File156 惑星エオエデへの貨物輸送① 自身の職業適性とやりたい事は必ずしも一致しない
貨物のスイカを積み込み、惑星メレンデレクを出発したのは11時30分を少し過ぎたくらいだった。
目的地の惑星エオエデまでは約600光年で、超空間跳躍航法を使えば60光年まで短縮できる。
普段は一番燃料効率がいい時速1光年くらいしか出さないが、今回の貨物は生鮮食品なので、脱出の時以来の時速3光年での巡航をする必要があり、それだと20時間ほどで惑星エオエデに到着することができる。
出発してから約10時間。
このまま何事も無くたどり着くと思った矢先、救難信号を受信してしまった。
「マスター。救難信号を受信しました!救助に向かいましょう!」
「ああ。超空間から退出して救助に向かおうか」
本音としてはトラブル確定なので行きたくはないが、ちゃんと宇宙航行法を守ろうとしているアディルの手前、行きたくないとは言えない。
そうして超空間から出て救難信号の発信されていた現場に行ってみると、遭難したらしいその船は中型船だった。
が、その船には何故か、骸骨に骨が十字に交差した、海賊旗のマークが船体にペイントされていた。
「マスター。救難信号はあの船からのようですが…あのマークは海賊が使用する物ではないのでしょうか?」
「ああ、間違いなく海賊旗のマークだな…」
アディルの疑問はもっともだ。
なんで海賊が救難信号なんか出してるんだ?新手の襲撃手段かなんかだろうか?
もちろん唯のイタズラや、デザインが好きだからペイントしたという可能性もあるが、まともな船乗りならこのマークは使わない。
「とりあえず警察に連絡だな…」
まあ、海賊を発見した時の基本的な対処をしておこう。
警察には、救難信号を受信したことと、その救難信号の対象が海賊らしいと言うことを報告、同時に現場の座標と、海賊船の映像を送っておいたところ、警察は6時間くらいで到着するらしい。
銀河貨物輸送業者組合には、救難信号をキャッチして救助に向かったところ海賊船らしく、警察には連絡済みなのを報告しておいた。
後は警察に任せて、取り敢えずこの場を離れようとした時、向こうから通信が来た。
俺は直ぐに逃げ出せる状態にしてから、通信に反応した。
すると、通信画面には10歳ぐらいの女の子が現れた。
『こちらは海賊船ラーリング号。私はマリア・シーベルス。救難信号に応えてくれてありがとう』
10歳にしては落ち着いた感じで、ぺこりと頭をさげた。
しかし何より驚いたのは、自分達が海賊だと告白した事だ。
「こちら貨客船『ホワイトカーゴ』。救難信号を出したのはそちらで間違いはないのか?」
『はい。現在この船は空気発生装置と空気清浄機以外稼働して無いから、此方からは攻撃が出来ません。ご飯は4日前に、水は昨日無くなりました』
顔色も良くなく、頬の痩けた彼女の様子から、遭難は真実のように思えるが、メイクに演技、果てはこの女の子が本物の人間ではないとも限らない。
しかしこれが本当なら寝覚めが悪い。
どうしたものかと悩んでいると、別の人間の声がした。
『なにしてるのマリア?つ、通信?!なんで救難信号がONになってるの?!』
『私がONにした』
『なにやってるのよ!私達は海賊よ!救難信号なんか出して助けがきたら、みんな捕まっちゃうのよ?!なんでこんなことをしたのよ?!』
画面に現れたのは高校生か大学生かぐらいの女性で、会話を聞く限り、このマリア嬢の姉という事だろう。
彼女もかなりギリギリな状態らしく、マリア嬢以上に頬が痩けている様子だった。
その体力が落ちている状態で、海賊としてはとんでもない事をしでかした妹に、信じられない様子だった。
その姉とは対照的に、マリア嬢は冷静に反論を始めた。
『みんなは海賊に向いてない。売れば高値がつく薬は奪わないし、妊婦さんは助けちゃうし。エンスト起こした船を直してあげるし。なにより、お姉ちゃんとハンナさんとコルスちゃんが同業者の変態海賊に狙われて、さらにはそいつらの嫌がらせで海賊用のマーケットで奪ったものの換金も出来なくなったじゃない。
