File147 惑星スティエージへの貨物輸送からの休暇⑤ 一晩経過して冷静になった時の後悔と恥ずかしさは計り知れない
翌朝は起きて早々に厨房に向かい、アディルと一緒に約束通り朝食を作り始めた。
メニューは、
厚切りフレンチトースト・メープルシロップ付き
ほうれん草とベーコンのソテー
ショートパスタのコンキリエ(貝みたいなやつ)入りクリームスープ
葉野菜とナッツのサラダ
という、フレンチトーストの仕込み(パンを卵液に浸けておく)以外は簡単なメニューだ。
『…昨日夕方頃に発生した軌道エレベーターへのデブリ衝突事故は、対衝突物バリアの点検時に発生したものであり、テロなどの可能性はほぼないとのことです。現在復旧作業は完了し、利用客の移動が開始されています。
では次のニュース。
評議員補充選挙立候補者の受付が明日開始されます。受付期限は2ヶ月間とし、首都にて本人が直接申し込みをする必要があります…』
調理をしている間に聞こえて来たテレビのニュースでは、軌道エレベーターが運行を再開したのと、評議員補充選挙立候補者の受付開始が報じられていた。
次の仕事や停泊地のことなんかもあるから、朝食が済んだら、早いうちにお暇させてもらうことにしよう。
だがまずは、あの2人に謝罪をしないとな。
一晩経って冷静に考えれば、『今日は疲れているから明日でも良いですか?』で良かったんだ。
御嬢様が会う度に料理人として勧誘してくるのもあって、関係者のこの人達まで勧誘してくるのかと思ってイラついたために、あんな失礼かつ大人げない態度をとってしまった。
本気で情けなく、思い出すと恥ずかしい。
そこに都合良く、メイド長と御嬢様がやってきた。
「おはようございますライアットさん!お約束もしていないのにお料理をしてくださってありがとうございます!」
俺が朝食を作っているのを見て、御嬢様は嬉しそうにお礼をいってきた。
その表情を見ていると、昨日の自分のやらかしたことがますます恥ずかしくなってくる。
「おはようございますライアット様。昨日は失礼いたしました」
「いえ、自分の方こそ、昨日はあんな失礼な態度をとってしまって本当に申し訳ありませんでした」
メイド長に先に謝られてしまったので、こちらも朝食の仕度を中断して慌てて頭をさげる。
「いえ。お客様に圧をかけるような真似をしてしまい本当に申し訳なく…」
「いや、それはこちらが…」
そうして俺とメイド長が謝罪の応酬を始めた時に、
「お"は"よ"~」
悪魔のようなガラガラな声で、髪はぼさぼさ、眼はうつろ、顔にはパック、服装はよれよれのTシャツによれよれのジャージのズボンという何者かが現れた。
「うおっ!」
「なっ…何者ですかっ?!」
俺は思わず声を上げ、アディルは即座に警戒モードになり俺の前に立つ。
すると御嬢様が冷静に、それが何者か教えてくれた。
「大丈夫ですよ。これ叔母様ですから」
「レ"イ"ア"ナ"ち"ゃ"ん"お"ば"さ"ま"は"や"め"っ"て"い"っ"だ"で"し"ょ"う"?」
悪魔のようなガラガラな声だが、たしかにルビオラ嬢のようだ。
俺とアディルが唖然としていると、
「はいはい。ルビオラ様。お支度をしに行きましょうね」
後ろからやってきたメイドさんに背中を押され、ルビオラらしい何者かは、洗面所のある方につれていかれた。
「叔母様は昔からああなんです。私も最初に見た時は悲鳴を上げました…」
普通の子供があれ見たらトラウマものだな…。
暫くすると、声・服装・髪型・メイクもバッチリのルビオラ嬢が戻ってきた。
「ごめんねー寝起きだと面倒臭くてさー」
「いえ。それより昨日はすみませんでした」
俺が昨日の事を謝ろうとすると、
「それはこっちのセリフよ。本当にごめんなさいね。
昔のトラウマもあってつい強引になっちゃって。もしあなたが『疲れてるから明日でいいですか?』って言っても、『毎日やってるんじゃないのぉ?』とかいってうざがらみしてたとおもうわ」
