File146 惑星スティエージへの貨物輸送からの休暇④ 能ある変態執事は有能さを隠す?
「おいちょっと…俺は基本的に料理はしなくていいんじゃなかったのか?」
俺は横にいた変態執事にこっそり声をかけた。
「あの2人がああなったら面倒臭いんですよ…」
すると変態執事はうんざりした表情を浮かべた。
「ルビオラさんはともかく、メイド長さんはあんたの部下じゃないのか?」
素人考えだが、メイド長と専属執事なら上役か同格だと思っていたのだが、
「ヴェロニカ・ルクホスメイド長は、私がリオアース家に初めて奉公に上がった10年前には既に働いていた先輩なんです。そして後に彼女はメイド長になり、私が御嬢様の専属執事になったため立場としては上になりましたが、先輩後輩の力関係はかわってません…」
どうやら人間の存在としての格の違いがあるらしい。
多分2人ともが、俺が信用できる人間かどうか見極めたいのだろうが、その方法は間違っていることを教えてやらないといけない。
なので俺は、笑顔を浮かべる2人にきっぱりと言い放った。
「お二人共、俺が本当にレイアナ嬢に気に入られるような人物かどうか見極めたいみたいですが、その手段が料理を製作させると言うのは間違いだと思いますよ」
「それはどうしてでしょう?」
俺の発言に、メイド長はにっこりしたままその理由を尋ねてくる。
「俺は貨物輸送業者で料理人じゃない。確かに料理人ならその腕を披露して証明しろというのはわかる。しかし俺は料理人じゃなくて貨物輸送業者だ。料理の腕を証明する必要はないでしょう?」
「でも貴方はレイアナちゃんに料理をだしたのよね?」
俺の返答にルビオラ嬢が食い下がる。
「それは彼女が俺の船に客として乗り込んだ時ですね。船での航海は何日間かに渡るんだ。その間客に食事を出すのは当たり前の事だ。つまり俺は料理人としてじゃなく、船の責任者として、客を餓死させないために食事を提供しているんです」
実際俺が食事をだす理由はこれだ。
レストランのように食事の提供ではなく、荷物と客を安全に目的地に送り届けるのが俺の本分だ。
まあ、俺がこの場で料理をしない理由としては、かなり無理矢理なのは自覚している。
「それに時間的に夕食はすでにそちらの料理人の手で用意されてるはずだ。それを無駄にしろと?」
さらには、俺が料理をする必要性がないこともアピールした。
これでもまだ料理をしろというなら、迷うことなく軌道エレベーターの待ち合いホールで夜明かしコースだ。
アディルにはちょっと可哀想な事になるが、貨物輸送業者の俺を料理人扱いするなら、膝を屈する訳にはいかない。
さあ、どう出てくるかと身構えていると、
「2人ともいい加減にしてください!お2人が私を心配してくれているのはわかりますし非常に嬉しいです。
ですが、ライアットさんは私からうちの別荘に宿泊しませんかとお誘いしているんです!さらにいえば、お料理をして下さいとお願いもしていません!
