第四十三章――都市を動かす者
翌朝、都市庁の広場に面した会議室へ、勤務の返答が持ち込まれた。
壁際には、臨時会議で集めた椅子がまだ何列も残っていた。広場に向いた窓の反対側、壁の端にある扉の辺りは薄暗い。壁の下部には、椅子の背が擦れた跡が残っていた。
窓に沿って据えられた長机の両脇に、五、六脚ずつ椅子が並んでいた。使い込まれた縁は丸く擦り減り、黒ずんだ天板に朝の光が鈍い艶を浮かび上がらせた。
窓を背に座ったレナ・ヴェルスは、栗色の髪を襟足で束ねていた。痩せた頬にかかった一筋を耳へ掛け、冷えた指を袖口へ入れてから、施設ごとの勤務回答を開いた。左隣のセナが細い指で欠勤届を受け取り、その隣の旧市書記は、新しく写した職員名簿を二人の間に広げる。水路技師、通信官、門務職員。名と仕事は埋まっているが、所属欄だけが空いていた。
レナの右隣では、細長い顔のオルネが未裁定の綴りを開き、さらに奥には、こめかみに白髪の混じるドレフ・ハインがいた。角張った顎を引き、地区から預かった被害申立書を膝に積んでいる。
正面には大角牛のドルガが座っていた。窓の光が、左右へ張った太い角と広い肩を照らしていた。
その隣、オルネの向かいにいる岩猪のヴァドは、太い首を前へ傾けて穀倉の立会い表を開いた。短い焦茶の剛毛に覆われた幅広い顔を上げ、オルネの手元を見た。
ドルガのもう一方の隣には、灰狼のケルドが座っていた。細身で、口元の灰色の毛に白が混じっていた。水路巡回の担当表を読み終えると、紙の端を揃えて自分の前へ置いた。
ケルドの先、扉に近い席には沼獺のガルネが座っていた。濃い茶色の毛に覆われた肩を丸め、椅子の脇へ太い尾を垂らしている。淡い灰色の髪を一つに編んだ西門側の女は、ヴァドの隣で水路の巡回票を膝から机へ移した。
扉に近い長机の端では、フィレネが曲がった腰を椅子の背に預けていた。後ろで束ねた白髪が襟へ落ち、杖は椅子の横に立て掛けてある。隣の根路区の連絡役と、水路図と管理所の交代表を重ねずに置いていた。ディルハとバルガは長机から離れ、扉脇の小机につく。ディルハの前には東門の勤務表。バルガは吊った左腕を避け、椅子を少し斜めにしていた。
朝の光は窓際の紙を白く見せている。外で三十四本の氏族旗がばらばらに鳴った。都市庁正面の旗竿には何もない。広場を横切る荷車が割れた石へ乗り上げ、車輪の跳ねる音が室内まで届いた。
オルネが顔を上げた。
「今日は、今いる職員に明日からも仕事を続けてもらえるか、その相談です。昨日、仕事の分担は決めましたが、本人たちの返事はまだ揃っていません。まず、各施設の状況を聞かせてください」
旧市書記が職員名簿の翌日の欄を開く。
「門務は昨日の組を続けます。明日も残ると返した者だけ、勤務表へ入れます」
ディルハは東門の勤務表を手前へ引き、返答のあった旧兵の名を明日の欄へ書いた。通信当直から届いた紙は旧市書記へ回され、セナが「今夜まで」という返答を通信の勤務欄へ写す。
レナは水路技師の勤務回答を隣のセナへ渡した。セナから紙を受け取った旧市書記は、長机の端に座るフィレネへ差し出した。
「今の技師は夕刻までです。夜の交代は返事を待っています」
「決まったら、管理所へ知らせてくれ」
フィレネは勤務回答を交代表の横へ置いた。ヴァドは頷き、レナからオルネを通して渡された穀倉職員の勤務票を引いた。
「計量は昨日と同じ者に出てもらえるか。朝の計量が止まれば、荷車を出せない」
「今日の担当は決まっています。明日からの分は、まだです」
レナは穀倉から戻った回答を探した。
「昨日来た者でもか」
