File141 惑星リーシオ経由惑星ヤルマド行き貨物輸送⑩ 道化が絶望するまでの顛末
一部加筆をしました
銀河正史歴1383年1月23日・午後10時03分。
「ちょっとすみません。お話よろしいですか?」
何故か警官に話しかけられたわけだが、この感覚は以前にも体験した記憶がある。
案の定、最初にきた警官の後ろから数人の警官達がやってきた。
俺はアディルの前に出ると、緊張しながら警官達と対峙する。
「なんでしょうか?」
「貨客船ホワイトカーゴⅢの船長、ショウン・ライアットと備品のバイオロイドだな?貴様らを略取・誘拐罪で逮捕する!」
「なんだそりゃ?何時・何処で誰を誘拐したってんだ?」
「コーウェン・フッキネス評議員閣下と、その孫娘のサイア・フッキネス嬢と、フィナ・ヴルヴィア評議員補佐官だ」
「お客だから乗せただけだし、もう船を降りてるんだが?」
出来るだけ冷静に対応をしながらも、ゼスチャーでごまかしつつ腰の短針麻酔銃にゆっくりと手を伸ばした。
「もちろんその事実はこちらも把握している。君たちが誘拐犯でないこともな。先ほどのセリフは便宜上必要だから言わざるをえなかったことなので御容赦願いたい。なので、その腰の物を納めてもらえるかね?」
そして短針麻酔銃に手が触れようとした直前に、茶色の鱗に黒目黒髪で、自分の鱗と同じ色のコートを着て、同じ色の中折れ帽を被った中年の男性ドラコニアル人が警官達を割って現れた。
そのドラコニアル人の姿を、俺はどこかで見たことがある気がした。
「私はGCPO捜査官のコーニル・ゼルフレームというものだ」
ゼルフレーム捜査官を名乗る男が提示した身分証は確かに本物だった。
その瞬間、この人物の顔を思い出した。
俺にとって色々あった去年の新華祭前日の事件の時に、ティナ姉ちゃんとやってきた人物だった。
「さっきも言ったが、まず知っておいてほしいのは、君達が誘拐犯ではないという事実を我々が理解しているという事だ。
今回の事を知らせてくれたのは、惑星ヤルマドの地元警察の宇宙港署の署長だ。私がまだリーシオのいち警官だったころの後輩でね、上から明らかにおかしな命令が来たのでどうしたものだろうかと私に相談を持ちかけてきたところ、幸いこちらが捜査をしている人物も関与しているようなので、ついでのような形になってしまったがGCPOが出動することになった」
ゼルフレーム捜査官はそれだけ一気に話すとこちらに1歩近づき、
「GCPOは、君たちを誘拐犯にしたてあげた奴に協力した人物に用がある。まとめて確保するために、逮捕されてもらえんかね?」
と、提案してきた。
視点変換 ◇第3者視点◇
銀河正史歴1383年1月23日・午後10時37分。
惑星ヤルマド宇宙港内部の倉庫街で、スーツ姿の男3人と、2人の警官と、その警官に捕縛されている男女2人が相対していた。
「犯人は無事逮捕できたようですね」
「はい。この通り逮捕いたしました。しかし、取り調べなら我々の署内でも十分に行えますが?」
「それは君たちが考えることではない」
警官達は犯人をこのような所に連れてくる事自体を怪しんでいたが、公安と名乗る男達に対して、意見を言えないのも事実であった。
すると公安と名乗る男達は銃を取り出して、警官達と捕縛されている男女に銃口を向けた。
「なっなんの真似ですか?」
「その2人が我々の銃を奪って抵抗、君たちは殉職。我々はやむ無く射殺した。それが真実になるのだよ」
公安と名乗る男達が、ニヤニヤと笑いながら警官達と男女を撃ち殺そうとしたとき、
「成る程。では君の上司にはそう伝えてもらおうじゃないか」
中年の男の声が響き、その現場の周囲を、GCPOと地元警察ががっちりと包囲していた。
逃走は不可能と判断した公安と名乗る男達の一人が、中年の男に銃を向けた。
が、それより早く中年の男が銃を抜き、公安と名乗る男の銃を弾き飛ばした。
「わかってはいると思うが、公安委員会には既に確認をもらっている。言い逃れは不可能だ」
中年の男の言葉に、公安と名乗る男達は諦めの表情を浮かべて項垂れた。
視点返還 ◇ショウン・ライアット◇
銀河正史歴1383年1月23日・午後11時06分。
「と、いうのが今回の事件の顛末です。できれば彼等の保護をお願いしたいのですが」
明らかに偽者の公安職員を拘束した後に連れてこられたのは、フッキネス評議員一行が宿泊している高級ホテルだった。
船に戻りたいと要望したが、『手のものがあれで全員とは限らないし、船が没収されていないとわかるとターゲットを逃してしまうかもしれない。船は地元警察が見張りをしてくれるので大丈夫』と、有無を言わさない迫力で承知させられた。
「GCPOでNo.1の捜査官のお前さんに頼まれたのでは断れんし、世話になった2人を助けるぐらいは当たり前じゃ」
フッキネス評議員はにこやかに笑いながら顎を撫でる仕草をしながら、ゼルフレーム捜査官のお願いを受け入れていた。
「では我々はこれで失礼します」
そのゼルフレーム捜査官は、俺達を送り届けて説明をし終わると、早々に帰ってしまった。
多分関係者を捕まえに行くのだろう。
そうして扉が閉まると、フッキネス評議員が真剣な表情で俺とアディルに対して頭を下げてきた。
「儂の部下に当たる輩が迷惑をかけて申し訳ない」
「頭を上げてください。フッキネス評議員に落ち度は無いのに謝罪をしていただくのは心苦しいです」
俺がそういうと、フッキネス評議員は頭を上げ、
「なに、元凶にはきっちりと思い知らせてやるつもりじゃから気にせんでくれ」
と、人の悪そうな笑みを、ニヤリと浮かべた。
どうやらかなり頭にきているらしい。
「ともかく、もう一部屋取ったから今晩はそこに泊まりなさい。料金は儂が全て持つからのぉ」
そして今度は、さっきとは違う好々爺の笑みを浮かべた。
銀河正史歴1383年1月24日・午前7時05分。
朝食を食べる前にヴルヴィア補佐官から呼び出しを受けたので、着替えだけすましてヴルヴィア補佐官の部屋に向かった。
「朝早くから御呼びだしして申し訳ありません。先ほどゼルフレーム警部から連絡がありまして、『協力者は全員捕縛。間抜けがこちらに向かっている』そうです」
やっぱりあの人も警部か。
なんでGCPOの捜査官は警部止まりが多いんだ?
