File166 惑星オルランゲアでの休憩① 人間、本当に怒った時は一瞬冷静になる
『宝珠煮卵』の製作者詐欺撃退というイベントを堪能し、その日の夕食にお詫びの卵尽くしを提供した翌日。
朝から仕事の予定があった、爺ちゃん・おじさん・姉ちゃん達の代わりに、婆ちゃんとリチェリーナさんに見送られ、ドラッケン邸を後にした。
ちなみに、アディルと俺がいやというほど着せ替えをさせられた大量の衣服は、既に宇宙港の俺の船を停泊してある停泊地に届けられているらしい。
リーシオ宇宙港の貨物配達受付では、オルランゲア行きの仕事を受けた。
丁度いい依頼があったのと、そろそろ船のメンテナンスをしておこうかと考えた為だ。
船はまだ購入して3ヶ月も経っていないが、しておいていけないということはない。その場でデニスに連絡をとり、到着予定日の翌日に予約が取れた。
リーシオを出発して2日と2時間。
その航海はなんのトラブルもなく、無事にオルランゲアに到着した。
依頼された荷物を引き渡し、貨物配達受付でササラに報告して報酬を受け取ろうとした時、珍しくササラが真剣な表情で話しかけてきた。
「ねえショウン。お金払うからプリン作って!この前と同じやつ!」
以前からはかなり日にちが立っているから、また食べたいと思うのはわからなくはない。
が、ササラの表情をみる限りかなり切羽詰まっている感じだ。
「なんだよ。まだ食べたりないのか?」
「食べられなかったの!みんなに持ってかれてろくに食べられなかったの!」
あ~なるほど。同僚と後輩に狩り尽くされたわけか…。
「わかったわかった。船のメンテナンスで何日かいるから作ってやるよ。材料費は後で請求するからな」
「ありがと~♪今度は絶対に奪われないようにしないと…」
ササラは気合いを入れているが、後ろから獲物を見つけた同僚と後輩が目を光らせてるから難しいんじゃないかな。
その日の夜は、船でササラに渡すプリンをアディルと一緒に作り、賞味・消費期限の近い食材を使って夕食を作り、残りの食材・食品全てをレンタルの冷蔵・冷凍コンテナにあずけにいった。
そして翌朝には、宇宙港内の喫茶店に朝食を食べに行き、デニスに連絡をとって船を船渠に入れ、ササラにプリンを渡すべく貨物配達受付に向かっていると、不意に声をかけられた。
「ちょっとすみません」
声をかけてきたのは、身なりのよい、童顔の青年だった。
「なんですか?」
俺とアディルが足をとめると、青年は興奮した様子で、
「貴方の連れている『ソレ』。パートナードールズ社謹製、ナノマシン搭載型護衛用バイオロイド『シールダーシリーズ』のファーストロットですよね?」
と、アディルを指差しながら尋ねてきた。
「たしかにそうだけど?」
なんだこいつと思いながらも答えてやると、
「お願いです!『ソレ』を俺に譲ってもらえませんか?」
とんでもない事を抜かしやがった。
たしかにアディルはバイオロイドだから『物品』扱いにはなる。
しかし、相棒であり家族であるアディルを譲るわけがない。
しかもこいつさっきからアディルを『ソレ』呼ばわりしやがる。
「悪いが断る。アディルは優秀なパートナーなんでな」
もちろん承諾するわけはなく。俺はアディルを庇う様に前にでながら断った。
すると青年は両手を合わせ、
「お願いします!『シールダーシリーズ』のファーストロットはすぐに回収されて人格ソフトが『載せ換え』されたので現存が極端に少ないんです!お願いします!1500万クレジットだしますから!」
と、懇願してきた。
「断るっていってるだろうが!」
「では2000万クレジットではどうですか?」
「しつこいなお前!アディルは相棒で家族だ!売るわけはないだろう!」
食い下がる青年に、売る気はないと突っぱねると、少し不機嫌な顔になり、
「そんな!『ソレ』は販売されていたものでしょう?!だったら売ってくれたっていいじゃないですか!生産終了してる奴だからどうしても欲しいんですよ!再販も絶望的だし!」
と、抜かしてきた。
そのセリフに俺はカチンと来た俺は、思わず大声で怒鳴り返してしまった。
「売らないっていってんだろうが!たとえ販売しているものでも、持ち主にとって思い出深いものなら絶対売らない!さっきも言ったがアディルは相棒で家族だ!売るわけ無いだろうが!」
「『ソレ』は所詮『モノ』だ!俺に売った金でもっといいのを買えば良いじゃないか!『ソレ』があれば俺のコレクションがさらに充実するんだよ!」
「だったら余計に売るかクソボケ!」
すると青年は声を荒げながら反論をしてきたが、その反論に余計に腹がたったので怒鳴りつけたところ、青年が急に表情を変え、
「せっかく俺が買ってやるっていってるのに…。お前!俺がドレブスマテリアルの次期社長なのを知ってていってるんだろうな!?」
と、自分の実家の名前を出してこちらを脅してきた。
これは説得を試みたところで、絶対に諦めないだろう。
「とにかく失せろ!警察を呼ぶぞ!」
なので警察に通報するぞと通達すると、なぜかこちらを馬鹿にするような表情をした。
「残念だが、俺の会社であるドレブスマテリアルはなぁ…。聞いて驚くなよ…。あのリキュキエル・エンタープライズ社の傘下企業なんだ!俺を敵に回すってことはリキュキエル・エンタープライズを敵に回すってことなんだぞ!」
どや顔でマウントを取りに来た。
この時点でこいつがかなり頭が悪い事が理解できた。
リキュキエル・エンタープライズ社の傘下だからといって、警察が動かないという事はないし、たとえ警察に手を回せたとしても、リキュキエル・エンタープライズ社、つまりはガリウス・リオアース氏がそういった事をするはずはない。
もし手を回すとしても、愛娘や愛妻や妹ならまだしも、傘下の会社の人間、しかもこんな馬鹿のためには使わないだろう。
「まずリキュキエル・エンタープライズ社がお前の味方にならないだろうよ」
「なにをいってるんだ!将来の優秀な経営者となるこの俺、マルコ・ドレブスを見捨てたりするものか!」
現実を教えてやろうとするが、当然聞く耳持たない。
このままだと、こっちを窃盗犯に仕立て上げようとしてくる確率がでかいだろう。
取り敢えずアディルを引き寄せ、男を無視して貨物配達受付に向かうことにした。
男は「逃げるな!」「さっさと売れ!」「『ソレ』は俺が持つのが相応しいんだ!」などと吠えるが一切無視して貨物配達受付にたどり着いた。
「やあショウン。約束のものは…ってだれ?」
ササラは、俺が約束のモノを持ってきたと思って笑顔を浮かべるが、俺の後ろにいる奴をみて怪訝な表情になった。
ここは基本的に貨物輸送業者ばかりなので、明らかに貨物輸送業者ではない人物は目立ってしまう。
そこに、知り合いにからんでいるような人物ともなれば怪しむのも当然だ。
「アディルを売れっていってきた馬鹿」
なのでこいつの目的を説明してやった。
「へー…」
それを聞いた瞬間、ササラの目が確実に鋭くなった気がした。
この作品世界の未解決問題に焦点をあててみました。
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