「この先も続けられるか、一人ずつ聞いています。清掃は、交代を減らしてほしいという返事が来ています」
「それは氏族側でも困る」
ドルガが警護票を机越しにレナへ滑らせた。運搬と警護を束ねている男で、仕事着の肩は荷縄に擦れて白くなっていた。
「朝から昼までなら、こっちは出せる。夜は別の持ち場がある。同じ兵を残すとは書かないでくれ」
セナがレナの手元で警護票を見て、朝から昼までと控えを取る。レナは向かいのドルガへ返した。
「搬出の時間は、いつ分かる?」
「職員の昼の交代が戻れば。倉の責任者にも確かめてもらいます」
「昼まで待つのか」
ドルガが警護票の端を押さえる。
「こっちも明日の人数を決めたい。倉で待たせる間も、兵はそこを離れられない」
レナは頷いた。
「先に聞きに行かせます」
書記を手伝う職員が窓側の通路を来て、レナから倉への問い合わせを受け取った。扉が閉まると、レナは施療院の勤務回答を開く。交代が戻るまで待ってほしい。倉の回答とは分け、欠勤届の上へ置いた。
ドレフは膝に積んだ申立書から、壊された戸と店先の被害を訴える一枚を抜き、隣のオルネへ見せた。
「この戸の被害は、今日は扱いますか」
オルネは申立書の日付を見た。
「受けた記録はあります。ただ、被害を確かめる者も、相手の返答もまだ揃っていません」
「被害を見て、相手に聞きに行く者を決めてほしいんです」
ヴァドが穀倉の勤務票を、向かいのオルネと自分の間へ押した。
「先に、今日止まる仕事を決めよう。倉の立会いにも、空いた番がある」
ドレフは申立書を引かなかった。
「また先ですか」
ドレフがオルネの前へ出した申立書に、穀倉の勤務票が重なった。セナはレナの後ろを回って二枚を離す。隠れていた申立ての日付が見えた。
「後で忘れるつもりはありません」
オルネが言いかけると、ドレフは戸の被害を記した行へ指を置いた。
「そう言って、戸が壊れた家へ何度帰らせるんです。板を買っていいかと聞かれても、私は何も答えられない」
「費用は、ここで全て約束できません」
「費用だけじゃない。壊れた戸を見に行く者さえ、まだ決まっていないんです」
ヴァドは太い眉を寄せ、両足を床へ踏ん張って待った。穀倉の勤務票から指を離さない。セナが自分の席へ戻ると、ドルガは向かいのレナを見る。
「倉の返答は先に頼む。今日の荷を遅らせたくない」
「今日の担当はいます」
「その者たちへ、明日も頼めば済まないか」
レナは穀倉の勤務回答を揃え、上から手を置いた。
「昨日は来ても、明日は来られない者もいます。夜まで残った者を、また朝から数えるわけにはいきません」
「うちの兵も交代を減らしてる」
ドルガは肩の布を引っ張り、擦れたところを浮かせた。
「水路の見張りと、倉の警護と、東門だ。倉で待たせなければ、次の番へ回せる」
「職員も同じです」
「だったら、昨日と同じ仕事を頼んでくれ。新しく何かやれと言ってるんじゃない」
ヴァドが口を挟んだ。
「昨日やった者がいるんだろう。明日もその者に頼んでくれ」
レナは勤務回答を持ち上げたまま止まった。窓際で明るくなった紙に、オルネが目を細める。外では荷車の車輪が石を打った。レナは首筋へ張り付いた襟を引いたが、紙を下ろさなかった。
「昨日だけではありません」
レナの声は低かった。
「門が破られた日も、出た者はいます。水が乱れた日も。施療院に負傷者が運ばれてきたときも、交代が来るまで残った者がいます」
ヴァドは彼女を見た。
「あなた方のために働いてきたんじゃありません。この町を、これ以上壊されたくなかっただけです」
