File169 惑星オルランゲアでの休憩④ 報告することで起きること
「あいついつの間に逃げやがった!?」
レイアナに指摘されて、ようやくアイツが逃げ出していた事に気がついた。
『まあ、いいではありませんか。あの人に逃げ場はありませんよ。それより。今回の事は貸しですからね』
俺はあせるが、レイアナは至極冷静に俺を宥め、今回の事について報酬を求めてきた。
はっきりいって『貸し』というのは、『無料・無償』の次に高額だと思っている。
「わかったよ。その時は連絡をくれ」
お願いしたのはこちらなのだから、おとなしく応じる事にする。
『では、その時には女性の姿でというのを条件にいぃぃぃぃぃっ!』
『では失礼いたしますね』
するとトーマスの奴がふざけた事を言ってきたのだが、レイアナの蹴りで撃退させられた。
「いやあ。強力なコネがあるのは羨ましいねえ。あやかりたいよ」
「気苦労も多いけどな」
レイアナが電話を切ると、さっそくササラが絡んできた。
話が長くなるかなと思っていると、
「マスター。そろそろこれをお渡ししないと」
アディルが箱を差し出してきた。
「ああそうだ。ササラ。これ頼まれた固めのクラシックプリンな。フレーバーはノーマル・チョコ・イチゴ・抹茶・キャラメルの5種類だ」
「ありがとう!フレーバー増えてるじゃん!お代はこれくらいでいい?」
ササラは箱を受け取ると、プリンの代金には十分すぎる額を現金で渡してきた。
「ああ。十分だ。しかし、それ全部一人で食べるのか?」
まあ1日では食べないだろうが、生菓子であるからには早く食べるにこしたことはない。
「これは皆にじゃなくて、付き合いが長くて仲のいい私だからお願いできた注文だからね。誰にもあげ…「ないなんてことはありませんよね主任?」」
ササラが一人占め宣言をしようとしたのを阻止したのは、一つ目人のミィミスだった。
「ミィミスちゃんはなにを言ってるのかな?これは私のだから」
プリンの箱をしっかりとキープしつつ、ミィミスに笑顔を向ける。
それに対し、ミィミスは対女子の強力な一撃を繰り出す。
「太りますよ?」
ミィミスは勝利を確信した。が、ササラは反撃の手を用意していた。
「委細承知!」
短い一言だが、体重を犠牲にしてでも食べる。
もしくはリカバーするための苦労すら厭わない。
それだけの事をしてもプリンは誰にも渡さないという強靭な意思が放たれた。
「くっ…手強い!」
「食べ物の恨みは怖いんだよミィミスちゃん…」
どうやら以前に奪われた事をかなり根に持っていたらしい。
それにしても、なんでスイーツの事で格闘マンガのワンシーンみたいになってるんだ…。
ともかくメンテナンスが終了するまでは仕事は休みだ。
なので今日からは、オルランゲア宇宙港内にある普通のホテルに宿泊することにする。
俺一人ならカプセルホテルでいいが、アディルがいるのだから、ちゃんとしたホテルがいいだろう。
俺の生まれ故郷なのだから実家に、と行きたいが、実家は俺がトランスポーターになるときに売却している。
家に帰るのは年に1~2回なのに、固定資産税や水道光熱費を払うのは勿体ないからな。
そして明日は、久しぶりに墓参りにいこうと思う。
アディルを紹介したいからだが、本人が嫌がったら俺1人で行く事にしよう。
そうして貨物配達受付の喧騒を背中に、いつものフードコートに向かった。
今回はちょっと時間が空いたが、仕事終わりに違いはないので、いつものミックスプレートとカルボナーラの昼食にした。
注文した料理ができるまでの時間に、アディルに墓参りの話を持ちかけた。
「なあアディル。明日、墓参りに行こうと思うんだが、一緒に来てくれるか?」
「お墓参りですか?」
「ああ。俺の両親と祖父母の墓だ。お前を乗組員にしたのを報告したいんでな。前に来た時は登録やら設備の購入やらでバタバタしてただろ?今回は船をオーバーホールに出してるから時間があるからな」
「分かりました。是非お供させてください」
バイオロイドの彼女に、墓参りの概念が理解できるかどうかわからなかったが、快く承知してくれたのは有り難い。
そうこうしているうちに呼び出し音がなったので、料理を取りにいく。
「取り敢えず食べ終わったら、予約してある宇宙港のホテルにチェックインしてから宇宙港内部をみて回ろう。本拠地の宇宙港ぐらいはよく知っておかないとな。何処か行きたいところはあるか?」
所属する宇宙港を知って置くのは悪いことではないので、アディルの希望を聞いてみた。
「でしたらこのお店に行きたいです!」
するとアディルは腕輪型端末にケーキショップのホームページを写し出した。
翌日。
俺とアディルは軌道エレベーターに乗り、惑星オルランゲアの地に降りた。
軌道エレベーターの基地は洋上にあり、そこからは高速超電磁リニアトレインで1時間。
そうしてたどり着いたところが、惑星オルランゲアの星都・サルフルップ。
さらにここから、俺の両親・祖父母の墓があるヨルムイ=エリアのザフラ市シティまでは、フライトバスで1時間半。
これまでは1人だったが、これからは2人でくる事になる。
霊園の管理建物で掃除用のバケツとブラシを借り、途中の花屋で買った花束を手に、俺の家族が眠る墓に向かう。
霊園の管理人が、花束やお供えを片付けるついでの軽い掃除はしてくれているが、本格的な掃除まではしていないので、苔なんかがへばりついたりしていた。
「まずは掃除だな」
「はいっ!」
墓石に水を掛け、ブラシで苔や汚れを落としていく。
今までは20分はかかっていた墓石掃除が、今は10分程で終了した。
掃除が終了すれば、花束と、メレンデレクで買っておいた『デザートオブゴールデン(砂漠の黄金)』を墓前に供えた。
そして、墓の前でしゃがみ込み、
「みんな久しぶり。今日は大事な報告があるんだ」
墓の下にいる両親と祖父母に報告をすることにした。
「じいちゃんがそっちに行ってからずっと1人でやって来たけど、最近乗組員が増えたんだ。バイオロイドで名前はアディル。恒星のヴォーネが爆発するからって脱出・移民をやってた惑星デューモアで見つけて、縁があって乗組員になった。いい子だからみんな気に入ると思う」
俺の言葉に、アディルがぺこりとお辞儀をし、
「マスターは私がしっかりとお守りします!」
と、宣言してくれた。
「こうして俺にも家族が出来たから安心してほしい」
そうして報告が終わると、バケツとブラシを手に取り、その場を離れた。
そしてバケツとブラシを返却し、霊園を出ようとしたとき、
『次は旦那か嫁さんが出来たときにな…』
という、じいちゃんの声が聞こえたような気がした。
ちょっと短いのと、ちょっとオカルトが入りましたが、そっちにはかたむきません。
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