File163 惑星リーシオでの休日① 疲れているときはかなりの事が億劫になってしまいがち
理不尽ではなかった検問が終了し、カレストロ・ゲイルスとシグニキス大佐に朝食を提供し、停泊するための順番待ちをへて、ようやく惑星アクサブの宇宙港に到着した。
カレストロ・ゲイルスの貨物を下ろし、貨物配達受付で報酬をうけとり、サラ姉ちゃんとの約束もあるので、惑星リーシオ行きの仕事を受けた。
その後は消耗品や食材の買い出しなんかをすませ、昼食にサンライトイエローリップルでお気に入りを食べたあと、依頼の貨物を搬入し、その日は休息として停泊地に宿泊した。
その時にサラ姉ちゃんに連絡したのだが、
『了解したわ!色んな服をタップリ用意してまってるわよ!』
と、俺とアディルがげんなりする発言をしてくれた。
そうして翌朝は8時には宇宙港を出発し、航行中はなんの問題もなく2日後には惑星リーシオに到着したのだが、到着時間が午前0時だったのもあり、貨物の積み降ろしは明日に回すことにして、そのまま、停泊地で文字通り泊まる事にした。
そしてその早朝。惑星上ならまだ暗い時間だと言うのに、サラ姉ちゃんから通信がかかってきた。
仕方ないのでベッドに寝たたままで、枕元に置いてある腕輪型端末で通信を受けた。
「はい…もしもし…」
『ショウン。もう帰ってきたんでしょう?どうして家に来ないのよ?!』
「着いたのが午前0時だったから…朝になってからにしようと思ったんだよ。それはそうと、今5時なんだけど?」
『いつもなら起きてる時間でしょう?』
「こっちに着いたのが午前0時だったし、お客はいないし、宇宙港内部だから警戒は必要ないからゆっくり寝たいんだよ…」
『まあいいわ。ともかく昼過ぎにうちに来てちょうだい。約束どおりアディルちゃんの服をたくさん用意してあるから』
「ああわかったよ。じゃおやすみ…」
『あ!ちょっと…』
サラ姉ちゃんはまだなにか言いたそうだったが、俺は通信を切って再び眠りについた。
それからどれくらい寝ていただろうか、
「おはようございますマスター。起床時間ですよ」
というアディルの声で目が覚めた。
「ああ…おはようアディル…」
俺は体を起こすと、手に持っていた腕輪型端末を腕に装着した。時計はちょうど8時をさしていた。
「腕輪型端末を持ったまま寝てらっしゃいましたがなにかありましたか?」
「実は5時頃にサラ姉ちゃんから電話があってな。帰って来てるのになんで家に来ないんだって言ってきた。眠ってる時に全く…」
「普段なら起きている時間ですからね」
アディルは、仕方ないですねと苦笑いをして、
「朝食は出来ていますから、御支度がすんだら下にお願いします」
そういって部屋をでていった。
着替えをし、色々身なりを整えて下に降りると、テーブルには、コーヒー・トースト・プレーンオムレツ・ソーセージ・野菜サラダが用意されていた。
アディルも料理が上達してきたのか、見た目も味も素晴らしいものが出来上がっていた。さっそくいただくことにしよう。
「ところでマスター。ずっと女性のままですが…」
「ああ。『月のもの』がきたらしい」
「たしか月に一度でしたね。不調などはありませんか?」
「大丈夫だよ。それより、食べ終わったら報告して受け取りにきてもらわないとな」
「了解しました」
そういうと、アディルは苺のジャムをたっぷり塗ったトーストにかじりついた。
食事が終了すると、すぐに連絡して貨物を降ろしつつ、燃料補給とチェックをすませ、貨物配達受付に報酬を受け取った。
サラ姉ちゃんとの約束まではまだ時間があったので、生鮮食品売場で消耗品や食料の補給を済ませ、昼食の時間まで宇宙港の中をぶらぶらしたあと、サンライトイエローリップルでお気に入りを食べてから、軌道エレベーターで惑星上に降り、タクシーでドラッケン家に向かった。
タクシーが目的地に近付いていくに従い、ドラッケン一族の本拠地ともいえるドラッケン邸の姿が見えてきた。
相変わらず下手な政府庁舎よりも巨大なこれが個人の邸宅というのだから信じがたい話だ。
そのドラッケンの屋敷では、ドラッケングループの幹部で、『魔眼の女帝』と呼ばれているサラ姉ちゃんと、三姉妹の母親で、現在はドラッケングループの傘下企業を幾つも経営しているリチェリーナさんが正面玄関で待ち構えていた。