おまけに変態海賊に襲われて全力で逃げれたは良いものの、その時の攻撃でエンジンや長距離用通信機も壊れた上に、修理用の部品もない!そのせいで宇宙空間を1ヶ月も放浪して!水も食料も尽きて!あとは空気発生機と空気清浄機以外は動いてない!それも蓄電池は後20時間くらいしか持たない状態なんだよ?たしかに宇宙服はあるよ?でもそれが何時間持つの?救難信号を出していたとしても、この人が来てくれなかったら全員死んでた!私はみんなに死んで欲しくない!海賊なんかやめて!ごめんなさいして!罪をつぐなって!皆でお父さんとお母さんのしてた仕事やろうよ!』
『マリア…』
最初は冷静だったが、次第に涙を流しながらのマリア嬢の訴えに、姉は神妙な表情のまま俯いた。
どうやら色々事情があるらしいが、こちらとしては言っておく事がある。
「あーちょっといいか?こちらは既に警察を呼んでて、救難信号を出していたのが海賊船なのも伝えてある。後6時間もすれば到着するだろう」
それを聞いた瞬間、姉の方は一瞬驚愕するが、直ぐに全てを諦めたように項垂れた。
「で、こいつは提案だが、あんたらが絶対に俺の船を襲撃しないと言うなら、少人数ずつで、俺の船で飯を食わせてやってもいい。そのかわり、ちょっとでも怪しい行動を見せたら撃ち殺す。どうだ?いまから1時間やる。ゆっくり相談しな」
それだけ言うと通信を切った。
彼女達の遭難が本物なら、この提案はありがたいはず。
そして遭難が偽物なら襲撃のチャンスだ。
「アディル。向こうの船の監視を頼む。怪しい動きがあったら許可は要らないから遠慮なくぶっぱなせ」
岩石破壊用のビームとはいえ、脱出のための 時間稼ぎくらいは出来るだろう。
「了解しました」
そうしてアディルに向こうの監視をお願いして、俺は厨房に向かった。
マリア嬢の話が真実なら、連中は4日間はなにも食べていないことになる。
この場合油っこいものはまずいだろうから、メニューは白粥に卵スープに野菜の浅漬けというリーシオ料理がいいだろう。
その仕込みをしているうちに1時間経過し、向こうから通信が入った。
『我々『シーベルス海賊団』はそちらの提案を受けたいと思う。こちらの人数は総員で7名。全員が納得済みだ。連絡用通路も動かないので、そちらへの移動は宇宙服で行いたい』
画面には、マリア嬢とその姉、そして団員らしい連中が、宇宙服を着て並んでいた。
「了解した。今からそちらの船に接近するが、砲塔がちょっとでも動いたり、お前達の手に武器があるのが見えたら容赦なく発砲する」
と、軽く脅しをかける。
相手は海賊なのだから、それぐらいはいいだろう。
『了解した。こちらは前方のエアロックを開ける。その付近で停止をお願いしたい』
向こうもそれは承知していて、動揺することなく返答してきた。
そうして向こうの船に接近すると、1ヵ所から人間がわらわらと船外にでてきたので、機体を停止させる。
俺の船は貨物室に繋がるハッチを降りたところはエアロックになっていて、宇宙服の一式の予備を置いてある。
ここには直接宇宙空間に出れる扉がついていて、貨物室を真空に出来ない状況でも、船外活動に出ることができるようになっている。
「こちらの船体がみえるか?左舷に扉があり、船体下部にある方がエアロックになっている。全員が入ったら扉を閉めて合図をくれ。船内への入り口は梯子だ」
『了解した』
それから数分後に合図があったので、エアロックに空気を入れる。
一応銃をいつでも抜けるようにした状態で、ハッチが開くのを待った。
そうして出てきたのは7人の男女だった。
そして全員がヘルメットを脱ぐと、
「我々は『シーベルス海賊団』。私は首領のフィノア・シーベルス。助けてくれてありがとうございます」
全員が深々と頭をさげた。
悪党に成りきれない悪党や間抜けな悪党はキャラとして大好きです
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