信および外部実務の受託。公爵閣下が私の物理的な外出を治安上の理由で制限なさるというのであれば、私はその制限を『暫定的な軟禁』として甘受いたします」


「軟禁ではない。保護だ」


「言葉の言い換えはおやめください。その代わり、私が自活のための資金を得る目的において、王都内の民間商会や書記官組合から、正規の事務請負案件を受注するための通信の自由を保障していただきます」


 オズワルドの青灰色の瞳が驚愕に見開かれた。


「外部の実務を、この屋敷内で請け負うというのか?」


「左様です。私は実家におりました頃から、中央区のいくつかの問屋や代筆屋の取り次ぎと細かな連絡窓口を務めておりました。請求書と帳簿の照合、転記ミスの確認、支払期限の整理、あるいは定型的な契約書の書式点検といった案件であれば、屋敷から一歩も出ずに書類のやり取りだけで完結できます。受注した案件は私の責任において遂行し、得られた報酬から滞在費を支払い、残額を自立資金として蓄積いたします」


 エヴリンは毅然とした面持ちで、オズワルドを見下ろした。


「これならば、閣下の仰る『街頭での暴力の危険』を回避しつつ、私の望む『自力による生活基盤の構築』が両立できます。公爵閣下に余計な根回しをしていただく必要も、名ばかりの役職をでっち上げていただく必要も一切ございません。いかがでしょうか」


 食堂に重々しい沈黙が降りた。

 給仕のために壁際に控えていたハインツが、眼鏡の奥で感心したようにエヴリンを見つめている。

 公爵の差し出した過保護な救済を真正面から拒絶した上で、相手の言い分である安全の確保を逆手に取り、自らの尊厳と経済的自立を両立させる妥協案を自ら設計して叩きつけてきたのだ。

 オズワルドは書類をじっと睨みつけた後、低く息を吐く。


「君は、どこまで自分一人で物事を完結させねば気が済まんのだ」

「他人に依存した瞬間、その人間の意向に従わざるを得なくなるからです。私は二度と、他人の気まぐれや善意に自らの生活を預ける気はありません」


 エヴリンの言葉には、長年の冷遇の中で培われた頑なな自己防衛の意思が宿っている。

 オズワルドはこめかみを指先で軽く押さえながら、首を縦に振った。


「……分かった。この覚書を認めよう」

「合意ありがとうございます。では、署名をお願いいたします」

「ただし、条件がある」


 オズワルドはペンを取る手を止め、エヴリンの目を射抜くように見上げた。


「外部との書状のやり取りは、必ずハインツを経由しろ。ランベール家やクロウフォード家が君の通信から居場所を特定し、不当な接触を図るのを防ぐためだ。中身を検閲する気はないが、差出人と受取人の確認だけはさせてもらう。君の安全を確認すべき立場にある以上、それだけは譲れん」


 エヴリンは一瞬考え込んだが、筋の通った安全対策であると判断し、小さく頷いた。


「承知いたしました。妥当な危険排除措置として、その条件を受け入れます」


 オズワルドは覚書の末尾に流麗で力強い筆致で署名を走らせる。

 王国屈指の公爵邸の一室が、エヴリンの堅実な作業場として認められた瞬間だった。


   ◇


 それから数日のあいだ、クロウフォード伯爵邸の執務室は、じわじわと広がる停滞と苛立ちに覆われていた。


「 穀物商会からの確認状の返答はどうなっている!」


 午後の日差しが差し込む中、エドガー伯爵の苛立った声が廊下にまで漏れる。

 机の上には王都の大手取引先である『三番街穀物商会』から届いた、秋小麦の優先買付に関する追記条件の確認状が置かれていた。


「だ、旦那様……」


 老家令が困惑した面持ちで、数冊の台帳を抱えて立ち尽くす。


「契約の更新そのものは先月中に正式に結ばれており、契約書原本も金庫に保管されております。ただ先方が求めてきているのは、先週提示された輸送費の折半割合と、納入時期の最終承認についてでして……」