「待ってたわよ!ショウン!アディルちゃん!」
「ショウンちゃんが女の子ってことは、いまは『月のもの』なのね。こっちもすぐに用意するわ!」
サラ姉ちゃんがアディルの服を準備すると言っていたし、リチェリーナさんまで待ち構えているということは、これから数時間は確実に着せ替え人形にされるということだ。
俺もアディルも諦めのため息をつき、ドラッケン邸に幾つかあるホールの1つを使っての急造衣装室に、大人しく引きずられていった。
その急造衣装室で、何着も何着も着替えさせられては写真をとられを繰り返したため、お陰でぐったりしてしまい、気が付いた時には午後6時を過ぎていた。
「ふう…。やっぱりこういうのは楽しいわね!」
「着せ替える素材がいいとさらに良くなるのよね!」
リチェリーナさんとサラ姉ちゃんは、実に楽しそうにしていたが、俺とアディルはそれとは対照的に、ぐったりとソファーに座り込んでいた。
「そりゃそっちは楽しいでしょうけど、こっちの精神と肉体の疲労を考えて欲しいんですけどねえ…?」
俺かジトッとした視線をリチェリーナさんに向けると、リチェリーナさんとサラ姉ちゃんは、さすがに悪いと思っているのか露骨に眼をそらし、
「まあまあ。今日は泊まって行きなさい。お料理もしなくていいから!」
「それに、アディルちゃんのお洋服は全部あげるっていってるんだからお得でしょ?」
と、こちらのご機嫌を取りに来た。
「ぜひともそうさせてもらいますよ…」
俺はため息をつきながら全身を脱力させた。
するとそこにノックの音が響き、
「どうぞ。開いてるわよ」
「失礼いたします」
リチェリーナさんが入室許可をだすと、白の鱗に金髪碧眼で、サラ姉ちゃんの秘書をやっているミリンダ・ルティネスさんが、真剣な表情で室内に入ってきた。
「サラフィニア様、リチェリーナ様。正面玄関に不穏なドラコニアル人の2人組が押し掛けているのですが、いかがいたしましょう?」
「あらあら。最近はそういう輩は居なくなったと思ってたのに」
「警備には連絡はしてあるのよね。そいつらの用件は?」
おかしな連中が押し掛けてくるのになれているのか、2人とも冷静に対応していたのだが、
「男女の2人組で、男の方が自分の亡くなった弟こそが『宝珠煮卵』の製作者で、今『宝珠煮卵』をこちらに納めているのは、弟からレシピを盗んだやつだ。なのでそいつを捕まえてレシピを回収・聞き出したいから所在を教えてくれ。と」
ルティネスさんが報告してきた内容に、全員が一瞬固まった後、サラ姉ちゃんとリチェリーナさんは大笑いを始め、俺は話を聞いて唖然としてしまい、
「『宝珠煮卵』はマスターが製作したものですよね?」
アディルは困惑しながら俺に尋ねてきた。
サラ姉ちゃんとリチェリーナさんはひとしきり笑うとすぐに表情をひきしめ、
「製作者を秘匿していた弊害かしらね。これだけ堂々と誘拐宣言されるなんて。いいわ。ちゃんと話し合いの場を設けるから、明日の午前10時にここに来るようにいってもらえる?私達も驚いているようです。みたいなニュアンスもまぜてね」
「かしこまりました」
サラ姉ちゃんはルティネスさんに対応を指示し、
「ショウンちゃん。申し訳ないのだけど今から煮卵を作ってくれないかしら?明日は卵焼きも」
と、物的証拠の確保を俺に打診してきた。
確かに今の話を聞く限り作った方がいいんだろう。
しかし、明日の卵焼きはともかく、今日は疲労困憊しているのでやりたくない。
「マスター。煮卵なら船に作り置きがありましたよね。それをもってきては?」
そこにアディルがこんな提案をしてきたところ、
「是非もってきて…いや、一緒に取りに行きましょう!私もショウンちゃんの新しい船がみたいもの!」
と、満面の笑みを浮かべたリチェリーナさんが食い付いてきてしまった。
こりゃ取りにいくしかなさそうだ。泊まらせてくれるんじゃなかったのかよ…。
ショウンのもう1つの実家みたいなところではありますが、高価なものがしれっとあったりするので、本人は密かに緊張しています。
生家は既に人手に渡っています。
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