File144 惑星スティエージへの貨物輸送からの休暇② 御嬢様の思惑は複雑
「どちら様ですか?」
俺にとっては見知った顔だが、アディルにとっては当然だが初対面だ。
「ああ、あの子はレイアナ・リオアース。リキュキエル・エンタープライズ社CEO・ガリウス・リオアースの一人娘で副社長だ」
「見たところ小学生の様ですが、本当に副社長なのですか?」
「意外なことにな」
アディルの疑問は、大多数の人間が最初に抱く事だが、間違いない事実だ。
「お久し振りですねショウンさん。そちらの方はお客様ですか?」
完璧なスマイルをうかべながら副社長が近づいて話しかけてくる。
「いや。パートナーになったアディルだ」
「初めまして。アディルと申します」
アディルは丁寧なお辞儀をする。
「初めまして。私はレイアナ・リオアース。リキュキエル・エンタープライズ社CEO・ガリウス・リオアースの娘です」
それに対してレイアナも丁寧で優雅な御辞儀を返してきた。
そしてレイアナがいるとすれば、当然彼女の専属有能変態執事であるトーマスがいるわけだが、
「そして私は執事のトーマス・フェイフォスと申します美しいお嬢さん。貴女の様な美しい方に出会えるとは…軌道エレベーターの事故様々というところでしょうか」
トーマスはアディルの手を取り、その手の甲にキスをした。
アディルは、その行動が自分や俺への攻撃ではないために、どうしていいのかわからず困惑していた。
「いままでパートナーを探す素振りも無かったのに急にどうしたんですか?」
助けないとダメだなと思ったところに、レイアナが自分の執事に絡まれているアディルを見ながらそう尋ねてきた。
「アディルはバイオロイドでな。ちょっとした縁があってパートナーにすることにしたんだ」
「バイオロイドなんですね彼女は…」
レイアナはアディルを見つめながら、ぶつぶつ言っていたがやがて顔をこっちに向け、
「そういえばショウンさんはどうしてここに?」
と、質問をしてきた。
「俺達は仕事で来て、1日休みにしてスキーをしてたらこれだよ」
アディルをトーマスから助けだしながら、レイアナの質問に答える。
「私は冬期休暇で水晶鯨ウォッチングに来たんです。それで今日御父様と御母様が来てくれる予定で御迎えに上がったのですが…」
「軌道エレベーターの事故が起こったと…」
「ですので、久しぶりに2人きりになれるのですから、降りてくるのは軌道エレベーターが直ってからでいいと言っておきました」
たとえ副社長を務めるぐらいの才女とはいえ、両親と一緒に過ごせると思っていた期待が外れた時の残念そうな、年齢相応の表情を見せるかなと思ったのだがそんなことはなかった。
それに軌道エレベーターが止まったとしても、宇宙港との行き来が出来ないわけではない。
宇宙港から直接目的地に向かう為の地上行きのシャトルをチャーターすれば、降りてくるのはもちろん、宇宙港に上がる事も可能だが、その料金はそれなりに高額だ。
しかし、リキュキエル・エンタープライズ社CEOであるガリウス・リオアース氏にとってははした金だし、自家用のシャトルぐらいあるだろう。
「そのお陰で近々妹か弟が出来るかもしれませ痛ーっ!」
「下品な事を言わないでちょうだい!」
トーマスの下品な発言に、レイアナの爪先が炸裂する。
のたうち回る変態執事を無視しながら、レイアナが改まった様子で話しかけてきた。
「見たところ、ショウンさん達は宿にお困りみたいですね」
「まあな。最悪軌道エレベーターのロビーで夜明かしだな」
シャトルをチャーターしてもいいが、今の状態だと客が殺到しているだろうし、待っていれば代替便がでるという事もあるだろう。今は出ていないが。
おまけに惑星政府の軌道エレベーターの管理部署が手配している宿泊施設に空きがあるかどうかもわからない。
それなら寒さを凌げる軌道エレベーターのロビーで夜明かしが選択肢にはいる。
「それならうちの別荘にきませんか?部屋なら沢山ありますから」
そういったレイアナの表情は、まさに美少女御嬢様そのものだった。
しかし俺はその顔を何度も見たことがある。
「有り難い話ではあるが、なんか裏がないか?」
「ありませんよ?」
レイアナは澄ました顔をしているが、こういう時は大抵なにか企んでいる。
「じゃあ、俺は一切料理はしなくていいよな?客なんだし、使用人の人達の仕事を取るわけにもいかないしな」
「えー?!」
なので軽く牽制したところ、レイアナは思い切り不満そうな顔をした。
やっぱりな…。そんなことだろうと思った。
どうせ宿泊費代わりにとか、料理が出来る人間が病気にとか理由をつけてやらせるつもりだったんだろう。
「ご安心を。別荘には料理人も料理ができる使用人も大勢おりますので、ライアット様の出番はございませんよ」
するとそこに、脛を蹴られてのたうち回っていた変態執事が復活してきて、主の失態のフォロー?をしてきた。
「それならお言葉に甘えるが?」
俺はレイアナに視線をむけ、それでいいなと確認を促すと、レイアナは不満げながらもこくりと頷き、
「では車を呼ぶのでお待ちを」
と、自分の汎用端末で運転手を呼び出していた。
するとトーマスが俺に近づいてきて、
「(明日の朝食くらいはお願いできますか?料理長には話を通しておきますので)」
と、耳打ちをしてきた。
まあそれくらいなら構わないだろう。
子供をいじめたままというのも寝覚めが悪い。
「(わかった。それくらいならな)」
なので承知する旨を伝えておいた。
そんなやり取りをしているうちに車が来たらしく、
「御二人ともどうぞ」
と、レイアナが声をかけてきた。
そしてその車は、当然といえば当然のロールスターファントムのリムジンだった。
視点変換 ◇レイアナ・リオアース◇
最初に聞いた時はびっくりしました。
いままでずっと1人でやってきたライアットさんがパートナーを受け入れているとは思いませんでしたから。
しかも長身でスタイルも良い女の人!
ライアットさんは雌雄同体ですから、色香にほだされたとかではないはずです。
話を聞くと、その人、アディルさんはバイオロイドだとわかりました。
バイオロイドならたしかにあのうらやましいスタイルは納得できます。
いずれは私だってそうなる予定ですから…。
でもどうしてライアットさんは彼女を受け入れたんでしょうか?
今までこちらがパートナーを勧めても、頑なに拒否し続けていたライアットさんが、バイオロイドとはいえパートナーを迎えるのは、かなりの出来事があったからだと推測します。
もしかしたら貨物輸送業者を辞めようとしたかも知れないことがあったのかもしれません。
そこに付け込む事が出来ていれば…。
いやいや。そんな嫌な事を考えてはだめ!
商人にとっては信用ほど大事なものはないんだから!
とにかく、アディルさんをパートナーにした経緯は今晩にでも聞いてみることにしましょう。
視点終了
副社長をしっかりと務め挙げていても、まだ10歳ですから…
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