「それで提案なんですが…犯人逮捕に協力してもらえませんか?」
ヴルヴィア補佐官の突然の言葉に俺は困惑した。
「俺達は首謀者の顔を知りませんよ?」
首謀者はともかく、こちらは首謀者の名前すら知らないのに、どう協力するというのだろうか?
「たしかにそうです。ですが、本来なら貴方達は首謀者の顔を知ってないといけないんです。どうやら犯人と交渉したらしいですからね」
成る程。ゼルフレーム警部の話から考えると、首謀者を引っ掛けるようだから、殺した筈の俺達がいれば動揺するってわけか。
「なので、お祖父様や私達と同席していてください。いてもすぐには怪しまれないように侍女の格好で」
「は?」
なぜかメイド服を手にしたサイア嬢とヴルヴィア補佐官が、にっこりとこちらににじりよってきた。
銀河正史歴1383年1月24日・午前7時35分。
「なっ…何がおかしいのですか!?私はあなた方を救出するために私財まではたいたというのに!」
首謀者であるオビサ・カエジスは、青い鱗に金髪黒目のドラコニアル人青年で、顔を真っ赤にしながら俺達が笑っていることに激怒していた。
フッキネス評議員は、そのオビサ・カエジスの様子に笑いを堪えながら彼に話しかけた。
「察しが悪いのう。お前さんのやったことは全部わかっておるんじゃよ」
「なっ…なんの事ですかな?」
その一言に、オビサ・カエジスが一瞬だけ慌てた様子を見せた。
取り繕おうとしたそいつとは違い、秘書が逃げようとしたので、俺とアディルで逃げ道を塞いでやった。
フッキネス評議員はコーヒーを飲み干すと、オビサ・カエジスに視線を向け、昔話でも聞かせるかのように穏やかな表情で話しはじめた。
「まずは、儂が世話になった貨物輸送業者に誘拐の罪をきせるために、ヤルマドの警察幹部にカネを渡して捕縛を命令させた。
次に自分の部下を公安職員だと偽らせ、誘拐の濡れ衣を着せた貨物輸送業者を引き渡そうとした警官ごと殺害、その罪も貨物輸送業者に着せる。
そして自分は私財をなげうって儂等を助けたと嘘をつき、警察幹部に渡したカネを公金で補填する。
このお前さんが考えた作戦は全部明るみにでておるということじゃ」
「なっなにを証拠にそんなことを!評議員閣下とはいえ失礼な!」
そう怒鳴るものの、オビサ・カエジスは動揺しまくっていた。
「証拠なら全部押さえておるよ。何よりお前さんの茶番劇の関係者がそこにおる」
フッキネス評議員が、よりによってこちらを指差してきた。
それに従ってオビサ・カエジスがこちらを見るが、
「あれは評議員閣下の侍女でしょう?」
さっさと視線をフッキネス評議員にもどしてしまった。
「おかしいのう。あの2人はお前さんが交渉したという、儂らを誘拐した貨物輸送業者なんじゃが?」
が、それを聞いた瞬間、オビサ・カエジスは驚愕の表情を浮かべた。
「入ってきた時には気がつかなかったと言う事は、交渉をしていないという事。そしてこの2人が生きている事に驚いたということは、殺すように指示したということじゃな。証拠なら全部押さえておると言ったじゃろう?」
フッキネス評議員がそういうと、ヴルヴィア補佐官が電話でどこかに連絡をした。
すると間を置かずにノックの音が聞こえ、ゼルフレーム警部と警官隊が部屋に入ってくる。
開いた瞬間に秘書が逃げようとしたが、アディルに取り押さえられた。
警官隊はオビサ・カエジスを取り囲み、ゼルフレーム警部が逮捕状をつきつけた。
「オビサ・カエジス。犯罪の捏造及び殺人教唆の容疑で逮捕する。ちなみにお前の父親は議員辞職を打診されたそうだし、ヤルマドの警察幹部は犯罪の隠蔽と捏造で我々が確保した。まだなにか自分が英雄になるストーリーがあるなら聞くが…どうするかね?」
ゼルフレーム警部の言葉を聞くと、オビサ・カエジスはガックリと膝をつき、絶望にうちひしがれながら、秘書と一緒に警官隊に連れていかれた。
遅くなって申し訳ありません。
ちなみに フッキネス評議員のイメージCVは長島雄一さんこと、チョーさんです。
あのおとぼけな感じの声で、淡々と問い詰められると怒鳴られるより怖い気がします
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