自分の行動を反省しながら、俺に対して謝罪をしてきた。
それは俺も同じなので、彼女に対して謝罪をしようとしたところ、
「ともかく今回は、いい大人がお互いに感情丸出しで馬鹿を仕出かした!どっちも悪い!これで終わり!よろしいですか?お三方」
と、トーマスが強引に話を終わらせにかかった。
どういうつもりかは知らないが、たしかにこれ以上話を引き延ばすのは良くないと判断し、
「「「はい」」」
トーマスの提案に全員が賛成した。
そうして話が終わった所に、不意に呼び鈴がなった。
メイドが扉をあけるとそこには、ガリウス・リオアースとシェルナ・リオアースの姿があった。
ガリウス氏は40歳は確実に越えているとは思えない程に若く、妻のシェルナ・リオアース氏も、30代とは思えない美貌を誇り、娘レイアナが成長すればこうなるのだろうと思えるほどに良く似ている。
「御父様!御母様!」
「お待たせレイアナ」
「久しぶりねレイアナ!大きくなったわ」
まず一番に飛び付いたのは娘のレイアナだ。
普段から一緒に居られず、久しぶりに一緒に過ごせる時間ができ、本当なら昨日の夜から一緒にいられたはずなのに、軌道エレベーターの事故のせいで居られなかったのだから、嬉しさも一入だろう。
「お帰りなさい。久しぶりね兄さん、御義姉さん。別荘の使用許可をくれてありがとう。助かったわ」
「お邪魔をしております」
その邂逅がひとしきり済んだあとに、ルビオラ嬢と俺が挨拶をした。
「やあルビオラにライアット君。それとアディル君だったかな?君達も軌道エレベーターにやられた口らしいね」
ガリウス氏は報告をもらっていたらしく、妹のルビオラ嬢はともかく、俺とアディルにも驚いた様子はなかった。
「本当に冗談じゃないわよ。逆じゃなかったのは幸いね。私が上でまだ直ってなかったら取材ができなくて発狂ものよ」
流石に兄妹だけあって、すらすらと愚痴が流れ出る。
「久しぶりねルビオラ!」
「御義姉さんは相変わらずですね。少しは落ち着いたらどうです?」
「暫くはうちにいるわよ。貴女だって飛び回ってるじゃない」
「私は独身ですから」
義理の姉になるシェルナ夫人とは、学生時代の先輩・後輩だそうで、嫁と小姑のバトルが発生するようすはない。
まあ、レイアナとあれだけ仲がいいのなら問題ないだろう。
そしてシェルナ夫人は俺に視線を向けると、
「お久し振りねライアットさん。娘が色々我が儘を言っちゃってごめんなさいね」
と、謝罪された。
おそらく、娘が俺達を強引に誘ったのだと推測したのだろう。
「いえ。今回は困っている時に助けてもらって本当に感謝しております」
「それなら良かったわ。そう言えば仕事仲間を見つけたのね。貴方のお祖父さまも安心なさってるでしょうね」
シェルナ夫人はアディルを見つめてにっこりほほえんだ。
実はシェルナ夫人は、祖父が生きていた頃からのお客で、発掘品や発掘用の機材の運搬を依頼してきていた、実はわりと古株のお客だったりする。
最近は仕事をもらうタイミングはなかったけどな。
ちなみに初めてあった時は『月のもの』で女になっていたせいで、彼女の研究チームの女性陣に着せ替え人形にさせられた苦い記憶がある。
「そうだ!御父様!御母様!ライアットさんが朝食を手掛けてくれてるの!まだならぜひご一緒に!」
そこに、レイアナが嬉しそうに両親を朝食に誘う。
「ほう。それはいいタイミングで帰ってきたかな?」
「ちょうど朝食はまだだったし、ありがたくいただきましょう」
夫妻はニコニコしながら俺に視線を向けてくる。
多分、知ってて合わせて来たんだろうな…。
そうと決まれば、朝食の仕度を再開するか。
その朝食の間レイアナは終始笑顔で、久しぶりに会えた母親にあれこれと話しかけていた。
朝食が終了した後、俺とアディルは仕事や船の事があるからと、早めにリオアース家の別荘を後にした。