「そんなものは見てすぐに返答すれば済む話だろう! なぜ二日も滞っているのだ!」


「それが過去の取引台帳と照らし合わせますと、倉庫の保管料の減免分がどの項目と相殺されているのか、書類のあちこちにメモが分散しておりまして……。エヴリン様は毎期、それらの細かな条件を事前に突き合わせて一覧にしてくださっていたのですが、我々がそれを一から突き合わせるとなると、どうしても確認に時間がかかってしまうのです」


「ええい、使えん奴らだ! 商会からは『本日中に最終承認の署名が届かねば、今期の優先枠を他領へ回さざるを得ない』と催促が来ているのだぞ!」


 エドガーは額の汗を拭い、荒々しく机を叩く。

 契約そのものが破綻したわけではない。違約金が発生したわけでもない。

 正式な記録は家の中に残っており、担当者たちが時間をかけて紐解けば、いずれ解決する実務だった。

 しかし、これまで細かな数字の照合や締め切りの管理をすべてエヴリンに任せ、出来上がった書類に判を押すだけだったエドガーにとって、複数の台帳を行き来して確認を指示する作業そのものが、耐え難い苦痛だった。

 そこへ、華やかな昼着に身を包んだドロテア夫人と、退屈そうに髪を弄ぶコレットが入ってくる。


「まあ、あなた。まだその書類を見ていらっしゃいますの?」


 ドロテア夫人は不満げに扇をパタパタと動かす。


「そんな商人たちの細かな都合など、適当に承認の判を押して送り返せばよろしいではありませんか。それより、来週の観劇会に合わせたコレットの新しい帽子と、手袋の請求書が届いておりますのよ。お支払いの決裁を早く済ませてくださいまし」


「少し黙っていろ!」


 エドガーが珍しく妻に向かって声を荒らげる。


「今月は社交費の請求がすでに重なっているのだ! 穀物商会との手続きが遅れれば、入金の予定が狂うかもしれんというのに、次から次へと新しい請求書を持ってくるな!」

「な……なんですの、その言い草は!」


 ドロテア夫人の眉がつり上がった。


「我が家の体面を保つために必要な支出ですわ! エヴリンがいた頃はこんな些細な支払いで小言を言われたことなど一度もございませんでしたのに!」


「あいつが支払期限や請求書を几帳面に整理して、何を先に処理すべきか一目で分かるようにしてくれていたからだ!」


 思わず口から出た言葉に、エドガー自身がハッとして口を噤む。

 エヴリンがいなくなったことで、クロウフォード家の財政が破綻したわけではない。ただ、家族が当たり前のように重ねていた浪費や杜撰な金銭感覚が、誰の整理も挟まずにそのまま数字として突きつけられ、居心地の悪さを生んでいるだけだった。


 その時、執務室の扉がノックされ、セドリック・ランベールが足早に入ってきた。

 数日前と比べ、その身なりは明らかに乱れていた。

 上着の皺は伸ばされておらず、整えられていたはずの金髪もどこかやつれた印象を与えている。


「伯爵……いらっしゃいましたか」

「セドリック殿か。先日も申し上げた通り、我が家から出せる余剰金などないぞ」

「金の話ではありません。……いや、そう言いたいところですが、状況は刻一刻と悪化しているのです」


 セドリックは憔悴した面持ちで、長椅子に腰を落とす。


「昨夜、父上から親族の集まりで最後通告を受けました。エヴリンの口座から引き出した四百二十万ゼルについて、もし彼女が正式に公証院へ訴えを起こし、公の沙汰となればランベール子爵家の看板に拭いがたい傷がつく。正式な手続きが始まる前に本人と示談をまとめ、返還の合意を取り付けられなければ、今月末をもって私を廃嫡すると……」


