File256 惑星ミンツトレニスでの休暇③ 自慢したいマスターの技
大浴場での騒動が終わると、俺達は同じ階にあるラウンジに向かった。
そこはかなり落ち着いた雰囲気で、様々な人達が、コーヒーやドリンクを飲んだり、読書をしたり、果ては小型端末(ノートPC)で仕事をしたりしていた。
そのなかには、小説を書いているらしい、出来るキャリアウーマンみたいな女性もいたりした。
ではここでコーヒーでもと思ってテーブルに座ると、
「マスター。1階の冷蔵ロッカーに預けたのを取ってきていいですか?」
アディルがロッカーに預けていたもの取り出したいと言ってきた。
俺達は1階にある通常のロッカーと冷蔵ロッカーを借りたわけだが、通常のロッカーには着替えの予備、冷蔵ロッカーには、冷蔵庫の食材の使い切りをかねての、アディルにリクエストされたデザートが入れてあった。
「せっかくだし、ここのを食べないのか?」
冷蔵なら数日は持つだろうし、頻繁に食べているのだから、たまには既製品もいいんじゃないかと思っていたし、なにより自分が作ったものを持ち込んでは、なるべく安く済まそうとしているみたいになって、ホテル側ににらまれそうでいやなんだが、
「私はマスターが製作してくれたものの方がいいです」
という、製作者としては嬉しくなる事を言ってくるアディルの提案を却下する理由はなかった。
「いいよ。持っておいで」
「はい!」
そういってアディルはラウンジを出ていった。
視点変換 ◇あるOL◇
私は、某有名大手企業に勤める平凡なOL。
趣味は同人小説を書くこと。
ジャンルは……BLだ。
BL。ボーイズラブと呼ばれるこのジャンルは、主に男性同士の恋愛関係を描いたもの全てをさす。
そして私の独自の考えでは、BLは大きく3つに大別できる。
一つ目はガチムチ。
いわゆる見た目がリアルな男性や、筋肉質な人たちの関係を描いたものであり、ハードゲイとかガチホモと呼ばれたりもするものだ。
大抵はリアルで、ファンタジー要素は皆無。
私のような貴腐人はともかく、経験の浅い腐女子にはハードルの高いジャンルだ。
二つ目は耽美。
以前はBLのジャンル全体を指した言葉の一つだったが、現在では美形キャラクター同士の関係を描いたもので、ファンタジー要素があり、漫画、アニメ、ゲームや小説のキャラクターが使用される。
殆どの腐女子・貴腐人はここをメインに活動している。
そして3つ目は男の娘だ。
見た目が女性にしか見えない男性(大抵は未成年)であり、受けが基本。
完全なファンタジーで、ほぼ女性にしか見えないのでノンケの男性からも抵抗が少ない。
本来は3つどころか無限に細分化されているが、登場人物の見た目で大別すればこんな感じだ。
仕事でこの惑星ミンツトレニスに来ており、本日の仕事は終了、明日はまた別の仕事がある。
ちなみに、男性用のエリアには、一緒に出張にきた後輩の男性社員がいるが……私はいまその後輩君(総受)での妄想を今! 小型端末(ノートPC)に叩きつけているところだ。
しかし、私は見逃さなかった。
さっき入ってきた女性二人組のやり取りを。
今出て行った背の高い娘の雰囲気から見て、ネコに違いないわ!
残った銀髪がタチね!
そしてかなり甘々な関係と見たわ!
私くらいになると、百合の方もOKになるものなのよ!
ソーシャルゲームの『ソードプリンセス』なんかは絶対に外せないわ!
それにしてもあの銀髪の
娘……だれかに……。
視点返還 ◇ショウン・ライアット◇
数分ほどして、アディルが食品の入ったボックスを全部持ってラウンジに戻ってきた。
「全部持ってきちゃったのか?」
「すみません。選べなくって……」
アディルが持ってきたボックスには、クラシックプリン(小サイズ)✕10・林檎のミルクレープ✕8カット・フルーツのタルト(小サイズ)✕12が入っている。
卵と一部の果物は危ないので多めに消費しておいた結果だ。
アディルはニコニコしながら小サイズのフルーツのタルトを取り出すと、嬉しそうに食べ始めた。
すると、さっきのギャルの娘達が話しかけてきた。
「あの……さっき、お風呂ではすみませんでした」
「「すみませんでした」」
リーダーっぽい娘が頭をさげると、後ろの二人も頭を下げてきた。
見た目や言葉遣いはともかく、中身はキッチリしているらしい。
「まあ、謝罪はすでにしていただきましたし、気にしなくていいですよ」
「「「ありがとうございます」」」
彼女達は綺麗に頭をさげる。
そして何故か、アディルの手元を眺め、
「あの、そのフルーツのタルトはどこで買ったんですか?」
と、尋ねてきた。
◯◯で買ったといって無かったら非難されそうだし、だからと言って自分が作ったというのは、さっきも思ったが、持ち込みで安く済まそうとしている感じになってしまう。
どうしようかなと考えていると、
「これはマスターのお手製です! とっても美味しいんですよ!」
と、アディルがしゃべってしまった。
「え!? お姉さんが作ったんスか?!」
「美味そう!」
「やめなさいよ意地汚い」
当然彼女達が反応し、ボックスの中を覗く。
リーダーの娘がたしなめるが、他の2人同様、視線はボックスの中のタルトやプリンや林檎のミルクレープに釘付けだ。
俺は判断をアディルに任せた。
「食べてみますか?」
「「「いただきます!」」」
アディルの一言に、彼女達は即座に反応し、タルトを手に取り、口に運んでいった。
「美味しい!」
「うまいっス!」
「苺の香りと甘さが口いっぱいに広がります!」
アディルは彼女達が俺のデザートに歓喜の声をあげているのを嬉しそうにしている。
俺の料理が評価されるのが嬉しいらしい。
「お姉さんひょっとしてパティシエッスか?」
「だったらお金払ったほうがいいのかなあ?」
「一つで600クレジットくらいかしら?」
彼女達がそんな話をしていると、いつの間にか人が集まっていた。
そして彼女達が何を言ってくるか、それに対してアディルが何と答えるかは、簡単に予想が出来た。
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