File154 惑星メレンデレクへの貨物輸送とついでの観光② 良い事も悪い事も思い出に成れば懐かしい
医師の爺さんから事情を聞き、若い女性職員が患者の男の容態をチェックしているうちに、通報を受けた警察と、医師の爺さん達が呼んだらしい『モイズホスピタルコロニー』の職員達がやってきた。
警察には、俺がシュメール人であること、アディルがバイオロイドである事を説明してから、男にいきなり『余の側に侍らせてやろう』とか『お前で楽しんでやる』とか言われた上に、女の状態の俺の胸を掴むという痴漢行為をされたので思わず反撃した事。
それを逆恨みして激怒した男が光線剣を取り出してこちらを殺傷しようとした事。
まあ、その光線剣は、施設の警備員の装備の非殺傷気絶光線棒だったらしいが。
そして自分達に襲い掛かろうとした直前に、『モイズホスピタルコロニー』の医師である爺さんによって気絶させられ、ここで初めて男が精神疾患患者であると理解した事を説明した。
その一連の出来事を、周囲の人達が全て見ていたと証言してくれた為に、俺の相手への急所への攻撃は正当防衛と認められた。
さらに、医師の爺さんが男の容態と事情を警察に説明したところ、警察は完全に状況を理解し、
「加害者が精神疾患患者であるため、本人に責任能力を追及するのは難しいです。ですが、もちろん野放しにするわけにはいかないので、治療ができる施設での収容が逮捕、治療期間が刑期ということになります。そして今回のことは『モイズホスピタルコロニー』側の管理責任になるので、そちらには賠償責任が生じることになります」
と、説明してくれた。
俺としては、不愉快な言動を吐かれた上にセクハラをされたとはいえ、暴力は未然に防がれたし、加害者が精神疾患患者であるなら、幼い子供にいたずらをされた程度に考え、慰謝料の支払いと施設からの正式な謝罪があるなら被害届を出さなくてもと考えていたのだが、
「今回のことは、施設の不備、主治医である私の監督不行き届きに原因があります。今後の施設内部における監視体制の強化をお約束するとともに、このような事態が発生した時の誠意ある対応を貫くためにも、そして本人のためにも、被害届は取り下げないようにお願いいたします。もちろん、施設からの正式な謝罪と慰謝料の支払いはさせていただきます」
という、医師の爺さんの真剣な態度と言葉に、被害届を提出することにした。
正式な謝罪は日を改めてということになり、明日の10時には謝罪にくるということになった。
それからすぐに、患者の男は『モイズホスピタルコロニー』の職員が持ってきたカプセル式のストレッチャーに乗せられて搬送=逮捕されていった。
『モイズホスピタルコロニー』の職員も警察も撤収してからは、気分なおしとばかりに大通りを散策する事にした。
伝統装束を売ってるブティックで店員の着せ替え人形にされたり。
香辛料を売ってる店で思わず衝動買いをしたり。
岩場で産出される宝石やアクセサリーを売ってる店でバルスィン・チェンシーがデザインしたアクセサリーを発見したり。
レースの参加者らしい連中にナンパされたので『あんまりしつこいと警察につき出すぞ』と脅したりしながら、この惑星メレンデレクを満喫した。
そしてそろそろ上に戻ろうかという時に、アディルが砂漠を近くで見たいというので、都市内に張り巡らされている無料の乗り合い式の浮遊式移動板を利用して、この都市で唯一31mの高さの展望台があるという、都市の端、つまりロックトル巨石の端っこにある公園にやってきた。
その展望台からは、資料映像でみた黄金の海原が広がっていた。
「うわあ…凄い…」
アディルはその光景を惚けるように見つめていた。
ちなみにその砂漠は岩上都市のすぐ下から始まっているわけではなく、しばらくは土の部分があってから砂漠になる。
その岩上都市のすぐ下の土のところに、緑が広がっていた。
かなりな広さがあり、それを囲むような柵があり、作業用の工場のようなものもあるので、どうやら農場のようだ。
アディルもそれに気がつき、
「あれは何の農場なんでしょうか?」
と、指を差して俺に尋ねてきた。
すると俺が答えるより早く、ベンチに座っていた品のよさそうなお婆ちゃんが、
「あれはバレルカクタス(樽サボテン)という品種のサボテンの畑なのよ。あの作業用の小屋に収穫したサボテンを運びいれて、付いた砂を落としてから、上の工場にもっていくのよ」
と、アディルに教えてくれた。
「工場では何を作っているんですか?」
そして工場が気になったアディルが、お婆ちゃんに質問したところ、
「バレルカクタスを刻んでから中の液体を搾って、その液体を発酵・蒸留してカクールというお酒を造るのよ。『デザートオブゴールデン(砂漠の黄金)』って銘柄を知らないかしら?」
お婆ちゃんからは完璧な答えが返ってきた。
そして俺は、その酒の銘柄をよく覚えていた。
「ええ、あのラベルに間抜けな顔したサボテンがプリントされたやつですよね」
時々コマーシャルで見ているのもあるが、子供の頃に祖父がお土産にもってきて、祖父母と両親とで飲んだ後、俺がそのラベルを気に入って部屋に飾っていたからだ。
「そう、それそれ!私は若い頃その工場で働いていたのよ。その頃は町もこんなに大きくはなかったし、サボテン畑もあの畑だけで、こんなに広くはなかったわ。今は各地にサボテン畑や町ができているけれどね」
その話をしているお婆ちゃんは、昔を懐かしんでいるような、その頃の苦労を思い出しているような表情をしていた。
もしかすると、あの時の『デザートオブゴールデン(砂漠の黄金)』はこのお婆ちゃんがつくっていたのかもしれない。
そう思うと不思議な縁を感じてしまう。
そんな事を考えていると、お婆ちゃんが不意に空を見上げ、
「貴方たち観光客よね。だったら早く宇宙港に戻った方がいいわよ。あと2時間もしたら砂嵐がきてシャトルが運行停止になっちゃうわよ」
と、言ってきた。
「え?お天気はよさそうですよ?」
夕方が近いとはいえ天気がよさそうなので、不思議に思ったアディルがお婆ちゃんに尋ねたところ、
「地元の人間の忠告は聞いておくものよ」
と、爽やかに返された、
なので、忠告にしたがってその場を後にし、マスドライバーのステーションに向かった。
幸いステーションは混んでおらず、シャトルの出発時間も間近だったので急いでチケットを買った。
搭乗時間になり、シャトルに乗り込み、カウントダウンを開始する寸前に、
『お客様に申し上げます。現時刻において、ロックトルより約300㎞の地点にて大規模な砂嵐を発見いたしました。当機はこのまま発進し、宇宙空間の宇宙港に向かう事で砂嵐を回避します。皆様、落ち着いて出発のカウントダウンをお持ち下さい』
というアナウンスが入った。
それを聞き、あのお婆ちゃんは凄いなと感心してしまった。
そうしてカウントダウンが終了し、シャトルがリフトオフした時に、シャトルの窓から星都に迫りくる砂嵐が見えた。
それはまるで巨大な山脈が迫ってくるようで、初めて見るにもかかわらず、えもいわれない恐怖と不安を感じてしまう程だった。
サボテン関係を調べていると、どうしてもアイツが…
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