レナは施療院の勤務回答を抜いた。余白には、昨日の交代が遅れ、勤務を延ばした時刻が書かれていた。
「この町で暮らす者を死なせたくなかったから、戻ったんです。命じられたからではありません」
「それは分かった」
ヴァドが言う。
「だが、仕事は要る。今日も明日も、水と食料を止めるわけにはいかん」
「だから、出してきたと言っているでしょう!」
レナの声が跳ねた。施療院の勤務回答が手を離れ、オルネとの間へ落ちる。
「休むと言った者には、もう少しだけと頼んできた。返事のない持ち場へも人を探して出した。それを、昨日できたんだから今日もやれで済ませるな!」
レナの声に、廊下の足音が止まった。ドルガは椅子を後ろへ引き、床に脚の擦れる音が響いた。
ドレフは、壊された戸の被害を訴える申立書を、隣のオルネの前へ押し出した。
「戸を壊された家もある。それでも働け、被害の話は後だ。いつまで待たせるんだ!」
「誰の被害か、確かめなきゃ払えんだろう」
ヴァドの声が硬くなる。
「だから確かめに来いと言ってる! 紙だけ預かって、また持ってこい、また待て。壊れた戸の前で何と言えばいい!」
ドルガが立ち上がり、警護票へ腕を置いた。
「俺たちだって、昨日は倉で待たされた。荷車の脇に朝から立って、出せるかどうかも分からんままだ。ようやく運んで戻れば、今度は夜の見張りだ」
「だから、壊された方は我慢しろってのか」
ドレフがドルガを見上げた。
「そうは言ってない!」
ドルガの息が荒くなる。
「何もしてないように言うな。荷を運んだのも、倉の外に立ったのも俺たちだ。仲間を寝かせるために、明日の時間を決めたいだけだろうが!」
レナは警護票を見たまま答えた。
「こっちの交代だって決めたい。それを、そちらで名を書いて出せと言わないで」
「いちいち聞かなきゃ、一人も出せないのか」
ドルガが机越しに身を乗り出す。
「返事をしていない者を、私が出すと書けるものか」
レナは筆を置き、机越しにドルガを睨んだ。
「そもそも、あんたらが攻めてこなければ、こんなことにはなってないんだよ! 家を壊して、人を傷つけて、その後始末をしてる人間に、早く働けだって?」
「好きで攻めてきたと思ってるのか!」
ドルガの腕が警護票を押し潰した。
「荷は運ばせる、日が暮れれば門の外だ。散々そんな扱いをしてきて、こっちが歯向かった時だけ、何もしてない顔をするな!」
「だから私たちの家を壊していいのか! あんたらが受けた仕打ちを、今度はこっちが黙って受けろってのか!」
「黙ってろとは言ってない! だが、俺たちが来なけりゃ何も問題はなかったみたいに言うな!」
ヴァドは机の縁を掴み、身を乗り出した。オルネを睨みつける。
「昨日は持ち場を分けた。今日は人数も決まらんだと? 都市庁まで取って、まだ紙の返事待ちか! ここに集まった連中は、何を決めるために座ってるんだ」
ドルガが続けた。
「倉の鍵はこちらにある。なのに、あんたらの返事がなけりゃ荷一つ出せない。鍵を持たずに倉を閉めておけるとは、器用なもんだな」
ドレフが戸の被害の申立書を掴んだ。
「鍵を取って終わりか! こっちは壊された家の後始末をしてるんだ。勝ったと言うなら、荷でも運べ、見張りでも立て! 町を取った後の仕事まで、こっちへ押しつけるな!」
それまで黙っていたガルネが、尾を跳ねさせて立ち上がった。ドレフを睨み、机に両手をつく。
「荷を運べ、見張りに立て、役人の返事を待て。門を取られても、俺たちを使う口だけは変わらねえな! 町は失っても、奴隷はまだ自分のものか!」
オルネが口を開き、一度閉じた。ガルネは立ったまま、返答を待っている。