それなのにそれを強要するなんて失礼ですよ!」
この場にいた最高責任者が、使用人と叔母を叱り飛ばした。
「も、申し訳御座いません御嬢様!」
「ごめんなさい…。つい昔の事を思い出して…」
「謝るのは私にじゃありません!」
「ライアット様!失礼な事をしてしまい大変申し訳御座いませんでした」
「ごめんなさい!本当にすみませんでした!」
10歳の女の子からの叱責に、大人2人がようやく我に返り、慌てて俺に頭を下げてくる。
「ライアット様。現状のリオアース家の責任者として、私からも謝罪をさせていただきます。申し訳ありませんでした」
レイアナが深々と頭を下げ、自分の関係者が迷惑をかけたことを謝罪する。
本当に10歳の子供なのか疑いたくなるくらいだ。
「まあ今後は気を付けてください。相手が誰であろうとね」
俺はレイアナの頭を撫でつつ、ヴェロニカ嬢とルビオラ嬢に向けて釘を刺してやった。
レイアナを心配しての行動なのはわかっているので、これ以上の追及は止めておこう。
「はいはい皆様。ライアット様の御指摘通り、当家自慢の料理人の料理をいただくことにしましょうか」
そんなどんより気味の空気を打ち消すべく、トーマスがパンパンと手を叩いて話を進めてきた。
その夕食はフレンチと呼ばれる料理の見事なコース料理だった。
当初の御嬢様1人分だけはなく、余計な人間が急遽3人も増えたのに、きちんと人数分揃えてあるのは流石だ。
ちなみに、変態執事とメイド長は、ルビオラ嬢や俺達という客がいるためか、使用人という立場から同席することはなかった。
夕食が終了すると、メイド長が御嬢様に入浴を促した。
さらにはアディルにも、仲良くなるためには一番とばかりに声をかけてきた。
そうして子供2人、といってもメイドさんが1人は付き添うそうだが。を風呂に追いやると、メイド長が頭を下げてきた。
「この度、大変な無礼をしてしまった事を、改めて深く御詫びいたします」
「私も、本当に失礼な事をしてしまったのを心から御詫びするわ」
それに続いて、ルビオラ嬢も俺に頭を下げてきた。
すると、変態執事がここぞとばかりに元上司に詰め寄った。
「ルビオラ様はともかく、ヴェロニカさんが強引に話を持っていこうとしてどうするんですか?ライアット様の人となりはお話ししたことがありましたよね?」
変態執事には珍しく、かなり真面目な表情だった。
「貴方の説明が要領を得なかったからよ!」
メイド長は変態執事に対しての不満を口にする。
まあ、変態執事の普段のノリで説明されたら聞くのも嫌になるだろう。
そしてメイド長が俺を見つめ、
「それに…御嬢様があまりにライアット様のお料理が美味しいとか素晴らしいとか連呼するので…」
と、言いにくそうに絡んできた理由の一つを白状した。
まあそんな感情も含んでいたなとは思ってはいた。
出来る人っぽい感じだったのだが、ずいぶんポンコツなところもあるらしい。
すると、
「嫉妬ですか情けない!ライアット様が新しい使用人としてやって来たならともかく、お客様としてやって来たのに嫉妬と対抗心丸出しとは!」
変態執事がここぞとばかりにメイド長を攻撃した。
事実なのでメイド長も言い返せない様だ。
そこに、ルビオラ嬢が声をかけてきた。
「失礼になってしまったのは本当に申し訳なく思うわ。でも…私の実体験で嫌なことがあったし、あの娘には同じ思いはさせたくなかったのよ」
彼女の様子や生まれ育った環境を考えると、おそらく昔に何かあったのだろうが、俺にやったことは失礼には違いない。
そこに、変態執事がかなり容赦なく畳み掛ける。
「たしかにそうですね。10歳の女の子と成人男性が知り合いってだけで怪しく見えますからね。しかもリキュキエル・エンタープライズ社CEOの一人娘ともなれば警戒は当然でしょう。しかし貴女のやった事は立派な大人としては問題のある対応なのは間違いありませんから、その辺りは十分に反省してくださいませねルビオラ様?」
そして俺の方に向き直ると、
「ライアット様。この通り2人とも十分に反省しているようですので、御容赦願えませんか?」
と、頭を下げてきた。
こいつ、自分が同僚や主人を責め立てて、俺の溜飲を下げにきやがったな。
まあ、そこまで腹を立てはいないので、
「わかったよ。謝罪を受け入れる」
変態執事が言って欲しい言葉を返してやった。
すると変態執事はぱんと手を叩き、
「では利害と思惑の絡んだ嫌な大人の話は終わりにしましょう。ライアットさん。私とのお約束はお願いできますか?」
嫌な話は終わりだと言いながら、ここにくる前にした約束の話を振ってきた。
「ああ、わかってるよ。ヴェロニカさん。厨房に案内してもらえますか?朝食くらいは作るってこいつと約束をしていたんで、仕込みくらいはしておきたいんでね」
そしてそのやり取りを聞いた女性二人は、かなり驚いた表情をした。
そうして何か言おうとした2人に先んじて、
「『だったら作ってくれても良かったじゃないか』と、お思いでしょうが、貴女方が要求したことと、私がライアットさんとした約束では、天と地程の差があるのですよ。その違いを良く考えてください」
変態執事が太めの釘を刺した。
そしてその釘が効いたのか、女性達はしょんぼりとしてしまった。
この変態執事は、やっぱり有能だ。
有能ぶる無能と無能のふりをする有能
共通点は、敵でも味方でも腹が立つ事が多い
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