「廃嫡……!?」


 コレットが思わず声を漏らし、手袋を握りしめた。


「セドリック様、本当に廃嫡されてしまうのですか? そんな……それでは、私との婚約はどうなってしまいますの?」

「お前との婚約どころではない!」


 セドリックは苛立ちを露わにし、コレットを睨みつける。


「私が平民に落とされれば、すべてが終わるのだ! 元はと言えば、お前がねだった装飾品の支払いに困ったからこそ起きたことだろうが!」

「まあ! 自分の不始末をまた私のせいにするおつもり!?」

「やめんか、見苦しい!」


 エドガーの一喝に、二人は険悪な視線を交わしながら口を噤んだ。

 セドリックは荒い息を吐きながら両手で顔を覆う。追い詰められた彼の脳裏には、もはや論理的な判断力は残っていなかった。


「伯爵。やはり、腑に落ちないのです……」


 セドリックは指の隙間から、充血した瞳を覗かせる。


「あの夜会で、エヴリンが見せびらかしたあの書類。引き落としの明細や筆跡鑑定書ですが、本当に本物だったのでしょうか」

「何が言いたい」

「あいつは昔から何を考えているか分からない、陰気な女でした。私とコレットの仲に気づき、恨みを晴らすために、巧妙に仕組んだ捏造書類だったのではないかと思えてならないのです。そうでなければ、あんな公の場で都合よく証拠を突きつけられるはずがない!」


 セドリックの言葉は、自らの非を認めたくない一心から出た、苦し紛れの責任転嫁に過ぎなかった。

 自分が委任状を無断で使用したという記憶はあるはずなのに、追い詰められた精神が、都合のいい虚構へと逃げ込んでいるのだ。


「捏造……あの子が書類を偽造したと?」


 ドロテア夫人が怪訝そうに眉をひそめた。


「そうです! あいつは私を陥れようとした悪女なのです! あいつを探し出し、書類の不備を突いて問い詰めれば、正式な返還請求など取り下げさせられるはずです! そうすれば私の廃嫡もなくなり、すべては解決する!」

「しかしセドリック殿、あいつの居場所はいまだに分からんのだぞ」


 エドガーがため息をついた。


「我が家の使用人にも心当たりの宿を回らせたが、影も形もない。どこかの片隅で行き倒れているのならまだしも、雲隠れされていては手の打ちようがないだろう」

「当てはあります」


 セドリックは険しい顔で立ち上がった。


「王都の代筆屋や書記官の組合に、あいつが実務の取り次ぎを依頼していないか、手を回して調べさせています。あいつが一人で生きていくつもりなら、必ず手持ちの知識を使って書類仕事を探すはずだ。足取りさえ掴めば、直接乗り込んで話をつけます」


 セドリックはそう言い捨てると、挨拶もそこそこに執務室を出て行く。

 残された部屋には、重苦しい沈黙と互いへの不信感が漂っていた。

 自分たちを正当化しようとすればするほど、現実の事務や金銭の煩わしさが足元に絡みついてくる。

 かつてエヴリンを蔑んでいた日々には想像もしていなかった、鈍い苛立ちだけが積もっていった。


   ◇


 同じ日の午後。

 ヴァレンシュタイン公爵邸の客室は、静謐な作業の空気に包まれていた。

 机の上にはハインツを通じて届けられた数冊の帳簿と、民間商会からの書類の束が整然と積まれていた。

 エヴリンは羽ペンを走らせ、数字の転記ミスや定型契約書の記載漏れを淡々と拾い上げていく。


「……王都南区の金物問屋の仕入伝票、第三四半期の小計に銀貨二枚の記載漏れ。売買契約書の受渡場所に関する定型文に旧書式が使用されているため、現行の様式への差し替えを付記……と」