その俺達の送迎を買ってでたのは変態執事だった。
「御嬢様に付いてなくていいのか?」
大概においてレイアナに付き従っている男が、俺達の送迎をするとは珍しい。
「たまには家族水入らずもいいでしょう。私が居ては御嬢様もご両親に甘えづらいでしょうしね」
「副社長やってても子供だからな」
両親に会えた時のレイアナの笑顔は、年齢相応のものだった。
「ライアット様には、ルビオラ様め含めて当家の者がご不快な思いをさせて申し訳御座いませんでした。ですがあれも使用人としての忠誠と、親族として御嬢様を心配するが故のことですので御容赦いただきたい。まあ、貴方の頑なな態度にもどうかとは思いましたが」
変態執事め、やっぱりチクリとやってきやがった。
「大人げない上に嫌味だったのはわかってるよ。疲れてたのもあったし、なんかイラついてな。申し訳ない事をしたよ」
だが言われて当然の事ではあるので反論はしない。
これで逆切れしたら頭のおかしいやつだ。
「反省していただけている事。そしてイラついていたにも関わらず、朝食を私達使用人の分まで用意してくださる様な方であるなら、使用人一同は歓迎させていただきますよ。まあ、それでもあなた様の気がすまないというなら、今後は女性の姿でお返ししていただきたいですがね!アディルさんと一緒に!」
器用な事に、変態執事は車を運転しながらいつものオーバーアクションを披露する。
思いっきりはたいてやりたいが、事故を起こされるのは嫌なので我慢するしかない。
屋敷の連中の分まで仕込んだのは、ちょっと神経をおちつけるために作業に没頭しただけなので、ちょっと心苦しかったりする。
まあそのお陰でリオアース夫妻の分も用意できたのは良かったところだ。
そのうちに軌道エレベーターの発着場に到着した。
「送迎感謝するよ」
「ありがとうございました」
「リオアース家の使用人としては、この程度は通常業務です」
トーマスはわざわざ車を降りて挨拶をしてきたと思うと、急に俺に対して真剣な表情を向け、丁寧に頭を下げてきた。
「ライアット様、アディル様。また機会があれば、レイアナ御嬢様の誘いを受けてくださると有り難く思います」
こういう行動や言動を目の当たりにすると、こいつが有能なのを、改めて認識してしまう。
「ああ。機会があればな」
料理人としての勧誘がうざいが、悪い子ではないので突き放すことはないだろう。
「レイアナさんはお友達ですから!」
それに、アディルとは既に友達らしいから、拒否する理由はない。
「ありがとうございます。では、お気をつけていってらっしゃいませ」
トーマスは、俺達が建物に入るまで深々と頭を下げていた。
おまけの幕間
その1:お風呂上がり
俺が翌朝の朝食の仕込み(パンを卵液に浸けておく)を終えたところで、レイアナとアディルとメイドさんが風呂から戻ってきた。
アディルは「お風呂が広くて素晴らしかったです♪」とニコニコ。
メイドさんは「彼女はバイオロイド…彼女はバイオロイド…」とブツブツ。
レイアナは「御母様の遺伝子だから大丈夫…御母様の遺伝子だから大丈夫…」とブツブツ。
なにがあったかは想像できるが、とりあえず言及はやめておこう。
その2:ヴェロニカさんの決意
ライアット様がお作りになった朝食はたしかに美味しかったです。
特にフレンチトーストは御嬢様に合わせたのか、ほのかに甘く、メイプルシロップとの相性も抜群でした。
あれに生クリームやチョコレートソースをかけても美味しいはずです!
はっ!違います違います!私にだってあれくらいは作れます!
御嬢様に私のほうが美味しいといわせてみせます!
その研究のためにも、こんどいらっしゃった時にはまた作ってもらいましょう…。
長くなり、遅くなってしまい申し訳ありませんでした
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします




