File182 惑星ダグロウゼクへの貨物輸送② 嘘は良くないが、相手によりけり
さすがに生身で宇宙空間に放り出すと言われては、騒いでいた乗客達もピタリと静かになり、船橋から出ていった。
が、船橋から出ると、今度はその入り口に群がり、また騒ぎ始めた。
その彼等の要求を分かりやすくまとめると、『救難信号でやって来た俺達に対し、自分を乗せて目的地である惑星ダグロウゼクに今すぐに向かえ!』というものだった。
船全体には急ぐ必要はなくても、個人個人には急ぐ理由があるだろうから、足止めを食うよりはと考えるのはわからなくもない。
が、無断で船橋に入り込み、自分の我が儘を並べ立てる連中を乗せたいとは正直思わない。
「船長。そちらの船は現在、生命が脅かされるような事態にはなっていないんだよな?」
『ああ。この間にも噴射口は修理中だし、救助も近づいている』
「ではこちらに乗るなら、『乗り換え』って事で料金を支払ってもらうことになるがかまわないよな?」
なので、こっちの船に乗せろというなら、金を払えという話を船長と交わした。
すると、頭の悪い連中の当然な反応が返ってくる。
『なんだと?!救助にきて金をとるのか?』
『タダで乗せなさいよ!ケチくさいわね!』
『俺は急いでるんだよ!さっさとしろ!』
『いいから今すぐに儂だけを乗せて出発しろ!船乗りという下等職のなかでも、貨物輸送などという底辺のクセに儂の命令に逆らうのか!?』
ある程度予測はしていたが、なんとまあ頭の悪すぎる反応だ。
特に船乗りを下等職と抜かした杖を付いたジジイは、船長を始めとした乗組員全員から睨み付けられていたし、周囲にいた客達もさすがに引いていた。
本人は気付きもしていなかったが。
乗せろ乗せろとあまりにも喚くので、反撃とばかりに船長を通さずに、
「おいあんたら!俺の船は時速1光年がせいぜいだ。おとなしく救助をまった方が早いと思うぞ。それに俺の船は小型貨物船だからな。乗れても荷物の隅に5~6人が限界だ。横にもなれないぞ」
と、直接言ってやった。
救助の船は間違いなく同型船だから、時速3光年かそれ以上で飛ばしてくるだろう。
俺の船は時速1光年で24時間航行した時に救難信号を受け取った。
つまり、時速3光年の救助の船が来るまでの時間は8時間。目的地までは14時間。乗り換えに1時間かかったとしても、23時間。
俺の船だと目的地までは42時間。戻るとしても24時間かかる。
これだと、俺の船に乗るより救助の船を待った方がはるかに早いわけだ。
ちなみに俺の船は、時速3光年の速度で航行出来るし、貨客船だから船室があったりするが、連中に教える必要はないよな?
すると、喚いていた乗客達はさすがに諦め、俺を罵倒しながらブリッジから離れていった。
ちなみにあの暴言ジジイに対しては、乗組員全員が殺気をむけていた。
あのジジイ。この後の態度や言動のいかんによっては、下手したら生身で宇宙遊泳させられるかもな…。
これでようやく終わったと思ったのだが、それでも残っていた乗客がいて、こちらと交渉させて欲しいと船長に頼み込みはじめた。
なんでも、遅くてもかまわない。料金も払う。荷物の隅でかまわない、無理を言っているのはわかっている。そこをなんとかお願いしたい。と、
最初の連中と違い、詰めかけた時に船橋にも入らなかったようだし、頼み方も随分と丁寧だから、条件を飲むなら乗せなくはない。
幸い人数も5人で、客室も食料も問題はないだろう。
船長とも少し話し合い、その客を乗せるため、連絡通路をドッキングさせた。
そうして客達が乗り込んでくると、直ぐにラウンジのソファーに座らせ、連絡通路を切り離すと、船長とあいさつをかわしてから直ぐに出発した。
超空間に突入し、航行を自動航行に任せたあと、レダントン号の船長からコピーしてもらった、船長のメモつきの乗客名簿を確認することにした。
1人目は、ガイ・フレッドマンというビジネスマンの男性で、近い席に乗り合わせた大学生があまりにも五月蝿く、とても23時間も耐えられないとの事だった。
乗組員に訴え、乗組員が彼等に注意するも効果はなく、代わりの席もないため、我慢の限界が来たらしい。
もちろん連中の被害は彼だけではないらしいが。
2人目・3人目・4人目は、夫のジャンと妻のアリッサ。そして赤ん坊のステラのウェンドルトご一家だ。
近くの席にいた中年女性が、赤ん坊の泣き声が五月蝿いと文句をいってきた上に、赤ん坊を叩こうとしたらしい。
旦那が止めて事なきを得たものの、近くにいるのが怖くなり、遅くても良いから離れたいと思ったらしい。
もちろん乗組員に通報し、乗組員が注意したが、中年女性は反省する様子はなかったそうだ。
5人目は、休暇の旅行中に嫌いな知人、学生時代のクラスメイトだそうだ。を見つけ、絶対に接触したくないからという、OLのシャーロット・イルネメル嬢だ。
向こうが気づいてないなら、そのまま乗っておけばよさそうなものだが、どうしても嫌らしい。
以上の5人が、定期旅客船レダントン号から乗り換えてきた人達だ。
乗客名簿を閉じラウンジにでると、イルネメル嬢に詰め寄られた。
「ちょっといいかしら!乗せてもらっておいてなんなのだけど、こんなに立派な船室があるのに、私達を荷物の隅っこに寝かせるつもりなの?!」
まあ確かにそういったが、あれは諦めさせるための方便だ。
それ以前に、大人5人が寝れるようなスペースは、今の貨物室にはない。
その事を説明しようとしたところ、
「落ち着きたまえ。あれはあの場にいた恥知らず共に、乗船を諦めさせる為のこちらの船長の方便だ。この船がこんなに快適だと知ったら、あの連中は無理矢理にでも乗り込んでくるだろう。そもそもそのつもりなら、我々は既に貨物室に押し込まれているさ」
「たしかに。あの爺さんやアリッサを殴ろうとしたババアなら、我が儘放題をするでしょうね」
男性2人から、こちらの意図を理解した発言が飛び出した。
それにしても、赤ん坊を殴ろうとした中年女性が船橋突入組にいたのか。
乗せなくて正解だな。
「こちらの意図を御理解いただいてどうも。責任者のショウン・ライアットです。こっちは相棒のアディルです。見ての通り、この船は貨客船なので客室があります。お荷物やご休憩はそちらでできますよ」
「では少し休ませてくれ。暫く徹夜が続いてたんだ。本来なら向こうの船で一眠りするつもりが一睡も出来なかったのでね」
こちらのあいさつが終わると、ビジネスマンのフレッドマン氏は、限界といった表情のまま客室にむかった。
「あの…この子のミルクを作りたいので、そこのウォーターサーバーのお湯をいただけますか?」
「どうぞ。そこのウォーターサーバーはご自由に使ってください」
ウェンドルト氏は、積極的に子育てに参加する、いわゆる『育メンパパ』というやつらしい。
一応壁は防音になっているので、赤ん坊の泣き声ぐらいは大丈夫なはずだ。
「申し訳ないんだけど…シャワーあるかしら?向こうのはずっと混んでてさ」
イルネメル嬢はお願いのポーズをしながら、頭を下げてくる。
「シャワーなら直ぐに使えますよ。晋蓬皇国式の風呂は時間がかかるので夜時間なら」
「マジ?!やった!じゃあシャワーはやめとく!」
イルネメル嬢は、シャワーが使えるのが分かると笑顔になり、晋蓬皇国式の風呂があると分かると、今度はガッツポーズまで繰り出した。
問題は起こさない感じのメンツなので大丈夫だとは思う。
無事にたどり着いてほしいぜ。
水害対策をしていて遅くなりました
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