「運搬も警護も、頼みました。ですが、出せないと答えた番は――」
ガルネが言葉を遮った。
「頼めば済むのか! 荷が出なけりゃ、運ぶ連中も見張りも帰れないだろうが!」
ガルネの声に、レナが顔を上げた。
「帰れないのは、職員も同じです!」
レナは机に落とした施療院の勤務回答を取り上げ、向かいのドルガを睨んだ。
「それなのに、昨日働いた者を明日も出せと、そちらは言っているでしょう!」
ドレフが言葉を挟もうとしたが、ドルガの声が被さった。
「それでも、できる者には出てもらうしかない。こっちが門を取ったんだ。門番までいちいち――」
「旧兵が門務を続けるか、私が返答を集めています」
ディルハが声を通した。
「足りない分は旧兵を戻せばいいだろう」
ヴァドが扉脇のディルハへ顔を向ける。
「昨日まで東門の兵だった。守る場所が変わったわけじゃない」
ディルハは勤務表を持って立ち、長机のヴァドの席へ歩いた。オルネとの間に紙を置き、包帯を巻いた肩を庇いながら空欄を指す。
ディルハは顔を上げた。短く切った黒髪の下、左眉から頬へ走る古い火傷跡に窓の光が当たった。
「私の命令下に残ると答えた者には命令できます。返事のない兵の名を、明日の欄へ入れないでください」
「返事、返事。門の外には一千八百いるんだぞ」
ヴァドは東門の勤務表を指した。
「戻るとも言わない兵を、いつまで待つ。門を取った以上、こちらで配置を決めるしかないだろう」
レナとドルガが同時に口を開いた。オルネが「一人ずつ」と言っても、ガルネも立ったまま声を重ね、ドレフは申立書を持ち上げている。セナは聞き取れた発言だけを控えに書いた。隣へ寄せた回答の束が職員名簿へ重なりかけたので、名簿を旧市書記の肘の横へ移す。
扉脇で、バルガの灰色の耳が声の重なる方へ向いた。右耳の古い裂け目が見えた。
「門は落ちた。中の連中まで膝を折ったわけじゃない」
バルガの声は低かった。
ヴァドが扉脇を振り返る。ドルガも言いかけた口を閉じたが、ドレフはまだオルネへ申立書を示していた。バルガは椅子の背へ身体を預けた。
隣のケルドが、ドルガの前にある警護票の「朝から昼まで」を指で押さえた。
ケルドは声を張らず、立ったままのドルガを見上げた。
「お前は夜まで出せないと書いた。これを消されたら困るだろう」
「困る。勝手に増やすな」
「レナも、職員の返事を待っているんだろう」
ドルガは腰を下ろし、警護票を引き寄せた。ヴァドは椅子の背から手を離す。ディルハも勤務表を持って扉脇の小机へ戻った。
扉の隙間から、水路の交代を待つ職員が室内を覗いた。フィレネが手を上げると、入口からフィレネの席へ歩き、管理所の問い合わせを交代表の横へ置く。
「夜の交代を、管理所から聞かれています。今の技師を夜まで残すのかと」
「本人は何と言っている」
「夕刻までは、と」
「夕刻までと管理所へ返せ。わしも戻る」
フィレネが図を畳みかけた。ヴァドが「待て」と言う。レナは窓側の通路を歩き、フィレネから、朝回した技師の勤務回答を受け取った。
「次の技師には、もう聞きに行っています。護衛が決まれば、それも伝えます」
「怒鳴って水が流れるなら、技師はいらん」
フィレネは座ったまま図を広げ直し、交代時刻の書かれた表をその端へ置いた。
「弁を動かす者と、見張る者を同じにするな。技師の返事は待つ。見張りを出せる氏族は、巡回票へ書け」
西門側の女が、自分の巡回票を引き寄せた。水路へ出す護衛の欄に名を書く。
「停戦が満ちるまで、一組出す。水路の仕事だけだ。それ以上に使うな」
