File165 惑星リーシオでの休日③ ネタばらしの瞬間は愉悦
リチェリーナさんがテーブルに置いた、深皿に入った『煮卵』を、開発者の兄とその恋人だというドラコニアル人2人は驚愕の表情で『煮卵』を凝視している。
そんな状態で、『一度は食べたことがある』というのは無理があるだろう。
もし本当に弟が作り、現物を目の当たりにし、食べたことがあるなら、よく観察するなり懐かしいと思うなり、怒りの表情をみせるなりするだろう。
「…では確かめさせていただきます」
男の方が、『煮卵』をその口に運ぶと、また驚愕の表情を浮かべた。
そして貪るようにあっという間に一つを食べ終わると、次へと手を出した。
それを見た女の方も、負けじとばかりに口に放り込み、恍惚の表情を浮かべている。
よくこんなので食べたことがあるなんて言えたもんだ。
そうして彼等が夢中になっているところへ、
「弟さんが製作したという『宝珠煮卵』に間違いありませんか?」
リチェリーナさんが微笑みながら問い掛ける。
「あっ…ああ、間違いない。これは弟が作った『宝珠煮卵』だ!『料理の顔』もかなり似ている!」
リチェリーナさんの問い掛けに、男の方だけが反応し、女の方は煮卵に夢中だった。
「これは、仕入先の本人の手によって、私達の目の前で製作されたものです」
さらに畳み掛けたリチェリーナさんの確認に、
「それはつまり、盗んだ本人が製作しているという事よね?」
「なら彼女を引き渡していただきたい。弟の墓の前で弟に謝罪をしてもらいたいし、レシピも返していただきたい」
2人は『煮卵』を食べるのを止め、目当ての獲物が出てきたとばかりに要望を口にする。
「では、貴方の弟さんからレシピを奪った人物の特徴を改めてお教えいただいてよろしいですか?彼女と言いましたね?」
「白い髪に白い鱗のドラコニアル人の女だ。紹介されたことがある」
「そうよ!あの女をさっさと出しなさい!」
「間違いありませんね?」
「ああ、間違いない」
そしてリチェリーナさんの質問に、彼等は明確な答えをだした。
それを聞いたリチェリーナさんとサラ姉ちゃんは、にっこり笑いサラ姉ちゃんが電話をかけ始めた
すると俺に電話がかかり
『こっちに来てくれる』
とだけいってきた。
そうして警備室から移動して応接室にはいると、
「失礼しま「ちょっと!泥棒女はどうしたのよ!?」
俺をみるなり女の方が大声をだした。
頭髪の色はともかく、耳の場所にあるエラのような皮膜の器官と尻尾がないのをみて、目当ての人物ではないと判断したのだろう。
「このヒューマンの彼がなんなんですか?」
男の方も不機嫌を隠すことなくリチェリーナさんに鋭い視線を向ける。
するとリチェリーナさんは、
「彼が、その『煮卵』の製作者ですよ?」
笑みを崩さずに真実を口にした。
つまり、『お前の弟からなんか盗んでないぞ?』と、主張したわけだ。
「そっそいつが女のドラコニアル人に変装して盗んだのよ!」
女はそれでも食い下がるが、
「彼はヒューマンで男性ですよ。それに、今は成人していますが…7年前はまだ未成年で身長も今より低かったのです。貴方の弟さんの恋人には向かないのではないかしら?」
サラ姉ちゃんが蔑むような眼をしながら女を見つめる。
「おっ弟はそういう趣味だったんだ!少年の彼にエラ耳と尻尾を付けさせてたんだ!」
すると男がとんでもないセリフを吐いた。苦し紛れにしても酷い内容だ。
「先ほどあなた方は、弟からレシピを盗んだのは、白い髪に白い鱗のドラコニアル人の女だ。紹介されたことがあるといっていませんでしたか?」
「そっ…それはっ…」
リチェリーナさんとサラ姉ちゃんは笑いを堪えながら2人に蔑みの視線を向け、俺も同じように笑いを堪えている。
男と女はしばらく沈黙していたが、不意に立ち上がってドアに向かった。
そして男がドアを開けた瞬間、男の腹に前蹴りが炸裂した。
「逃がすと思ってんのかクソ詐欺師さんよぉ!?」
ドアの外には、ティナ姉ちゃんとその部下達が待ち構えていた。
詐欺をしようとするなら、いやしようとしなくてもドラッケン一族のことはしれわたっているだろうに、なんで詐欺を仕掛けたんだろう?