 サラサラと静かな音が部屋に響く。

 取り組んでいるのは専門の法学者や高度な監査官が扱うような特殊な案件ではない。日常的な商取引の中で発生する、地道で時間のかかる照合や分類の実務だった。

 だが、エヴリンは一つ一つの数字を正確に確認し、期限通りに整然と書類を揃えていった。

 実家で押し付けられていた時とは違い、これは自分の知識と時間を提供し、対価を得るための正当な仕事だ。

 コンコン、と控えめなノックの音がした。


「エヴリン、入るぞ」


 オズワルドがトレイを手に部屋に入ってきた。

 手にはガラスの水差しと、薄く切られた柑橘類の砂糖漬けを載せた小皿がある。


「公爵閣下。ノックの後は、こちらの返答を待っていただきたいのですが」

「待っていれば『集中していますので後にしてくだされ』と言うだろう。少し休憩しろ。根を詰めすぎると目が疲れる」


 オズワルドはトレイを机の端に置き、冷たい果実水をグラスに注いだ。

 以前のように「弱者を救ってやる」と声高に主張する様子はなりを潜め、どこかぎこちない気遣いが滲んでいる。


「いただきます」


 エヴリンは短く礼を言い、グラスを手に取った。冷たい酸味が心地よく喉を潤す。

 砂糖漬けを一枚つまみ、淡々と咀嚼する。


「……それで、仕事の進み具合はどうだ」


 オズワルドは机の上の整然と並べられた書類を覗き込んだ。


「南区の商工組合から引き受けた伝票整理か。先ほどハインツから聞いたが、納品した前回の書類について、先方の担当者が『期限通りに非常に丁寧に整理されており、非常に助かった。次回の案件もぜひ回したい』と言っていたそうだ」

「定型的な転記ミスを拾い、日付順に並べ直しただけです。手順を守れば誰にでもできる作業に過ぎません」

「誰にでもではないな。投げ出さずに正確にやり切るのは、立派な実務能力だ」


 オズワルドは上着のポケットから、小さな革袋を取り出して机の上に置いた。

 チャリンと鈍い金属音が鳴る。


「今回の案件の手間賃だ。銀貨二十五枚ある」


 エヴリンは袋を受け取り、中身の硬貨を指先で確かめた。

 それは、彼女が実家を出てから自らの手で稼ぎ出した、混じりけのない正当な労働の対価だった。


「ハインツを呼んでいただけますか」

「何のためだ」

「今週分の滞在費として、ここから銀貨十五枚をお納めするためです。残りは自立資金として手帳に記録いたします」


 オズワルドは小さく苦笑し、椅子の背もたれに手を置く。


「徹底しているな。私が『滞在費など気にしなくていい』と言えば、また正論で反論されるのだろう」

「当然です。不必要な恩義を作らないことこそが、健全な関係を維持するための前提ですから」


 エヴリンはすまし顔で言い放ち、ペン先を拭う。

 オズワルドはそんな彼女の横顔を静かに見つめた。


 当初のように単なる無力な被保護者として見ることはできなくなっていた。

 目の前の娘は自らの手で現実と向き合い、地道に道を切り拓く強さを持っている。その実務への真摯さには、敬意を抱かざるを得なかった。

 だが、それでも彼の中には依然として、「この頑なな娘を外の危険から守らねばならない」という庇護者としての意識が根強く残る。


「エヴリン。君は思っていたよりもずっと手堅く物事を進めるのだな」


 オズワルドが呟くように言う。


「私が思っていたより、君はずっと自分で物事を進められる人間だったらしい」


「私が何もできずに立ち竦むだけの小鳥だとお思いだったから、驚かれただけでしょう」


 エヴリンは顔を上げ、冷静にオズワルドを見据えた。


「私は万能ではありません。腕力もありませんし、暴力の前に無力であることも自覚しております。ですが、だからといって他人の庇護の中に閉じ籠もる気もありません。私が拒絶したのは、あなたの一方的なやり方です」


「どこまでも手厳しいな」


「事実を申し上げているだけです」


 オズワルドの口元に自然な笑みが浮かんだ。

 まだ互いの考え方が完全に一致したわけではない。

 オズワルドの過剰な保護意識も、エヴリンの徹底した警戒心も、根本的な部分では残っている。しかし、交わされる言葉の間には数日前のような刺々しい敵意は薄れていた。


 その時だった。

 一階のエントランスの方から、けたたましい怒号と、金属が擦れ合うような騒ぎが微かに響いてきた。


「エヴリン! エヴリン・クロウフォードはここにいるのだろう! 隠れていないで出てこい!」


 聞き覚えのある、上ずった甲高い叫び声。

 エヴリンとオズワルドは同時に眉をひそめ、窓の外へと視線を向ける。


 ついに、嗅ぎつけた元婚約者が公爵邸の門前に辿り着いたのだ。



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