女は隣のヴァドを見てから巡回票を渡した。ヴァドは穀倉の勤務票を添え、ドルガへ回す。ドルガが席へ戻ったレナへ二枚を滑らせた。
「倉の計量にも、うちから立会人を出す」
ヴァドが言い、レナは穀倉の勤務票を受け取った。
「立会人には、計量の始まる時刻に来てもらってください。今日も、途中から来た者のために計量をやり直しています」
レナが見せた計量の開始欄へ、ドルガは自分の警護票を並べた。
「朝から昼まで。荷が遅れても、夜の持ち場まで空けて待てない」
レナは水路の巡回票を窓側の席から根路の連絡役へ返し、穀倉の勤務票の空いた担当欄へ警護時間を添えた。
「朝から昼までで倉へ聞きます。今の担当と、できる仕事を確かめてもらう。引き受ける人がいれば、その人に署名してもらいます」
ガルネが席の脇から言った。
「旧市の職員名簿に載ってない者も、仕事ができるか確かめろ」
「施設の担当者に、実際の仕事を見てもらいます」
「氏族からも立会人を出す。できると言われたって、こっちには確かめようがない」
「水路なら、わしの前で動かしてもらう」
フィレネが答えた。
「根路からも一人、立ち会います」
根路の連絡役が、巡回票の余白へ技能確認に一人出すと記した。ガルネはようやく椅子を戻す。レナが左隣へ渡した穀倉の勤務票は、旧市書記からガルネの前へ回った。彼は受け取ったが、礼は言わなかった。
オルネは各施設へ送る勤務案の継続期間に、現行十日停戦満了まで、と記す。窓側の席を通して旧市書記へ渡した。
「その先は、また本人に確かめる。所属の名は、まだ書かないでください」
旧市書記がセナへ勤務案を渡した。セナは清書し、勤務時間と本人の署名欄を空ける。
ドレフが申立書を戻しかけ、勤務票の束を見た。
「仕事を続けると答えた家の被害も、消さずに残すんだな」
オルネが未裁定の綴りを開き、受けた日付を確かめた。
「残します。まず、誰が被害を見に行くか、旧市と根路へ返答を求めます」
ドレフは束を離さなかった。オルネが申立書の余白に被害確認を求める宛先を書いて見せると、一枚ずつ未裁定の綴りの横へ置いた。
窓からの日が長机を横切る頃、勤務案が施設へ運ばれた。使いの職員が椅子の後ろを行き来し、扉が開くたび、廊下で勤務時刻を尋ねる声が入る。ドレフの申立書はオルネの綴りに挟まれていた。
夕刻には、施設から戻った勤務回答がレナの前へ積み直されていた。
明日も計量を続ける。夜は残れない。今夜までは引き受けるが、その後は答えない。レナは職員が勤務時間を削った回答を、書き直さずにドルガへ渡した。彼は警護票と並べ、職員の勤務と警護の時刻が合わない行を指で押さえる。
通信当直の返書も届いた。市内の当直は続ける。外部認証路の封止はそのまま。セナは通信の勤務案に返書を添え、当直の署名を確かめた。
商会倉の搬出票にも、計量に立ち会う者の名が加わった。商会名のある所有者欄には手を入れない。扉脇の小机では、ディルハが新たに返答した旧兵の名を東門勤務表の明日の欄へ加えた。
ヴァドは、回ってきた穀倉の勤務票で、まだ空いた夜の立会い欄を見ていた。
「立会いは外さない」
レナは施療院の回答をめくった。
「外せとは言っていません」
扉から、残ると答えた職員が交代の時刻を聞いた。レナが椅子を引いて振り向く。ドルガは警護票を持って立ち、ケルドの椅子の後ろを抜けて兵を確かめに行った。
ドルガの空いた席の背へ、西日が差した。旧市書記は戻った勤務票を揃え、職員名簿へ挟んだ。窓の外で旗布が鳴り、空の旗竿にも日が当たっている。
所属欄は、埋まらなかった。
明日の仕事を記す欄には、名前が増えた。