大企業なら評判や醜聞沙汰や面目を重視して、あっさり出すと思ったんだろうか?
まあ、狙いが俺の『煮卵』でなくてもあの2人には通用はしなかっただろうけどな。
視点変換 ◇サラフィニア・ドラッケン◇
詐欺師の男のほうが警察に連行される寸前に、
「なあ。あの『宝珠煮卵』本当は誰が作ったんだ?あのヒューマンじゃないよな?」
と、私と母さんに尋ねてきた。
どうやら、あの場に現れたショウンは製作者を守るためのダミーだと思われたらしい。
もちろん答えてやる義務はないので、にっこりと微笑むだけにしてやった。
「多分ああいった輩は後をたたないわね」
警察車両が去っていくのをみながら、母さんがそう呟いた。
「とはいえ誰が作ったか公表したら、ショウンが拐われる可能性があるんじゃないかしら?ショウンの仕事にも影響がありそうだし」
もし製作者を公表した場合、ショウンの元には『宝珠煮卵』の製作依頼が押し寄せるだろうし、レシピを教えろと言ってくる輩も押し寄せる。
ともすれば、今回のように誘拐してドラッケングループに要求を突きつける場合や、監禁して『煮卵』を製造させる場合がある。
ショウンには『煮卵』をドラコニアル人のお客に出さないように注意してもらうしかないわね。
「じゃあこのまま秘匿するのが良さそうね。それとも影武者でも立ててみる?」
「噂の条件に合う人を雇うの?危険だわ」
確かに母さんが言うとおり、影武者を立てればショウンの存在を秘匿にはできる。
しかし影武者役に危険が及ぶ場合もあるし、影武者本人が危険人物な場合もある。
すると母さんがポーズを取り、
「私の鱗を白く塗ればいけると思わない?」
と、言ってきた。
確かに母さんは童顔の美魔女で、私達と並んでも姉妹に見えるわ。
でも母さんの見た目がどれだけ若かろうとも、『妹』は無理があるわよ。
「噂じゃあ『妹』なのよ?母さんじゃどう考えたって見えないわ。すこしは歳を考えてよ」
「あら。じゃあ貴女なら妹に見えるのかしら?」
「そういう話じゃないでしょ!」
母さんは不機嫌そうに頬を膨らませてすねはじめた。この母は本当に子供っぽくて困る。
まあ、おばさんと言ったら烈火のごとく怒るのだけれど。
「とにかくこのまま曖昧にしておくのがいいかしらね。サラ、その辺りの連絡網は頼めるかしら?」
「わかった。任せておいて。ついでに商標登録して名前も使われないようにしておくわ」
いままで『宝珠煮卵』関係でこのような詐欺や問題が起きなかったのが不思議なくらいだったのだから、なんとか間に合うだろう。
それからショウンとアディルちゃんにはもう一晩泊まって貰うことにした。
ショウンは自分の煮卵が騒動の原因になったせいか、卵尽くしの夕食を振る舞ってくれた。
その席に一緒に座る事になったミリンダが、ショウンの卵尽くしに感激し、
「詐欺が来たら絶対に撃退しましょう!」
と、なぜか気合いをいれていた。
これは確実にハマったわね…。
視点終了
今回以外にも、勝手に銘打って販売してそうですが、商標登録したらそれもできなくなりますね
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